ご飯を語るな──と言われても、語らずにいられない   作:猫田やなぎ

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「おでんは、煮崩れない人間関係である」

寒風吹きすさぶ十二月某日、深夜三時。

画面の向こうに現れたのは、今や登録者数10万人を超えるVtuber──味見野ナギだった。

 

「こんばんは、今日も“ご飯について語る配信”始めていきます。今日のテーマは──『おでんにおける距離と関係性の哲学』です!」

 

>『キタキタキタキタキタ!!!!』

>『冬っぽい!!』

>『10万人超えても飯を語るスタイル、変わらんナギすき』

>『でも“おでんにおける距離”って何だよw』

 

わいわいと賑わうコメント欄を眺めながら、ナギは湯気が見えるような笑みを浮かべる。

 

「おでんって、色んな具材がひとつの鍋に入ってるじゃん?でも不思議なのが──溶け合わないんだよ。大根は大根のまま、ちくわはちくわのまま。でも、同じ出汁で、全部がつながってる。個として在りつつ、共同体である──つまり、“煮込まれても同一化しない社会”のモデルなんだ」

 

>『理想のダイバーシティきた』

>『煮崩れない社会……それが、おでん』

>『違っていい、でも一緒にいられる。それがおでん』

 

「ちなみに……みんな、おでんの中で一番好きな具って何?」

 

>『たまご!!!』

>『ちくわぶ!』

>『がんも!』

>『牛すじ!』

>『餅巾着!』

>『ウィンナー巻きとか言っていいですか!?』

>『トマト(小声)』

>『カマンベールチーズ入れる(ドヤ顔)』

>『!?!?!?!?』

 

「カマンベールはもはや別ジャンルなんよwww……ちなみに僕は大根派。ど真ん中。味がしみしみなやつ」

 

>『知ってた!ナギは大根って感じする』

>『おでんの大根=陰の支配者』

>『地味だけど一番染みてるやつな……わかる』

 

「でね──おでんの面白いところって、“距離”なんだよ。具と具が近すぎると、味が混ざりすぎて濁るし、離れすぎると温まりが悪い。たとえば、卵のすぐ隣に練り物があると、白身がしょっぱくなりすぎる。つまり、“どこに誰がいるか”で、その鍋の関係性って変わるんだよ」

 

>『距離感で温度が変わる……それ人間関係じゃん』

>『ちくわぶ=情が重い人説また来た』

>『鍋の中に哲学あるな……』

 

「コンビニのおでん、見たことあるでしょ?そこにいる具材って、自分では動けない。選ばれるのを待ってる。自分から何も言えなくても、“誰かが取ってくれるかもしれない”──それが、あのガラスの向こうに浮かぶ“おでん”って存在なんだよ」

 

>『俺も選ばれたい……』

>『誰かが来てくれるのを待ってる、俺も』

>『俺たちは……おでんだったんだな……』

 

「たとえ今日は選ばれなくても、鍋の中で温まり続ける。それって、“関係を保つ覚悟”じゃない?おでんは語らない。でも、ちゃんと伝えてくる。あまり近づきすぎず、離れすぎもせず、お互いの形を尊重しながら、出汁の中で温まり続ける──それって、“人と人が一緒にいられるための、最適な距離”なんだよ」

 

画面の中でナギが静かに微笑む。

まるで鍋の中に、じんわりと味が染みていくように、コメント欄も温かく染まっていく。

 

>『冬って、さびしいけど、おでんがあるだけで耐えられる気がする』

>『誰かと一緒の鍋に入れるような人生がほしい』

>『泣きながらおでん食っていいか……』

>『おでん哲学、心に染みた』

 

同じ鍋にいても、べったりじゃなくていい。

少し距離を置いて、それでも、じっくり温めあえればいい。

人と人も──具と具も。

 

──それが、“おでん”という名の、煮崩れない関係性。

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