ご飯を語るな──と言われても、語らずにいられない   作:猫田やなぎ

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「たこ焼きは、都市である」

夕方──

商店街を抜けた先の小さな広場。

焼けたソースと青のりの匂いが、春風と一緒に漂っていた。

 

「……たこ焼き、焼かれてるなあ」

 

ジャージ姿の味見野ナギは、片手に烏龍茶のペットボトルを持ちながら、くるくると回るたこ焼きに、妙に真剣な目を向けていた。

 

鉄板に等間隔で並んだ穴。

そこに流し込まれた生地。

回され、整えられ、表面が焼かれ、やがて完成するあの形。

 

「……あれって、都市だよなぁ」

 

ぽつりとつぶやいて、思考が加速する。

視界の端で焼かれるたこ焼きは、ナギの脳内ではすでに「都市グリッド」「再開発」「文化的装飾」へと変換されていた。

 

「うん、いける。たこ焼き、都市論いける」

 

ポケットからスマホを取り出してメモを打ち込む。

その指先の動きは、まるで召喚魔法の詠唱のようだった。

 

 

 

深夜三時、今日も配信サイトの一角は賑わっていた。

視聴者数8,900人。

画面が切り替わると、ナギはすでに椅子に座り、まるで夕方に見たあの鉄板の中にまだいるかのような、穏やかな目をしていた。

 

「……こんばんは、味見野ナギです。今日も“飯”について語ります」

 

>『きたぞーーー!』

>『今日はなんだ!?うどんの次は!?』

>『また俺たちの脳を溶かしにきた』

>『というかナギってどうやって毎回ネタ仕込んでんの?』

 

ナギはくすっと笑いながら、画面を見つめる。

 

「うーん……散歩かな。今日も夕方、近所のたこ焼き屋さん見てたんだよ。そしたら急に、“これ都市じゃん!”って思って──」

 

>『またお前はそうやって世界の形を変える』

>『鉄板=都市ってこと!?』

>『“これは都市”って言い出す飯哲配信者、ナギだけなんだよなぁ』

>『そもそも飯哲配信者とかナギ以外にいないだろ。たぶん』

>『※味見野ナギは日常の食を通じて世界を読み解く配信者です(公式説明)』

 

ナギは頷き、そして、おもむろに語り始めた。

 

「たこ焼きって、鉄板の上に一定間隔で区切られたマス目に生地を流し込むでしょ?それってもう、碁盤目状の都市構造なんだよね。均等に区切られたスペースに、ほぼ同じ量の素材を入れて、同じ熱を加えていく──つまり、“都市計画”だよ。整備された道路。敷地。インフラ。僕たち、あの鉄板の上で育てられてたんだよ」

 

>『均質都市モデルが鉄板で語られる世界線』

>『つまり俺たちは“たこ焼きの一粒”だった……』

>『こんがり都市生活』

 

「で、途中で“ひっくり返す”でしょ?あれって、“再開発”とか“都市の更新”なんだよ。場所を変える。面を変える。整えて、また回す──最初は流動的だったものが、次第に“形”を持ち始める。まるで、人の移動と街の成熟をなぞってるみたいじゃない?」

 

>『新宿がひっくり返されていると考えると面白い』

>『焼き直しで魅力が変わる=たこ焼き構造都市論』

>『ナギのたこ焼き観、スケールが違う』

 

「で、最後の仕上げ。ソース、青のり、紅しょうが──これって、“都市の文化的アイデンティティ”なんだよね。同じ鉄板、同じ素材、同じ手順で作られたとしても、“かけるもの”によってまったく違う味になる。つまり、都市における歴史、文化、習慣、そういったものが──味の違いとして立ち現れるんだよ」

 

>『秋葉原と中野と下北沢の違い、今なら分かる』

>『道頓堀のたこ焼きは歴史そのもの』

>『俺たちは文化というソースをかけられていた……!?』

 

ナギは、手元にあった紙コップのたこ焼きを、ひとつ、口に運びながら──静かに呟いた。

 

「焼かれ、回され、装飾され、食べられる。それが“たこ焼き”であり、それが“都市”だよ」

 

>『泣けるたこ焼き回やめろ』

>『ソースしょっぱいのか涙しょっぱいのか分からん』

>『俺、今夜のたこ焼き、丸く育てて食べる……』

 

ナギが最後に、少し微笑んで言った。

 

「……僕は、焼かれるのが好きなんだ。何度でも、ひっくり返されて、“美味い”って言われるなら──それでいい」

 

都市は鉄板。

人はたこ焼き。

焼かれて、回されて、味をまとって、誰かの口に運ばれる──

それが、“街”だ。

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