ゆるふわお姉さんのGBN探訪録   作:守次 奏

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自称アウトローのクソ物件探訪録

「フォースネストをお探しなのですね」

 

 目の前にいる、丸眼鏡に健康的な褐色肌、そして緑色の長髪が目を引くダイバー……「エスティ」がそう呟く。

 ロビーのあるセントラル・エリアの外れに佇むビル。

 その一階にある小さなフォースネストを、ルルたちは訪れていた。

 

「ええ、私たちアウトローに相応しい物件で、できればその……購入費用が安いところを……」

 

 最初は自信満々に受け応えていたものの、後半になるにつれて小さくなっていくルルの声を聞き逃さず、エスティはふむふむ、と頷く。

 

「お客様のこだわりは理解できました。ご心配なく! この『不動産仲介屋』としてそこそこ有名なこのエスティが、必ずやお客様のご要望に添った一等地をご紹介してみせましょう!」

 

 キラキラと目を輝かせて宣言するエスティの自信に、ルルはとりあえず安堵のため息をつく。

 ただ、そんなルルと、ルルが安心しているなら大丈夫だとばかりに目を輝かせているハルナとは対照的に、カヨは今日も怪訝な表情を浮かべていた。

 フォースネストを仲介して、その何割かの手数料を報酬としてもらっているダイバーという時点で割と非合法で悪徳寄りだ。

 

 だが、「金はないけど一等地を紹介してくれ」と公式のNPDに言ったところで「まずは金を用意してこい」と返されるのは明白である以上、非合法であろうと「穴場」を知る相手を頼るのはそう悪い手段ではないのだが。

 

「くひひ、カヨちゃん悪い顔してる〜」

「……別にいつも通りだよ」

「大丈夫だって! もしルルちゃんを騙すつもりだったら……ね?」

「……それはそう」

 

 エスティとやらがどこまで信頼できる存在なのかはわからない。

 ただ、GBNにおいて不動産仲介なんて地味で酔狂なことをやっているダイバーは極めて少ない中で、名前が売れている存在なのだから、頼りにならないということはないだろう。

 問題があるとするなら、悪名は無名に勝る、という言葉がある通り、エスティが問題だらけの人物だったというケースだった場合だが。

 

「ま、そのときは軽く締めちゃえばいいよね」

「……PKにはならない程度にね」

 

 早速物件を案内しに行くというエスティについていったルルとハルナの背中を追いかけつつ、ムツミとカヨは悪い笑顔でそう言葉を交わしていた。

 

 

 

 

 

 

「こちらお客様がお望みの超々一等地、言わずと知れたフォース『AVALON』のお城……の一角にあるオフィスでございます!」

 

 一発目にエスティが紹介してきたのは、GBNをやっているのなら誰もが知っているトップフォース「AVALON」が所有しているフォースネスト──の、中にこじんまりと存在している部屋だった。

 鉄格子に閉ざされて、家具の置き場の類もなさそうな1Kどころかシングル物件。

 問題は申し訳程度に敷物が敷かれていて、手枷が壁から吊るされているその場所を、人は一般的に「牢屋」と呼ぶことだが。

 

「どこがオフィスよ!!!!」

「トップフォースの方々も時折訪問してくださって気が引き締まる物件だと思いますが……」

「『AVALON』が牢屋を売り出してるのも驚いたけれど、まず第一に狭すぎるわよ! 気が引き締まるとか以前に家具も置けないじゃないの!」

「そうですね、こちらの物件は少々手狭なのでソファは置きづらいかと思われます」

 

 あくまでもにこにこと善意の営業スマイルを崩すことなくエスティは怒髪天のルルを宥めるようにそう言い聞かせる。

 そもそも問題はソファが置きづらいこと以前に、牢屋をフォースネストにするバカ──もとい物好きがいるか、という話なのだが。

 案の定だったとばかりに目頭を覆ったカヨと、意外に面白いな、と悪い笑顔を浮かべているムツミで、怪訝に思っていた勢の反応は対照的だった。

 

「ソファとかそういう問題じゃないの! 却下よ却下!」

「わかりました。では次の物件をご案内しますね」

 

 ぷんすこと頬を膨らませて抗議するルルの言葉をサラッと流して、エスティは次の物件へとルルたちを案内していく。

 ハルナはまだ大人しくしていたものの、彼女の中にある「ルル総帥を愚弄したゲージ」が静かに上昇していくのを感じ取って、カヨは何度目ともしれない溜息をついた。

 やはり、美味い話にはなんらかの裏があって然るべきものなのだと。

 

 

 

 

 

 

「こちら、『ルミエル・ナイツ』が所有しているお城の庭の一角でして、開放感あふれる物件ですが……」

「私たちはアウトローだって言ってるでしょうが!!!! どうして自治フォースとして有名なとこの庭を間借りしなきゃいけないのよ!!!!」

「そうですね、あまり開放感がありすぎるとソファが置きづらいかと思われますので……」

「ソファは関係ないでしょう!?!?」

「承知いたしました、では次の物件をご紹介いたしますね」

 

 

 

 

 

 

「こちらサンダーボルト宙域の一等地! サイド4ムーアコロニーとなっております! なんとコロニーを独り占めでお値段破格の10万BC! 買わない手はございませんよ、お客様!」

「ほとんど廃墟じゃないの! それにサンダーボルト宙域って時点で危険地帯じゃない!」

 

 いくつかのクソ物件を紹介されて、カヨの心は既にすり減っていたが、ルルは元気にエスティのボケとしか思えない言葉に律儀なツッコミを入れている。

 サンダーボルト宙域はフリーバトルエリアに設定されており、簡単にいえばハードコアディメンション・ヴァルガと全く同じ仕様のルール無用な残虐ファイトが日々展開されているのだ。

 ヴァルガとの違いを挙げるのなら、サンダーボルト宙域特有の落雷といった異常気象がダイバーたちに牙を剥くのと、宇宙空間限定ゆえにビルドを選ぶことだが、問題はそこではない。

 

「ですが、お客様はアウトローな物件をお探しであると聞いておりますので……ここでしたら、常にスリルに満ちた刺激を味わえるかと存じますが……」

「確かにそうだけれど!!!! そうだけれど!!!!」

「僭越ながらあまり大声は出さない方がよろしいかと思われますよ? ここはPKだろうがなんだろうがなんでもありの無法地帯ですので……」

「今無法地帯って言った!? 今無法地帯って言ったわよねぇ!?!?」

 

 そろそろハルナの「ルル総帥を愚弄したゲージ」が頂点に達しそうだな、と、カヨはぷるぷると震えながらストレージからショットガンを取り出し始めたハルナの頭を撫でて宥めながら、片手で目頭を覆う。

 

「んー、条件は最悪だけど一考の余地自体はあるんじゃない? ルルちゃん」

「なんでよ!?」

「今まで紹介された物件に比べたら広いし、コロニーが丸々一つもらえるっていうのは大きいんじゃない? くひひ」

 

 ムツミからの指摘に、ルルは頭を抱えて考え込む。

 確かに廃コロニーとはいえ、コロニーが丸々一つ10万BCで購入できるのは破格も破格な条件だ。

 問題はサンダーボルト宙域というフリーバトルエリアに接していて、コロニー内にも戦闘の気配が常にあることだが、そのデメリットを差し引いても、今の廃墟同然のフォースネストよりは若干マシかもしれなかった。

 

「そうね……マシ……マシなのかしら……」

「……どう考えても身の安全の方が重要だと思うけど」

「うっ……そ、それはそうだけれど! でも、今のフォースネストは狭くてボロボロで……!」

「……まあ、それもそうだから総帥の好きにしたらいいと思うよ。私は考えるのに疲れたから……」

「思考放棄しないで! 参謀のあなたが考えを止めたら誰が舵を取るのよ!?」

 

 カヨはもう色々と限界だったので、ハルナを抱き寄せて髪の毛をわしゃわしゃと撫で回しながら機嫌を取ることに終始することに決めていたのだ。

 ルルの悲鳴をよそに、カヨはただそれだけを考えながらひたすらハルナを撫で回す。

 おっかなびっくりながらも自分に甘えてくるハルナに、なんだか猫を抱いているみたいだ、とぼんやり考えていた、まさにその瞬間だった。

 

「っ! お客様、お気をつけください!」

「もう! 今度はなんなのよ!?」

「こちらに向かっているガンプラが一機! 明確に我々をターゲットにしている模様です!」

「そういうことはもっと早く言いなさいよ!!!!」

 

 エスティからの忠告に、ルルたちは慌ててガンプラを呼び出してコックピットに上がり込む。

 ゲルググ・ロッソベリアルのモノアイが点灯し、稲妻が轟く廃コロニー内部に怪しくきらめく。

 先行したハルナのイフリート・マインレイヤーとデータをリンクさせつつ、ルルはエスティに退避するようジェスチャーを送った。

 

『くひ……残念。生身のあなたの悲鳴を聞きたかったのに』

「……っ、スクリム!」

 

 通信ウィンドウに映り込んだ、紫色の髪に黒マスク、そして大量のピアスにうさ耳パーカーというバッドガール極まるダイバールックの少女、「スクリム」が猟奇的な笑みを浮かべる。

 白いフォビドゥンガンダムがフォビドゥンヴォーテクスのリフターを背負っているといった風情の外見をしたそのガンプラ、「フォビドゥンヴォーパル」とあわせて、界隈ではそこそこ有名なダイバーだ。

 なぜなら、それは。

 

「死んでくださいぃぃぃ!!!!」

『くひ……見せて、あなたの命の輝きを!!!!』

 

 手にしていたビームチェーンソーを起動して、スクリムは、上から爆弾を投下しながらショットガンを空中から乱射するという、いつもの戦術を取ったハルナのイフリート・マインレイヤーの絨毯爆撃をあえて避けずに、上空から迫る本体の迎撃に意識を集中する。

 トランスフェイズ装甲のおかげで、フォビドゥンヴォーパルには実弾に対するある程度のバフがパッシブスキルとして付与されているのも大きい。

 ハルナのショットガンをビームチェーンソーで引き裂いて、着地を狩るようにスクリムはゆっくりと追撃を入れていく。

 

「なっ……う、動いて……っ!」

『ほら。動かないとバラバラになっちゃうよ? 手足を削いで……モノアイを抉って……くひ』

「ッ──!」

「行って、ファンネル!」

「後ろがガラ空きだよ」

 

 スクリムはゆっくりとハルナのイフリート・マインレイヤーの手足を解体し、モノアイを抉って悲鳴を楽しんでからコックピットにビームチェーンソーを突き入れる予定だったが、それを変更してムツミとカヨの迎撃に移行する。

 ローゼスケンプファーが放ったファンネルをゲシュマイディッヒ・パンツァーで屈曲させて弾き返し、ガンダム・フェアリーが振るったビームダガーによる一撃を流れるように回避。

 そして、狙撃を試みていたルルのゲルググ・ロッソベリアルに誘導プラズマ砲「フレスベルグ」を放って牽制するという離れ技を披露してのけた。

 

『やる。だからこそあなたの悲鳴が聞きたかったのだけれど……四対一は流石に無謀』

「そういうことよ、いつぞやはあなたに随分と世話になったけれど……今の私には信頼できる仲間がいるもの!」

『それは解釈違い……わたしが聞きたいのはあなたのとっても素敵な悲鳴だけ!!!!』

 

 四対一というハンデを背負いながらも、ただひたすらにルルへと恐怖を刻み込むことだけを目的に、スクリムはゲルググ・ロッソベリアルに肉薄していく。

 こと宇宙空間での機動性に関して、ロッソベリアルとフォビドゥンヴォーパルの間にそれほど差はない。

 そして、背後からヒートソードを構えたハルナのイフリート・マインレイヤーと、カヨのガンダム・フェアリー、そしてムツミのローゼスケンプファーが迫っている以上、それはどう考えても無謀な突撃でしかなかったが。

 

『ん。前は見せなかった手を見せるとき……くひ』

「なっ、消え──!?」

 

 しかし、スクリムは余裕の表情を崩すことなく威圧感のある笑みを浮かべて、ルルに肉薄する寸前でその姿を消した。

 ミラージュコロイド。

 ステルス系スキルの中でも最上位に君臨する、機体を透明化させてレーダーにも視界にも映らなくするそれを、フォビドゥンヴォーパルは奥の手として保有していたのだ。

 

「この位置で仕掛けたらフレンドリーファイアに……!」

「……相手はそれも狙ってたってこと、か」

「っ、ルル総帥! わたしが盾になります、退避を!」

『甲斐甲斐しい、健気……ん、でも無意味……!』

 

 スクリムはルルを盾にするように背後へ陣取って、ゲルググ・ロッソベリアルのアクティブ・バインダーをビームチェーンソーで切り裂いた。

 ミラージュコロイドは一度でも攻撃行動を取ってしまえば解除される。

 だが、スクリムはルルを盾にできればそれでよかった。つまるところ、仕切り直しの一手としてミラージュコロイドの発動を選んだのだ。

 

「きゃあああああっ!」

『ああ、いい……あなたの悲鳴を聞かせて、もっと! もっと!! もっとぉぉぉ!!!』

「き、機体の制御が……っ……!」

『もっと声をあげて! もっと高らかに! もっともっと! もっとぉぉぉ!!!』

 

 ビームチェーンソーで嬲り殺すようにルルのゲルググ・ロッソベリアルを解体していくスクリムに、ムツミたちは手を出せなかった。

 否、手を出そうと思えば出せるのだが、フレンドリーファイアを恐れて固まってしまっているのだ。

 ならば、自分がやるしかない。カヨが決意を固めてデブリを蹴り、今まさにガンプラ解体ショーを披露しているスクリムへと突撃する。

 

『見せて!!!! あなたの命の輝き!!!!』

「く……っ……!」

 

 悲鳴だけは上げるものかと、レッドアラートが鳴り響くコックピットの中で、ルルは歯を食いしばっていた。

 

「それ以上はやらせないよ……!」

 

 だが、突如として割り込んできたカヨの捨て身の一撃に驚愕し、目を見開く。

 ビームチェーンソーの一撃を全身で受けながら削り取られていくカヨのガンダム・フェアリーを横目に、今しかチャンスはないと──これはカヨが作ってくれた好機なのだと、ルルは残された右手でスナイパーライフルを掴み取った。

 そして、迷うことなく機体を反転させ、カヨのガンダム・フェアリーの背中越しに、スクリムが駆るフォビドゥンヴォーパルのコックピットに狙いを定めて引き金を引く。

 

『……ああ、残念。もっとあなたの声が聞きたかったのに──』

「ふんっ。私と『ゼクスフローネ』を舐めるんじゃないわよ……!」

 

 サンダーボルト宙域がフリーバトルエリアである以上、これはPKにはカウントされない。

 そして改めて、このコロニーが10万BCで投げ売りされている真の理由を知って、ルルは深い溜息をつく。

 確かに一等地かもしれないが、またスクリムみたいなのに襲われることを考えると懲り懲りだ。

 

(こ、こ、怖かったー!!!! あんなのにまた会うなんて二度とごめんよぉー!!!!)

 

 内心に恐怖を押し込めて隠しつつ、ルルは余裕の笑みを形作って、優雅にサンダーボルト宙域を去っていった。

 

 

 

 

 

 

「今回はお客様のご要望に沿った物件をご紹介できずに申し訳ございませんでした。次の機会がございましたら、もっと素敵な物件を取り揃えてお待ちしております!」

 

 ある意味全ての元凶とでもいうべきエスティは、全く悪びれた様子もなく笑顔でそう告げて、ルルたちを見送っていた。

 二度とこないわよバカ、と言い放ちたいのを堪えてひらひらと左手を振りながら、ルルは優雅にセントラル・エリアのロビーへと去っていく。

 結局のところ、何事も身の丈に合ったところから始めなければ、ろくな目に遭わないのだ。

 

「はぁ……どっと疲れたわね」

「くひひ、でもルルちゃん、サイコーに輝いてたよ!」

「カヨのおかげよ……ごめんなさいね、あなたを遮蔽物として利用したのは」

 

 ルルはぺこりと腰を折って、カヨに頭を下げる。

 

「……いいよ。最初からそのつもりだったし」

「助かるわ」

「……る、ルル総帥。その……」

「ハルナもずっと私のために我慢してくれててありがとう。物件探しは地道に続けていくことにするわ」

「え、えへ……」

「ラーメンでも食べに行きましょ。もう疲れ切ったわ……」

「さんせーい! お疲れ様、ルルちゃん!」

「ムツミもお疲れ様。それじゃ、行きましょっか!」

 

 バーチャルだからいくら食べてもリアルの腹は膨れないが、それはそれとして一仕事終えたあとのラーメンは格別なものなのだ。

 ルルたちは満面の笑顔でアジアン・サーバーへと転移していく。

 

 ──しかし。

 

「……くひ」

 

 そんなやり取りを少し離れた物陰から見ていたうさ耳パーカーのダイバーこと、スクリムの視線には、疲れからか最後まで気づかなかった。




こちら読者参加型企画第三弾となります。作中に登場する「フォビドゥンヴォーパル」と「スクリム」ちゃんは「兎」様よりお寄せいただいた機体とキャラになっております( ˘ω˘ )
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