ご飯を語るな──と言われても、語らずにいられない   作:猫田やなぎ

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「うどんは、身体である」

配信が始まると同時に、画面中央に一枚のイラストがふわりと表示された。

白っぽいセーラー服に身を包んだナギが、食べ物に囲まれて静かに座っている。

 

>『え、なにこの絵!可愛い!』

>『おおおお!?鉛筆画!?』

>『はじめまして初見です!可愛いイラストですね!』

 

「やあ初見さんいらっしゃい。これはイラストレーターさんが書いてくれた、僕のイラストだよ」

 

>『鉛筆画飯テロとか新ジャンルすぎる』

>『後ろの球体なんだよwwwww』

>『視聴者球体(仮)』

>『哲学の球体』

 

ナギがくすくすと笑いながら、マイク越しに声を重ねる。

 

「ね。なんだろうね~この球体。イラストレーターさんが、配信のアーカイブ見ながら描いてたら、“気づいたらこうなってた”らしいよ」

 

>『自覚なき召喚術』

>『記録じゃなくて霊視』

>『つまりこれ、俺たちなのか……(受容)』

>『俺たちが……球体に……』

>『イラストレーターさんに俺たちがどう見られているか分かったような分からんような』

 

ナギはイラストを消していつもの背景に戻し、少しだけ頬をかいて笑った。

 

「それはさておき──今日は、うどんの話でもしようか」

 

>『きちゃああああ!!』

>『今日はうどんか!』

>『毎回思うけどこの人の頭の中見たい』

>『見たら最後、洗脳されそう』

 

ナギは一呼吸置いて、真顔に戻る。

 

「うどんってさ──“柔らかい”とか“コシがある”って表現されるけど、どっちも“抵抗感”あるじゃん。噛むときに、少しだけ跳ね返してくる感じ。それってさ、対話してるんだよ。噛めば応える、でも強く反発はしない。“柔らかく、受け入れながら、芯を持つ”──それこそ、日本人が理想とする身体性じゃない?」

 

>『合気道っぽさあるよな』

>『強くないけど強いって感じ』

>『包むように受け返す、うどん=受け身の象徴』

 

「で、咀嚼ってさ、ただの消化行動じゃなくて、“内面化の儀式”だと思うんだ。うどんって、噛ませる食べ物でしょ。カレーみたいに一気に飲むものじゃないし、スープも薄くて、味の主張も静か──なのに、身体に残る」

 

>『心の中に優しく沈んでいく系……』

>『食べ終わったあとに“あ、満たされた”ってくるやつ』

>『胃じゃなくて魂に届く飯、それがうどん』

 

ナギの語りは、静かに地域の話へと移っていく。

 

「それに、うどんって地域差がすごいじゃん。讃岐、稲庭、武蔵野、伊勢──全部違う。つまりさ、“その土地の身体性”が、うどんっていう形の記憶で継承されてるってことなんだよ」

 

>『土地の記憶=うどん……!!』

>『讃岐は筋肉質、稲庭はしなやか、武蔵野は土着……』

>『人が作ったんじゃない、土地が麺を生んだ』

 

ナギはゆっくりと椅子にもたれ、やさしい声で締めの言葉を紡ぐ。

 

「ラーメンは熱くて自己主張が強い。寿司は儚い芸術。チー牛は思想と戦いの象徴。でも──うどんは違う。うどんは語らない。だが、伝えてくる。その土地の水で、その土地の粉で作られたものが、“噛んだときの感触”として、僕たちの身体に染みる」

 

>『母ちゃんが作ってくれたうどん、思い出した』

>『冬の夜、台風の日に食った鍋焼きうどん……あれが俺の中の“原点”だ』

>『泣くとは思わなかった……うどんで……』

 

噛むことで、知る。

柔らかさに、強さを見出す。

その土地の身体で、その土地のうどんを噛む。

 

それが、日本人の“身体と食の記憶”だった。

 

今夜もまた、ナギはひとつの“飯”を通して、視聴者に言葉にならない何かを届けていった。

そして、画面の右下にぽつりと浮かぶ小さな言葉──

 

>『……あの球体、やっぱ俺たちだな』

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