救いのない話だが、部外者がどうこう言っていいものじゃない。
少なくとも何処までも自己中な彼女にとってはその末路は救いだったのかもしれない。
4月8日
今日くらいから大体の学校が春休みを終えて新しい年度に入るらしい。
まあ、ブラックマーケットに住んでる私達には全く関係のないことだけどね!
4月12日
マジでふざけんなよあのクライアント。
足元見やがって、六割中抜きでどうやって暮らせっていうんだよ。弾代考えたらほぼプラマイ0だ。
確かに私たちはあいつらの依頼がなければ生きていけない環境ではある。それでもそんなのってないよ。
弱い奴は絞られて絞り尽くされたら捨てられる。分かっては居たけど、やりきれない。ムカつく奴らに従うしかない私に一番ムカつく。
4月13日
マジで悪いことって続けて怒るんだね。
クソッタレ、銃がイカれやがった。どうしよう、金なんてないよ。
そもそもブラックマーケットの治安で銃を持ってなかったらすぐに襲われてフルボッコだ。
最悪の場合やばい奴らに捕まって一生オモチャだ。それで壊れて捨てられている奴らを私は何人も見てきた。あんな情けなくて痛々しい惨めな存在になるのだけは嫌だ。
4月14日
マジで銃が無かったら迂闊に外にも出られない。何とかして調達する方法を考えなきゃ。
幸い食料は3日分はある。それが尽きるまでに解決策を。
誰かから奪うか?駄目だ、銃を持っていない私が持っている奴に勝てる訳がない。そもそも私は体が少し丈夫なだけで別に撃ち合いで強い訳じゃないし、何なら銃がまだ怖い。ああ、本当に情けない。
4月16日
とりあえず建築系のアルバイトでお金を貯めることにする。
銃を持ってなくても何とかなる仕事ではあるけど、かなりタイムパフォーマンスが悪い仕事ではある。何とか目立たないようにして銃を買うための金が貯まるまで耐えなきゃな。がんばれ私ここが頑張り時だ。
それにしてもあいつら私が銃を持ってないからってジロジロ見やがって。別に好き好んで持ってない訳じゃないのに。
4月17日
クソ!日当が入った袋を帰りに襲われて奪われた!
私が銃を持ってないからカモだと思って!本当にどうしたらいいんだよ!!
飢えて死ぬかクソどものオモチャになって壊れるか選べってか!ふざけるな、ふざけるなよ。
何で私ばっかりこんなに奪われなきゃいけないんだ。
4月18日
あと1日分の食料はある。もう今日は外に出たくないな。明日以降のことは今度考えよう。
4月19日
一日考えたけど死ぬのだけは嫌だ。自分で何もせずに緩慢と死を待つ恐怖の方が大きかった。
どうなるか分からないけど外に出るしかない。
そうだ、お守りとして縄と銃弾を持っていこう。備えあれば憂いなし。これ以上苦しみたくないと思った時にすぐに逃げれるように。
4月20日
人を殺した。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
でも、いいよね。そもそも向こうがまたお金を奪おうとしたのが悪いんだし、今まで私奪われてばっかだったんだ。ちょっとくらいやり返したところで何の問題もないよね。
そうだよ、私は悪くない。だって私は可哀想な子なんだから。それに手を出してきたのは向こうだよ?
それに、死体からお金を取って来れた。結構お金を持ってる奴みたいだ。今日の分の日当はちゃんと奪われずに持って帰って来れたし、これで銃を買うための貯金ももうすぐ終わるだろう。
ざまあみろ、下手にお金なんか持ってるから殺されるんだ。私とおんなじ可哀想な子なら別に私も殺したりしなかったのにね!
4月21日
今日はいい日だ!やっぱりお金があると世界が明るく見える。
そして何より私にちょっかいをかけてくる奴がいなかったのもいい。これは可哀想な私にも運が向いてきたのかも知れない。
目指せ!可哀想じゃない子!頑張れ私!
4月30日
新しい銃を買えた!今度の銃は前使ってたピストルよりも強いぞ〜!
何たってショットガンだからね!弾代は高いけど、ちゃんと近づいてから撃てば外さないし、大体一発で済むから長期的に見たら前のピストルよりもお得かも!
5月2日
前殺しちゃった子のお友達が復讐に来た。
銃も新しくしたし返り討ちにしてやろうと思ったけど、引き金にかけた私の指は動いてくれなかった。
理由は分かる。銃を新しく買うことが出来た上にいじめてくる奴が居なくなった私は可哀想な奴じゃなくなったんだ。だけど相手は元々は可哀想じゃ無かったけど、今は可哀想な子だ。ブラックマーケットで安心して背中を任せられる人がどれだけ大切かは私にもよく分かる。
だから、今日あの場所では私はあの時の襲ってきた子で、お友達は私だった。そりゃあ私は撃てないよ。撃ったら私はあの子と同じになっちゃう。
殺すなんてもっての外だ、あの子を殺したら私は無差別殺人鬼になっちゃう。
それよりはショットガンを奪われたことの方がまだマシだったと思う。
5月3日
ショットガンを奪われた私はまた可哀想な子に逆戻りだ。
またあの工事現場で働くことにした。
新しく入ってきたサオリさんはすごく綺麗な人だったけど、私と同じ匂いがした。多分あの人も私と同じ可哀想な子なんだと思う。
さて、今日からまたお金を貯めるために頑張りますか!
5月4日
サオリさんは凄いや、休憩も殆ど無しで作業を着々と進めてしまった。それどころか私の分を少し手伝わせてしまった。
明日はちゃんと一人で作業を終わらせれるように今日は早めに寝よーっと!
5月5日
サオリさんからちまきを分けて貰った。
今日はどうやら子供の日という日らしくて、ブラックマーケットでも最近話題になっていた先生という人から貰ったようだ。
サオリさんはどうやら可哀想な人ではあるけど、それでも彼女を心配してくれる人はいる程度には可哀想ではないのかも知れない。
良くない感情であることは分かってはいるけど私はそれを羨ましく思ってしまった。
5月6日
今日は作業から帰る時に先生の話を聞かせて貰った。
何でも先生は凄い人で、困っている生徒ならば誰だって助けてくれるらしい。それこそサオリさんも大事な家族を助けてくれたのだとか。
私にもいつかそんな人が現れて環境を変えてくれたりするのだろうか。
そんなものに縋るのは自分で環境を変えようとしないことであり、怠慢であるのかも知れない。
でも最近私は可哀想な子であるということにこだわってしまっている自分がいる気がする。可哀想な子であることは免罪符になると思ってしまっているから。私は可哀想な子だから可哀想じゃない子が私を襲って来たなら、何をしてもいい。
私は心の底で少し、少しだけだけど、もし生活に困っても私を餌にして襲ってきたやつを殺してお金を奪えば良いと思っている。
あの時の殺して楽にお金を稼いだ経験が私の心に囁いてきている。私はそんな自分が大嫌いだ。
5月19日
現場からの帰り道に変な人に出会った。
「クックックッ」て笑う頭が燃えている黒い服の人。先生も変なところがある人だってサオリさんは言っていたから先生かと尋ねてみたらどうやら違うらしい。その人は黒服と名乗って、私に取引を持ちかけてきた。
何でも、私の暮らしを保証する代わりに私である研究をさせて欲しいらしい。
あまりにも怪しいから返事は引き延ばさせて貰ったけど、正直心は揺らいでいる。
だって怪しい研究者に人体実験される子ってすごく可哀想じゃない?
5月20日
私は黒服さんに実験に協力することを伝えた。
断れば私は可哀想な子のままだったかも知れないけど、自分の力で這い上がって幸せになることができたかも知れない。
それでも私は逃げを選んだ。黒服さんが私を幸せにしてくれるのならばそれで良いし、そうでないなら私は可哀想な子のままでいることが出来る。
どちらにせよ結果が変わらないならば楽な方を選んでしまう私のことが私は大嫌いだ。
5月21日
黒服さんの研究室に引っ越して私はまず研究の大まかな概要を聞くことになった。
何でも黒服さんは私たちヘイロー持ち特有の神秘というエネルギーについての研究を行っているらしい。
けれどもその実験の進捗が芳しくないから私たち子供での直接実験に踏み切るらしい。
正直黒服さんがそこまではっきりと人体実験をするっていうとは思っていなかったけれども、どうやら黒服さんは私が可哀想な子であることにこだわっていることを知っていてそのようなことを言ったらしい。大人には敵わないなあ。
その後私に渡された契約書には滅茶苦茶なことが書いてあった。私は頭が悪いから全部の意味は分からなかったけれども、それでもこれにサインすることは良くないことだと分かった、けれども私はそれにサインをした。
だって、大人に騙される子供って可哀想だよね。
5月22日
今日は採血をして、薬を飲んだくらいで終わりだった。
特に体に変化はないけど何の薬だったんだろう。
5月23日
黒服さんに聞いたところ何でも神秘を活性化させる特別な栄養サプリらしい。
私の体は小さくてそもそも実験に向いていないからとりあえず長い間実験に耐えれる土台を作るって言ってた。
代償としてある程度の寿命を削るらしいけど、正直な話ブラックマーケットで生活していた頃はいつ死んでもおかしくなかったから今更そんなことを言われてもあまり何も感じないね。
7月4日
私の体での実験はあらかた済んだらしい。
実験の準備で成長させられた体はあのサオリさんとほぼ同じくらいのスタイルになっている。
そこまで体を作って行う最後の実験への説明をされた。
何でも私の生身の腕を機械の腕に置換する実験だそうだ。
何でも私たちが扱う銃や手榴弾なんかには私たちから出た神秘が染み込んで強化されるらしい。
ならば元々生身の肉体があった場所に似たような人工物がある時神秘がそれをどのように強化するのか実験を行うということだそうだ。
うまくいけば私はキヴォトスでもかなり強い方になれるらしい。
7月10日
義手にもかなり慣れてきた。
そしてどうやら実験は成功したらしい。
私の義手には武器が仕込まれている。飛び出すブレードと小型のショットガンだ。
それらが要因となって私の義手は腕として私たちの体に満ちる神秘と、武器として染み込む神秘の二重の神秘で強化されているらしい。
正直仕組みはさっぱりだが、私には強い武器が手に入ったという事実が大事なのだ。
そして私にはもう一つの事実が降りかかってきた。
私はどうやら契約満了で報酬を支払われた後、黒服さんの研究室から追い出されるそうだ。
7月15日
私はバイトをしていた頃は考えられないほどのお金を持ってブラックマーケットに戻ってきてしまった。
ブラックマーケットで暮らしていくのに全く苦労しないお金ではあるけれども、正直これだけの金があればゲヘナあたりならば学籍を捏造して生徒になることもできそうだ。
それもありだな。
7月16日
早速業者のもとに行ってゲヘナの3年生の学籍を作って貰ってきた。年齢的には1年生なのだけど、私のこの見た目で1年生は無理があるって断られちゃった。まあそれでも問題はない、生徒証なんて初めて持った。正直少し嬉しい気持ちがないと言えば嘘になる。
8月20日
ゲヘナはみんな授業なんて受けないらしくて助かった。私の頭は悪いのだ。
それはそうと部活に入った。温泉開発部に。
初めて校舎に行った時にカスミ部長に誘われて、部活の見学に行ったらタイミング悪く空崎ヒナという人物の襲撃にあったのだが、私が彼女の足止めをしたのだ。勝てるかと言われれば確実に無理だけど、足止めくらいなら私でも出来た。その後再合流した時にカスミ部長に熱烈な勧誘を受けて気分が良くなった私は入部を決めてしまった。だって誰かに必要とされるのなんて黒服さん以来だったから。
8月31日
温泉開発部最高!
9月12日
今日もいつものように温泉開発のためにブラックマーケットに行ったのだが、そこで私がかつて殺した子のお友達を見かけてしまった。
私の姿は当時から大きく変わってしまっていたから向こうは私だと気づいていないみたいだったけれども。
……あの子は何も変わっていなかった。信頼できる友達を亡くして孤独で可哀想な子のままだった。
それに引き換え私はどうだ。みんなに必要とされて青春の中にいる。
それって許されることなのかな。私は人殺しだ。人並みの人生を送る権利なんてないはずなんだ。私は可哀想でなきゃダメだ。
寿命を縮められ、腕を一本無くしたくらいじゃダメなんだ。もっと不幸にならなきゃ。もっと可哀想にならなきゃ。でもどうしたら?
そうだ黒服さんなら。
9月13日
あの人の研究所に行ってみた。
どうやら別の実験を行う検体を探していたらしい。なら自分はどうだと言ってみたけど、過去の実験の結果との関わりの問題でデータとして不適切だと言われてしまった。ならばと私は有り金を叩いて黒服さんにお願いした。この金で私に武器を取り付けてくださいと。
9月14日
結果として私の要求は受け入れられた。
明日にでももう片方の腕も置換手術を行なってくれるそうだ。
9月15日
これで両腕が機械になった。
でも、まだ足りない気がする。
9月25日
神秘は既に新しくつけた義手に馴染みはしたけれども、何だかその量が少なくなっていると経過観察で黒服さんに言われた。
つまりは私は弱くなっているということらしい。まあ、今のところは微々たるものらしいけど。
ならばもっと置換すればもっと弱くなれるってことだ。
人間は弱ければ弱いほど哀れで惨めで可哀想になる。その方向でいこうか。
11月22日
両足の置換手術を依頼した。
12月5日
神秘は間違いなく馴染み切った。
そして間違いない。私は弱くなっている。
だけど、これで良い。弱いことは可哀想なことだ。
私は可哀想な子であるべきなんだ。
2月3日
表皮の置換手術を依頼した。
2月17日
これで目に見える部分全ての機械化が完了した。
私の体は全身に神秘が満ちてはいるがその量はブラックマーケットで虐められていた頃より少し多い程度だ。
良いじゃないか。全てを捨てて、機械の身体を手に入れたのに弱くなる。
なんて哀れで可哀想な子なんだ。
2月18日
黒服さんに経過観察をして貰ったのだが、そのタイミングで今まで私から取って来た体のパーツを見せられた。
パーツというと語弊があるかな、そこにいたのは今までの自分だった。
じゃあ今の私って?分からない。分からない。分からない。もう私は自分が何か分からない。けれど間違いないのは私が可哀想な子だということだ。
じゃあそれで良いか。
3月20日
黒服さんに職場を紹介して貰った。
カイザーの戦闘部隊だそうだ。機械の体で機械のように戦うことを強いられる少女。良いね、可哀想じゃないか。
ねえ、あの日殺してしまったあの子、私はあなたと同じかそれ以上に可哀想になれたかな?
エネミーとか市民とかどこ由来なのかなって考えた時に思いついたものです。
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