ゆるふわお姉さんのGBN探訪録   作:守次 奏

6 / 33
「昼飯時」と喫茶「ありあんろっど」

「この辺りはテストに出すかもしれないので覚えておくように」

 

 そんなお決まりの言葉を残して、教授が講義室を去っていく。

 

「くぁ……」

 

 ユミカは教授がいなくなったタイミングを見計らって、大きく背筋を伸ばして欠伸をした。

 別に授業が嫌いだとか難しくてついていけないだとか、そういうことはない。

 アヤネの協力もあるおかげだが、基本的に赤点を取ったこともなく、むしろ上澄み側にいるのがユミカという学生だった。

 

「あー……肩凝るなぁ……」

「ユミカ、今日はちゃんと大学来たんだ。えらいじゃん」

「一応ね、約束したし」

 

 後ろの席に座っていたアヤネがやってきて、ぽん、とユミカの肩を叩く。

 大学に来ただけでえらい、と言われる辺り、自分の出席率は相当壊滅的なんだろうなあ、とぼんやりとユミカは考える。

 昨日の夜は、思えばどうかしていた。

 

 だが、アヤネは事実として友達が多い。

 社交的で明るい性格をしているから当然といえば当然で、ユミカと付き合ってくれているのは昔からの仲だから、ぐらいの理由でしかないのだろう。

 そう考えると、胸の内側がざわつくのを感じるが、じゃあアヤネの広い交友関係の輪に自分も加わろう、と思えないのがユミカだった。

 

「アヤネ、このあと予定ある?」

「んー? 特にないよ?」

「そっか、じゃあどっか一緒に出かけない?」

「いいけど、その格好で行くの?」

 

 アヤネは、じとっとした目で問いかける。

 今のユミカは筆文字で「慎み深い」と書かれたTシャツにベージュ色のハーフパンツというラフもラフ、女子力をゴミ箱にダンクシュートしたような格好をしている。

 どこに行くにしたってもう少しマシな格好があるだろう、と、誰もがツッコむであろう様相だ。

 

「流石に着替えるけど」

「よかったー、このままの格好で行くとか言ったらお断りだったよ」

「アヤネはおしゃれさんだね」

「ユミカが服に頓着しなさすぎなだけでしょ」

 

 そう言いながらも、メイクとコーデをバッチリ決めているアヤネは、自分を可愛く見せることに余念がない。

 だから、ラブレターをもらった回数も数えきれないほどあるとか、そんな話だ。

 一応、ユミカも磨けば光るどころかたちまち周囲の目を釘付けにするほどの美人ではあるのだが、メイクもファッションも適当なので、未だに誰かから告白されたことがない。

 

 だからなんだ、という話でもあるのだが。

 誰かと深い仲になる、というのはちょうどよくない。

 束縛したりされたりだとか、そういうことを考えると憧れよりも先に面倒くささの方が先に来てしまうからだ。

 

「ま、それもそっか。とにかく行こうよ。この前暇でストリートビュー眺めてたらいい感じの喫茶店見つけたから」

「なにその微妙に嬉しいのか嬉しくないのかよくわかんないお誘い……」

「じゃあ……こほん。遊びに行くよ、私のアヤネ」

「急に耳元で囁くな!」

 

 渾身のイケボを作ってのお誘いだったが、結果は顔を真っ赤にして怒鳴り返されるだけに終わってしまった。

 急に耳元で怒鳴らないでほしいし、さっきは微妙とか言ってたのに、乙女心というのはよくわからない。

 ユミカはキーンとする耳を押さえながら、顔を真っ赤にしてポニーテールを逆立ている親友の情緒不安定さに少し心配を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

「で、ここがそのお店ってわけ」

「メイド喫茶じゃん」

 

 フェミニンなワンピースに着替えると同時に、都心から少し離れた商店街までやってきたユミカと、そしてついてきたアヤネは、その一角に佇んでいる喫茶「ありあんろっど」なる店を訪れていた。

 店内の装いは鉄血のオルフェンズに登場するギャラルホルン本部、ヴィーンゴールヴを思わせる本格的なものとなっており、確かに雰囲気は抜群のものだ。

 だが、アヤネが指摘した通り、ここで働いていると思しき従業員は皆メイド服を着ている。

 

 しかも、ケモ耳と尻尾つきでだ。

 

「いやいや、ここはちゃんとした純喫茶だよ」

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「メイド喫茶じゃん!」

 

 ユミカはやんわりとその疑問を否定したが、少し無表情気味な印象を受ける店員からの接客を受けて、アヤネは再びポニーテールを逆立てた。

 別にメイド喫茶に偏見があるわけではない。

 だが、せっかくロマンチックなお誘いを受けていい雰囲気の喫茶店がある……と言われれば、期待をしてしまうのが乙女心なのだ。

 

「ご主人様の仰る通り、当店はメイド喫茶ではございません」

「そ、そうなの? その格好で?」

「はい。この格好はメイド長……この『ありあんろっど』を実質的に経営していらっしゃるお方の趣味です」

「……す、すごい趣味の人もいるんだね……」

 

 クールな店員から説明を受けたアヤネは、理解を通り越したその言葉に目を丸くすることしかできなかった。

 ケモ耳メイド服が趣味で、しかもメイド長ということは、ほとんど100パーセントの確率で同性だ。

 コスプレ趣味もアヤネは否定しないが、そういうコスプレで純喫茶をやっていこうというメイド長の気概には、ただただ圧倒されるばかりだった。

 

「それではお席までご案内させていただきます。どうかごゆるりと」

 

 ぺこり、と腰を折ってクールな店員は頭を下げてから、ユミカたちを窓際の席にエスコートする。

 風光明媚、とは言い難いが、今どき珍しい、活気あふれる商店街の風景を見ながら嗜むコーヒーもまた乙なものだ。

 ユミカはどのブレンドを頼もうかと、メニュー表を開いて一覧をじっと眺める。

 

「うちはこのケーキセットにしよっかな。ユミカってコーヒーにこだわりあったの?」

「んー……自分で淹れるのはめんどくさいけど、いいお店に来たらいいコーヒーが飲みたいから」

「ズボラ極まってるね……」

 

 とはいえ、喫茶店の良し悪しを一発で見抜く方法はある。

 それは、オリジナルブレンドを頼むことだ。

 コーヒーに精通していなければ、まずオリジナルのブレンドは作れないし、作れたとしてもその風味が微妙ならその店はお察し、逆ならばスタンディングオベーションといったところだった。

 

「じゃあ、私もオリジナルブレンドとケーキのセットを──」

 

 それは、ユミカが先ほどの店員を呼び止めようとした矢先の出来事だった。

 

「マトイ・マリモとかいうやつはどこだコラァ!!!!」

 

 乱暴にドアを開け放って、身長が2メートル近くある大男が店内に乱入してくる。

 おまけに肩幅も広く筋骨隆々としていて、プロレスラーのような体型だ。

 その手にはジュラルミンのアタッシュケースが握られており、強盗の類ではなさそうにユミカには見えたが、いずれにしても迷惑極まりなかった。

 

「ご主人様、困ります。今メイド長は買い出しで不在でして……」

「うるせえ! ここに来りゃあ、マトイ・マリモとかいうやつとバトルできんだろ!? だったらさっさと呼び戻してきやがれ! それが客に対する礼儀ってもんだろうが! あぁん?」

 

 どうやら男はマトイ・マリモ──この店の「メイド長」にいたく執着しているらしい。

 その事情はユミカにはわからないが、せっかく最高の雰囲気で最高のコーヒーを楽しめるかもしれないと期待していた心に、冷や水をぶっかけられたのは確かだ。

 そして、「バトル」という言葉が指すものはおそらくただ一つ。

 

 ──ガンプラバトルだ。

 

「誰だか知らないけど、あなたじゃマリモさん? には勝てないと思う」

 

 ユミカは立ち上がって、毅然と言い放った。

 

「なんだと? てめぇ、このGPD大会8連覇、GBNではSランクのボウダ・ゴウキ様を知らねぇとはさてはモグリだな?」

「モグリでいいよ。私にとってはあなたが誰でもいいし」

「んだとテメェ!」

「怒った? じゃあスマートな解決方法を提示してあげるけど、聞く?」

「うるせえ! 気が変わった、テメェから先に潰してやる! おい店員、ここにゃバトルシミュレータがあんだろ、さっさと準備しろ!」

 

 聞く手間が省けたが、この横柄な男については一度わからせてやらなければなるまい。

 ユミカは二度切りしたゲートを見るような目でボウダと名乗った男を一瞥してから、店内を見遣る。

 すると、確かに結構前に世間を賑わせていたGPDこと、「ガンプラデュエル」に使われていたシミュレータが、店内の一角には鎮座していた。

 

「カスハラは聞く必要ないと思うけど、私からもお願いしていいかな、クールでキュートな店員さん。この男はちょっとわからせないとダメみたいだから」

「……かしこまりました。一応説明させていただくと、当店のシミュレータは独自の改造を加えており、ガンプラへのダメージがフィードバックされないようになっています。それでもよろしいでしょうか?」

「構わないよ」

「誰がカスハラだゴラァ! お客様の意見は神様だろうが!」

 

 怒鳴り立てるボウダを無視して、店員の少女はシミュレータを起動する。

 

「ちょっと、喧嘩売るのはいいけどユミカ、ガンプラ持ってきてるの!?」

「うん。一応このあとガンダムベース行くつもりだったから」

「変なとこで用意周到……」

「じゃ、行ってくるね。アヤネ」

「もー、変な人には関わらない方がいいのに……」

 

 呆れたようなアヤネに見送られて、ユミカはガンプラバトルシミュレータの2P側に立つ。

 1P側に立ったボウダは、腕を組んで鼻息荒くアタッシュケースの中にしまい込んでいたガンプラを見下ろしていた。

 デカい。アヤネが遠目に見てもそう思うほどに巨大スケールのガンプラが、スキャニング台に直立している。

 

「おい女ぁ、謝っておくなら今のうちだぜ」

「いいよ、ただし私が負けたらだけど」

「はっ、随分な自信だなァ……じゃあテメェが勝ったらどうするってんだ? お?」

「この店から出て行って。うっさくて邪魔だから」

「面白ェ……俺のファイヤーデストロイガンダムで徹底的に叩き潰して、全裸で土下座させてやんよォ!」

 

 ボウダはどうやら、最悪の特殊性癖を持っているようだった。

 それはともかく、相手は最低限HGCEデストロイガンダムをファイヤーパターンで全塗装するだけの腕前は持ち合わせている。

 デストロイぐらい大きいキットとなると塗るのもクリアランスを確保するのも大変だが、ギミックはその分仕込みやすい。

 

 ともかく。「昼飯時」の腹ごなしにはちょうどいいだろう。

 操縦桿を握りしめて、ユミカはバトルの開始を待つ。

 3カウントと共に【Battle START!】の表示が出現したのを確認し、ユミカとドラグストライクは、バトルフィールドである砂漠に降り立った。

 

『なんだか知らねェが、そんな貧相なストライクの改造機が、この俺のファイヤーデストロイに勝てると思うんじゃあねェぞ、小娘!』

「設地圧はおっけー、新装備も……多分やれるかな」

 

 元々はガンダムベースで慣らし運転をするつもりだった新装備、「ドラグドライヴ」と「リュミエールブースター」の調子を確かめるように操縦桿を動かしつつ、ユミカはファイヤーデストロイにビーム・ソード・ピストルの一撃を放つ。

 

『効かねェなあ〜!』

 

 だが、案の定とでもいうべきか、ボウダはファイヤーデストロイをMA形態に変形させ、陽電子リフレクターを展開する。

 全身を包むように展開された光の檻とでもいうべき輝きは、ビームの一撃を無情にも弾き飛ばす。

 牽制程度の一撃ではあったが、完成度は高そうだ──ユミカは少し、眉根にシワを寄せた。

 

『へっ! このファイヤーデストロイはマトイ・マリモを潰すために徹底的な改造を施してんだよ! 実弾武装に対する陽電子リフレクター! そしてナノラミネート装甲を上から潰すだけの圧倒的な砲戦火力! それがそんなちっぽけなガンプラごときにどうにかできるもんかよォ!』

 

 ボウダは己が絶大な信頼を寄せているファイヤーデストロイの全身に備え付けられている武装を、惜しむことなくぶっ放した。

 金属パーツで一つ一つ補強された銃口から放たれるビームの威力は凄まじく、小さなものでも地面の砂をガラスに変えてしまうほどだ。

 ユミカは小さく舌打ちをして、バックパックにX字状に配置されたヴォアチュール・リュミエールを展開し、ギリギリを攻めたマニューバでビームの雨を掻い潜っていく。

 

『ちょろちょろ逃げ回るしか脳がないってか!? そうだよなぁ! 見たとこテメェのストライクに装備されている中で俺に有効そうなのは腰のアーマーシュナイダーぐらいだ! それも対ビームコーティングを施していればの話だけどな! だから接近戦を挑もうってんだろうが、その前に焼き殺してやる!』

「……本当にうるさいなぁ」

『は?』

「女の子に嫌われる顔してるよ、あなた」

『んだとォ!?』

 

 あまり品のない煽りだが、効果は絶大だ。

 ユミカはにっ、と口元に微かな笑みを浮かべる。

 まんまとユミカの挑発に乗った男は、胸部のスーパースキュラを最大出力で撃ち放つ。

 

 それに呑まれたドラグストライクはあえなく蒸発してバトルは決着を迎える──それが、ボウダの思い描いたあらすじであり、1秒前までアヤネもその未来を疑って思わず立ち上がってしまうほどの光景だった。

 

 ──だが。

 

「リュミエール、ジェットスケート」

 

 ヴォアチュール・リュミエールを踵のハンターエッジに纏わせたユミカは、ビームの上を滑るという常識はずれの方法で最悪の未来を回避していた。

 ドラグドライヴ……竜の心臓と名づけた追加動力が生み出す圧倒的な出力と、リュミエールブースターの爆発的な推力によってなせる技だ。

 そして、そのままユミカはビームの上を滑って、ファイヤーデストロイに肉薄する。

 

『は……はッ! 一発芸を披露したところでアーマーシュナイダーの刀身の短さじゃこの陽電子リフレクターを破ることはできねえ! どの道お前は詰んでんだよ!』

「うん。だからアーマーシュナイダーは使わない」

『は?』

「だから、こうする」

 

 ユミカはリュミエールブースターに配置されているヴォアチュール・リュミエール発生器のうち、上の二つに手をかけて分離させると、それを大上段に振りかぶって、ファイヤーデストロイの陽電子リフレクターに叩きつけた。

 

『な、なんだぁ!? 陽電子リフレクターが、へし斬られて……!?』

「リュミエール・ザンバー。スラスターを武器としても使えないかなってちょっとした発想の転換だよ」

『う、嘘だ、このボウダ・ゴウキ様がぁぁぁぁ!!!!』

 

 そして、そのまま縦に三等分されたファイヤーデストロイは爆発四散する。

 

【Battle Ended!】

【Winner:Player 2!】

 

 システムのダイアログが告げたのは、ユミカの完全勝利だった。

 

 

 

 

 

 

「……と、そんなことがありました。メイド長」

 

 それから2時間後、「ありあんろっど」に帰ってきた妖艶な雰囲気を纏う、極めて豊満なバストを持つ女性──マトイ・マリモは、クールな店員こと、ユキノにそう報告を受けていた。

 

「そうでしたの……そのご主人様には感謝しないといけませんわね」

「私が戦ってもよかったのですが」

「そうですわね、本当ならそうすべきかもしれないけれど……貴女は間違っていませんわ、ユキノちゃん」

「そうでしょうか」

「ええ。ちなみにそのご主人様はなんと?」

「ケーキとコーヒーが最高に美味しかった、と」

「あらあら、最高の褒め言葉ですわね。いつかまた、いらっしゃってくれたときは……私が存分にご奉仕させていただかないと、ですわね」

 

 そのガンプラ──「ドラグストライク」についても聞きたいところですから、とマリモは付け加えて、穏やかな笑みを浮かべる。

 ユキノはそれだけ告げて業務に戻っていった。

 だからこそ、マリモがその笑みの奥に隠していた獰猛な闘志と、懐古のようなものが入り混じった感情を、感じ取ることができなかったのだ。




今回は「真莉藻」様の「ガンダムビルドダイバーズ 〜お狐メイド長のGBNライフ〜」より喫茶「ありあんろっど」とマトイ・マリモちゃん、そしてユキノちゃんをお借りしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。