「薄幸少女と世界を変える力」
ニノはガンプラバトルどころかガンプラに触れたことさえない、初心者も初心者だ。
だが、フェアディーと名乗った男曰く、自分に渡されたこの大きなガンプラ──サイコガンダムMk-Ⅱの出来は問題なく、そして腕前のハンデキャップについてもそれは同じだということらしい。
曰く、ブレイクデカールというチートツールはガンプラバトルが初心者のニノであっても、ある程度の上級者までなら簡単に蹂躙できるほどにガンプラを強化するものだからだ。
「でも動かしてみないと、わからないよね」
極論、ニノにとってガンプラバトルの勝敗そのものはどうでもいい。
ただ、フェアディーが提示してくれた対価である「成功者の、恵まれた人間の作り上げた仮想世界」を、GBNを壊すためのバグがばら撒ければ、それで構わないのだ。
ゴーグルを被って、ダイバーギアというらしい六角形のデバイスにサイコガンダムMk-Ⅱを乗せる。
【GPEX SYSTEM START UP──】
自分がやるべきことは、ただガンプラを動かしてブレイクデカールを発動させる、ただそれだけだ。
それだけで、今までのバイトよりも遥かに割りのいい給金が入ってくるのだから。
ニノは改めて目的を再確認して、小さく深呼吸をした。
ダイバールックのクリエイトも、自分のリアルでの顔と容姿をスキャンした最低限のものに、あとはアクセサリと服はおまかせ生成で選ばれた、口枷のようなマスクと紺を基調とした軍服だ。
ダイバーネームもリアルと変わらず、「ニノ」。
これで、自分がGBNを破壊する準備は整った。ニノは胸に暗い喜びの炎を灯して、仮想世界へとダイブしていった。
†
ニノの瞳に映るGBNの煌びやかな世界は、なにもかもが虚構に見えた。
ロビーに降り立ち、ニノはしばらくぼんやりとダイバーたちの行き来を眺めていたのだが、自分がここに「いる」という実感が持てなかったからだ。
ぐーぱーと手を結んで開いてを繰り返し、適当にロビーを散策していても、それは同じだった。
「これがアクティブユーザー2000万人の神ゲーなんだね」
理由はよくわからない。
だが、口をついて出てきた言葉は溜息とセットになっていた。
大人も子供も、こんな世界のなにに一体そこまで熱中するのだろう。ガンプラバトルとやらをやってみれば、少しはわかるのだろうか。
「エリア・ジャパンのヨコスカ基地までお願いします」
ニノは真っ直ぐにカウンターへ向かうと、受付のNPDに、フェアディーから言われた通りに話しかけた。
なんでも、そのヨコスカ基地とやらは世界に誇る大企業の拠点らしいが、詳しいことについて、ニノはなにもわからない。
ただ一つぼんやり覚えているのは、「君の敵には困らない場所だよ」とフェアディーが言っていたことだけだ。
『承知しました、では転送いたします』
NPDの言葉通り、一瞬視界が暗転したかと思えば、ニノは巨大な軍事基地の目の前に立っていた。
銃を構えた守衛が門を守っていたり、海には何隻もの空母が駐留していて、その甲板ではカラーリングや武装が統一されたガンプラが膠着姿勢をとっている。
基地内部でも忙しなくガンプラと人が行き来している様は、まるで現実の軍事基地を目の前にしているかのようだったが、その光景にもニノは、現実感を抱けなかった。
「……まあ、いいや」
自嘲するように、そう吐き捨てる。
遊びで──自分は楽しむためにGBNをプレイしているわけではない。
あくまでも金をもらってこの世界を滅ぼすためにバグを撒くことだけ、それ以外のことはなんだっていいしどうだっていいのだ。
「うん? そこのダイバー、所属と姓名を名乗ってもらおうか」
ニノの存在に気づいた守衛が、怪訝な顔でそう問いかけてくるが、全てはもう遅い。
メカニカルなマスクの中で小さくふっ、と笑う。
そして躊躇うことなくニノは教えられた通りに、サイコガンダムMk-Ⅱを呼び出してコックピットへと乗り込んだ。
「て、敵襲──」
「……」
それは、なんとなしにやったことだった。
自分に背を向けて逃げる守衛を、サイコガンダムMk-Ⅱの巨大な足で踏み潰しただけだ。
だが、その瞬間、ニノはぞくぞくと背筋に電流が走ったかのような震えと、どきどきと胸が高鳴るのを感じていた。
目の奥がぱちぱちと弾けて、輝く。
今、確かに自分は──暴力を振るった。
暴力を振るわれる側だった、常に弱者として理不尽を受け入れてきた自分が、他人に理不尽を強いたのだ。
「あ、あは……あはは……あははははは!!!!」
こんなにも「力」とはキラキラしているのか。
こんなにも「力」を振るうのは楽しいのか。
フェアディーも人が悪い、とニノは狂ったようにコックピットの中で哄笑をあげる。
他者を踏み躙るのがこんなに楽しいことだと早く教えてくれていたなら、もっと自分は早くこの稼業に手を染めていたのに。
それが仮想とはいえ、虚構だとはいえ、この世界に自分のような弱者が、強者に──恵まれた人間に、一つの爪痕を残すことができたのだ。
こんなに、気持ちいいことはない。
「キラキラしてる、あはははは!!!!」
ニノはそのドス黒い輝きに魅入られ、ぞくぞくと震える痩せ細った体をかき抱く。
同時に、それはニノの興味を引いた。
ただガンプラに乗っただけでこれだけの力が得られるのなら、ブレイクデカールとやらを使えば、自分はどれだけ気持ちよくなれるのだろう。キラキラを見られるのだろう。
『いたぞ、サイコガンダムMk-Ⅱだ!』
『機体コード照合……間違いない、あれは我が社の!』
『ヒュウガで駐機している連中にもスクランブルをかけろ! 提督たちがいない今、ヨコスカを守れるのは我々しかいないのだ!』
なにかを喚き立てながら自分に迫ってくる敵も、ニノは全く怖くなかった。
今までなら、大企業の看板に泥を塗って、地の果てまで追いかけ回されることが金銭を得る代償だと聞いていたなら、恐れて断っていたことだろう。
だが、今は違う。躊躇うことなく、ニノはコンソールに細い指をやって、ブレイクブーストを発動する。
「あれはGHCダガーっていうんだね……あはははは……あはっ、あはは、ひひっ……踏み潰してあげるよ!!!!」
スクランブルがかかったことで、ストライカーパックを装備せずに出撃したGHCダガーの群れが、ニノのサイコガンダムMk-Ⅱへとビームカービンを撃ち放つ。
だが、ブレイクブーストによって強化されたIフィールドの誇る鉄壁の守りが、それを通さない。
ブレイクデカールは、使用者の想像力次第で無限の力を発揮する──フェアディーの言葉を脳裏に浮かべたニノが選んだ「答え」は。
『な、なんだ!? サイコガンダムMk-Ⅱが巨大化して──ぐわああああ!』
「あっ、あはっ、くひっ、うひひっ! 潰れちゃえ、潰れちゃえ、潰れちゃえ!」
『ヒラターっ! ええい、怯むな! 本隊の到着まで、せめて時間を──』
「あっひひ、ははは、くひひひ! あははひははひははは!!!! キラキラ! の、脳の、奥が、お、奥が、あっつい!!!!」
『ぐ、うわあああああっ!!!!』
それは、サイコガンダムMk-Ⅱを「化物」として自分が思い描く姿に、幼い頃、テレビのCMかなにかで見た記憶のある「街を踏み潰す巨大な怪獣」として投影し、巨大化させることだった。
もはや戦艦クラスにまで巨大化したサイコガンダムMk-Ⅱの足元に集っていたGHCダガー部隊は、生きながらにして踏み潰されるという悪夢に遭う。
メリメリと機体が軋む音が、少しずつ、ゆっくりと潰れていく機体が、バチバチとニノの脳裏にスパークを発生させて、キラキラを見せるのだ。
「あ、あひひひひっ! うひひひひっ! 私、怪獣になってる! 怪獣の心臓が本当の私なんだ!」
今の自分は、怪物を、あるいは怪獣に血肉を通わせて操るために動く心臓だ。
人じゃなくなったような気分が、アリのように群れる恵まれた人間をただ無造作に踏み潰していく愉悦がニノの心をドス黒く塗り上げ、暗澹とした輝きで満たしていく。
こんなにGBNが楽しいなんて思わなかった。しかも、自分がこうして適当に暴れるだけでGBNそのものも崩壊へと導かれるのだから、一石二鳥という他にない。
空が割れ、大地が唸る。
ブレイクブーストによって生み出されたバグはヨコスカ基地近郊をも侵食し、文字通り割れた空からはバグの雷と暴風雨が降り注ぐ。
それはヨコスカ基地周辺の海に浮かんでいた戦闘空母「ヒュウガ」級と補給母艦「アスカ」級を荒波で飲み込み、揺さぶり、駐機していたGHCダガーを振り落としていく。
『今は一機でも多く出せる機体を出せ! クソッ……提督だけでなく、ナナデラ課長もナイトウ隊長もいないときに、なんでこんな!』
「うひ、うひひひひっ、あはははひははは!!!! 楽しいから!!!! 楽しいからだよ!!!!」
試しに操縦桿についているトリガーを雑に引き絞れば、極大のビームがサイコガンダムMk-Ⅱの両指から放たれて、ヨコスカ基地のハンガーを、駐留している空母を飲み込み、破断する。
はたから見ればそれは、一方的な虐殺だった。
無論、「GHC」側も黙ってやられているわけではない。暴れ回るニノに潰される前に発艦、発進した部隊は実弾をメインにして巨大化したサイコガンダムMk-Ⅱへと果敢に攻撃を仕掛けていたが、傷を受けたその瞬間に、傷痕が再生していくのだからどうしようもないのだ。
『離水して艦砲射撃を試みる! 残った艦とMSは我に続け! ……まだ基地に残っている「アレ」の使用も許可する!』
荒海を乗り切った「ヒュウガ」の艦長を務めている若い青年──スノハラが、覚悟をその目に宿して怪物を見据える。
使えるものは全て使わなければ、この化物を止めることはできない。
最悪、「大戦争」イベントや一部フリーバトルディメンション以外では使用が原則として禁止されている波動砲を使ってでも倒さなければならない。それがヨコスカ基地を今預かっている自分の役目なのだから。
『主砲戦用意!』
『撃ちーかたー、始め!』
スノハラの号令に続いた、3隻のヒュウガ級とアスカ級の混成艦隊が離水し、その主砲を、ショックカノンを同艦に匹敵するほど巨大化したサイコガンダムMk-Ⅱへと向けて撃ち放つ。
秒間数発という絶え間ない速度で撃ち放たれる陽電子電子ビームであれば、いくらブレイクデカールで強化されたIフィールドであろうとひとたまりもあるまい、という公算あってのことだ。
事実、3隻の放ったショックカノンはIフィールドを貫通し、すぐには再生しないほどの傷をサイコガンダムMk-Ⅱへと与えていた。
──だが。
「あっひひひははははは!!!! ガンプラってこんなのもあるんだね!!!!」
『しまった、全艦撃ち方やめ! 波動防壁展開、反転180度、全艦離脱──』
「もう止まらないよぉ!!!! ままならないね!!!!」
ニノの狂った哄笑と共にサイコガンダムMk-Ⅱの背中から射出された物体こと、リフレクタービットが花開く。
ヒュウガ級とアスカ級に搭載されているショックカノンは、確かに強力だが、ゲーム上の判定としては「ビーム」属性に当たる。
それはつまるところ、リフレクタービットの反射対象だということだ。
絶え間なく撃ち放たれたビームは乱反射して、波動防壁の展開が遅れたアスカ級を穴だらけにして爆沈させた。
残されたのは旗艦であるスノハラのヒュウガと、その同型艦である「イセ」だけだ。
せめて、アスカ級が残っていれば──スノハラは己の未熟さに拳を握りしめる。
『スノハラくん、君はよくやった』
『しかし、マルヤマ艦長!』
急遽としてイセから飛んできた通信に、スノハラは嫌な予感を覚える。
波動防壁の展開が間に合っていたヒュウガとは違って、イセもまた轟沈を免れていただけで、その推力は低下していた。
浮力を維持するのが精一杯で、それもあと何分……いや、何秒もつかわからない。
『これより「イセ」は「ヒュウガ」撤退の支援をする。スノハラくん、君を失えば今のヨコスカは終わりだ。生きている限り負けではない……補助動力を全て波動防壁に回せ! このまま本艦はサイコガンダムMk-Ⅱに突撃、自沈による撃破を試み──』
「キラキラ……パチパチするぅ……あはひはひははふはひひひひひ!!!!」
『な、なんだ!?』
「折れちゃえ」
更に巨大化させたサイコガンダムMk-Ⅱの両腕でニノは特攻を仕掛けてきたイセを鷲掴みにすると、その艦体を真っ二つにへし折ってみせた。
そして、残されたパーツをぐしゃり、とマニピュレーターで握り潰す。
「ぁ──ッ」
その瞬間、ニノは絶頂にも似た感覚を覚えていた。
体がぞくぞくと震え、びくりと電流が走ったように頭がのけ反る。
瞳が裏返ったかのようだった。キラキラが、バチバチが、全身の血管に針を突き立てたように暴れ回っていた。
金持ちが、恵まれた人間が丹精込めて作り上げたものを気の向くままに破壊する。
そんな大それたことが、世界を変える力が今の自分にはあるのだ。
なんと楽しいのだろう、なんと嬉しいのだろう。ずっと心の奥で燻り続けていた憎悪を解き放つことは、こんなにも気持ちいい。
『マルヤマ艦長の犠牲を無駄にはするな! 核攻撃隊、ミサイル発射!』
『了解!』
ニノがぞくぞくと絶頂に打ち震えていた最中、核攻撃の準備を終えた特殊部隊仕様──黒く染め上げられたGHCダークダガーとでも呼ぶべき機体が、ラジエーターシールドを構えて、背部のマルチランチャーパックから核ミサイルを撃ち放った。
もちろんこんなものを使えばヨコスカ基地もただでは済まない。
あのサイコガンダムMk-Ⅱに勝利したとしても、核爆発による余波での基地壊滅を覚悟しての、苦渋の決断だった。
──しかし。
刹那、天から飛来した「なにか」が核ミサイルの弾頭部分だけを斬り飛ばし、沈黙させる。
サイコガンダムMk-Ⅱの、ニノのやったことではない。
スノハラは呆然としながらもレーダーに目を遣って、舞い降りた剣の正体を確認する。
『電探!』
『これは……コードFOE! な、なぜ彼がここに……!?』
コードFOE。
それは「GHC」における符牒の一つであり、普段はハードコアディメンション・ヴァルガの頂点捕食者として君臨している二桁ランカーこと、個人ランキング39位の「キョウスケ」を指す言葉だった。
突如として天から現れて核ミサイルを無力化してみせた、その左右非対称ながらも白と青の清廉なカラーリングでまとめられたガンプラ──ダブルオーガンダムをベースにした「ガンダムディバインアストレアⅢ」は、ヒュウガの艦橋前に佇んで、通信を入れる。
『……提督からの伝言を預かっている、スノハラ艦長。「よくやった」。以上だ』
『……っ……!』
『ここから先は僕の戦いだ』
ディバインアストレアⅢは左右非対称な翼を展開して飛翔すると、瞬く間にサイコガンダムMk-Ⅱへと肉薄した。
そして、片手に保持している複合兵装「GNフェイダトンファー」でその右腕をまるで熱したナイフでバターを切るように落としてみせる。
スノハラは驚愕した。マスダイバーにいいように使われてはいるが、あのサイコガンダムMk-Ⅱは元々「GHC」のジオラマ班が丹精を込めて作ったものだ。
──その完成度を易々と上回って君臨するのが、「二桁の魔物」たる所以か。
思わず口を半開きにして呆然としていたのはスノハラだけではない。
怪物の心臓として暴れ回るニノもまた、信じられないといった風に、斬り落とされて海に沈んだサイコガンダムMk-Ⅱの右腕を愕然と眺めていた。
ブレイクデカールに再生能力があるとはいえ、これだけの深手を負えば、再生には時間がかかる。
『巨大化している分、ヒットボックスも大きければ再生にも時間がかかる……ブレイクデカールは全能の力じゃない』
「ひっ……!」
『しかし、怪しい情報だが、信じる価値はあったということか……』
キョウスケは右腕の再生を食い止めるように、両肩のGNドライヴと一体化しているGNロングレンジキャノンⅡを照射しつつ、ぼそりと呟く。
絶え間のない超威力の攻撃は、ニノを狂喜から覚まさせるのには十分すぎた。
反撃しようにも、それを食い止める一手を先んじて打たれて、まるで家畜を屠殺するかのようにサイコガンダムMk-ⅡはディバインアストレアⅢとキョウスケの手によって解体されていく。
「い、嫌……嫌! 私は!」
『それ以上、ブレイクデカールにのめり込まない方がいい。君には……あのとき、ミィナが迷惑をかけたね』
「……っ!?」
ニノは突然の言葉に、声を詰まらせた。
この前、ミィナというアイドルからひどい嫌がらせを受けたことを知っている人間は、自分だけではない。
それを知っているということは、今目の前でサイコガンダムMk-Ⅱを淡々と解体している「コードFOE」は、あの「ヤマナミ」ということだ。
『……今すぐ運営に自首するんだ、悪いようにはしない』
「嘘だ……嘘だ! いつも悪いようにはしないとか、考えておくとか言って、私みたいな人間を見て見ないフリしてきたのが、恵まれた側の人間だ!」
『……』
「ブレイクデカールは私を救ってくれた! 私にキラキラを見せてくれた! その気持ちは……恵まれた人間に、わかるものなんかじゃない!!!!」
ニノは腹部の拡散メガ粒子砲を撃ち放とうとしたが、先んじて撃ち放たれたGNDビームライフルⅡの一撃で押し留められる。
これ以上、戦うことは無意味だ。
そう言っているかのように、ヤマナミは──キョウスケは、的確に武装のある箇所に致命傷を与え続けていた。
このままでは、サイコガンダムMk-Ⅱが破壊されてしまう。
せっかく手に入れたキラキラが、奪われてしまう。
また自分は恵まれた人間に踏み躙られる側に逆戻りしてしまう──そんな焦りに、ニノがはらりと涙をこぼし、とうとう頭部へとGNフェイダトンファーから展開されたラスターエッジが振り下ろされようとした、その瞬間。
『ん、其方はもう下がっていい』
空の裂け目から現れた、ガンダムルブリスアノクタのカスタムモデル──「鬼面武者アノクタ」が、大太刀でディバインアストレアⅢの一撃を受け止める。
「あっ、ああ……ああっ……!」
ニノは、慌ててバトルアウトとログアウトを入力して、ヨコスカ基地を去っていった。
それを確認し、鬼面武者アノクタもまた鍔迫り合いを強引に振り解き、ヨコスカ基地を後にする。
キョウスケからすれば、あのルブリスアノクタも強引に追いかけようと思えば、追いかけられる相手だ。だが──
『……恵まれた人間、か』
ニノの言葉を、キョウスケはぽつりと繰り返す。
言ってしまえばそれはただのルサンチマンに過ぎないのだろう。
だが、そこにちゃんとした答えを出してやるのが、大人としての責任というものだ。
ブレイクデカールによる破壊と歪んだガンプラバトルへの認識をなんとか解いて、あの少女に、以前かけた迷惑に対する償いをしてやりたい。
それが、キョウスケの本心だ。
だからこそ、戦うことはできても、そこに答えを出すことができなかった自らを、キョウスケは、深く恥じていた。
『コードFOE……いえ、キョウスケ氏。なぜ、我々の援護に……?』
スノハラが、ぎり、と奥歯を噛み締めるキョウスケに対して恐る恐る問いかける。
『……ああ、ヴァルガで締め上げたSDCSのトルネードガンダムを使っているマスダイバーから取引を持ちかけられてね』
『と、いうと?』
『自分を見逃す代わりに、「フェアディー」の情報を流してやる……と、いうことだった』
『はあ……しかし、ありがとうございます』
『提督は既に耳に入れているだろうが、気をつけた方がいい。この問題は──予想以上に複雑で根深いみたいだからね』
それだけ短く告げて、キョウスケもまた、ゲートを潜ってセントラル・エリアへと帰還していく。
ブレイクデカールは間違いなく、世界を捻じ曲げ、変えかねない力だと、スノハラはその身をもって実感していた。
蔓延させている人間の思想を推し量ることはできないが、ただ一つ言えることがあるとするなら、それは。
──まるで、麻薬のようだった。
GBNを蝕む麻薬(ヤク)