ゆるふわお姉さんのGBN探訪録   作:守次 奏

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自称アウトローと虹の彼方から返却された女

「家具を揃えたら、手持ちのビルドコインがすっからかんになってしまったわね……」

 

 新しくカヨとハルナというメンバーを加えた「ゼクスフローネ」のフォースネストには急拵えで買ってきた人数分の椅子などが置かれていた。

 しかし、その代償として、今のルルは素寒貧の一文無し同然だ。

 呟いた通り、ロビーでジュースを買えるかどうかも微妙に怪しいストレージ残高を見て、ルルは小さく溜息をつく。

 

「ごっごめんなさいごめんなさい、わたしは床に座りますのでルル総帥、どうか椅子を売ってビルドコインを」

「なに言ってるの、ハルナ! 大事な構成員を地べたに座らせるなんてひどいこと、私にできるわけがないじゃない!」

 

 ルルは、ちょこんと座っていた椅子から神速で降りて土下座を披露したハルナへと言い聞かせる。

 確かに自分が目指しているのは一流のアウトローだ。

 だが、アウトローの流儀は常に「仲間を大事にする」ことだと、ルルはそう心得ていた。

 

 そうでなくとも、一人だけ床に座らせるなんて、良心が痛むから尚更だ。

 

「……でも、お金ないと不便だよ」

「くひひ、そうだね〜、でも、そんなカヨちゃんにも、ルルちゃんにも朗報があるよ!」

 

 気怠げに呟いたカヨに乗っかる形で、ムツミが一枚のウィンドウを展開してみせる。

 そこに載っていたのは、やはりというべきかGBN内に存在している掲示板の書き込みだ。

 ことあるごとにムツミが掲示板を見せつける理由は簡単で、ネットサーフィンが彼女の趣味のようなものだからだ。それ以上でも以下でもない。

 

「なにかしら……『ヴァルガの珍獣撮影企画』?」

 

 ルルが呟いた言葉通り、スレッドにはこの前の「賞金首」と同じように「珍獣」なる存在に対しての目撃証言やらなにやらと、それらをまとめた上で「珍獣」を撮影しようぜ! という提案が書き込まれていた。

 

「そうそう! この前の『賞金首』と違ってデッドオアアライブだからね! 賞金はなんと10万BC!」

 

 くひひ、とムツミは書き込みの一部を指してイタズラっぽく笑う。

 バルギル・グレイシアにかけられている懸賞金と比べれば、あまりにも細やかな額だったが、それでも懐に入るのならありがたいことは変わらない。

 ルルの将来の目標はトップフォース「AVALON」に匹敵する一国一城の主になることだったが、そのためには着実にビルドコインを貯めていく必要がある。

 

「そうね、これは受けるだけ得ね! しかも『珍獣』を討伐したスクショを上げれば40万BCの追加報酬まであるわ!」

「……美味い話には裏があるっていうけど、大丈夫なの?」

 

 カヨは少し、じとっとした目でルルに視線を向ける。

 懸賞金額だけでいえばバルギル・グレイシアより遥か下だが、「珍獣」をただ撮影するだけで10万BCという話はあまりにもできすぎている。

 なにかしら裏があることを疑うのは、カヨにとっては当然のことだった。

 

「うーん、そうね……言われてみれば確かに撮影だけで10万BCはちょっと怪しいわね、ムツミはどう思うのか聞いてもいいかしら?」

「えー? 裏ならないと思うけどなぁ、ヴァルガだし」

 

 ムツミはルルの疑問に対してあっけらかんと答える。

 珍獣やら珍兵器が定期的に湧いてくるのはヴァルガの日常みたいなもので、中には珍獣観察のためにヴァルガ入りしているという頭のネジが外れた、もとい奇特なダイバーもいるという。

 今回の「珍獣」も、そうして湧いた存在の一環で、ただ単に物珍しいから撮影してくれ、という以上の意図をムツミは感じなかったのだ。

 

「じゅ、10万BC……いっぱいラーメンが……」

「あら、ラーメンが好きなのね。ハルナは」

「は、はい! で、でもその! わ、わたしには分け前とかなくていいので! 全てルル総帥のストレージにお納めくださいぃ!」

「ダメよ。給金は平等かつ公平に支払う、それが一流のアウトローというものなのだから」

 

 がんがんと床に頭を打ちつけて土下座するハルナを宥めつつ、ルルはニヒルに笑う。

 元より、10万BCをまるまる自分の懐に入れようとは考えていない。

 皆で4等分して、それぞれの欲しいものを購入するなり貯蓄するなりしてもらいたかったのだ。

 

「ルル総帥……なんて懐の深いお方なのでしょう……」

「……4等分するんだ、意外だね」

「ルルちゃん独り占めでも別にムツミちゃんは構わないかなーって」

 

 他の3人は遠慮しているのか、あるいは最初から関心がないのかそんなことを言っているが、私服を肥やしたアウトローは道を違えて粛清されるのが、お約束のようなものだ。

 つまり、正しいアウトローは決して仲間に対しての報酬をケチらない。

 一流のそれに近づきたいのであれば、その理屈を貫き通すのはルルにとっては当然だった。

 

「言ったでしょう? 報酬は公平かつ平等に支払われなければならないのだから。それよりムツミ、その『珍獣』とやらの特徴はわかるかしら?」

「えっとねー、トーリスリッターに他の四騎士の特徴全部載せしたガンプラだって!」

「ペイルライダー、レッドライダー、ブラックライダー、ホワイトライダーの特徴を一機に集約するって……誰もが考えそうなことだけど、本当にやる人がいるんだ」

 

 カヨは思わず細い顎に指をやってそう呟いていた。

 四騎士の全部乗せは、本来であればバランスが破綻してもおかしくはないミキシングビルドだ。

 それがヴァルガの大地を駆け回っているのなら、確かに「珍獣」と呼ばれるのも納得がいくが、別に発想として珍しいわけではないことに、少しだけカヨは疑問を抱く。

 

「だ、大丈夫ですカヨ参謀! ルル総帥なら絶対に負けません! そうですよね、ルル総帥!」

「そ、そうよ! なんなら討伐して、追加で40万BCもいただいてしまいましょう!」

 

(い、い、言っちゃったー!?)

 

 聞いた限りでは、撮影するだけでも骨が折れそうな相手だったが、あえて格好つけてルルは高笑いする。

 ハルナから向けられる期待の眼差しを裏切ることが、どうしてもできなかったからだ。

 身構えているときに死神はこないというのなら、大口を叩いたとしてもなんとでもなるはずだ──そう信じて、ルルは大見得を切った。

 

 

 

 

 

 ハードコアディメンション・ヴァルガの荒涼たる大地には奇妙で奇怪なビルドを組んでいるガンプラが出没するのは珍しくない。

 だが、その中でも「珍獣」枠に認定されるためにはそのビルドで無法地帯を暴れ回って名を馳せるという高いハードルを超えなければならない、というのが前提だ。

 つまるところ、今話題の四騎士全部乗せ珍獣は、バルギル・グレイシア並みに「できる」存在であることを覚悟しなければならない。

 

 ルルはああ言っていたものの、カヨとしてはそこを警戒していないのが不安で仕方なかった。

 だが、ハルナの言うことにも一理ある。

 ルルは、やるときはやる女だと、カヨもそれはバルギル・グレイシアの一件で理解していた。

 

 ダイバーランクもSと、高い部類に属している以上、彼女の腕前を疑う余地はない。

 あとは「珍獣」が文字通りに物珍しいだけの存在であることを祈るのみだった。

 ハードコアディメンション・ヴァルガへの転送ゲートを潜ったカヨたちは「出待ち」の攻撃を避けつつ的確に反撃し、その大地に降り立つ。

 

『ヒャア! 新鮮な獲物だぜェ!』

『そんなお前を後ろから天誅!』

『地下から失礼します』

 

 今日も今日とてヴァルガには戦いの嵐が吹き荒れていて、そこら中で乱戦が展開されている。

 ルルたちを仕留めようとジャイアント・ヒート・ホークを振りかぶった高機動型ザクがシャイニングガンダムに背後からバッサリと斬り裂かれ、そのシャイニングガンダムはアッグのドリルに下から貫かれてミンチと化す。

 相変わらず地獄が顕現したような光景にうんざりしつつも、ルルは最後に残ったアッグを撃ち抜き、「珍獣」を探してスラスターを噴かしていた。

 

「さて、問題は『珍獣』がどこに現れるかだけど──」

『た、助けてくれぇぇぇ!!!!』

 

 呟いた刹那、恥も外聞もなく、オープンチャンネルでSOSを発信しながら、エアリーズとリーオーの2機がルルたちの方に逃亡してくる。

 

『逃げないで戦ってください! 逃げないで戦ってくだsお前もついでにツヴァイハンダーの餌食になりなぁ!!!!』

『み、ミラージュコライドは完璧だったはずだろ!? ぐわあああああ!!!!』

『ウキャァァァ!!!! 今年も申年ぃ!!!!』

 

 怯えるように物陰へと隠れてミラージュコロイドを展開していたエクリプスガンダムが爆散する。

 同じくオープンチャンネルで聞こえてくる、人間性をかなぐり捨てた陽気な──というよりは耳障りな声が、恐らくはリーオーとエアリーズのコンビを付け狙っていた相手なのだろう。

 そして、ツヴァイハンダーの餌食という発言からするに、恐らくは「珍獣」で間違いない。

 

「あら、この傭兵集団ゼクスフローネに助けを乞うの? 高くつくわよ?」

『なんでもいい! 金なら後で払うからあの珍獣を止めてくれ!』

「ふっ……言ったわね、それならロビーで待っていてちょうだい! ムツミ、カヨ、ハルナ! 戦闘態勢!」

 

 すぐに迫ってくるであろう「珍獣」との接敵に備えて、ルルは狙撃ポジションに機体を陣取らせ、タンク役のハルナを先行させる。

 そのフォローとして中距離型のムツミが、そして防衛線を抜けられたときに打つ奇襲の一手としてカヨがステルスを展開することで、布陣は完璧に敷かれたといってもいい。

 ルルはスコープを覗き込み、鬼が出るか蛇が出るか、といった心境で「珍獣」を待ち構えていたが。

 

『おっ』

「死んでくださいぃぃぃ!!!!」

 

 接敵したその瞬間に、ハルナの愛機である「イフリート・マインレイヤー」が「珍獣」に向けてジャンプしてショットガンを乱射、そしてバックパックから展開される機雷をばら撒いた。

 大爆発と散弾速射の合わせ技を出会い頭に食らうことになった「珍獣」だが、デッドオアアライブが出されている以上これも必要な犠牲というものだ。

 多少同情はするものの、コラテラルダメージというやつなのだ──ルルがそう、悪ぶった笑みを浮かべていた瞬間だった。

 

『キャクブガー』

「あっあばばばば……」

 

 爆炎の中から現れたのは、なぜか1680万色の輝きを放つ風雲再起に跨っているトーリスリッターのカスタマイズモデルと、脚部を両断されて床ペロしているハルナの姿だった。

 

「はぁ!? 今の攻撃に反応して避けたっていうの!?」

『そういう君はジョナサン・ジョ』

「ルルよ! 傭兵集団『ゼクスフローネ』のルル!」

『あ、そうなの……ごめんねー、アタシ人の名前覚えるの苦手なんだ、メルちゃん』

「ルルだって言ってるでしょうがぁ!」

 

 こいつがなぜゲーミング発光する風雲再起に乗っているのかだとか、ツヴァイハンダーを振り回すばかりでSteelyardや試作型シェキナーを活かすつもりが全くなさそうだとか、そんなことはどうでもいい。

 ハルナのイフリート・マインレイヤーを一撃で無力化した時点で、この「珍獣」は相当ヤバい部類に入る。

 アイコンタクトで通信ウィンドウ越しにムツミとカヨに合図を送り、ルルもまた狙撃ポジションから「珍獣」の頭部を狙って引き金を引いた。

 

『アタシに射撃戦を挑む気かぁ!? いい度胸してんねぇ! フォースライダー、「TRUMPET」全開だ!』

 

 ゲーミング発光する軍馬に跨った四騎士のキメラは、頭部のバイザーを真紅に染め、各部の排熱ダクトを赤熱化させて大地を駆ける。

 

「……くっ、これじゃ撮影どころじゃない……!」

『ピクシーの脚部は見つけたら折っとけ! ってアタシのばーちゃんが言ってたから折るね!』

「やらせる……もんか!」

 

 ステルスと地形を活用してカヨが仕掛けた奇襲攻撃をいとも容易く回避して、その「珍獣」こと「フォースライダー」は大振りながらも精緻なツヴァイハンダーを胴薙ぎに振るう。

 カヨも避けるのが精一杯だ。

 反撃が無理である以上スクショだけでも撮影したいが、そんな暇さえ、フォースライダーを駆るダイバーは与えてくれない。

 

「援護するよカヨちゃん! 行け、ファンネル!」

 

 ローゼスケンプファーのファンネルコンテナから射出された端末が、フォースライダーを包囲する。

 いち、にい、さん──小刻みにタイミングをズラしつつ、ムツミは攻撃を死角から放ったが、それら全てを舞い踊るようにかわして、フォースライダーはツヴァイハンダーでファンネルを叩き落としていく。

 人間業じゃない。

 

「ルルちゃん! 今のうちにスクショ撮って帰ろ──」

『人間がなぁ! チンパンの写真をなぁ! 撮れるわきゃねぇだろぉぉぉぉ!!!!』

「きゃっ……!?」

 

 ムツミを轢き逃げするようにゲーミング風雲再起のラムアタックで吹き飛ばしながら、片腕に試作型シェキナーを接続したフォースライダーがルルの陣取っていたポジションに向けて光の矢を放つ。

 

『戦うと元気になるなぁー! ふははははー!』

 

 よくよく見ると、フォースライダーを駆る女性──ダイバーネーム「アッサル」は美人だった。

 炎のように真っ赤な髪をショートポニーにまとめ上げられ、スラリと伸びた脚はぴっちりと纏わりつく新生ネオ・ジオンのノーマルスーツに覆われている。

 あるいはその姿を煽情的、蠱惑的だとさえ思うダイバーもいるのだろうが、それはあくまで黙っていればの話だった。

 

 理性と人間性をドブの底に沈めて前ブーを噴かしながら目の前に映るもの、否、感じ取れる全てを殲滅しながら駆け抜けてくるチンパンは、確かに撮影するどころではない。

 

「今なら撮れ──」

『お待たせしました』

 

 なにを待たせていたのかはわからないが、アッサルはカヨがスクリーンショットを起動した瞬間にツヴァイハンダーをぶん投げて、そのコックピットを貫いていた。

 

『あっちの方が殴りがいがあるけど、人のことを盗撮しようとするなんて不届千万だからね!』

 

 チンパンに正論を解かれることほど虚しいことはない。

 ルルは物陰に隠れて、屈辱に顔を歪める。

 だが、悔しいことに相手は強い。

 

 敵意や攻撃性という意味ではバルギル・グレイシアを超える苛烈さを誇っている以上、そして残されたのがスナイパーである自分である以上、ほとんど詰んでいるといってもよかった。

 

「でも、ツヴァイハンダーを捨てたのは愚かな選択だったわね! ここからでも……私は弾を当てられる女なのよ!」

 

 物陰から、ルルは気配だけを頼りにスナイパーライフルを構えてトリガーを引き絞る。

 狙撃のために出力を最大限絞り込んでいたビームの弾速は、視認してから避けられるようなものではない。

 廃墟を壁にして壁抜きによる完璧な狙撃を、ルルは確かにフォースライダーへと直撃させた。そのはずだった。

 

『ふぅ……危なかった、チンパンじゃなければ即死だった』

「なっ、まさかSteelyard──」

『来いよネルちゃん! スナイパーライフルなんて捨ててアタシと一緒にチンパニズムに沈もうぜぇ!』

 

 フォースライダーがサブアームで抜き放ったハイパー・ビームサーベルの一撃でコックピットを貫かれて、ルルもまた爆散してロビー送りに処される。

 

「だから……ルルだって言ってるでしょう!?!?」

『そうだねマルちゃん! 支援機なんておやつなんだから次は強襲機に乗って出直してくるといい!』

「意味わかんないわよ!!!! もうヴァルガなんて懲り懲りよー!!!!」

 

 チンパンを自称しながらも、咄嗟にSteelyardで相手のレーダーに干渉して狙撃を回避する辺り、アッサルはチンパンにしては理性的なチンパンだった。

 もっとも、人の名前を覚える気はまるでなかったが。

 そんな、虹の彼方から返却されたような女に負けた屈辱に白目を剥きながら、ルルはテクスチャの塵へと還っていくのだった。




こちら読者参加型企画第一弾となります。作中に登場する「フォースライダー」と「アッサル」さんは「X2愛好家」様よりお寄せいただいたキャラと機体になっております( ˘ω˘ )
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