ゆるふわお姉さんのGBN探訪録   作:守次 奏

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私たちのアステリズム
「宇宙を目指す少女」


 キリノ・アズサがその少女と出会ったのは、ほんの些細な運命の悪戯によるものだった。

 同じ病室で、なぜか爆音で「機動戦士ガンダム サンダーボルト」を垂れ流していたその少女──リサは、医師との話を盗み聞きした範囲では、事故で下半身不随という重傷を負ったことでこの病院に入院しているらしい。

 なんとなく、アズサは親近感を抱いた。自分の場合は生まれつきだが、下半身不随という同じ症状を抱いている女の子と、初めて出会ったから。

 

 だから、最初にリサへと話しかけたのは好奇心だった。

 その爆音で垂れ流しているアニメはなんなのか、ただそれだけを聞いてみたかっただけだ。

 そんな感情と衝動に任せて、アズサは向かいのベッドにいるリサへと話しかけたのである。

 

 アズサは、角度によっては七色に光って見える不思議な髪と瞳を持っていた。

 そんな、目立つ女の子に話しかけられたリサは、しばらく呆然としていたことを覚えている。

 綺麗な子だと思った。あどけない顔立ちに不思議な髪と瞳が神秘的で、なにもかも失った自分の前には、その輝きは眩しすぎるほどで。

 

「なんだよお前、ガンダムも知らねーのか」

「ガンダム?」

「アニメだよ、モビルスーツってロボットに乗ってドンパチやるアニメ」

 

 心から不思議そうに小首を傾げたアズサに対して、リサは多少気怠げにそう語る。

 直視できないし、したくない。

 当初のリサにとって、アズサはそういう手合いだったからだ。

 

 このGBNが全盛の時代において、ガンダムを知らないというのは生きる世界が違う人間だといってもいい。

 なにが全盛だろうと、自分にはもう関係のないことだけどな、と、リサは溜息をつく。

 将来はプロになれると周りから褒められ続けていた、バスケットボールプレイヤーとしての夢は事故によって絶たれたし、GBNにログインしても感覚の同期に苦しむことになる。

 

 それなら、ただ病室で変なアニメを爆音で垂れ流す、様子のおかしな女だと思われて終わってくれた方がよかった。

 だが、アズサはそうしてくれなかった。

 車椅子に乗って、リサが横たわっているベッドまでやってくると、楚々とした笑顔で「機動戦士ガンダム サンダーボルト」を見始めたのだ。

 

「これはどういうモビルスーツなんですか?」

「これがガンダムって機体なんですね」

「格好いいです!」

 

 キラキラした笑顔でガンダムを見ているアズサのことが、リサには理解できなかった。

 いや、理解したくなかったのだ。

 それでも、目を輝かせて、画面を食い入るように見つめているアズサから、どういうわけかリサは目を離せなかったのだ。

 

 ストーリーも理解できないで、ただモビルスーツ同士の殺陣を純粋に楽しんでいるアズサの満足げな顔は、まるで初めてアニメに触れた子供みたいだった。

 アズサは善悪だとかイデオロギーだとか、そういうものを抜きにした目の前の映像美だけに、クリエイターが込めた魂の輝きだけに注力して見ているともいえる。

 だから、少しは寂しさが紛れたのかもしれない。

 

 リサは、それを気の迷いだと片付けるつもりだった。

 だが、爆音で「機動戦士ガンダム サンダーボルト」を上映すると毎日車椅子に乗って自分のベッドまで来てくれる、まるで人に慣れた猫のようなアズサに、いつしか絆されていたのかもしれない。

 下半身不随になってから、病院までわざわざリサの見舞いに来てくれるような人間はいなかった。

 

 アズサのところにも、誰か見舞いの人間が訪れた様子はない。

 だから、そんな些細な共通項が──認めたくはないが、嬉しくて。

 気づけばいつの間にか、リサとアズサの間には、奇妙な信頼でもいうべきものが生まれていたのだ。

 

「あー、お前ってGBNやったことある?」

 

 それゆえだった。

 つい、リサがそんな他愛もないことを問いかけてしまったのは。

 アズサはきょとんと目を丸くして、小首を傾げる。

 

「じーびーえぬ?」

「やっぱ知らねーか」

「もう、私だって知らないことの一つや二つ、たくさんあるよ!」

「一つや二つなのかたくさんなのかどっちなんだよ……まあいいか、やったことねーなら、やってみるか?」

 

 思えば、それが間違いだった。

 だが、後悔が先に立つことはない。

 孤独を埋めるための救いを求めて差し伸べた手が、地獄へと二人を誘うものであったなどと、そのときのリサにも、アズサにも知る術はなかったのだから。

 

 ガンプラを作ったことのないアズサのために、自分がいくつかストックしていた完成品が入っている箱を開けて、リサは「好きなの持ってけよ」とぶっきらぼうに告げる。

 

「本当にもらっていいの? リサちゃん」

「いいって。一から作りたいってんなら否定はしねーけど、結構めんどくせーぞ、ガンプラって」

 

 下半身不随というハンデキャップを抱えながら全塗装というハードルを超えるには、ガンダムベースの制作ブースといったバリアフリーかつ塗装の環境が揃っている場所の世話になる必要がある。

 それはつまるところ、余計に出費が嵩むということだ。

 だったら出来はそこまでよくないかもしれないが、出来合いのガンプラで済ませた方が最初の投資におけるハードルは低くなる。そういう考えだった。

 

「むむむ……じゃあ、これにしようかな」

「それでいいのか? 他にも使いやすいのは色々あるけどよ」

「うん! この子が気に入ったから!」

 

 あたたかい記憶。

 まだ、痣も傷も知らなかった頃の思い出。

 そうしてアズサが選んだガンプラは、ルナゲイザーガンダムをベースにしたカスタムモデル、「コスモゲイザーガンダム」は彼女が願うように、GBNの宇宙を駆けて──

 

 

 

 

 

 

 そして今、アズサはたった一人でGBNの空を飛んでいた。

 その隣に、リサの姿はない。

 GBNを初めて、最初に二人きりで結成したフォース「アステリズム」は道を違えて解散してしまったからだ。

 

「今日こそ見つけ出さなきゃ、あのマスダイバーを……そして、リサちゃんを取り戻さなきゃ!」

 

 突如として自分たちの前に現れて、リサを連れ去っていったマスダイバーの男を見つけ出して、彼女を返してもらうために。

 憧れだった空を、宇宙を、今日もアズサとコスモゲイザーは飛び続ける。

 今の自分にはその資格があると、頑張って個人ランキング77位まで上り詰めたのだから、と、自分に暗示をかけるように呟きながら。




第一次有志連合戦編の前振りみたいな章です
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