ご飯を語るな──と言われても、語らずにいられない   作:猫田やなぎ

14 / 23
「カレーは、統一である」

画面が切り替わると、いつもの配信部屋。

セーラー服の中性的な青年──味見野ナギが、のんびり手を振る。

 

「やあ、こんばんはー。ナギです。今日も“ご飯について語る配信”にようこそ」

 

>『きたぞきたぞー』

>『今夜は何を食べて語る!?』

>『ナギ、頼むから今日は胃に優しい話してくれ……(無理)』

 

ナギが笑みを浮かべながら画面を見たその時──

チャット欄にスパムが滑り込む。

 

>『✨登録してね✨副業で一日5万GET!』

>『パンツみせろwwwwww』

>『今なら100万プレゼント中→→https://www.○○○○.xyz/』

 

その瞬間──一瞬でコメントが消える。

 

>『あ、モデレーター強い』

>『今日も即BANありがとうな……』

>『平和はこうして保たれる……』

 

しかし、その直後──今度はアンチがチラリ。

 

>『マジでこの配信寒いだけなんだよな』

>『哲学ごっこ飽きたわ。普通に飯紹介しろよ』

>『飯+哲学とか意味不明なんだが』

 

>『うぜぇアンチきた』

>『こいつもBANしてくれーー』

>『嫌ならブロックしなさい』

>『モデさんやナギの手を煩わせるな』

>『まあアンチはしゃーない、無視無視』

 

ナギはそのやり取りを見て、肩をすくめるように笑った。

 

「まあ、色んな人がいるよね。あ、そうだ──みんな、カレーは甘口?中辛?辛口?それとも……激辛?鬼辛?」

 

>『急なカレークイズwww』

>『アンチを華麗にスパイスに混ぜるスタイル』

>『辛口以外のカレーなど認めない!!』

>『ごめん甘口だわ』

>『やっぱ中辛か』

>『鬼辛とか初めて聞いたわwwww』

>『明らかにやばそう』

>『体壊すやつ』

>『名前がすでに呪詛』

 

「あ、鬼辛は今作った」

 

>『今かwwww』

>『草』

>『太鼓の達人じゃねえんだからww』

>『で、ナギは何辛?』

 

「僕はね、甘口に蜂蜜とリンゴ入れる派」

 

>『甘過ぎィ!!』

>『お子様カレーより甘そう』

>『新事実:ナギはお子様舌』

>『激甘かあ』

>『激甘といえばぷよぷよ』

>『わかる』

 

「まあまあ。おいしければ、何でもいいんだよ。さて、そんなわけで、今日はカレーの話をしていくよ」

 

>『よしきた!』

>『カレー好きのワイ歓喜』

>『お子様舌で何を語るのwww』

>『絶対面白い(確信)』

 

ナギは、配信の空気が落ち着いたのを見て、再び静かに語り始めた。

 

「カレーってさ、いろんな素材が混ざってできてるのに、最後には“カレー”って名前で一括されるじゃん?にんじんも、じゃがいもも、玉ねぎも、全部バラバラだったのに──煮込まれて、溶け合って、同じルウをまとう。これって、“統一国家”の理想形なんだよ」

 

>『国家って聞くとチー牛思い出す』

>『最小国家な。あれもいい話だった……』

>『スパイスで統一される共和制……!』

>『全部がルウで一つになることで、国家が完成する……』

>『主張を捨てずに、ひとつの味を生む。まさに民主主義』

 

「日本のカレーって、もはやインドのカレーとは別物なんだよね。ルウでまとめて、小麦粉でとろみをつける。曖昧にして、なじませて、“なんでもあり”にする──」

 

>『つまり、日本型=包摂国家』

>『シャバシャバ=地方分権、トロトロ=中央集権』

>『ルウ=文化の接着剤だな』

 

「だからこそ、シーフードでも、カツでも、キーマでも──全部、“カレー”って名前で包んじゃう。これ、すごく日本っぽいんだよね。でさ、カレーの日って、給食でも家庭でも、空気がちょっと変わる。なんか“みんなが揃う感じ”がする。あれ、共同体を作ってる力なんだよ。ひと皿の中で、それぞれが混ざり合って、でも自己を失わない。噛めば、“あっ、これはにんじん”ってわかる。でも、にんじんはもう、カレーという国の一員になってるんだよ」

 

>『多様性と統一の奇跡、それがカレー』

>『家庭の味なのに、国家理論でもあるとかどうなってんの』

>『今日、夕飯カレーにしよ。いや、しなきゃダメだろこれ』

>『深夜に夕飯の話は草』

 

ナギは、チャットを見ながら、にこっと笑った。

 

「……だから、カレーは“国”なんだよ。みんな違ってて、でも一緒にいられる。辛さも、具材も、好きに選んでいい──それでも、ルウをかければ、それは“カレー”になる」

 

家庭をつなぎ、味覚をまとめ、社会をひとつにする。

それが──カレーだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。