ゆるふわお姉さんのGBN探訪録   作:守次 奏

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上京アイドルとサメが舞う空

 都会は恐ろしいところだ。

 その代わりに物が豊富にあって、田舎とは比べ物にならないほど選択肢がある。

 少なくともリンはそういう認識だった。そのはずだったが。

 

「リンは困った困ったなのです……今度GBNとコラボする『魔法少女VSサメ怪人』? の予習がしたいのに、どこにもDVDが置いてないのです……」

 

 リンは小さく溜息をつく。

 元々ニッチな作品だったとは聞いているが、どこのビデオレンタル店に行っても置いていなければ、そもそもサブスク配信にも対応していないとは思ってもいなかった。

 GBNとのコラボ効果もありそうだが、山手線を一周してレンタルビデオ店を巡っても見当たらないのは、もはや運命に見放されているとしか思えない。

 

 ハヤテとコマチも「魔法少女VSサメ怪人」のDVD探しに協力してくれているが、見つかったという報告は今のところ挙がっていない。

 どうしたものか決めかねて、リンは一度自分が今住まわせてもらっている喫茶「ありあんろっど」のある商店街に引き返していた。

 もしかしたら、それは砂漠で砂粒に紛れたダイヤモンドを探し当てるような確率ではあるが──この商店街に、「魔法少女VSサメ怪人」のDVDが置いてあるかもしれない。

 

 そんな賭けに出た結果だったが。

 

「そこのかわいいお嬢さん、今、魔法少女VSサメ怪人と言ったね?」

 

 がしっ、と背後から肩を掴まれて、リンは耳元でそんなことを囁きかけられる。

 突然の出来事にびくり、と体を震わせて、錆びついたブリキ人形のような仕草でリンが背後を振り返ると、そこにはインナーカラーを青で染め、大量の缶バッジをつけたスカジャンを羽織っている女性がいた。

 その瞳はどこまでも怪しく、そしてギラギラと輝いていて、さながら陸から海に自らの獲物を引き摺り込む捕食者のようだ。

 

「ひ、ひえっ……た、食べないでほしいのです、リンは美味しくないのです……!」

「大丈夫さ、お嬢さん。貴重な布教対象を取って食べたりするわけがないじゃないか。もったいない。ところでお嬢さんは、『魔法少女VSサメ怪人』のDVDを探しているんだね?」

 

 スカジャンを羽織った女性は、リンに改めてそう問いかける。

 

「そ、そうなのです。どこにも置いてなくて、サブスクにも対応してなくて困ったなのです」

「ふふふ、心配しなくていいとも。私の店にはサメ怪人シリーズが全作取り揃えてあるからね」

 

 なんでそんなものを全作取り揃えているのか、という根本的な疑問はさておくとしても、女性の発言は今のリンにとって渡りに船だった。

 ガンプラアイドルとしても、G-Tuberとしても、GBNとコラボする作品について知っておくのは基本姿勢だと、リンはそう思っている。

 例えそれがどんなにタイトルからクソアニメの気配がしようと、B級映画を通り越した「サメ映画」というジャンルだとしても、だ。

 

「じゃ、じゃあハヤテちゃんとコマチちゃんも呼んできていいのです? 三人で見ないといけなくて……」

「オーケー、獲もn……布教対象は多いに限るからね。ただ、ちょっと狭いのは許してね。うちはあくまで個人経営の模型店だから」

 

 スカジャンの女性はそう言って踵を返す。

 なぜ、個人経営の模型店にそんなニッチなDVDが置いてあるのかだとか、今明らかに獲物と言いかけただとか、リンの頭上には大量の疑問符が浮かんでいた。

 だが、気にしたところでしょうがないのだろう。即座に割り切って、リンはスカジャンを羽織った女性へと問いかける。

 

「あ、あのっ!」

「なにかな、お嬢さん?」

「お、お名前を教えてほしいのです。感謝したくてもお名前がわからないと困ってしまうのです」

 

 リンの呼びかけに、小さく口笛を吹いて、スカジャンの女性は不敵な笑みを浮かべながら答える。

 

「私はアキナ。ウサギダ・アキナだよ。模型店『Rabbit Doll』の店長やってる」

 

 なんなら長く働いてくれるバイトも募集中だよ、と付け加えて、かつかつとコンクリートをブーツの踵で鳴らしながら、アキナはリンを「Rabbit Doll」へと誘った。

 

 

 

 

 

 

 自分が一体なにを見せられているのか、リンにもハヤテにもコマチにもそれは理解できなかった。

 商店街の隅っこにひっそりと佇む「Rabbit Doll」の店内でリンたちは約束通りに「魔法少女VSサメ怪人」を一作目だけではなくフルで通して見ることになっていたのだが、まず当たり前のようにサメ怪人が空を飛んだりトルネードを起こしたりする時点で理解を超越している。

 それなのに、魔法少女たちはリアルに傷つき、ときにはサメ怪人との熾烈な戦いの末に戦死していく──という壮烈な映像を見せつけられて、脳がフリーズしてしまったのだ。

 

「えっとさ、コマチ、リン。これってクソアニ……」

「……」

「スミマセンガメンニシュウチュウシマス」

 

 とうとうその映像の理解超越度に耐えられなくなったハヤテがクソアニメの五文字を呟こうとした途端に、MG「Zガンダムver.ka」にヤスリがけをしていたアキナから睨まれて、画面に視線を引き戻される。

 ハヤテの目には、サメ怪人よりこのお姉さんの方がよっぽど邪悪で恐怖に映っていたし、それはコマチも同じだった。

 ただ一人、リンだけがぐるぐる目で「魔法少女VSサメ怪人」を理解しようと頑張っている。

 

「あっあっ、リンには、リンにはわからないのです」

「わかろうとするんじゃない。感じるんだ……サメ映画というのは心で見るものなんだよ、リンちゃん」

「あうあうなのです、あうあうなのです……」

 

 感じる心が瀕死になっているからこその叫びだったのだが、アキナは当然の権利のようにそれをスルーして、悪魔と化したサメに魔法少女が取り憑かれるシーンを見て「これだよこれ」とご満悦だ。

 サメが憑依するってなんだよ。

 当然のように海洋生物の能力を超えた異能を発揮するサメと、ポップでキュート、マジカルでリリカルな魔法少女がガチの殺し合いをする残虐ファイトにリンたちの心は擦り切れそうだった。

 

 だが、残念なことにこれはまだ一作目だった。

 マラソンはまだ続く。

 血を吐き倒れるのが先か、それともサメ映画に適合するのが先か。そんな過酷な選別を今、リンたちは体験させられているのだ。

 

 

 

 

 

 

 ペリシア・エリアは、ガンプラの展示がメインコンテンツという、バトルがどうしても主流になりがちなGBNというコンテンツにおける、ビルダーの癒やしにして憩いの場でもあった。

 原則的に一定のダイバーランクでなければガンプラを出撃させることもできず、かつペリシア・エリアにガンプラを飾ることもできない。

 展示されたガンプラを見て制作意欲に火をつけるも、自らの糧にしようと研究するも自由だが、基本的に銃火を用いた戦いとは無縁……のはずだったのだが。

 

『サーメサメサメサメ! このもGBNもサメで支配してやるサメねぇ! まずは手始めにこの平和なペリシア・エリアをサメに染めてやるサメねぇ!』

 

 先日もシャフリヤールを騙るマスダイバーが騒ぎを起こしたというのにもかかわらず、今ペリシア・エリアの上空にはマーメイドガンダムをサメ型に改造し、紫色のオーラを纏った邪悪なサメガンダムが飛び交っていた。

 その光景を見て、フェイススキン──被り物をラジオにしているダイバー、「エフエム」はなんなんだこれはとばかりに絶句する。

 いや、違う。なにもエフエムばかりではない。

 

 空を埋め尽くすサメの軍団に、このペリシア・エリアを訪れていた誰もが絶句して、ぽかんと口を開けていたのだ。

 元々はガンプラアイドルユニット「デルフィニウム」がペリシアで有名なビルダーをインタビューする、という案件の裏方を引き受けるつもりでエフエムはここを訪れていたのだが、それがなにをトチ狂ったのか、空にはサメガンダムの群れが竜巻のように渦を巻く。

 確か今GBNは「魔法少女VSサメ怪人」なるクソアニメ──もとい味わいのあるアニメとのコラボを行っていて、様子がおかしいダイバーが増えているとは聞いていたが。

 

「あー、ところでこれはどうしますかね、クオンさん」

 

 エフエムは思わず、今日「デルフィニウム」がインタビューを行うためにペリシアまで来てくれていた個人ランキング24位にして、フォース「エターナル・ダークネス」を率いる傑物である銀髪の半人半竜といった風情の女性へマイクを向けていた。

 

「なにそれ知らない……怖……」

「ですよねぇ」

 

 返ってきたのは極めて常識的な反応だった。

 それもそうだろう。

 インタビューを受けると聞いてやってきたら空飛ぶサメガンダムが襲撃してくるなんて、風邪を引いたときに見る悪夢でしかない。

 

「やれやれ……あまり本気は出したくないのですが……」

「うむ、ペリシアを焦土にされるわけにはいかぬな……我も行く」

 

 エフエムとクオンはガンプラを出撃させられるランクに達しているため、サメガンダムの迎撃を行おうと、駐機状態にしていた機体へと乗り込もうとしたが、刹那。

 

『待ちなさーい!』

 

 甘ったるい声を揃えた、三人分の叫びがエフエムとクオンの耳朶に触れる。

 それは紛れもなく、今日のインタビュアーとして予定されていた「デルフィニウム」の3人のものだった。

 声を揃えて、3機のF91がペリシアの空を埋め尽くさんばかりに大量発生しているサメガンダムに対峙する。

 

『これ以上、サメ怪人の狼藉を見逃すわけにはいかないわ!』

『マジカルー……リリカルー……』

『リンたち機動魔法少女隊が相手なのです!』

 

 びしっ、と「魔法少女VSサメ怪人」の劇中に出てくる魔法少女たちの決めポーズを取って、「デルフィニウム」の3人はそう宣言した。よく見ると、3人の衣装はコラボで配布された魔法少女たちのものだ。

 思わず絶句して、クオンは口を半開きにする。

 エフエムの表情はそのラジオヘッドゆえに判然としなかったが、恐らくは苦虫を噛み潰したような顔をしていただろう。

 

『サーメサメサメサメ! 非力な魔法少女がなにか言ってるサメねぇ……己の非力を嘆くがいいサメ! 魔法少女!』

『各機散開なのです! ブレイクデカールの効果で分身しているように見えるだけで、サメガンダムの本体は1機だけなのです!』

『サーメサメサメサメ! 我が「幻影鮫陰」を見破るとは中々やるでサメねぇ……ならば、それ以上のシャークトルネードで圧倒するのみサメ!』

 

 サメガンダムは宣言通りに分身を大量発生させると、持っているトライデントからサメ型のビームを大量に撃ち放った。

 悪夢の如きサメの流星群が、ペリシアに降り注ぐ。

 いやこれが悪夢じゃなくてなんというのだ。風邪引いたときでもこんな夢は見ないぞ──と、クオンは死んだ目で目の前の光景を眺めていた。

 

『やらせはー……せんぞー……』

 

 しかし、サメ型ビームの直撃弾を、コマチのF91ライトニングが最大展開したミノフスキー・シールドが全て防いで、ペリシアを崩壊に導くサメ型流星群は霧散する。

 

『やるでサメねぇ……盾の魔法少女』

『わたしのー……盾はー……みんなをー……護るー……』

『流石はコマチよ! キャハハ! あとはどれだけ数がいたって、この砲撃魔法で分身ごと薙ぎ払っちゃえばぁ!』

 

 そして、ハヤテのF91ホープスがセカンドVのロングレンジキャノンとヴェスバーを最大出力で照射して、サメガンダムの幻影を薙ぎ払っていく。

 元々防御と火力と機動力でそれぞれの役割を分担しているのが「デルフィニウム」の戦い方だ。

 奇しくもそれは、「魔法少女VSサメ怪人」に出てくる魔法少女たちと同じだった。

 

『ハヤテちゃんが道を切り開いてくれたのです……リンが本体にトドメをさすのです! 覚悟なのです、サメ怪人! なのです!』

 

 そして、光の翼を展開したリンのF91シュネーヴァイスがビームサーベルを引き抜いて、幻影を打ち消され、ただ一つ残った本体のコックピットにビームサーベルを突き入れる。

 

『ば、バカなサメ……このサメ怪人がやられるなどと……!』

『正義は機動魔法少女隊にあり、なのです!』

『クックック……』

『な、なにがおかしいのです!?』

『原作ならばここでお前たちの勝利だったサメ、しかしGBNをサメで染め上げるためには……サメの勝利が必要サメねぇ〜!!!!』

『まさか!?』

 

 そのまさかよ、とばかりに、コックピットにビームサーベルを突き入れられたはずのサメガンダムが巨大化していく。

 その異形は、ペリシア・エリアを踏み潰さんばかりであり、多くのダイバーたちが思わず息を呑む。

 頭のおかしくなりそうな光景だったが、相手はマスダイバーなのだ。元から頭がおかしいのは確定事項なのだ。

 

『サーメサメサメサメ!!!! 進撃のジャイアント・シャーク!!!! もはやお前たちは籠の中に囚われた鳥サメねぇ〜!!!!』

「そうですか……いやはや最初はショーが始まったのかと思いましたが、マスダイバーの無法と理解すれば、看過するわけにはいきませんね」

『サメっ!?』

 

 ペリシアから飛来したロング・メガ・バスターの光が、巨大サメガンダムを穿つ。

 その機体は関節に蒼い炎を灯し、双眸に確かな光を宿して立ち上がった。

 百万式のレプリカキットとガンダムデルタカイのミキシングモデル──エフエムの愛機である「デルタブリューナク」である。

 

 n_i_t_r_oシステムの反応は上々だ。

 あとは不届きものにメガ粒子の塊をぶち込んでやればいい。

 機動力で翻弄するように細かなマニューバを刻み、絶え間ない射撃で、エフエムは巨大サメガンダムをよろけさせて金縛りにする。

 

『サーメサメサメサメ! いかにお前の射撃が強力でも、ブレイクデカールは今や再生能力をも手にしたサメねぇ〜!!!! つまりいくら撃っても無駄ということサメねぇ!!!!』

「いや、そうでもないですよ」

『サメ?』

「時間は稼げましたので」

 

 サメ怪人のロールプレイにはまり込んでいるダイバーは、エフエムの言葉が最初は理解できなかった。

 だが、彼方に煌めく凶星を見て理解する。

 自分は、触れてはいけないものの逆鱗に触れてしまったのだと──

 

『終末を告げる裁きを受けよ! 「エンド・オブ・ワールド」!』

『さ、サメェェェェ!!!!』

 

 再生能力も、それを遥かに上回る威力の攻撃で潰されてしまえば関係ない。

 それを体現するように、クオンの怒りを宿したミキシングモデル──「終末を喚ぶ竜」の化身たる「ジャバウォック」の一撃は、巨大サメガンダムを完全に、塵一つ残さず消し飛ばしていた。

 かくして奇怪な悲鳴と共に、騒動の幕は下ろされた。多くのダイバーたちに、「サメ映画に狂ったやつはああなるのか……」という若干の恐怖を抱かせながら。

 

 

 

 

 

 

「あー、それでは今回の『魔法少女VSサメ怪人』コラボについて、『デルフィニウム』の3人からお一言いただきたいと思います」

 

 その後、何事もなかったかのように再開されたインタビュー企画において、エフエムはマイクを握って、ちょこんとソファに腰掛けている「デルフィニウム」の3人にトークの締めを求めていた。

 

『魔法少女VSサメ怪人シリーズは世界最高のアニメ(なの)です!!!!』

「せ、洗脳されている……」

 

 ぐるぐる目でそう答えるリンたちがいかに過酷なマラソンをしてきたかをエフエムは知らないが、その恐ろしさの片鱗を味わった気がした。

 サメ映画が人を狂わせるのか、どこかしら様子がおかしい人がサメ映画を求めるのか。

 その答えは未だ、闇の中にある。




なんてことだ、もう助からないぞ

読者参加型企画第八弾です。登場する「エフエム」氏と「デルタブリューナク」は「Megapon」様よりお寄せいただきました( ˘ω˘ )

また「青いカンテラ」様より「クオン」と「ジャバウォック」、「兎田アキナ」及び「Rabbit Doll」、そして「魔法少女VSサメ怪人」の設定をお借りしております。
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