ゆるふわお姉さんのGBN探訪録   作:守次 奏

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「昼飯時」と不穏なる雲行き

「最近、GBNの治安が悪くなってやがるな……」

 

 黒髪を短髪に刈り上げ、威圧的な黒いサングラスをかけた、ジオン軍服のダイバー、「クロマル」は小さく溜息をつく。

 ブレイクデカールなどというものが爆発的に流行り出したせいで、傭兵プレイに支障が出ているのだ。

 傭兵を雇う側がまずマスダイバーかどうかを警戒し、次に相手にマスダイバーがいないかどうかを警戒しなければならないという疑心暗鬼のループは、野良募集の治安と民度を荒廃させるのに十分すぎた。

 

 クロマルは平凡を自称する大学生だ。

 ランキングに関心もなく、ただ面白そうなパーツや報酬を目当てに傭兵プレイを続けているだけで、それが唯一の楽しみだったのだが、最近はどうにも依頼が舞い込んでこない。

 名の知れた傭兵フォースである「セルピエンテ・クー」や「チェック・メイド」といった大御所に身を寄せていれば話は違うのかもしれないが、名誉にも興味がなく、一匹狼を貫いているクロマルにはそれも縁がない話だった。

 

「浮かない顔してるね、えーっと、確かクロマルくん」

「お前本当人の名前覚えるの苦手だよな、ユミカ」

 

 溜息をついて沈み込んでいたクロマルに声をかけた、片目を前髪で覆い隠した黒髪の女性──ユミカは特に悪意なく小首を傾げる。

 

「ごめんごめん、どうしても苦手なものは苦手だから」

「まあいいさ……で、用件はなんだ? ここ最近オイシイ話と面白い話はねぇぜ?」

 

 くだらねー話とつまらねー話なら山ほどあるがな、と、クロマルは肩を竦める。

 最近はどこもかしこもマスダイバーの話題で持ちきりで、うんざりしているのだ。

 かといって、そんなマスダイバーも跨いで通るような魔境こと、ハードコアディメンション・ヴァルガに潜るほど、クロマルは正気を失ってはいなかった。

 

「うん、最近流行りのマスダイバーってなんなのかなって」

「お前もその話かぁ……まあいいぜ、ちょうど退屈してたからよ。ところでお仲間はいねぇのか?」

「今日は大学サボってソロで潜ってるからまだいないよ?」

「……お前留年だけはすんなよ、親が悲しむから」

 

 リアルでもそこそこ面識があるだけに、クロマルにはユミカが大学をサボっている姿が容易に想像できてしまう。

 朝の7時という時間帯にもかかわらず今クロマルがGBNにいるのは、ちゃんと必修科目の単位を取っているからだ。

 真面目な大学生であるというつもりはさらさらないが、それでも親を悲しませたくないという最低限の良心ぐらいは、クロマルも持ち合わせていた。

 

「あはは、大丈夫。アヤネが面倒見てくれるから」

「……それについてはもうなんも言わねぇけどよ。とりあえず立ち話もなんだから、どっか行かねえか?」

「ん、そうだね。私はどこでもいいよ」

「そうだな……『アレスの闘技場』なんてどうだ?」

 

 ここ最近できたクリエイトミッションの概要をコンソールに投影し、クロマルはにっ、と唇の端に笑みを浮かべる。

 

「なになに……ふむふむ。なるほどね。要は無差別級マッチで賭けをしてるんだ」

「ここ最近のフリバやシャフは荒れてるからな。マスダイバーがここにも出てこねえとは限らねーけど、他よりはマシなはずだ」

「いいね。行こっか。そのマスダイバー? っていうのも気になるし」

 

 ユミカは柔らかくはにかんで、クロマルへとそう返した。

 別にマスダイバーなんて遭遇しないに越したことはないのだが、一度面白そうなものに好奇心を持ったら止まらないのはお互い様だ。

 クロマルは賭け金にも賞金にも興味はないが、久しぶりに面白そうなバトルができそうな予感に、胸を高鳴らせていた。

 

 

 

 

 

 

 クリエイトミッション「アレスの闘技場」は多人数によるバトルロイヤルであり、誰が生き残るのかに、ダイバーたちは賞金を賭ける。

 そして見事予想が的中したダイバーと生き残ったダイバーには賞金が分配される、という仕組みで運営されており、胴元の懐は痛まない仕様だ。

 元々はクリエイトミッションの作成主である「アレス」が悪徳不動産屋からこのコロニー跡地をフォースネストとして買わされたことが始まりであり、それをバトルフィールドとして転用することで一儲けすることを思いついたらしい。

 

「さて、マスダイバーは潜んでやがるのか……?」

 

 今日のマッチングは20人の中で、SSランクがオッズの1位、ユミカとクロマルは大体8位と9位といったところだが、マスダイバーは低ランクのダイバーに多いとされている。

 愛機であるガルバルディβを、ジャコビアス・ノードのゲルググキャノン風にカスタマイズした「ガルバルディ・スナイパー改弐」をデブリに潜ませてスコープを覗き込みつつ、クロマルは周囲を警戒する。

 参加しているダイバーの多くはCランクになりたてだったり、Dランクも中には混ざっているといった風情だ。ほぼ確実にマスダイバーは「いる」と見ていいだろう。

 

「……ったく、チート使ってランク上げてなにが楽しいんだか」

 

 ユミカのドラグストライクとデータリンクで前線の状況を共有しつつ、クロマルはぼそりと呟く。

 この「アレスの闘技場」は基本的にはルール無用だ。

 八百長は流石に禁止されているものの、参加者同士で一時的に手を組むことは認められている。

 

 だから、クロマルとユミカは今こうして、前衛後衛の役割分担をして手を組んでいるのだ。

 

『クロマルくん、なんか変なのがいる。ガンプラから紫色のオーラ? みたいなのが出てる』

「……やっぱいたか、マスダイバー」

 

 ユミカのドラグストライクから送られてきた映像には、紫色のオーラを纏ってビーム・ソード・ピストルを跳ね返しているヤクト・ドーガが映し出されていた。

 射撃を跳ね返す効果のあるチートは目撃証言も多く上がっている。

 一般的なマスダイバーといったところだろう。

 

「わかっただろ、ユミカ? その紫色のオーラがブレイクデカールを使ってる証……マスダイバーってのは、要するにチーターだ」

『なるほどね。あとごめん』

「なんだよ」

『このヤクト・ドーガだけじゃなくて、周りにいるほとんどがマスダイバーっぽい』

「はぁ!?」

 

 流石にそれはクロマルも予想していなかった。

 末端のダイバーを中心に広まっていたとはいえ、いくらなんでもブレイクデカールが拡散するのが早すぎる。

 今のところ対処法がないわけではないが、それはそれとして面倒なことこの上ない。

 

「チッ……こんな場末のクリエイトミッションまで出張ってきやがって……!」

 

 怒りと共にクロマルはスコープを覗き込み、ビーム・スナイパー・ライフルの一撃を、ユミカが注意を引いてくれたことでレンジに捉えたヤクト・ドーガのコックピットに直撃させた。

 

『おお、射撃なのに倒せるんだ』

「マスダイバーの弱点はコックピット判定だ、今んところはな」

 

 ブレイクデカールは機体を強化するチートであって、中にいるダイバーを強化するものではない──と、クロマルは見ている。

 つまるところ、コックピット判定を貫いて中のダイバーのライフをゼロにしてしまえば、撃墜判定が降りる。

 これは有志の検証によっても証明されていることだ。

 

『なるほど。なら、遠慮はいらないかな』

「ん? どういうことだ?」

『ドラグドライヴ……初めて起動させるけど、いけると思う!』

 

 ユミカはヴォアチュール・リュミエールを全力で展開すると同時に、ドラグストライクの肩にあるハードポイントにマウントされていたパーツを展開する。

 ヴォアチュール・リュミエールが三叉に別れた結晶体として両肩から展開されたことで、ドラグストライクの出力は飛躍的に向上していた。

 そして、目にも止まらぬ速さでマスダイバーのコックピットをビーム・ソード・ライフルのソードモードで貫いて、テクスチャの塵へと還していく。

 

「マジかよ」

 

 前々からユミカはなにかを隠しているとは思っていたが、こんな切り札を持っていたとは。

 同じBランク──とはいえ、興味がない同士だが──なのが信じられない活躍ぶりだ。

 負けていられない。久しぶりに闘志へと火がつくのを、クロマルは感じていた。

 

「いいね、このヒリつき……相手がマスダイバーじゃなきゃもっとよかったんだけどな……!」

 

 トランザムの高速機動とブレイクデカールによるチート効果で爆発的に高めているガンダムエクシアを照準に収めて、寸分違わぬ一撃で、クロマルは敵機のコックピットを射抜く。

 

『な、なんで俺のエクシアが……!?』

「へっ、地獄で考えるこったな」

『クソッ、聞いてねえぞ! ブレイクデカールは無敵だったんじゃなかったのかよ!?』

『へえ、そうなんだ。でも……チートは「ちょうどよくない」よね』

 

 ユミカは珍しく眉根にシワを寄せて、不快感も露わに動揺していたマスダイバーのジャムル・フィンのコックピットへとビーム・ソード・ピストルを突き入れて引き金を引く。

 ここ最近はマスダイバーが大量発生しているせいで大味な塩試合が続いていた「アレスの闘技場」だったが、思わぬダークホースの出現に、観客たちは大いに湧き立っていた。

 

『いいぞー! マスダイバーはぶっ殺せー!』

『派手にやるじゃねえか!』

『これから毎日闘技場に来てくれー!』

 

 とはいえ、大量のマスダイバーを請け負っているのはなにも、ユミカとクロマルだけではない。

 

『ハッハー! サバンナじゃなくても戦うと元気になるなぁー! おっとそこのハイエナくん! 背後からの奇襲はケバブのヨーグルトソースだぜ!』

『意味わかんねえんだよぉ!!!!』

『要するにチリソースは邪道だってこったぁ!』

『ぐわああああ!!!!』

 

 そう、オッズ1位のSSランクダイバー──虹の彼方から返却された女、チンパニズムの化身、女チンパンなど様々なあだ名で呼ばれている、1680万色に輝く軍馬に跨ったチンパンの騎士こと「アッサル」もこの場にいたのである。

 

「マジかよ」

 

 マスダイバーの処理に夢中だったクロマルは今更アッサルの存在に気づいて、天を仰いだ。

 ハードコアディメンション・ヴァルガにしか出没しないはずの珍獣がどうしてこの場にいるのか。

 というかヴァルガ以外のディメンションを知っていたのか。

 

 そんなことを考えている間にも、アッサルはツヴァイハンダーを振り回しながら1680万色に輝く風雲再起でマスダイバーを斬り刻み、轢き殺していく。

 これがバトルロイヤルである以上、マスダイバーを駆除してくれているのはありがたいがアッサルも敵には違いない。

 クロマルは覚悟を決めて、アッサルを狙撃すべくスコープを覗き込んだが、刹那。

 

『覗き見とは趣味がよくないなぁ少年!!!! 破廉恥だぞ!!!! コンビニの立ち読みコーナーでこっそり読むのがエロ本の嗜みだとでもいうのかぁ!?!?』

「い、意味わかんねえ──」

 

 狙いをつけた瞬間に飛んできた試作型シェキナーの一撃が、ビーム・スナイパー・ライフルを融解させる。

 咄嗟に武器を捨てていなければ、自分もやられていた。

 残る装備はサブアームの90mmマシンガンだけ。そして、味方であり前衛を務めているユミカは。

 

『いいぞぉ! 戦場っていうのは考えたやつから死んでいくのさぁ!!!! 見たところ君はライオン野郎じゃないみたいだがアタシの前に立ったという時点で運命はデスティニーなのさぁ!!!!』

『……っ!?』

 

 ツヴァイハンダーをただ乱雑に振り回していただけに見えたアッサルだったが、その斬撃は無軌道なものではなかった。

 ドラグストライクを支えているドラグドライヴを片方切断することで無理やり制御を効かなくするだけではなく、出力の不安定さからくるオーバーロードを引き起こさせて、動きを止める。

 計算ではなく本能から導かれる、隙のない作戦だったのだ。

 

『ドラグドライヴがオーバーロードしてる……制御が……っ!』

『マニュアル通りにやってますというのはなぁ! 人間の言うことなんだよフハハハハァ!!!! 人間は猿に勝てないんだ、悔しいだろうが仕方ないんだ!!!!』

『ごめん、クロマルくん、格好悪いとこ見せたね──』

「……ちっ!」

 

 気づけば、クロマルは90mmマシンガンを乱射しながらユミカとアッサルの間に割って入っていた。

 

「こんなことしても、1ビルドコインの得にもならないけどな──」

 

 そして、ユミカが受けるはずだった大上段からのツヴァイハンダー斬り下ろしを全身で受け止めて、ガルバルディ・スナイパー改弐はテクスチャの塵へと還っていく。

 

『クロマルくん……ありがとう!』

『むっ! やるねえ少年! 特に乙女座でもないアタシもセンチメンタリズムな運命を感じない!』

『──「神薙」』

 

 ロビーへと強制送還されるクロマルが最後に聞いたのは、聞いたこともないほど底冷えのする、ユミカの無機質な声だった。

 

 

 

 

 

 

「マジかよ」

 

 本日何度目になるのかわからないその言葉を、クロマルは思わず呟いていた。

 ロビーに戻って「アレスの闘技場」の勝敗を確認すると、そこにあった名前はユミカのものだったからだ。

 そして、当の本人はどこかに行ってしまっている。

 

 相も変わらず自由なやつだ、と、クロマルは肩を竦めた。

 

「……ったく、少しはおもしれーことができたから、その分得したってことにしとくか」

 

 柄でもないことをやった気恥ずかしさを誤魔化すように呟いて、サングラスをかけ直す。

 結局のところ、ユミカと自分はたまに面白い話を共有する程度の仲でしかないのだから。

 また面白い話があれば、語り合えるGBNに戻ってほしい。心から、クロマルはそう願うばかりだった。




読者参加型企画第五弾です。登場する「クロマル」くんと「ガルバルディ・スナイパー改弐」は「団子狐」様からお寄せいただきました( ˘ω˘ )
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