こんだけのガスであんな動き出来るわけないだろ! 作:山崎春のご飯まつり
生きてますし、毎日ハーメルンで好みの小説を見繕ってますので離れてません。ご心配なく。
日が暮れていく。
サシャの父、アルトゥルの言う方向へと蹄を進めているセラスだが、一向に建造物は見えてこない。
その代わり視界に映るのは小規模の森と、夕焼けで暖色味になった草原だけ。
「流石に危なくなってきた」
土地勘のある人が言うことだと心の内に言い聞かせる。信じてない訳では無いが、こうも目的地が見えないのは焦りが沸き上がってくる。
馬も速度が落ちていってる。少しペースを落とし、近くに村があったらついでに松明も拝借させてもらおうと決めた。
◇◆◇◆◇◆◇
夜。光源は手に持ってる松明だけが頼り。幸いセラスの通っている方角に森は無いため、周囲の安全を確保しながら進められていた。
「そろそろ危ういな…って、あれは」
その時、雲によって遮られていた月明かりが更に遠くの景色まで照らし出した。
大きな円柱の建物が二つ、無機質な灰色の素材が遠くからでも月光を反射してこちらに存在感を示している。
「…スタートラインには立てたか」
先の状況を考えれば緊張感は依然として抜けない。しかし戦いに備え包帯や装備の点検をしたいという気持ちが先走る。
馬を走らせ、セラスは徐々に大きくなっていく目的地に向かっていった。
近くに来ると、上から彼の上司であるナナバとゲルガーが立体機動で降りてきた。
「君は……どうしてここに?」
「エルヴィン団長から伝達を頼まれました、104期調査兵のセラス・アービスです。隔離された同期の護衛をしてるミケさん達にと」
「よくオレ達がここにいるとわかったな新兵」
そう言って腰に手を当てるゲルガー。ハッとした様子でナナバが問いかける。
「セラス…だったよね。ミケはどうしたんだい?ここに合流できたのも恐らく彼の入れ知恵だろう」
「……ミケ分隊長が────」
セラスは、数時間前に起きた出来事とミケの状態を告げる。
────────
それを聞いた彼女らは目を見開き立ち尽くした。
「あのミケが……?ほ、本当なんだろうね?しかも女型を捕まえたって…」
何度も念を押すように確認を取られる。
信頼と実力も厚い仲間が、戦意喪失状態まで追い込まれたと言われたんだ。新兵ごときの話に全面的な信用を寄せるわけがない。
「一旦落ち着けナナバ、明日実際に会えばわかることだ。それより新兵の身体見てみろ」
そう言ってゲルガーはセラスの身体を指さす。脇腹、肘と所々血が染みている。それに遅れて気づいたようでナナバも眉を顰める。
「ついこの前まで大怪我したコイツを起用したんだ、団長側も余裕がねぇってことだ。疑いすぎも今するもんじゃないと思うぜ」
「……そうだね。すまない、君の行為を無碍していた。報告感謝する。疲れただろう、中に君の同期もいるから少しでも心労を癒してくれ」
謝罪と共にナナバは感謝を向ける。
冷静さを失うのも無理はない内容だが、流石古株だとセラスはその精神面に感服した。
「だとよ、ミケさんの件ありがとよ。代わりと言っちゃなんだが、巨人が来たらぜってぇ守ってやっから、あんまし無理すんなよ?」
痛みが響かないよう優しく肩を叩かれ、そう言って2人に中に入ることを催促される。
「あぁその前にセラス」
ドアの叩く直前、ナナバに声をかけられる。
「女型の件はくれぐれも。この状況なら尚更、ね、」
「…わかりました」
十中八九ライナーとベルトルトだろう。
どうやって心労を癒せと言うのか、彼の中で疑問が浮かび上がった。
「頼んだよ。引き止めてすまないね」
「包帯巻いて安静にしとけよ新兵」
ゲルガーがシッシッと手で払うジェスチャーをし、2人は立体機動で屋上に上がって行った。それを見かねてセラスもドアへと歩みを進めた。
─────────
ドアをドンドンと叩く。暫くしてコツコツと木の板越しに規則的な足音が近づいてきた。
「セラス・アービスだ。開けてく───」
名前を発した辺りで、ドタドタと2つ目の足音が最初のと重なって聞こえて、軋みながら開かれるドアの音と入れ替わるように無くなる。
「セラス!?」
「うぉっ、って…なんだクリスタか」
見知った顔が頭一個下ぐらいの高さからこちらを見上げてくる。隣にベルトルトも居たことから割り込んで開けたのだろう。
クリスタから焦点を外し彼女の後ろにいる連中らを見ると、慌てて立ち上がるコニーと、目を見開いて冷や汗をかいてるライナーとユミルが居た。
「お、おおお、おお前!本当にセラスか?!」
最初に大声を出したのはコニーだった。
クリスタの隣に割り込むように彼が顔を前に出す。
「本当の本当にお前なんだよな?!見間違いじゃないよな?!」
「…手遅れだったか」
「あ?いきなり何言ってんだ?」
目までバカが移ったか、という皮肉を込めたが本人には通じなかったようだ。
「はははっ!要するに馬鹿さ加減が目にも移ったかって言ってんだよチビ!」
「はぁ?!決めつけてんじゃねぇよ性悪女!」
後ろに振り向いてユミルの正確な翻訳に噛み付くコニー。
そんな空気感が一転二転変わる中、クリスタとライナーの一心不乱にこちらを見る目が、違う意味で熱いのに意識が割かれる。
クリスタはこちらの左手を引き出して、ニギニギと掌を両手で揉み始めた。
「ん。どうした、クリスタ」
「………別に」
ただ低く、小さい声で左手をじっと見つめて言う。
「け、けどまさかこんなに復帰が早いとは思わなかった。無事で良かったよセラス」
「あぁ、全くもってその通りだ。巨人じゃねえのになんつー再生力してんだよ…」
ライナーとベルトルトが冷や汗をかきながらもこちらにコンタクトを取ってくる。
「褒め言葉として受け取っとくよ。それよりコニー、俺の言ったことは忘れていいから包帯巻くの手伝ってくれ」
自分でやったら傷が開く、と今も尚いがみ合ってる2人の雰囲気に割り込んでコニーに提案する。
「急に何言って…ってお前血だらけじゃねぇかよ!そういうことは早く言えよ馬鹿!」
「馬鹿に馬鹿って言われる筋合いは…」
「うるせぇ!行くぞ!」
「……………」
そう言ってコニーは右手首を掻っ攫って少し強引に上階に登っていく。左手がクリスタの両手から離れた時、酷い悪寒が後頭部から感じた。
───────
「……どんな動きすりゃこんなボロボロになんだよ」
血濡れた包帯を解き、露になった肌を見てコニーは呟く。
胴体には傷一つない。だが腕や肩には、治りたての薄皮から赤黒い亀裂が不気味に透けて見えていた。
ひとたび動かせばその張ったばかりの皮が裂けて、たちまち血肉が滲んできそうだった。
「裂けないうちにキツく巻いといてくれ。なるべく早く治したい」
「言っちゃわりぃけど、これ治んのか?」
「治るだろ、多分」
「多分って…お前自分に関心無さすぎだろ」
所々粗雑な部分はあるが、包帯を巻き終えた。
「そういやサシャには会ったか?アイツだけ状況がわかんねぇんだ」
階段を降りながらコニーは問うた。その問いかけに数刻前に会った記憶を頼りにセラスは安否を説明する。
「怪我もなく無事だぞ。実際に会ったし、今頃本部に帰還してるんじゃないか」
「…そうか、そりゃよかった」
コニーの張り詰めた顔が少し緩んだ。この3年間特に苦楽を共にした同期だ、心配になるのも至極当然の話だろう。
「逆にそっちはどうだった。周囲の村に避難警告して回ってたんだろ?」
「……………あぁ、別に何も無かったぜ」
一呼吸おいてコニーは口を開く。言動と行動が噛み合ってなく、取り繕うような印象が見受けられる所から原作通りということを察した。
そう、と一言返答し階段を降りて合流する。
「お、二人とも戻ってきたな。ほら食え」
階段を降り終えたセラスたちにライナーは缶詰を2つ投げ渡す。
「っと……なんだこの鉄の塊?食えんのか?」
「中に食いもんが入ってる。さっきユミルと倉庫を漁ってたら見つけたんだ」
「味は?」
「…………魚っぽい味だったな」
コニーに続いてセラスの疑問にはライナーは口をつむぎ、考え込むようにして答える。
「この期に及んで味かよ、随分と余裕だな?」
「いや大事だろ。けど珍しいよな、セラスお前好き嫌いとかあったか?」
「強烈な味は苦手だ」
コニーの疑問に、適当にありそうな理由を列挙して思考の片隅に追いやる。
魚──特に何か変わった点はない。勘づかなかったとして、巨人化で気づくだろうし気に留めなくていいだろう。
「なんかジジくせえなお前」
「ほっとけ」
立体機動装置を再度身につけ、クリスタとコニーの間に座り込んで缶詰を開けた。
数刻経過し、各々が食事を済ませた。
焚き火は既に新たな薪を蝕み、火花が音と共に浅く周囲に飛び散る。
体を休めるしかすることのない皆の視線は自ずとそれへと注がれていた。
パチッと大きな火花が破裂した時、重苦しい様子でライナーは口を開いた。
「───なぁセラス。なんでお前がここに来たんだ?他の調査兵じゃなく…よりによって、お前が?」
それは再会の驚きが収まる頃、この場に居る誰もが次点に抱いた疑問だった。
「ま、やっぱそこだよな。仮にも怪我してるコイツを使うなんざ緊急事態か、ただの馬鹿だ。余程あっちは切羽詰まってるんだろ」
「………」
ユミルの的を射た疑問に、原作への乖離を危惧する。その波に便乗しようとベルトルトが続いて口を開いた。
「いったい、何があったんだセラ「それは、オレたちが今ここにいることと関係してるんだな」っ…!ライナー!」
しかし冷や汗をかいたベルトルトの問いかけをライナーが遮った。
考えられるのはアニの状況と、兵団の状況の確認。セラスはベルトルトの狙いを推測する一方、ライナーの行動が懐疑的に感じた。
「違うんだベルトルト。確認したかったんだ。それに、疑われてんなら行動で示せばいいだけの話。気遣わせて悪かったなセラス」
「…いや、こちらこそ」
その答え合わせのようにライナーは自身の考えを吐露する。その内容はセラスには理解がしがたい心情だが万事休す。
兵士としての自我が勝ったのか、ライナーの解釈はセラスにとって都合のいい方向へと向かった。
「へーへー、皆の兄貴分は大層寛容なようで。自分が気持ちよく締めればそれで終いってか?」
「ちょ、ユミル」
ユミルの不意な発言に止め損ねるクリスタ。だがそれでは彼女は止まらなかった。
「ユミル。何が言いたい」
「あ?この状況を自己満の糧にすんなって言っ「ユミル!」っ…」
まさに取っ組み合いが始まる寸前で、クリスタの大きな声がユミルを怯ませた。
「ふぅ……ごめんライナー、ユミルを悪く思わないで。こう言ってるけど…ユミルも不安なんだと思う、みんなと同じで」
そう言って、無自覚か隣にいるセラスの手にそっと手を重ねるクリスタ。
若干の冷や汗と、指先から伝わる微かな力が彼女の精神状態を如実に表していた。
その傍らで、次はユミルの考えも推測する。
ユミルも恐らく壁内の状況に関心を寄せていた。ライナーに対する噛みつきも、自己保身に走るための作戦を練る材料不足にイラつきを隠せないと考えると辻褄が合う。
その心情を裏事情も知らず察せるクリスタの観察眼は根拠に基づかない、天性のものだと言うこと。大胆な行動に出たのも変わろうとしてる証拠と捉えた。
「…………いや、そういう時もあるだろう」
一方ライナーはクリスタの普段しない強かな行動に溜飲を下げ、冷静に応答した。
こうも緊迫した状況下でも、好いてる女性の所作を見逃す男ではない。かといってそれを指摘させてくれる雰囲気でも無いことにライナーはもどかしさを覚えていた。
だがそんな空気を壊すのを躊躇わない人間が一人、セラスに指をさして言った。
「おいおいセラス、誰の許可とってうちのクリスタに手触れてんだ?」
「あっ…!ご、ごめん」
当たり前にユミルだった。
その指摘で頬を赤らめ咄嗟にセラスの手から離れるクリスタ。同時にガッツポーズをとるライナーが同じ絵に映った。
「ったく……クリスタぁ~♡そんなに怖いなら私がいつでも手でもなんでも握ってやるよ~…ちっ、ほら間空けろセラス」
「イテッ」
「セラス怪我人!…もぉ、調子いいんだから。大丈夫セラス?」
ユミルはセラスのケツを軽く蹴り、無理やり2人の間に入ってクリスタに抱きついた。
その傍らお尻をさすりながらクリスタの心配を「大丈夫」と言って手で流す。
「…俺が何をやったってんだ」
「ははっ、残念だったなセラス」
まるで同類を見つけたような眼差しでセラスを見る哀れなライナー、その眼は同情と羨望が入り交じっていた。セラスは心底気分が悪かった。
───────────
「君たち!急いで屋上に来るんだ!」
大きな地鳴りが響いた。
同時に上で見張りをしてるはずのリーネが必死な形相で叫ぶ。
それにセラスとライナー、ベルトルトはリーネの方へ目を向け、彼ら以外の意識を手放してた3人も反応して飛び起き、続々とリーネの後ろに続いて階段を登っていく。
「おい…おいおいおい…!なんだって巨人がこんなに居やがるんだよ!!」
全員が登りきった頃にはゲルガーが頭を抱えて眼前の理不尽に感情を吐露する。下を覗けば大小様々な巨人が複数、不気味なほど統一にこちらを凝視していた。
隣で巨人達を見下ろすナナバも、深刻な表情が状況の度合いを暗に示していた。
「夜で、しかもこの量。明らかにおかしい…けど、やるしかない」
「くそったれ…酒の一滴も飲めてねぇんだぞこっちは…!」
行き場のない怒りを顕にし、操作装置を鞘に押し込んでブレードを装着する。
「………セラス、行けるかい」
「「「!!!!」」」
ナナバの質問に誰しも注目を集めた。問いかけた本人は目下の巨人に難色を示している。
目測でおおよそ10~20体。ベテランの彼らには見慣れた光景といえど戦力は多いに越したことはないため、精鋭以外に完全装備のセラスに白羽の矢が立った。
セラスはその問いかけに一切の動揺がない。ただ腕と足を僅かに動かし、動作確認をしながら答える。
「はい。行けます」
「ま、待ってください!今の彼ですか?!せめて我々と行動を共にするのはダメなんですか?!」
「セラスお前それで行けるわけないだろ!今度こそマジで死ぬぞ!俺からもお願いします!これ以上同期の死を目の当たりにしたくないんです!」
あまりの予想外の回答にクリスタが待ったをかける。 同調するようにコニーも説得を試みる。
「おいコニー…状況を考えろ」
「……君たちは自分の身を守ることを第一に考えるんだ。ここからは、立体機動装置の出番だ」
しかしその訴えも虚しく、挙句ライナーにも止められ、ナナバとセラスの問答には僅かな変化も与えなかった。
続々と精鋭の彼らは手すりから降りて行き、歯ぎしりするゲルガーもいる中、最後にセラスが手すりを飛び越えようと足をかけた。
「…行ってくる」
「待っ────」
待って。そのただ一言を言い終える前に、セラスは言葉を押し付けて彼女達から姿を消した。
痛々しい彼が、さらに酷く身を削る姿を目に焼きつけるしか出来なかった。兵士なのに、守られる立場であることを丸腰の自分で嫌という程わからされた。
頼れよと言ったばかりなのに、現状の彼より頼りない自分がどうして大口を叩けるほど偉くなれたんだと膝をついた。
向けられた思いは届かず、ただ無力ない自分達のために傷つくであろう事実を飲み込むしかなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「くそっ、大口叩いた手前自分が情けねえぜ」
「あぁ。新兵を死に誘うなんて…吐き気がするよ」
彼ら精鋭に続いて巨人たちの手の届く範囲に近づき、城の外壁へアンカーを刺して引っ付く。
「適切な判断です。自分を責めないでください」
少し近づき、巨人達を見下ろしながら他の精鋭4人にぼやく。
「………ちっ」
それを聞いたゲルガーはセラスを一瞥し、たなびくマントから見え隠れする出血の跡に少々苦虫を噛んだような顔つきで舌打ちをした。
一方ナナバは平坦な口調で命令を出した。
「…君の役割はあくまで囮役として安全圏で巨人の注意を引くことだ。いいかい、決して無茶するんじゃないよ」
「わかりました。頼りにしてます」
振りのように聞こえてしまう念入りに心配されてるというのがひしひしと伝わってきた。また他の精鋭であるリーネたちにも『危ないと感じたら迷わず上に戻るように』と釘を刺された。
その直後、精鋭4人はアンカーを外壁から外して散開し、各々がマンツーマンの体制で巨人に向かっていく。
そしてセラスも、補給も援軍も見込めない最低最悪な戦場へとその身を投じた。
『随分と、早い再会じゃないか』
歯車は狂い始めた。
思いついたことを違和感なく言語化する才能が欲しかった今日この頃。
我儘ですがフラットな視点で描写を表現してみたかったので、主観表現を固くしたり第三者目線で状況の説明を試みたりしたら、かえって齟齬や造語が増えて違和感のマトリョーシカが完成しました。
なんか気になったら改善策と一緒に感想お願いします。
後は頼みます。
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