私は人形である。 意地の悪い魔女によって作り出された人形である。今では埃臭い骨董屋で籠付きで売られている人形である。
ここでの時間は酷く退屈だ。周りには用途が分からないガラクタばかりが私と同じように並んでいて、私がここに売られた時から年をとっている老爺が奥の座敷で1人座っている。
変わることのない時間が、ここでは流れている。
変わることとすれば、たまにくる客くらいのものだ。
ここはあまり繁盛していないようで、頻繁にくることは少ないがそれでも忘れた頃に客はやってくる。
ここにくる客は一括りで言うならば変わっている、それはクマがひどいいかにも学者風の男であったり、血だらけの女騎士であったり、大きなバックパックを背負う男か女かわからないような物売りであったりする。
もちろん他にも客はいたのだろうが、私が覚えている客はその程度のものである。
ここで長く過ごす内に私は酷く忘れやすくなったらしい。
変わり映えのしない日々は、私の中の記憶を少しずつ風化させていくのだろう。
私には昔の記憶はない、ただ底意地の悪い魔女によって作り出された人形、としか頭には残っていないのだ、まだここで意識を目覚めさせたばかりの頃は、なぜ人形である私が意識を持っているのか?
なんて考えたりもしていたのだが、もう私はそんな疑問を考える事すら億劫になってしまった。
何故かって?簡単な話さ、たとえその疑問を考えに考えた末結論を出したとしようじゃないか。
それで一体なんになると言うんだ?
答えを知れたとしてここでの時間は何も変わらないんだよ、ここは終わった者達が集まる墓場のようなものなのさ。
私はずっとここで籠の中の鳥のように大人しく座って居ることしかできない。この私の記憶を、知識を、腐らせるこの時間を永遠に傍受し続けなければならないんだよ。
一時期はどうにかして出ようとしたこともあった。目覚めたばかりの頃は人形の手足だからなのか、ひどく動きにくかったんだ。
それで少しずつ動く練習をしていって、ようやく思い通りに動けるようになった。でもね、無駄だったんだ、籠は酷く頑丈でどれだけ揺らそうがびくともしないし、
そもそも人形の力程度で開けるようなものじゃなかったのさ。
そうして私は諦めた。
今ではこうして、いもしない誰かに向かって延々と言葉を投げかけてるんだ。そうすればこの退屈で恐ろしい時間も、少しは有意義な時間になるからね。
…わかっているとも、そんなわざわざ空虚だとか、無駄だとか言わなくてもいいじゃないか。
まぁでも、この時間を終わらせる方法が実は一つだけあるんだ、それはこの店にくる客に選ばれることさ。他の骨董屋がどんな風に物を売っているのかは分からないが
ここでは訪れた客に私達を一つだけ選ばせ、それを与えて帰らせるんだ。あぁ、対価を受け取っている所は見たことがないな、私はよく老爺が見える位置に置かれてるから間違いない。
まぁつまるところ、私がここに来た客に選ばれれば晴れてここから出られると、そういうことなんだ。
でも正直ね、私を選ぶような人はいないだろうと思っているよ。
だって私は、人と同じような大きさの人形なんだから。
わざわざガラクタの中から、籠に入っている自分達と同じ大きさの人形を欲しがると思うかい?
まぁでも欲しがる人もいるかも知れないね。ここの客は変わった奴しか見たことがない、私を欲しがるような物好きが、いつかここを訪れるかもしれない。
そう思うことにしておこうか。
私は少し眠るとしよう。
…せめて夢でも見れたらよかったんだが、私が人形なせいか眠っても夢を見れないんだ。
寝れるのにどうして夢は見れないんだろうね?