ゆるふわお姉さんのGBN探訪録   作:守次 奏

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自称アウトローと「簡単なアルバイト」

「今日もお金が厳しいわね……」

 

 豪華になったフォースネストのソファに腰掛けて、ルルは小さく呟く。

 

「……それはルルが片っ端から家具買ってるからでしょ」

 

 カヨは、呆れたようにそう返した。

 主だった資金源であるマスダイバー狩りは確かにルルたち傭兵の懐を豊かにしたが、ブレイクデカールが再生能力を得てからというもの、状況は一層混沌としている。

 ブレイクデカール自体の認知度が上がったことで、「こいつはマスダイバーだ」と言いがかりをつけて普通のダイバーをPKさせる悪質な依頼も増え始めてきて、どれが本当のマスダイバー討伐依頼なのかを吟味するのも一苦労だ。

 

 もっとも、ルルが見栄のためにアウトロー的な家具を買い漁っていることが金欠の原因なことに違いはないのだが。

 

「それはそうなのだけれど……私たちの目標はGBNにおける一流のアウトローでしょう? なら、それに相応しくあらなければ」

「……あっあの!」

 

 冷たい視線を向けてくるカヨに対して冷や汗をかきながらルルが反論しようとした刹那、言葉を遮るように、フォースネストの扉を開いてやってきたハルナが叫ぶ。

 

「あれ? ハルナちゃんどしたの?」

 

 ムツミは、珍しく自主的に発言をしているハルナに興味を持ったのか、にやにやとしたイタズラな笑顔を浮かべて問いかける。

 基本的にはなにか言われるまで黙っているハルナがルルの発言を遮ってまで伝えようとしていることなら、重大なことに違いはない。

 そうでなくとも、自主的に発言してくれる程度には「ゼクスフローネ」に馴染んでくれたのだろう、と踏んでのことだった。

 

「え、えっと……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいルル総帥のお言葉を遮ってしまい」

「い、いいのよハルナ! そんなことよりなにか重大なニュースがあるのでしょう? 聞かせてちょうだい!」

「い、いいんですか……? えっと……」

 

 ハルナはコンソールを操作してウィンドウを立ち上げると、そこに掲示板のログを投影する。

 

「お、お仕事を見つけてきました……」

 

 自信なさげな言葉ではあったが、確かにそこに記されていたのは、フォース専門スレッドの中に書き込まれていた「依頼」の文章だった。

 

「なにかしら? ふむふむ……『このカスタマイズとカラーリング、武装のウィンダムがハードコアディメンション・ヴァルガでブレイクデカールを使用しているところを見かけたら即時撃墜、マスダイバーの身柄を確保してほしい。報酬は50万BC、ダイバーランク不問、フォース戦経験不問、先輩ダイバーも同行する簡単でアットホームなお仕事です』……?」

 

 明らかにブラックな香りが漂っている文章だが、内容自体はまともで、ガンプラの詳細から武装パターン、ビルドのレシピまでが公開されている徹底ぶりだ。

 問題があるとするのなら、狩りを行う場所がヴァルガであることだろうか。

 あの場所には、ルルは全くいい思い出がないからだ。

 

「くひひ、いいんじゃない? ところでハルナちゃん、その依頼ってどこからきたの?」

「はっはい、ムツミ副総帥! えっと……『GHC』のスレッドを見ていたら、たまたま見つけまして……」

「なぁぁぁにぃぃぃぃー!?!?」

 

 ルルはハルナの口から飛び出してきたその名前に、思わず白目を剥いて叫んでいた。

 GHC──グローリー・ホークス・カンパニーは、このGBNにおける最大のアライアンスを率いるフォースにして、リアル世界でも同名で経営されている巨大コングロマリットだ。

 趣味と自社の宣伝も兼ねてGBNをプレイしている、とは現社長の言葉であり、ミリタリー色が強い機体や戦艦を多数保有しているのが特徴でもある。

 

 そんな「GHC」に対してルルが拒絶反応を示しているのは、ちょっとした不幸な行き違いがあったためだ。

 端的にいえば、「ゼクスフローネ」は彼らを一度、意図せず敵に回したのである。

 今では誤解も解けているが、それでも迷惑をかけた相手から仕事と金銭をもらうというのは、ルルのアウトローとしての信条に反していた。

 

「や、やっぱりダメでしょうか……? とても簡単そうなお仕事に思えたのですが……」

「うーん、ルルちゃん、というかムツミちゃんたち、あそこの提督さんに大分追っかけ回されたからねぇ」

「……地の果てまで追ってくる勢いだったね」

 

 GHCもなにやらマスダイバー絡みできな臭い事情を抱えているようで、だからこそこんな依頼も出しているのだろう。

 ただ、彼らのフォースネストであるヨコスカ基地から飛び立つ大量の105ダガーの改造機や、空母から発艦するムラサメ改に追いかけ回されるのは金輪際勘弁だ。

 最終的にはルルの迫真の土下座で事なきを得たが、それにしたってあれだけの数に追い回されるのは生きた心地がしなかった。

 

「……ダメ、でしょうか」

 

 ハルナはしょんぼりと俯く。

 ルルやムツミ、カヨがそこそこ「GHC」との因縁を気にしている一方で、ハルナはその辺のこだわりがあまりなかった。

 あの提督なる存在がルルを土下座させたことは気に食わないが、それでもルルがお金に困っているのならそれを解決することの方が、ハルナにとっての優先事項だからだ。

 

「……いえ。その依頼、受けるわ」

「ルル総帥……?」

「……せっかく、大切な仲間のハルナが持ってきてくれた依頼だもの。それを無下にするのはアウトローとしての主義に反するわ!」

 

 言ってしまった。

 見栄を優先してまたもや本心とは正反対のことを言ってしまったルルだったが、ハルナの頑張りを認めてやりたいというのは本当だ。

 それならば、毒を食らわば皿まで。やりきる他に道はない。

 

「くひひ、今回もなんか楽しそうなことが起きそうで楽しみ〜」

「……ヴァルガに最近珍獣が増えたとかいう噂もあるよ。気を引き締めていこう」

 

 ムツミの楽天的な言葉を諌めるようにカヨはそう言った。

 あくまでも噂程度でしかないが、珍獣──アッサルのような存在が増えたのならば警戒しなければいけない。

 無論、あらゆる意味で、だ。

 

 

 

 

 

 

「なんでぃ、応募してきたのは嬢ちゃんたちだったか」

 

 セントラル・エリアの裏路地で落ち合ったのは、ヒグマを思わせる巨漢だった。

 筋骨隆々としたその巨体を窮屈そうに「GHC」の制服へと押し込めているその男こそ、先日ルルと一悶着あったときに先陣を切って突撃してきた相手に他ならなかった。

 名前は、確か──ルルが思い出そうとすると、その男は片目を瞑って先に答える。

 

「俺か? 俺ぁナイトウだ。ナイトウでも隊長でも課長でも好きなように呼んでくれぃ」

「そう、ならば隊長さんと呼ばせてもらうわね。私はルル。傭兵集団『ゼクスフローネ』の総帥よ」

 

 なんでこんな、生身で熊も締め殺せそうな大男があの「GHC」に勤めているのか。

 内心でルルは大いにビビりながらも、ナイトウから差し出された手を取る。

 あまりにも手の大きさが違いすぎて、別の生き物と握手しているような心地だった。

 

「総帥たぁ大きく出たな」

「当然よ、私たちはGBNで一流のアウトローを目指しているのだもの」

「頼もしいこった、ところで今日の依頼は知ってるな?」

 

 剛毅に笑っていたのが一転、真面目な顔でナイトウはルルへと問いかける。

 

「ええ。ウィンダムのカスタム機の撃墜及びマスダイバーの捕縛をヴァルガでやるって話でしょう?」

「ま、早い話がそういうことになるがな。あんまし他言無用で頼むぜ」

 

 ナイトウの言い草に、あの50万BCは一応の口止め料も含まれているのかとルルは察する。

 依頼を出してしまった以上、秘密もなにもないと思うが、「どうして」そのウィンダムとマスダイバーを追っているかについて、ナイトウは一言も喋っていなければ、依頼にも書かれていない。

 つまりはそういうことだった。

 

(ここで「ゼクスフローネ」の名誉挽回と「GHC」とのコネが両方手に入れば一挙両得ね)

 

 恐らく、マスダイバー狩りはそう長く続かない。

 運営も、これだけ蔓延しているブレイクデカールを放置したりはしないだろうし、なによりも先日届いたクジョウ・キョウヤからの秘密のメッセージも、恐らく無関係ではないと踏んでいるからだ。

 新たな収入源の気配と、どことなく漂い始めるアウトローな空気に背筋をぞくぞくとさせながら、ルルたちはナイトウに続く形でハードコアディメンション・ヴァルガへと転移していった。

 

 

 

 

 

 

「やるこたぁ簡単だ、ホシが見つかるまで山狩りを続ける。つまり嬢ちゃんたちには生き残ってもらうことが最低限の条件になる」

 

 ヴァルガに転移して、洗礼のごとく待ち受けていたケルディムガンダムの出待ちスナイプを当たり前のように回避してグレネードで撃墜すると、ナイトウはルルたちへとそう伝えた。

 ダイバーランク不問とは謳っていたが、最低限ヴァルガで自衛と生存ができる程度の腕があることが最低条件だからだ。

 我ながら広告詐欺もいいところだな、と自嘲しつつ、四人の部下を連れてヴァルガの大地に降り立ったナイトウは愛機である、ウィンダムとジム・スパルタンのミキシングモデル「ウィンダム・スパルタン」のバイザーを光らせる。

 

 だが、こういうところにはそういう物好きが好んでやってくる。

 それはランクに見合わない、蠱毒の如き闘争の中で腕を磨き続けた戦士であったり、あるいは目の前の全てがポイントボックスに見えて仕方ないチンパニズムに取り憑かれたダイバーであったり。

 ルルたちはどっちだろうな、と考えを浮かべつつ、ナイトウはミラージュコロイドを用いて背後からの奇襲を試みてきたネブラブリッツのコックピットにコールドナイフをノールックで突き入れた。

 

『ば、バカな……ステルスは完璧だったはず……!』

「馬鹿正直に突っ込んでくるからでぃ、殺気がダダ漏れなんだよ」

『グワーッ!』

 

 辞世の句を読む暇もなく爆発四散したネブラブリッツを憐れむこともせず、ナイトウは己と同じウィンダム・スパルタンで統一している部下との陣形を崩さず「山狩り」を続ける。

 

「ハセクラぁ! 嬢ちゃんたちのエスコートはできてっかぁ!?」

「バッチリ……というか、この子たちならエスコートいらずだよ、隊長」

 

 肩のスモールシールドに「2」のマーキングが施されたウィンダム・スパルタンに乗っていた女性が親指を立てる。

 実際、ルルの命令でハルナも突撃を控えている今、「ゼクスフローネ」はいつでもナイトウたちを援護できる距離に陣取っていた。

 それはナイトウたちに合わせるだけの技量があり、各々の自衛も完璧だという証明でもある。

 

「こいつぁ思わぬ当たりを引いたってもんだ、捜索を続けるぞ! 嬢ちゃんたち!」

「了解よ!」

 

 号令と共にナイトウがスラスターを噴かして、北部廃墟都市地帯を南下しようとした、まさにそのときだった。

 

「……センサーに反応。登録されてる機体データとの照合率99.8パーセント」

 

 カヨが、北部廃墟都市地帯の最北西──普段は乱戦地帯となることがデフォルトな、軌道エレベーターのデータを転送する。

 

「凄まじい索敵能力だぜ……各員に通達、軌道エレベーターまで一気に突っ切るぜぃ!」

「……ついでに天気も急変してる。ブレイクデカールが使われたときのバグとの一致率は87.6パーセント」

「ありがとよ! ますます探す手間が省けたってもんだ!」

 

 カヨが呟いた通り、いつも曇天に覆われているヴァルガの空が裂けたかのように紫電が走り、大雨が降り出したその現象は、ブレイクデカールの使用に伴い、発生するバグとよく似ていた。

 

「え、ええと……ハセクラ副隊長……殺しちゃっていいんですよね? ルル総帥の敵なんですよね?」

「物騒なこと言うね、お嬢ちゃん……」

 

 ハルナが改めて得物のショットガンをリロードしながら問いかけた言葉に、ハセクラはドン引きする。

 

「殺しゃしねえよ、徹底的に叩きのめすがな」

「了解しました、とりあえず会敵したら撃ちます!」

「本当にわかってるの……?」

 

 微妙に噛み合っていないナイトウとハルナのやり取りに呆れて、ハセクラは肩を竦めつつ溜息をつく。

 軌道エレベーターまでの道のりも決して楽なものではなかったが、それでも並のダイバーやチンパン程度であれば「本職」であるナイトウたちの敵ではない。

 ルルも何度かヴァルガ行きを経験しているのと、そんな彼らの援護があるおかげで、ほとんど無傷で軌道エレベーターに到達していた。

 

『ははははは! 俺たちは天下の「GHC」だぜー!? モヒカン如きが敵うと思ってんのかよ!?』

『う、うわああああ! ボス! 助けてくださ──』

『消えちまえぇっ!』

 

 そこにあったのは、異常な光景だった。

 普段は集団で弱者を追いつめていたぶることを生業にしているモヒカンたちが、二機一組になったウィンダムのカスタムモデルが放つ紫色のビームに一方的に蹂躙されているのだ。

 時折モヒカンたちも反撃を試みているが、ブレイクデカールが持つ圧倒的な耐久力のブーストと再生機能に阻まれて、まさに蟷螂の斧といったところだった。

 普段は南東部を拠点に都市部へと進出しているモヒカンたちがなぜ北西部軌道エレベーターまでやってきたのかも謎だが、今は対象の確保が最優先だ。

 

「マスダイバーがよぅ、人様の屋号使ってイキってんじゃあねえぞ!」

『ははははは! って、この機体データ、まさか!?』

「おうよ、騎兵隊だ! テメェらを取り締まりにきてやったぜ!」

 

 ウィンダムのカスタムモデルに乗っている冴えない顔のマスダイバーは、ナイトウの顔と、彼が率いるウィンダム・スパルタンの編隊を見るなり顔を青ざめさせる。

 ブレイクデカールがあるからやられる心配は少ないとはいえ、本当に自分は「企業」に楯突いたのだと、理解したからだ。

 冴えないマスダイバーこと、ダイバーネーム「ユウタ」は、そもそもGBNのプレイ歴も浅い。

 

 ただ単に、ユウタは高額な報酬金につられて「バイト」を受けただけの大学生に過ぎなかった。

 それを持ちかけてきた人物の正体も定かではなく、ただ申し込んだ翌日、自宅にダイバーギアとウィンダムのカスタムモデル、そしてブレイクデカールなるチートツールが送られてきたから、顔も知らない雇い主の命令に従って暴れているだけだ。

 雇い主からの条件はただ一つ。

 

 ──「GHC」の名を出して派手に暴れろ。

 

 それに従って、ユウタは彼なりに調べた知識を総動員する形で、人目につきやすい場所──つまり、ヴァルガに潜ったのだ。

 一応、「GHC」がどんな企業なのかはユウタも知っている。なんなら就活の候補にぼんやり考えていたところでもある。

 

 だから、このブレイクデカールによるチートも、ウィンダムのカスタムモデル──腕部をダガーのものに換装し、ミリタリーチックな灰色と青のツートンカラーに塗装された「GHCウィンダム」も、あくまで広報の一環かなにかだと、ここにくるまではそう思っていたのだ。

 ユウタとて、なにも知らないバカではない。

 流石に違和感を覚えてGBN関連の掲示板やコミュニティを漁った結果、「GHC」は本気でチートツールの排除に取り組んでいる、ということがわかったのだ。

 

 つまるところ──自分は「GHC」に対するネガティブキャンペーンの片棒を担ぐことになったのだと。

 高額な報酬金は受け取ってしまった。

 証拠のブツも今手元にある。自分はもう、本物の「GHC」から逃れられないのだ。

 

『う、うわああああ! 来るな、来るなぁ!』

「ビームの威力にモノを言わせたただのトーシロか……そりゃあ簡単に、尻尾を出しちゃくれねぇよなぁ!」

 

 ブレイクブーストによって強化されたビームの雨を掻い潜り、ナイトウはユウタのGHCウィンダムに組みつく。

 そして、一本背負いの要領で背中から地面に叩きつけた。

 おまけに、本家「GHC」の登場に相方もビビって、逃げ出したところをルルたちに確保されている始末だ。

 

『は、離してくれ! 俺はなにも知らない! 知らないんだ!』

「その言葉はここで聞きたいわけじゃあねえ、ただよぅ、人様の看板に泥を塗るってことはどういうことか……じっくり教えてやるぜぃ」

『うわあああああ!!!!』

 

 複数のウィンダム・スパルタンに囲まれて、コックピットにコールドナイフをゆっくりと突き入れられる光景は、ユウタからすればトラウマモノだった。

 それを横目に見ていたルルは、ハルナのショットガン乱射と跳躍爆撃で粉微塵となったもう一機のGHCウィンダムを横目に、小さく溜息をつく。

 なにはともあれ、依頼はこれで完了か。

 

「ちょろいものだったわね」

「本当に? ねえねえルルちゃん、ムツミちゃん、なーんか嫌な予感するんだけど」

「嫌な予感……?」

 

 ルルは小首を傾げる。

 だが、ムツミが語ったその言葉は、果たして根拠が全くないわけではない。

 カヨも小さく頷いて、ムツミの言葉に同意を示した。

 

「……空。ブレイクデカールの首謀者は倒したはずなのに、直ってない」

 

 ヴァルガを包む暴風雨は、カヨの言葉通りに未だ晴れていない。

 普段であれば、ブレイクデカールを使用しているマスダイバーを狩れば、バグは終息するはずだった。

 そうなれば、考えられる可能性は一つ。

 

「……っ、まだ増援がいるわよ、隊長!」

「なんだとぉ!?」

 

 ルルは狙撃銃を構えて、軌道エレベーター内部に潜んでいるのであろう「敵」へと牽制射撃を撃ち放つ。

 ウィンダム・スパルタンが敵の目を潰すために背部のミノフスキー粒子散布ポッドから、ミノフスキー粒子を撒いていたのが仇になった。

 そんな苦言を呈することすら許さずに、ルルの弾を避けた何者かが、「4」のマーキングがスモールシールドに施されたウィンダム・スパルタンの背後に回ってその胴体を両断する。

 

『なーんだ、つまんないわね。イキってるガキのお守りなんて退屈でしょうがなかったから……せっかくだし、遊んでやるわ!』

 

 ガンダムルブリス・ソーンをベースにしたのであろうその機体は、半月状の曲刀を両手に携えて、次々とウィンダム・スパルタンを膾斬りにしていく。

 

「くっ、早い……っ!」

「ナイトウ隊長、ハセクラ副隊長、あとは頼みます……!」

「任せな、仇はとってやる!」

 

 わずか1分。

 それが、ナイトウとハセクラを除くウィンダム・スパルタンが、「GHC」が選抜した精鋭が全滅するまでに要した時間だった。

 紫色のオーラを纏うルブリスソーンのカスタムモデルをレティクルに収めて、ハセクラは動揺することなくミニガンを撃ち放とうとした。

 

 ──だが。

 

『おっそ、なに? このゲーム雑魚しかいないの? 迎撃が3フレームもズレてれば──』

「なにっ……!?」

『こうなるんだよねぇ、あははははっ!』

 

 ブレイクブーストによって強化されたビーム・ディフューズガンの一撃が、後の先を取る形で、ミニガンを構えたハセクラのウィンダム・スパルタンを飲み込んだ。

 

「ハセクラぁ!」

『おっさんが最後? なぁーんだ。天下の「GHC」がどうとか吠えてるけど、こんなクソゲー顔真っ赤にしてやってる時点でカスゴミクソザコじゃーん?』

「チッ……チートに頼っちゃいるが筋は悪くねぇ……! 嬢ちゃんたち! 悪いが援護頼めるかァ!?」

 

 ナイトウからのコールに応える形で、ルルは不敵な笑みを浮かべて返答する。

 

「もちろんよ。お代は高くつくけど……ねっ!」

『当ててきた!? ……っ、クソゴミが、アタシによくも!』

 

 ルルが放った一撃は、掠めただけとはいえ、本人の申告通りルブリスソーンの改造機に当たっていた。

 小さな引っ掻き傷程度のダメージは瞬く間に再生してしまうが、プライドにつけた傷は消えない。

 怒りに身を任せて、ルブリスソーンのカスタムモデル──「ガンダムルブリス・ラド」を駆るピンク髪をツインテールに括った少女、「オロチ」はパーメットスコアを3から4に引き上げる。

 

「パーメットスコアが上がってるわね。ムツミは下がってハルナの援護! カヨは引き続きナイトウ隊長との遊撃、私は……いつも通りよ!」

 

 アンチドートを積んでいる可能性を考慮し、ファンネルを主体にしているムツミをルルは一旦下がらせて、狙撃ポジションにつく。

 

『どうせサ終が決まってるこんなクソゲーにマジになってるやつなんかがぁ……!』

「へっ、なんでぃ。嬢ちゃんはなににもマジになれねぇってか。若いってのにそいつぁ悲しいなぁ!」

『あぁ!?』

 

 ナイトウの皮肉がオロチの怒りを加速させる。

 ムツミとハルナの弾幕、ルルの狙撃、カヨの死角狙いの一撃にナイトウの近接格闘狙いのマニューバと、捌かなければいけない攻撃と情報は山ほどあった。

 だが、まずはナイトウに一泡吹かせなければ、オロチの気がすまない。

 

『幼稚なオッサンが偉そうにあたしに説教垂れてんじゃないわよ! パーメットスコア・ファイブ!』

「流石に速ぇか……!」

 

 ブレイクブーストも合わさって、ルブリスラドは反応速度も機体の速度も劇的に引き上げられていた。

 一歩間違えば壁のシミになりかねないその繊細な挙動を制御しながら、常に死角をとる形でオロチはナイトウをいたぶり続ける。

 ビーム・ディフューズガンを拡散モードにした弾幕が、次々とウィンダム・スパルタンを襲う。だが、ナイトウは下手に動かず、あえて耐える構えを見せた。

 

「ナイトウ隊長、避けないといくらその機体の装甲でも……!」

「安心しろぃ、嬢ちゃん。いざとなったら……俺ごと撃ちな」

「っ!」

「GBNがクソゲーかどうかは個人の判断に任せるがよぅ……こちとら失いたくねぇもんのために戦ってんだ、それを譲るぐらいなら死んだほうがマシだと思えるためのなにかのためにな」

 

 ナイトウの両目は、確かな「覚悟」を宿していた。

 ルルは小さく頷き、固唾を飲み込んでスコープを覗き込む。

 そこまで身を挺した覚悟があるのなら、そうしてまであのマスダイバーを討つチャンスを作り出そうとしているのなら、それに乗らないのはアウトローの流儀に反する。

 

『ああもう、キショいキショいキショい! 加齢臭すんのよオッサン! だったらお望み通り死ねぇっ!!!!』

 

 半月状の曲刀──サークルチョッパーを円形に連結し、ルブリスラドとオロチは叫びと共にナイトウが構えたコールドナイフの死角かつ、ルルの狙撃に対して彼が遮蔽物となるような位置から斬撃を試みた。

 果たしてその狙い通りにサークルチョッパーはウィンダム・スパルタンの増加装甲の上から本体装甲に深々と食い込んで、機体を縦に易々と切り裂く。

 あとは1フレームで離脱すれば、例えルルが本気でナイトウを盾にした狙撃を試みても、間に合う──オロチの公算はそういうものだった。

 

 ──だが。

 

「確かにその覚悟、受け取ったわ!」

 

 ルルはナイトウが文字通り命懸けで作り出したそのチャンスを逃すことなく、ルブリスラドを照星に収めてトリガーを引き絞る。

 

『──なッ!?』

 

 1フレームでの離脱は完璧だった。

 だが、ルルが撃っていたのは1フレーム前にオロチがいた位置ではない。

 1フレーム先の位置を予測した、半ば未来予測に片足を突っ込んだ偏差射撃が、僅かにコックピットを逸れてルブリスラドに風穴を空けていたのだ。

 

「アウトロー、舐めんじゃないわよ……!」

『……殺す……殺す殺す殺すッ! パーメットスコア──』

 

 機体の損傷はブレイクデカールがすぐに修復したが、オロチのプライドを正確無比にルルは穿ち、修復不可能な傷をつけていた。

 オロチは例え愚かな選択であったとしても、今度はルルを殺すために切り札であるパーメットスコア・シックスを解禁するために、武装スロットを展開する。

 しかし、それを諌めるかのように蒼の雷が突如として走り、大太刀がルルの狙撃銃を切り裂き、オロチに小太刀の切先を突きつけていた。

 

『……ん、下がっていい。其方の損失は此方にとっても利ではない』

『はぁ? ふっざけんなッ! 冗談じゃないわよ! あの格好つけたクソ女はあたしが──!?』

『ん、雇用関係。もしも契約を破棄するなら此方が相手になってもいい……「幕末」でのように』

『……チッ……』

 

 突如として戦場に乱入してきたルブリスアノクタに武者鎧を纏わせたようなガンプラを駆る、長い狐耳に九尾の尻尾、そして黒髪を姫カットにして腰まで伸ばした女性は、オロチを諌めて帰還させる。

 まるで見えなかった。

 ルルは刹那のうちに断ち切られていた自らの得物を見て、愕然とする。

 

『ん、これ以上の戦闘は無意味だと此方は判断する。大人しくそのGHCウィンダムのダイバーを見逃せば、攻撃は控える』

「……へっ、最後の最後にとんだ当たりを引くたぁな……」

『……ん。それはそう、此方が姿を現したのは大いなる失敗……試合に負けて勝負に勝ったのは其方だ、ナイトウ・イサオ一課長』

「……いいぜ、シラト・ミヤビ元六課長。テメェがここにいるとわかっただけでクレダの親父にゃ十分な手土産だぃ」

 

 ミヤビというらしい女性はナイトウとの取引を飲んで刀を収めると、撃墜は免れて放置されていたGHCウィンダムを回収し、彼方へと飛び去っていく。

 恐ろしい敵だった。

 ルルはもし本気でやり合っていたら、と想像して、寒気に襲われる。

 

「ナイトウ隊長、その……」

「なんとも苦ぇ結果にはなっちまったが報酬は払う。俺ぁ……これからもヤツを、いや、ヤツらを追い続けるがよ」

「……そう……」

 

 ルルはどこか暗澹たる気持ちを抱えながら、ヴァルガから脱出した。

 果たして、「GHC」が抱えている内情はわからない。

 だが、ここから先は自分のような「半端者」が踏み入ってはいけない、と言われているようで、少しだけ悔しかったのだ。

 

 頂点はやたらとデカく、高く。

 そして、一流のアウトローへの道は、まだまだ遠い。

 そんな手痛い教訓と共に、ルルたちはいつものフォースネストへと帰還していった。




私たちはまだまだ登り始めたばかりだからよ、このアウトロー坂をよ……!

今回のお話にあたって「ほぼ読み専」様より「オロチ」と「ガンダムルブリス・ラド」を許可を得てお借りしています。
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