ご飯を語るな──と言われても、語らずにいられない   作:猫田やなぎ

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「定食は、秩序ある混沌である」

「どーもーっ!味見野ナギでーす!今日はちょっと……酔ってまーす!!」

 

配信が始まるなり、ナギが画面に飲み散らかしたビールやらチューハイやらの缶を映した。

飲みかけと思われる缶ビールを持つ、リアルなナギの手元が映り、視聴者欄は即座に騒然となる。

 

>『ちょwwwナギ飲んでるwww』

>『酔ってて草』

>『これは波乱の回になりそうな予感』

>『初見です……これは通常営業……??』

>『初見さん……いつもはこうじゃないの……もっと静かなの………』

 

「じゃあ今日は~~!!“定食におけるバランスと法則”について語っていくよーーッ!!」

 

謎のテンションにコメント欄が爆発する。

 

>『題材のクセがすごいwww』

>『酔ってるときにそれ語ろうと思うの?』

>『どこでそんなの思いつくの!?』

>『前に“ネタは散歩中に考えてる”って言ってた!!』

>『定食の法則て何ww』

 

ナギは鼻歌交じりに笑い、椅子の背にもたれながら囁いた。

 

>「ふふふ……これはね……僕の魂の冷蔵庫にストックされてるネタだよ……!」

 

そして、ぐいっと酒を飲み干し──

 

「もう身体に染みついてんだよ──ッ!白米・味噌汁・主菜・副菜・漬物──すなわち五大元素!!!」

 

画面に手を突き出し、叫ぶナギ。

 

「お望みならいくぜ、次なる奥義──!!『定食におけるバランスと法則』──秩序の皿、混沌のトレイ──!!!!!」

 

コメント、阿鼻叫喚。

 

>『wwwwwwwwww』

>『お前は誰だよwww』

>『黒歴史回確定』

>『初見です……こわい……(でも笑ってる)』

>『いつもの冷静で哲学的なナギくんどこ!?』

>『切り抜き職人、出番だぞ』

 

「ふう、じゃあ話すね。定食ってさ……バランス、取れすぎてない?」

 

ナギが真顔に戻って呟いた瞬間、チャット欄が逆に静かになる。

 

「ごはん=大地、味噌汁=水、主菜=火、副菜=風、漬物=空──そう、定食は五大であり、世界の完全体……!!」

 

>『うわあああ出たーー!!仏教構文!!!』

>『漬物=空って笑う』

>『でも言われると納得しちゃうんだよなあ』

>『定食のスケールが宇宙級』

 

「でね?ごはんは左、味噌汁は右。それが基本形だけど……これ、戦いの構えと同じなんだよね。ごはん=主エネルギーを左に置き、味噌汁=内面調整を右に構える。これはもう、武道。食卓武道」

 

>『ごはん=拳、味噌汁=呼吸……!』

>『箸を構える=刃を抜く儀式!?』

>『定食=精神修行、異論はない』

 

「主菜は王!!副菜は宰相!!!肉か魚か、それがすべてを決める。だが、栄養や記憶を支えるのは副菜……!ひじきとか!きんぴらとか!冷奴!!和え物!!!これ全部、“定食の民意”!!」

 

>『副菜が民意ってなに!?www』

>『メインばっかじゃ回らない、それが定食という国』

>『漬物=メディア説』

>『漬物=神官説、今回はどうする?』

>『今日はもう神だろ。漬物=神』

 

ナギが酒をもう一口あおり、笑みを浮かべながら囁く。

 

「定食は……“孤独を忘れる構造”なんだよ。ひとりでも、目の前のその配置だけで、世界と繋がってる気がする。ほら、みんなもあるでしょ?無言で定食食べてると、ちょっと安心する瞬間──その安心は、秩序。整った栄養バランスだけじゃない。食卓の中にある、もう一つの“社会”なんだよ」

 

コメント欄がゆっくりと静まり返り、やがて優しく満たされる。

 

>『今日は笑って泣いた』

>『酔っててもナギはナギだった……』

>『定食食べたくなってきた』

>『マジで“国家”だったな』

>『俺たちは、今夜もトレイの上で秩序を守る……』

 

左に大地、右に水、前に力、横に記憶、そして漬物が見つめる。

定食──それは、混沌と秩序を一皿に収めた“国家の形式”だった。

 

──いただきます。

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