「みんな~、強力な助っ人を用意したわ!」
「金を貰えると聞いてやってきました~」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
アルに案内されるまま、黒面は彼女の事務所を訪れた。迎えた便利屋68の社員たちは、三者三様に反応を示す。
「は、はい! どなたであろうとも、あ、アル様に従います!」
どもりながら答えたイエスマンは、伊草ハルカ。髪から衣服まで紫に彩られ、どことなく暗い雰囲気を醸している。
「プッ、アハハハハハハ! こりゃ、とんでもない助っ人だわ~!」
そう腹を抱えたのは、浅黄ムツキ。華奢な体躯に似つかわしくない、妖しい仕草の室長だ。
「社長、そんな大物どこで拾ってきたの?」
溜め息交じりに問いかけたのは、鬼方カヨコ。剃刀のような、人を寄せ付けない鋭さを持つ課長である。
「あら、皆はこの人のこと知ってるの?」
「いや、有名人じゃん。巷を騒がせてる七囚人」
「へ?」
「そういや、まだ名乗ってなかったな。爆走の黒面とは、私のことだ」
カヨコに促されると、黒面は改めて自己紹介をした。
それを聞いたアルは、本当になにも知らなかったらしい。みるみるうちに顔が青褪めたかと思えば、大袈裟に絶叫を上げた。
「なななな、なっ、何ですってーーーーーー!!!???」
お互い様だが、見切り発車で着いてきたことを早くも後悔する黒面なのだった。
「どうりで超クールだと思ったわ。そんな大悪党だったなんて・・・・・・」
「こ、この人は敵ですか? 消しましょうか?」
「おっ、やんのか?」
「やんない、やんないから!!」
ほどなくして、アルが落ち着きを取り戻したところで話が進められた。
「そ・れ・で、黒面ちゃんはどうして私たちの助っ人してくれるの~?」
「アル社長って言ったか? アンタの『金さえ貰えばなんでもする』って言葉にグッと来たのよ」
「うふふ。あの七囚人に認めてもらえる日が来るなんて、さすがは私!」
「さ、さすがはアル様です!」
少し褒められたくらいで天狗になるアルだが、カヨコとムツキは違う。黒面の悪名を考えれば、裏を勘ぐってしまうのは当然だろう。
「それだけでうちに協力するっての?」
「な~んか怪しい~。ムツキちゃん心配~!」
「ま、しゃあないな。結果で語るだけだ」
「『結果で語るだけだ』・・・・・・しびれる響きだわ!」
「・・・・・・お前らこそ、こいつに従ってて大丈夫か?」
アルと周りの温度差に戸惑いを隠せない一同。
しかし、こうなっては彼女は止まらないのは、長い付き合いで知っている。便利屋68は渋々黒面を助っ人として受け入れた。
「つーか、仕事ってなにやんだ?」
「ちょっと、なんにも聞いてないわけ?」
「金を貰えるって聞いただけだな」
「そうだったかしら?」
「社長・・・・・・」
気を取り直して、アルの口から仕事について語られた。一体どんな儲け話だというのか、黒面は目を輝かせて耳を傾ける。
果たしてそれは彼女にとって、大きな衝撃を受ける内容だった。
「聞いて驚きなさい。なんと、ある学園を襲撃するのよ!」
「が、学園を!? マジに言ってんのか?」
「マジも、マジ。大マジよ!」
このキヴォトスにおいて学園を相手取ることは、国を崩すようなもの。生半可な装備で成せる所業ではない。想像以上の仕事、いや、仕事の範疇を超えた重大任務である。
「悪いが、そんなヤマには付き合えねぇよ」
「えぇー!?」
さすがの黒面も、掌を返さざるを得なかった。
いくら彼女が怖いもの知らずの大強盗でも、身の丈に合わない危険は冒せない。一つの学園を襲撃するというのは、それだけのことなのだ。
「どこが標的か知らねぇが、無謀すぎんだろ。万に一つ成功しても、雪崩れるように他所の学園の恨みまで買いかねない」
「う、うぅ・・・・・・そう言われると」
「アハハ。そこは、だいじょ~ぶ☆ 学園って言っても、廃校寸前の場末だから」
「・・・・・・なんだと?」
ムツキの補足を聞くなり、黒面の顔つきが明らかに変わった。それはもう、辺りに冷風が吹き込んだかのような、空気を凍り付かせる気迫を帯び始めたのだ。
それを感じたムツキは、普段の悪戯好きが鳴りを潜む。言葉を慎重に選び、黒面を刺激しないよう説明を続けた。
「あ~、えっとね。在校生は5人くらい?って話だよ。校舎もボロボロで、なにもしなくても崩れちゃいそうなくらいなんだってさ」
「おい、それってまさか?」
「ふーん。あんたも噂に聞いてんだ?」
黒面には便利屋68の話に覚えがあった。その学園が彼女が思う通りの場所だとすれば、なんと因果なことだろう。
「アビドス高等学校、それが私たちの標的よ」
「そうか・・・・・・そりゃおもしろくなってきた・・・・・・」
黒い覆面の下が、禍々しく歪む。今、彼女の素顔がどうなっているのか、誰にも窺うことは適わなかった。
作戦実行日、便利屋68は助っ人を引き連れアビドスへ向かっていた。
後ろに列を成すのは、傭兵を営む名無しの生徒たち。社長の太っ腹な差配によって、十分な数が揃えられている。
その先頭で、バイクを手押しにしながら着いてくるのは爆走の黒面。ひょんなことから、アルと縁が生まれ飛び入りで参加した大強盗である。
「それで。急にやる気になったみたいだけど、良かったわけ?」
「文句あんのか、カヨコの課長さん?」
そんな彼女に、カヨコが耳打ちしてきた。
カヨコが不審に思うのも無理はない。黒面は始め、想定外の仕事内容に怖気づいていたのだ。それが、標的であるアビドスの名前を聞くなり、異様な気迫を立ち昇らせた。豹変と言っても良いくらいで、なにが黒面をそこまでさせるのか不思議なものだ。
「そんなに気負うことないじゃん。アンタは温存しておく秘密兵器、出番が来るかもわからないんだよ?」
「いいや、私は絶対に必要になるね。アビドスのことなら詳しいんだ」
「・・・・・・その口振り、あの話は本当みたいだね」
「・・・・・・意外とお喋りなんだな。ビックリして、轢いちまうかと思ったよ」
二人が険悪な空気を醸しているとも知らず、アルはアルで気落ちしていた。
「もう。アルちゃんってば、まだ気にしてるの?」
「だって、あの子たちにはご馳走してもらった恩が・・・・・・」
「わ、私は誰が相手だろうと、アル様がおっしゃる通りに消します!」
アルが黒面と出会う直前のこと、彼女たちはアビドスの生徒と偶然接触していた。お互いに素性を話さないまま、少しばかり交流を深めることができたのだ。
もっとも、唯一それに気づかなかったアルは、本気でアビドスと仲良くできると思っていた。それを反故にすることが、彼女の良心を痛めてならない。
「あ、見えてきたよ。アレじゃない?」
ムツキが指差す先、一つの校舎があった。
「あぁ、着いちゃった」
キヴォトスで最も長い歴史を持ち、嘗ては栄華を極めたとされる学園。今や砂漠に飲まれたことにより過疎化が進み、衰退の一途を辿る弱小校。多額の資金を投入するも事態は好転せず、借金が膨らむばかりという有り様。
一同の標的、アビドス高等学校がそこにあった。
「ここも変わんねぇな」
人知れず漏れた黒面の呟きは、決して感嘆などではなく、むしろ嫌悪を孕んだ声色だった。やはりと言うか、黒面とアビドスの間には、浅からぬ因縁があるようだ。
「それじゃあ皆、手筈通りにお願いね」
「もちろん。なんでもいいけど、残業はナシでね。時給も値切られてるし」
「あーーーーッ!」
段取りを確認する便利屋68、そこにつんざくような絶叫が割って入った。
皆が振り返れば、校門前にアビドスの生徒が集まっていた。先ほど声を上げた猫耳の少女が前に出て、アルに向かって批難を浴びせる。
「誰かと思ったらあんたたちだったのね!! ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」
猫耳の少女こと黒見セリカに怒鳴られ、アルは気まずそうだ。
それからしばし言葉の応酬が続き、お互い語ることがなくなると直ちに戦闘に入った。たちまちアビドスの校門前が、銃声と硝煙に包まれていく。
「なんだよ、思ったよりやるじゃん」
その様子を黒面は陰から見守っていた。彼女は作戦の秘密兵器、合図があるまで隠れて待機するよう指示されている。
戦局を遠目に窺うと、人数差に反して殊の外拮抗しているのがわかる。物量を頼りに攻める便利屋68側に対し、アビドスは的確な動きで前線を維持しつつ、着実に戦力を削いでくる。どこか不自然なくらいにだ。
「裏になんか、指揮官かなにかが控えてるのか?」
その予測は当たっていた。便利屋68が黒面という助っ人を得たように、アビドスもまた思わぬ援助を受けていたのだ。
「おいおい、私の知ってるアビドスじゃねぇぞ・・・・・・お?」
不安に苛まれる黒面に、アルから合図が送られた。いよいよ出番だ。
「どこまでやれるかわかんねぇけど、派手にやってやろうじゃねぇかァ!!」
跨るバイクを吹かし、爆走の黒面が稲妻のように飛び出した。
満を持して参陣した爆走の黒面。戦場がかき乱され、対策委員会は窮地に立たされる。
そんな中、黒面に呼び掛ける声が上がった。今更、なにを話すことがあるというのか?
次回、【対策委員会と先生、そして・・・】――お楽しみに!