三冠ウマ娘を育てたトレーナーが、引退したシービーと過ごしつつ新しいウマ娘と契約しようとした話。

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俺はウマ娘が好きなだけなんだ

 4月30日(火)

 

 初めて契約した俺の唯一な担当ウマ娘でクラシック3冠を取り、外ハネがあり、腰にまで伸びる長く美しい黒髪を持ったミスターシービーが昨日引退した。

 一緒に駆け抜けた3年間で最後のレースは春の天皇賞。

 これからシービーは大学進学へ向けて勉強を始めていくと言っていた。

 契約は卒業するまで続いてはいるが、あとは引退式と取材にファンサービスだけなので終わったと言ってもいいだろう。

 俺も時間ができるので、授業補佐やウマ娘関連の勉強にスカウト準備とやることはある。

 と、こういうことになったので心機一転しようという気持ちで日記を始めた。

 

 日記を書くなんて小学生以来でちょっと楽しい。

 この日記帳は学園の売店にあった、表紙にかわいらしい花の刺繍がついているものを選んだ。

 

 ※書くのを忘れないようにするため、日記帳はカバンに入れておくこと

 

 

 5月1日(水)

 

 シービーのことをあまり考えず、トレーナー室でまんじゅうやお団子を食べつつゆっくりと午前を過ごす。

 レースや練習メニューのことを考えないのは、なんだか心に穴がぽっかりと開いた気分だ。

 今になって思うと俺とシービーの距離感は近すぎた。

 あいつは時間があるとトレーナー室にやってきてはソファーで仕事をしている俺に膝枕をさせてきた。

 雨の中、散歩から帰ってきたときは俺に尻尾を含めた全身を拭かせてくるし、弁当だって週1回は作らされる。

 この距離感は27歳独身男性と高等部3年生とは思えない。

 

 もしかしたらこれがウマ娘とトレーナーの距離感なのか? と不思議に思い、職場の同僚であるトレーナーの東条ハナさんに聞いた。

 すごい冷たい目で見られ、大人として距離感を取れと怒られた。

 明日からシービーと適切な距離を取ろうと思う。

 

 

 5月2日(木)

 

 俺がトレーナー室でソファに座ってくるとき、後ろから抱き着いてくるシービーにこの距離感をやめようと言ったら不思議な顔をされる。

 唐突に言われれば、そうもなるだろう。だから丁寧に説明をした。

 恋人でもなく恋愛感情もない男女にしては距離が近すぎており、このままだとシービーに悪い噂や風評被害が来ると。

 その返事は「男女の友人としては普通じゃないの?」なんて言われた。

 男女のただしい友人関係とはなんぞや、と記憶を掘り起こすも軽いボディタッチのやりとりまでしかしてなかった。

 今のシービーは俺の肩にあごを置き、至近距離にいる。息遣いがすぐ耳元で聞こえるほどだ。

 はじめは俺に気でもあるのかと思っていたが、シービーは仲良しであるカツラギエースやシンボリルドルフ、マルゼンスキーと言った面々にも同じことをしている。

 同性相手で俺にも接しているんだろう。

 トレセン学園は女子高だから異性との関係がよくわからないのかもしれない。

 そうは思っても、異性での正しい友人的距離感がわからず、いつもどおりに過ごした。

 

 

 5月3日(金)

 

 トレーナーの勉強に使う教科書の最新版を買ってきたので、今日から本格的に勉強をする。

 今のままだと追い込みしか教えられないからな。

 本を読んで勉強して時々授業の補助をしながら、まだ未契約なウマ娘の走りを見ていると心がうきうきとしてくる。

 これから成長をしていく新入生のウマ娘たちを見るのは実に気分がよくなる。

 まだ未成熟な体がいかに成長していくかを想像すると特に。

 

 ただ、俺が3冠ウマ娘のトレーナーだからか、ウマ娘たちからの視線が熱く感じて居心地がちょっと悪い。

 そういうのは俺のスカウト準備ができてからにして欲しい。今、選んでしまうと能力より外見で決めてしまうから。

 シービーをスカウトした理由は、見た目で一目惚れして次に性格だった。

 何度もスカウトをしに行ったのは懐かしい想い出だ。

 

 

 5月4日(土曜日)

 

 今日はトレセン学園の休日で通常授業はない。

 だからこそ職員たちに余裕がある時間、ウマ娘たちとの距離感を学ぶためにチームスピカの沖野さんと会ってきた。

 沖野さんが指導するウマ娘とは遠慮のない関係をしていて、以前にチームスピカが人いっぱいだったときはまるで同学年の生徒同士のような気軽な関係で驚いた。

 今では自主性に任せすぎる指導方針に反発があり、ゴールドシップというウマ娘しかいなくなってはいるが。

 そんな沖野さんがいるトレーナー室にお土産(焼きニンジンとまんまる焼き)を持っていき、年頃の娘さんたちとどう会話すべきかの話をした。

 途中からは話が脱線してウマ娘のどういう太ももは素晴らしいかについて熱く語り合い始めてしまったのは反省する。

 

 昼食を食堂で食べたあとトレーナー室に戻ってくると、引退して練習がなくなったシービーがわざわざ来ていて学校の勉強をしていた。

 それは俺が帰る午後5時までいて、帰るついでに「たまには送ってよ」と言われたので一人暮らしをしているシービーの家まで送った。

 わざわざ俺を待っていたのは送ってもらうためだったのか。と、いうことを部屋に来て言ったときには無言で尻尾による叩きつけを食らった。

 俺が何を間違ってたと言うんだ。

 ひとまず、持っていたバッグの中からようかんを手に取り、口へと持っていき食べさせてなだめた。

 

 

 5月5日(日曜日)

 

 予定されていた雑誌のインタビューを受けた。

 今回はミスターシービーの引退特集ということで、クラシック3冠を達成したときよりも長時間の取材となった。

 レースを終えてからの生活のことや勉強、たくさんの写真を撮ってもらったシービー。

 

 シービーだけでなく、トレーナーである俺のことだ。世間の読者たちはウマ娘が見たいのであって、トレーナーについてはさほど興味がないと思う。

 事前に俺へも取材をすると申請されていたが、なんか俺個人の写真も撮られている。

 今までのシービーで苦労したことやこれからのシービーの活動について。あと、俺が新しくウマ娘をスカウトしてどうしたいかを聞かれたので答えてやった。

 その答えは、シービーよりも記憶に残るウマ娘、と。

 記録よりも記憶。

 3冠ウマ娘なんて早々出るもんじゃないし、こう言っておけば将来的に下手なことをしても言い訳がつくだろう。

 シービーが不満そうに尻尾と耳で俺をぺしぺしと叩きつけてきたが、こう言ったほうが無難な言葉だろう。

 インタビュアーの人に仲がいいですね、と言われた途端に機嫌がよくなってぺしぺし攻撃がなくなったので文句は言わなかったが。

 

 

 5月6日(月曜日)

 

 ひとりウマ娘たちに混じり、いつものスーツではなくジャージに着替えてレッスン室で自主練をしているウマ娘たちと一緒にダンスの練習をする。

 途中、雑談とたまに練習を見る程度な関係のウマ娘、ヴィルシーナに話しかけられる。

 その子は負けられない相手がいるらしく、教えてくれと言ってきた。教える代わりに未契約ウマ娘で能力が高そうな子の情報を教えてもらうことを条件とした、

 教えているうちに、他の知らないウマ娘たちに交渉を持ち掛けられ4人に教えることになった。

 

 ふと日記を読み返せば、全部シービーの話ばかりだ。

 脱シービーをしていかないと、すべてをシービー基準に考えてしまってスカウトも何もかもが高水準で考えてしまう。

 シービーのような、すごいウマ娘ばかりと契約できるわけじゃないんだから意識を変えていかないといけない。

 明日からひとりでやっていけるように頑張ろう。

 まずはシービーにお菓子をあげるのとボディタッチを減らそう。それに距離感も少し遠目に。

 

 

 5月7日(火曜日)

 

 昨日のダンスをやって全身筋肉痛になった。

 1日経ってからやってくるとは。

 全部ヴィルシーナが悪い。教えてくれって言ってこなければ、そこらにいたウマ娘に教えることもなかったのに。

 筋肉痛と体のだるさのため、シービーがトレーナー室に来てもしっかりとした会話ができなかった。

 

 

 5月8日(水曜日)

 

 筋肉痛がだいたい解消。

 教師から頼まれた資料作りを終えたあと、体を鍛えるためにランニングをする。

 学園近辺だとウマ娘たちになさけない体を見られるため、車で遠くへと行くことを決めた。

 だが、なにかに気づいたのか授業時間だというのにシービーがトレーナー室に来た。

 シービー離れをしたいのと、かっこ悪い姿を見られたくないから急用があると言って慌ててきた

 

 そして車でちょっと遠いところまで行き、ジャージに着替えてからランニングをする。

 新しい場所は見るのが新鮮で景色を楽しんでいたら迷子になった。

 慌てて来たためスマホを忘れてきたし、警察に頼ろうかと思ったときだ。

 俺を知っているトレセン学園の生徒がいて、その生徒は趣味である茶道関連の物を探すため、このあたりにはよく来ていて詳しいらしい。

 なのでお願いして駐車場まで道案内をしてもらった。

 

 途中、遠回りして景色の綺麗なところをゆっくりと歩いていき、夕日が川に映って綺麗な景色を見れたのには感動を覚えた。

 普段はシービーに振り回されてばかりだから、おしとやかな子と一緒に歩くのは新鮮で楽しかった。

 シービーに振り回されるのもそれはそれで好きだが。

 

 その子は車で寮へと送る。その途中では日本文化についての話がおおいに盛り上がった。

 盛り上がったが、助けてもらった子の名前ぐらい聞いておくんだった。

 学園で再会したら、なにかおごってあげよう。

 

 

 5月9日(木曜日)

 

 ここ最近は構ってやれなかったため、シービーが盛大にすねている。

 距離感が近すぎるのは健全な関係じゃないため、仕方のないことだと納得してもらいたい。

 意図的に距離を取ろうとしていることはあるが、シービーが引退して練習にかかりきりになることがなくなったため時間が空いている。

 その時間に学園側から教師補助、または教官としてウマ娘を指導してくれと言われたから思ってた以上にシービーといることが減った。

 新しく担当ウマ娘を持つまでは非常勤講師的な扱いになっているから、以前よりどうしても一緒にいられる時間がない。

 俺もシービーと接する時間が減ってさびしかったので、土曜日は一緒にお出かけすることを約束する。

 すごく喜んでくれたシービーを見るのは実に嬉しい。

 

 しかしまぁ。今まで俺たちは走ることばかりやっていたので、シービーには俺といる時間を減らして学生生活を楽しんで欲しいところだが。

 トレーナー室が過ごしやすいからといっても、引退したんだから変わらないといけない。

 そうでないと、27歳になっても片思いだけで終わって恋人がいない俺みたいになるんだからな!

 

 ……悲しくなってきたので、沖野さんに連絡をして一緒にバーへ飲みに行くことにする。

 仲良くウマ娘談義をして、ストレス発散をするぜ!

 

 

 5月10日(金曜日)

 

 今日は学園の選抜レースがあり、そこにおととい出会った子がいた。

 レース出走表によると彼女の名前はグラスワンダー。中等部2年だ。

 その彼女と出走前に軽く雑談をし、レースへと出走。

 道中、よろけた相手をかわすために態勢が崩れ、ハナ差の2着。

 レースが終わっても落ち着きがある彼女は、友人からの練習の誘いを断り帰っていった。

 

 俺はその帰っていく後ろ姿に惚れた。

 ずっと落ち着いていて、おしとやかな子だとばかり思っていた。

 それがどうだ、レースに負けたあとはすごく悔しいという雰囲気を出している。

 表情や声には出ず、だが仕草に怒りが満ちているのがわかる。

 

 ああいう子は強くなる。

 周囲のトレーナーたちが「悔しくないのかな」「勝ちにこだわりが薄いのか?」と言っているのが不思議だ。

 

 俺は彼女が背を向けていなくなるときに、揺れる髪が綺麗でじっと見ていてスカウトの機会を逃してしまった。

 幸いにも彼女はスカウトを全部断ったため、俺にもチャンスはある。

 

 スカウトするのは栗毛のグラスワンダーにしよう。

 彼女の走りは粗削りだが、将来的には輝くに違いない。

 精神性がすばらしく思えるし、なによりまっすぐに伸びた髪が美しいし。それと見た目からして好みだ。

 周囲のスカウトは全部断っていると夜になってから同僚たちに聞いたけど、どうしても俺の担当ウマ娘にしたい!

 

 浮気はダメだよ

 

 5月11日(土曜日)

 

 シービー怖い。




日記形式をやってみたかったんです。

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