「ミッションの報酬でパーフェクトレアとかたまに出るって聞いたけど、噂は本当だったんだね」
いつも通りに手狭なフォースネストでインベントリを開きながら、ユミカは椅子に腰掛けているアヤネとニィレヤに語りかける。
「あー、この前のミッションの? なんだっけ」
「鉄血のレイドバトル、クリュセ防衛戦です! ニィレヤもいっぱい暴れ回れて楽しかったですっ!」
「そうそうそれそれ」
鉄血のオルフェンズからシチュエーション再現のレイドバトルとして、ハシュマルとプルーマからクリュセを守り抜くというシチュエーションのミッションをユミカたち「ランチタイム」は昨日受けていたのだが、そこで出土したのが問題のパーフェクトレア報酬なのだ。
「んで、レアドロが『プラグイン:阿頼耶識[厄祭戦仕様]』だったよね? これって強いの、ユミカ?」
「さあ……? パーフェクトレアだし強いんじゃないかな」
パーフェクトレア報酬といえばダイバーたちが焦がれてやまない代物だ。
まさかその枠に収まっているものが弱いとは普通なら考えにくい。
とはいえこのゲームはGBNだ。神アイテムからその対極にある産廃まで多種多様に取り揃えられているからこそ、パーフェクトレア報酬といっても油断ならないのが実情だった。
「掲示板とか見てみよっか」
「わくわく……!」
アヤネがウィンドウを操作して掲示板を立ち上げ、「プラグイン:阿頼耶識[厄祭戦仕様]」で検索すると、出てきたログは概ね検証に関するものが多かった。
だが、肝心の評価はというと散々なものだ。
使いこなせれば確かに強いのかもしれないが、使いこなせる前提がおかしいだのギターとボーカルとベースとドラムを一人でやるような最悪の操作性だの、そんなレビューばかりが並んでいる。
「うーん……なんていうか、産廃かなぁ?」
「使いこなせれば強いっていってるけど」
「ギターとボーカルとベースとドラムを一人でやるような操作性ってどんなクソゲー? ユミカはできる自信あるの?」
「んー……無理かなぁ」
ユミカもとりあえず積んでみようかと考えはしたものの、アヤネが引用したレビューを聞いてそのプランは一瞬にして白紙に戻された。
ただ、よくよく読んでみるとこのプラグインは、「思考補助能力のアシストを強化する」ことがメインだと書かれている。
つまるところ、反射的に機体を動かせるタイプとは相性がいいのではないだろうか。
ユミカの脊髄を、一筋の閃きが駆け抜けていく。
「ニィレヤちゃんがこれつけてみたらいいんじゃないかな?」
「に、ニィレヤがですか? こんな難しそうなのを……できるかなぁ……」
「ニィレヤちゃんの戦い方を見てる限り、マニュアルで武器切り替えて戦うよりもそこら辺を思考補助に回したほうが強そうだし」
なんとなく以上の意味はなく、ニィレヤが嫌だといえば、ユミカは即座にこのプラグインをダストシュートするつもりだった。
だが、ニィレヤはしばらく考え込む仕草を見せたあと、ハッとした様子で顔を上げて、瞳をキラキラと輝かせる。
「や、やってみます! そうしたらニィレヤ、もっとお役に立てますよね!」
「多分、きっと」
「ユミカの言うことはあんま当てにしない方がいいよ? 明日やるって言って絶対やらないタイプだから」
「失礼な、今日はちゃんと服着てGBNやってるのに」
「本当? じゃあ今なに着てるか言ってみて?」
「Tシャツ一枚」
「結局半裸じゃん!!!!」
ばしーん、とアヤネの鋭いツッコミという名のチョップがユミカの頭にめり込む。
ここがGBNだったからよかったものの、リアルで喰らっていたら悶絶しているところだった。
いや、GBNでも大して変わらないが。ごろごろと床を転がりながら、ユミカは頭を押さえる。
「いったたたた……着てるじゃん、服……」
「その下は?」
「今ブラとパンツ全部干しちゃってて」
「痴女!!!!」
「痛ったぁ!!!!」
今度は拳骨だった。
容赦のない追撃にユミカはびくびくと痙攣しながら床と同化する。
ニィレヤはその様子をおどおどしながら眺めていることしかできなかった。憧れの格好いいお姉さんが実は結構自堕落なんじゃないかという疑惑がだんだん確信に変わっていくのが、なんとも複雑だったのだ。
「私のブラとパンツは特注なんだよ!!!! だからそんな数持ってないの!!!! おっぱいもお尻もおっきいと下着がとんでもなく高いの!!!!」
「逆ギレすなー!!!! せめて1セットは手元に残しておくのが基本でしょーが!!!!」
「それは……そうだね……」
「急にスンッってなるのやめてもらっていい?」
「だって正論だし……なんも言い返せない……」
どんなに逆ギレして開き直っても半裸でゲームをやっている痴女という誹りから逃れることはできない。
部屋のゴミ袋は溜まっていく一方だし積みプラはタワーになっていく。
そんな己を嫁にもらってくれる誰かが果たしているのだろうかと考えると、ユミカは途端に憂鬱になってしまった。
「えっと……ブラとパンツの話はともかく、ニィレヤ、このプラグインを試せばいいんですよね?」
盛大に脱線した話を元に戻そうと、ニィレヤはアヤネから拳骨を落とされて蹲っているユミカへとそう問いかける。
「そうそう、なんか手頃なミッションとかあればいいんだけど」
どうせなら実戦形式で試した方が使い勝手のほどがわかるというものだろう。
痛む頭を摩りつつ、ユミカは手元で開いたウィンドウからそれっぽいミッションを見繕う。
できることなら、フォース戦に近い形式で戦えるようなミッションがあればいいのだが、中々条件が良さそうなものが見つからない。
「んー、フォース戦はこの前やったからなぁ」
「うちは別にまたやっても構わないけど」
「に、ニィレヤもです」
「そう? 同じのが続くとなんか飽きるっていうか……」
ユミカも別にフォース戦そのものを嫌がっているわけではない。
ただ、同じような相手と戦っても別に面白みがないというだけだ。
どうせ戦うなら面白い方がいいに決まっている、というのがユミカの持論みたいなものだった。
「なら、クリエイトミッション漁ってみる?」
「おお。チャレンジャーだね、アヤネ」
「当たり外れは大きいけど、当たりを引けたらニィレヤちゃんのためにもなるし」
「当たり外れ、ですか?」
ニィレヤはきょとんと小首を傾げた。
「そうそう。クリエイトミッションってクリアさせる気がない難易度のものとかが多いから、中々いいのが見つからないんだけど……あっ、これとかどう? ユミカ、ニィレヤちゃん?」
「どれどれ……ふむ、『アスティカシア式G5アタック』かぁ」
「えっと、内容は……5人の選ばれし生徒を決闘で倒したダイバーに、報酬を弾む……?」
「要するにこのミッション主が考えたG5アタックってところかな」
本来のG5アタックは、初代ガンダムからνガンダムまでの歴代宇宙世紀主人公機のNPDを5機倒すまでの時間を競うタイムアタック式のミッションだ。
クリエイトミッションの作成者はそのメンツをオリジナルのものに入れ替えて、「水星の魔女」に出てきた「決闘」のルールを適用したのだ。
ミッションとして趣きは異なるものになったが、歯応えがありそうなのに違いはない。
「それじゃ行ってみよっか」
『おー!』
そんな高難度ミッションに挑むとは思えない、今日もゆるいノリで、「ランチタイム」は出撃を決めた。
†
1機目として現れたのは、G-セルフのパーフェクトパック装備だった。
通称Pセルフと呼ばれているこの形態のG-セルフは攻守両面で隙がなく、視認性が最悪で威力も高い面制圧攻撃であるフォトン・トルピードまで持っている始末だ。
しかしそこはNPD、どんなに強化されていたとしても動きにはCPU特有のぎこちなさが滲み出ている。
「なんとなくで言ってみたけど、案外当たってるんだね」
「うちもびっくりしてる」
「ぐるるる……ふしゃーっ!」
フラウロスの変形機構を流用した四つ足形態で暴れ回るニィレヤのガンダム・ビーステッドは、フォトン・トルピードの一撃を掻い潜り、テイルブレードでその「ぎこちない」部分を突いてG-セルフパーフェクトパック装備のブレードアンテナをへし折っていた。
そこから先は、もはや虐殺と呼べる域だった。
2機目として現れたガンダム・キャリバーンの、クアドラ・スラスターを利用したその変態機動にニィレヤは喰らいつき、パーメットスコアが上がる前にアンテナをへし折る。
3機目として現れたガンダム・バルバトスルプスレクスとは獣同士の戦いが如く荒々しいバトルを繰り広げた末に、「ケモノガリ」の一撃がレクスのツノをへし折って勝利。
4機目として現れたジークアクスは癖のない滑らかな動きでニィレヤを翻弄したものの、反射神経での勝負においてCPUすら上回る彼女の前にはあえなくブレードアンテナを粉砕されて終了。
5機目として現れたユニコーンガンダム(光の結晶体)はサイコシャードでガンダム・ビーステッドの武装を開幕から潰してきたものの、最終的にはステゴロ同士の喧嘩ということで、ツイン・エイハブリアクターのリミッター解除にモノを言わせた圧倒的なスピードで翻弄したニィレヤが、ブレードアンテナをへし折って勝利を掴み取ってみせた。
「やったぁ! やりましたよ、ユミカさん、アヤネさん! えへへ!」
通信ウィンドウに、ニィレヤの満面の笑顔が浮かび上がる。
そして気づけば、ニィレヤは最速のタイムでクリエイトミッション「アスティカシア式G5アタック」をクリアしていた。
一応プラグインがダメだったときのためにユミカとアヤネも待機していたのだが、今回に関しては全く出る幕がなかったといっていい。
「すごいじゃん、ニィレヤちゃん!」
「え、えへへ……褒めて、くれますか? アヤネさん……」
「うん! すごいすごい! ユミカの百倍ぐらい偉い!」
「さらっと私の評価下げるのやめよ?」
「うっさい半裸」
「はい」
ロビーに帰還するなりニィレヤをもふもふと撫で回すアヤネの辛辣な一言に若干傷つきながらもユミカは、結局のところなにが有用でなにが産廃かなんてものはこのゲームじゃダイバー次第なんだな、と、悟ったように考えることしかできなかった。
ゆえに神ゲー。
ゆえに、「ちょうどいい」。
それが、GBNなのだから。
──次はちゃんとブラとパンツを装備してからプレイしよう。
そう心に刻んで、ユミカはそそくさとログアウトしていった。
ものぐさゆるふわお姉さん、ユミカのスリーサイズは93-57-97です