ゆるふわお姉さんのGBN探訪録   作:守次 奏

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「昼飯時」と貴族主義者

「やっぱりさ、F91とクロスボーンガンダムは不朽の名作だよね、アヤネ」

「それはそうだけど半裸でいるのやめない?」

「服着るのがめんどくさいから……」

「Tシャツぐらい着なよ! 女子力以前に人間としての尊厳をゴミ箱に投げ捨てないで!」

 

 すっかり汚くなった部屋の片付けをしているうちに発見した「機動戦士クロスボーン・ガンダム」の漫画本をソファに下着姿で寝っ転がって読みながら、ユミカは部屋の片付けを手伝いに来てくれた──といいつつ丸投げしている──アヤネへと言った。

 いつもの通り女子力と人間の尊厳を投げ捨てたユミカの下着姿にアヤネは憤慨するが、怒ったところでどうにかなるなら、こいつのズボラはとっくに治っている。

 つまるところ、目のやり場に困るユミカの半裸を矯正するためには、仕方なく自分が世話を焼くしかないのだ。

 

「もー、とりあえずこれ、洗濯したやつのはずだから着て!」

「えー……」

「嫌そうにしない! はい、バンザイして!」

 

 アヤネは「真っ平ら」と筆文字で書かれたTシャツを無理やりユミカに着せて、頬を膨らませる。

 昔はこんなダメ女じゃなかったのに、いつからこうなってしまったのやら。

 と、思わずため息が漏れる。アヤネの気苦労は絶えなかった。

 

「貴族主義は、最初から間違っていたんだよ。ザビーネ……いい台詞だなあ」

「ユミカの堕落主義も最初から間違ってるんだけどね!」

「えー、いいじゃん。ちょうどよくちょうどよく。何事もちょうどいいのが一番なんだよ、アヤネ」

「もう部屋の掃除手伝わないからね」

「そんなぁ……アヤネに見捨てられたら私、生きていけないよ。アヤネしかいないんだよ、私には……」

 

 ダメ女全開の言葉を口にして、ユミカは潤んだ瞳でアヤネを上目遣いに見つめる。

 こういう、自分の顔の良さを自覚しているのか自覚していないのかわからないムーブがアヤネとしては本当に癪なのだが、それはそれとしてユミカはとてつもない美人だ。

 そんなユミカに「自分しかいない」などという、普通の人間だったら歯が浮くような台詞を囁かれると、アヤネはどうしても心に決めたことが揺らいでしまう。

 

「ぐ、ぐぬぬ……もー、今回だけだからね!」

「やったぁ。アヤネ、愛してるよ」

「耳元で囁かないでよ!」

 

 一転して妖艶な笑顔でアヤネに愛を囁くユミカに待っていたのは、照れ隠しとお仕置きを兼ねた頭上への空手チョップだった。

 

 

 

 

 

 

 GBNには、サービス内の動画配信コンテンツを利用して、G-Tuberという活動を行っている存在がいる。

 その目的や動画の趣旨は、概ねバズりたかったり、あるいはなにかを布教したかったりなどとにかく様々だが、今配信を行っている、左目に眼帯をした金髪赤目の少女──ダイバーネーム「アリナ」の目的は、貴族主義……というより推しのザビーネ・シャルを布教することだった。

 だからこそ、フレーバーとして「アリナ・シュヴァルツェ・ローゼンベルク」というフルネームを設定して、今日も配信活動に勤しんでいたのだが。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 今回の企画はあのレイドボスを私が颯爽と倒すって趣旨だったでしょ!? なんでゲストの貴方たちがレイドボスを仕留めちゃってるのよ!?」

 

 アリナが通信ウィンドウへと早口で捲し立てた理由は単純で、今回彼女が動画の企画として立案していたのは、「窮地に陥っているダイバーたちをアリナが救うことで、貴族主義の布教と貢献に繋げる」というものだったからだ。

 言い方こそ悪いが、やられ役……いわゆるサクラとして雇ったダイバーたちの乗機は皆、F91時代のクロスボーン・バンガードが運用していたガンプラで統一されていて、ガンダムタイプは一機もいない。

 そこで今回のレイドボスである「グレート・ジオング」に対してアリナの愛機たる、SDコマンドガンダムをベースにクロスボーンガンダムX2やフルクロスのパーツをミキシングした「ファルシュ・ノワール」がトドメの一撃を加える──そういう演出のはずだった。

 

 だが、実際はアリナが出る幕もなく、雇ったサクラのダイバーたちがグレート・ジオングを倒してしまったのだ。

 

「これは明確な契約違反よ! 前金は返してもらうわ!」

『おいおい、そんなに熱くなるなよ』

「なによ!」

『レイドボスを倒したのなんて事故みたいなもんだろ? そうカッカすんなよ』

 

 クロスボーン・バンガードのパイロットスーツに身を包み、ベルガ・ギロスを駆るダイバー、「キリー」はアリナに対してヘラヘラとした態度でそう宥めにかかる。

 だがそれは、火に油を注ぐのと同義だ。

 アリナとしてはせっかく動画の演出を考えて、少しでも登録者数を伸ばしたかったのに、それを「事故」の一言で片付けるのはあまりにも誠意がない。

 

「なにが事故よ! 貴方たち、最初からレイドボスを倒すつもりでかかってたじゃない!」

『あ、バレた? ごめんごめん。でもいいじゃないの、オレらはダイバーポイントが手に入ってハッピー、アリナちゃんは戦わないでダイバーポイントが手に入ってハッピーのウィンウィンの関係だよ』

「どこが……!」

『じゃあフリーバトルで取り返してみる? オレらは一向に構わないけど』

 

 キリーをはじめとしたサクラたちの数は、合わせて10人ほどだ。

 そのうちベルガ・ギロスが1機、ベルガ・ダラスが1機、残りはデナン・ゾンとデナン・ゲーが4機ずつといった構成になっている。

 冷静に考えれば、ここで喧嘩を買ったって、戦力比が10対1で勝てるはずはない。

 

 だが、今のアリナは冷静ではなかった。

 キルスティールで動画を潰されただけではなく、反省もしないキリーたちに怒り心頭だったのだ。

 だからこそ、申し込まれたフリーバトル申請を、アリナは受けてしまったのである。

 

「ギッタンギッタンにしてやるんだから! 覚悟なさい!」

 

 ファルシュ・ノワールのX字スラスターと右肩に装備したフルクロス──ハーフクロスを展開して、アリナはバトルフィールドである木星宙域を駆けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ユミカたちが木星宙域を訪れた理由は単純なもので、「せっかくクロスボーンガンダムを読んだんだから木星宙域を散歩してみたい」という提案によるものだ。

 アヤネとしても特に反対する理由はないし、ニィレヤもシオリもそれは同様で、レイドバトルも終わった頃合いだから、静かになっているだろう、という目論見もあった。

 だが、そんな呑気な予測とは裏腹に、今ユミカたちが目撃していたのは、あまりにも凄絶な光景だった。

 

『おいおい、ギッタンギッタンにしてやるんじゃなかったのかよ?』

『ぐ、ぐうぅぅぅ……っ!』

『登録者数も大したことなければ腕前も大したことないとかアリナちゃん、もうG-Tuberやめちまえよ』

 

 ゲラゲラと笑いながら、罵詈雑言を浴びせてSDガンダムをリンチしているクロスボーン・バンガードのモビルスーツたち。

 どう考えても穏やかではない。

 ユミカは事情こそわからなかったものの、目の前に広がる光景に、シンプルな嫌悪を抱いていた。

 

「あいつら……『スカーデッド』ね」

「す、すかー……?」

 

 リンチを目撃したアヤネの言葉に、ニィレヤが可愛らしくこてんと小首を傾げる。

 

「マナー最悪の煽りカスで有名な連中。初心者を助けるフリして実際は嫌な気持ちにさせて楽しんでるだけっていう、最悪なやつら」

「まあ……悪い子もいらっしゃるのですね」

「悪い子っていうか、シンプルにカスだね」

 

 信じられないといった調子で口をぽかんと開けたシオリに対して、ユミカは溜息混じりに答える。

 スカーデッド、というマナーの悪いフォースの存在はなんとなく、名前程度にユミカも知っていたが、まさかここまでカスの集まりだとは思っていなかった。

 今も動力部やコックピットを避けて、執拗にファルシュ・ノワールをいたぶっているガンプラたちをじとっとした目で見据え、ユミカは操縦桿をきつく握り締める。

 

「ユミカ、行くつもり?」

「止めるの、アヤネ?」

「相手は正式にフリーバトル申請して戦ってる連中だよ? このまま加勢してもいいけど、うちたちがPK扱いになっちゃう」

 

 それが、「スカーデッド」の厄介なところだった。

 相手を口車に乗せて、正式にフリーバトル申請を受諾させることで、リンチを合法化してしまうのだ。

 システムの穴をついたそのやり口には呆れる他になかったが、相手がルールを悪用するのなら、ユミカとしても考えがある。

 

「ん、いいこと思いついたかも」

「絶対ろくなことじゃないと思うけど、聞いていい?」

「あのリンチされてる女の子……アリナちゃんだっけ? にアライアンス申請を出そう」

 

 アライアンスが受諾されれば、フリーバトルにも援軍という形で介入できる。

 悪い笑顔でユミカは提案していたが、今回ばかりは断る理由もアヤネたちにはない。

 早速とばかりに、ユミカはアリナへと「ランチタイム」からのアライアンス申請を送った。

 

『な、なに……? アライアンス……?』

「承諾して。なんとかするから」

『わ、わかったけど、誰なの、貴女たち!?』

 

 有無を言わさぬ口調で提言してくるユミカに対して困惑を隠せない様子で、アリナはそう問いかける。

 

「ただ、お昼ご飯を一緒に食べるぐらいの集まり──私たちは『ランチタイム』だよ」

 

 口元に獰猛な笑みを浮かべたユミカが、アライアンス申請承諾と同時に先陣を切ってヴォアチュール・リュミエールを展開した。

 アリナはそのストライクベースのカスタムモデルこと、ドラグストライクと「ランチタイム」というフォース名で察しがついたのか、ぽむ、と拳で手のひらを叩く。

 ああ、そうだ。あの「ランチタイム」といえば。

 

『「突撃お前が昼ごはん」の「ランチタイム」ね!』

「やっぱうちら、その二つ名で定着してるんだ……」

「えっと、とりあえずやっちゃっていいんですよね? やっちゃって大丈夫な人たちなんですよね?」

「ええ、構いませんよ。ニィレヤちゃん、遠慮なく暴れるのです。後始末は、わたくしにお任せくださいまし」

「がるるるる……!」

 

 濃いキャラばかりだな、と、自身も大概であるのにかかわらず、アリナは素直にそう思った。

 そして、シオリの許可を得ると同時にプラグイン「真なる阿頼耶識」を起動したニィレヤが、ユミカに続いてブーストを全開にし、「ケモノガリ」を構えて敵陣に突撃していく。

 もうどうなっても知らないんだからね、と心の中で呟きつつ、アヤネもまた対艦ライフルショーティーを構えて、手負いのデナン・ゲーを撃ち抜いた。

 

『アライアンス……? 誰だよキミたち、ちょっとオレらのバトル邪魔しないでくれる?』

「がるるるる……! あなたは倒していいやつですから!」

『ハァ?』

 

 キリーのベルガ・ギロスに凄まじい反射速度で追い縋ったニィレヤは、超大型メイスの柄にチェーンソーを組み込んだ武器である「ケモノガリ」を大上段から振りかぶって叩きつけた。

 ガリガリと装甲が削れる音が響き、ベルガ・ギロスのショットランサーが少しずつ削がれていく。

 まともなパワーでぶつかり合っては勝てない、と、キリーが悟って距離を取った、刹那。

 

『な、なんだこいつ!?』

「二度は名乗らないよ、めんどくさいから」

『う、うわあああああ! オレのダイバーポイントがぁぁぁ!』

『イッキー!』

 

 少し目を話していた隙に、キリーの仲間であるイッキーが駆るベルガ・ダラスが、ユミカのドラグストライクの牙にかかって宇宙の塵と化す。

 既にアリナとの戦いで数を半分に減らしていたこともあって、「スカーデッド」の面々はリーダー格の一人が落ちたことで戦意を喪失していた。

 残ったデナン・ゲーとデナン・ゾンは、一斉にビーム・フラッグで白旗を上げ、サレンダーを宣言しようとするが。

 

「それでは、悪い子には『おしおき』させていただきます……ふふっ。このズィーマーク・ガリヲンの火力、ご覧くださいませ」

 

 シオリの愛機である、ドーベン・ウルフをベースに様々なオールレンジ攻撃手段とメガ粒子砲、ハイメガキャノンなどを増設したジムヘッドの機体──いわば連邦版ゲーマルクとでもいうべき、「ズィーマーク・ガリヲン」が放った銃火器の一斉射とファンネルによる包囲攻撃で、白旗を上げる前にデナン・ゾンとデナン・ゲーが焼き尽くされていく。

 

「うっわ、えげつない火力」

『なんてことをするんだ……オレたちはただバトルを楽しんでただけなのに! キミらに人の心はないのか!?』

「そこにないならないかも」

『鬼! 悪魔!』

「はいはい、じゃあね」

「がるるるるっ!」

 

 最後の最後まで反省した様子を見せなかったキリーを、ソードモードとしてビーム刃を展開したビーム・ソード・ピストルによる斬撃と、後ろに回ったニィレヤの「ケモノガリ」が交差する一撃で撃墜する。

 そして、ユミカは小さく溜息をついた。

 システムのダイアログが【Battle Ended!】の表示を出力したのを確認し、ユミカたちは武器を下ろす。

 

『あ、貴女たち……強いのね』

「いやいや、それほどでは」

『「ランチタイム」……確かなノブレス・オブリージュを感じたわ。次に会う機会があったら、その……ってもういない!?』

 

 ファルシュ・ノワールのコックピットで、もう次の瞬間には遥か遠くまで行ってしまった「ランチタイム」の面々を目で追いながらアリナは叫ぶ。

 それは、あまり目立つことはしたくないというユミカの方針によるものだったが、一つだけ誤算があった。

 ──その誤算とは。

 

『あっ……録画切り忘れてたわ……ってなにこの同接数!? 16万8578人って!?』

 

 アリナが録画を切り忘れていたことで、「スカーデッド」とのやりとりも含めた、今この場で起きていた出来事の全てが、G-Tube上に流れていた上に、やたらとバズってしまっていたことだった。




なおユミカの女子力もカスであるものとする
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