宇宙の再構築すら可能とされる“オメガコード”──
それを追って動き出したのは、絶対秩序を掲げる多元宇宙管理局・MMB。
ニック・フューリーの依頼を受け、少年ダークヒーロー・真神龍斗と傭兵デッドプールは、オメガコードを先に確保すべく惑星アルタナへと向かう。
だが、その行動が、宇宙の運命を揺るがす“最悪の一日(バッドデイ)”の始まりだった――。

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ニューヨーク、S.H.I.E.L.D.地下第13セクション/時間:深夜3時32分

低く唸る電子音と共に、巨大なホログラムが点滅する。
画面中央には「Ω」の文字と未知の構造式。宇宙マップでは、一点だけ赤く脈動する星がマーキングされていた。

ここは、S.H.I.E.L.D.が極秘裏に運用する多元宇宙ネットワーク監視室。
“MMB(多元宇宙管理局)”—多元宇宙の秩序基準を定め、逸脱を監視する機関—が公表するしきい値を、彼らは独自に追っている。

「……オメガコード。ついに反応を示したか」

黒のトレンチコートに片眼帯。ニック・フューリーは低く呟く。
薄暗い室内で、エージェントたちの視線が一斉に彼へと集まった。

「この情報はレベル10以上の極秘だ。外部アクセスは全遮断。
MCA(多元宇宙取締局)には絶対に渡すな。……あいつらは手段を選ばない」

「ですが、局長。MCAは我々の上位機関です。逆らえば──」

フューリーは振り返らず、硬い声で遮った。

「“正義”を名乗る奴らほど信用ならん。いいか、あれは宇宙そのものの中枢コードだ。
奴らが手にした瞬間、“すべて”が作り替えられる」

その瞬間、重いドアが乱暴に開いた。

「Yo! 呼ばれて飛び出てデッドプール! お久しぶりフューリーさん!
……ん? 機密の話? じゃあ耳塞ぐ──って嘘だよ!」

赤いスーツの傭兵がドヤ顔で入ってくる。
その背後、黒いフードを深くかぶった少年が静かに歩み出た。鋭い視線がフューリーを射抜く。

「……依頼内容を。手短に」

フューリーは鼻で笑った。

「真神龍斗、そしてデッドプール。君たちにしか頼めない任務だ。
惑星アルタナに眠る“オメガコード”の回収。それが目的だ」

「“オメガ”って時点でフラグ立ちすぎ。で、どんなコード?」

「オメガコードは、宇宙構造そのものを再定義する“情報の塊”だ。存在自体が危険だ。
それ以上に厄介なのは──」

「──MCA……だな?」

龍斗の瞳に、わずかな警戒が灯る。

「そうだ。あいつらは表向き秩序の管理者、裏では“必要とあらば宇宙一つ潰す”連中だ」

「任務は明快だ。先にオメガコードを入手し、MCAの手に渡さない。破壊ではなく、確保だ。……いいな?」

龍斗は無言で頷き、黒刀の鞘を握った。

「それが依頼なら、受ける。報酬は?」

「……デザートと本を数冊。後で届けさせる」

「完璧だ」

「で、俺の報酬は!? 愛!? 名誉!? チョコケーキ!?」

「……オレの平和な夜を返せって請求書なら出すぞ」

「アァ"〜も〜分かったよ。ノーギャラでいい、」

こうして、S.H.I.E.L.D.は二人に極秘任務を託した。

―2時間後―


深夜。外の空気も、機械の匂いも、全部が静かすぎる時間帯。

照明が少しだけチカついて、その下を黒い影がひとつ通り抜けた。
フードを深くかぶった少年だ。
小柄なのに、一歩ごとに空気がピンと張る。そういう存在感。

肩から胸を斜めに走るストラップ。
背中には黒刀が二本、静かに揺れている。
フードの奥で、白い髪が薄く光った。

——真神龍斗。
十三歳のはずだが、その場にいる誰より“落ち着き”と“刺さるような冷静さ”を持っていた。

少年は歩きながら、腰のホルスターを指先で軽く叩いた。
そこには、無駄なく整備されたカスタムデザートイーグルが収まっている。

と、その前に——

「おーい龍斗くーん、こっちこっち!」

あまりにも場違いなテンションの声が響く。
赤い全身スーツ、派手な武器の山、落ち着きの欠片もない歩き方。

デッドプールがスポットライトの下で腕をぶんぶん振っていた。

「今日も黙っててクールだねぇ!? 13歳でその雰囲気ってどういう育ち方したの!?」

「……騒ぐな。目立つ」

「いやもう目立つ前提の服着てるヤツに言われたくないんだけど!?」

龍斗はスルーした。

その瞬間——

警報が鳴る。

金属の壁を震わせるような低音。
赤いランプが、まるで“嫌な予感”みたいにゆっくり明滅する。

スピーカー越しにフューリーの声が飛ぶ。

「第13航空デッキに未確認ドローン接近。
……お前ら、構えておけ」

デッドプールは肩をすくめた。

「いや早くない? 出発前の挨拶レベルじゃん?」

龍斗はもう刀に手をかけていた。

「違う。これ……“狙って”きてる」

上空を見上げる。
暗闇の中、赤い光点がいくつも滲んでくる。
連なり、形になり、数十機の黒いドローンが現れた。

デッドプールは銃を抜きながら手を叩いた。

「はい拍手〜! 開幕バトルの時間ですー!
カメラさーん、寄って寄って!」

カメラなんてないのに、ちゃんと“そこを見る”のが彼らしい。

ドローンの照準レーザーが一斉に点灯した。
赤い線が床を横切り、二人を狙う。

龍斗は、ため息ひとつ分の間すら置かずに走った。

影が弾ける。

黒刀が抜かれた瞬間、光でも音でもなく、
“空気が裂けた”ような感覚だけがデッキを走る。

——斬線。

ドローンが十体、まとめて動きを止め、
次の瞬間には金属片になって降り注いだ。

「ちょっ……早くない!? 俺の見せ場どこ!?」

デッドプールは文句を言いながらも、反対側で銃を撃つ。

タタタタタッ!

弾丸がドローンの外装を破り、火花を飛ばす。
彼は壁を蹴り、回転し、逆さまになりながら発砲。
着地と同時にスローで親指を立てる。

「今の絶対映画ならポスターになるやつ〜〜〜!!」

龍斗はまったく聞いていない。
地面を滑り込みながらナイフを一本投げた。

その投擲は静かだった。
だが、ドローン三体の中心回路を“直列で貫通させる”という理不尽な結果だけ残した。

デッドプールは両手を挙げた。

「ほらね!? こういう天才が身近にいるとさぁ! 俺の努力型ヒーロー感ゼロになるの!!?」

龍斗は刀を収めながら言う。

「……任務中だ。黙れ」

「俺の扱いひどくなーーい!?」

最後のドローンが火花を散らして落ちた。

「……片付いたか?」

デッドプールは無駄に元気よく答える。

「見てた!? 俺の回し蹴りスナイプ!!?」

「見てない」

「だよねぇぇぇ!」

龍斗は短く報告を入れる。
その間に通信機が鳴り、フューリーが口を開く

「敵、全機排除。……起動の仕方が不自然だった」

フューリーの声が少しだけ低くなる。

「……やはり“奴ら”だな。
MCAが動き始めた。
悠長にしてる暇はない。すぐ“グレイ・ジェット”に乗り込め」

龍斗はフードを深く被り直す。

「……行くぞ、デッドプール」

「はいはい、クールボーイ。そういうところ好きだけどね!」

二人は飛行機へ向かって歩き出した。

Ωコードをめぐる戦いは、もう始まっていた。


順序
災厄の始まりの日


宇宙の深部に浮かぶ巨大な要塞型ステーション。

星間航路の陰でひっそりと呼吸するこの“市場”では、

武器の値段も命の重さも、今日の天気みたいに平気で変わる。

 

金属扉が一枚、爆発するように吹き飛んだ。

真紅の傭兵が、まるでヒーロー着地の練習中みたいに派手に転がりながら飛び込んでくる。

 

「どーもー! 宇宙裏社会のみんなー、俺ちゃんだよー! 今日の目標は最高にヤバいお宝でーす!」

 

誰も拍手しない。

むしろビーム銃の安全装置を外す音ばかりが響く。

 

そんな喧噪の中、デッドプールの影から現れたのは、

黒装束の少年だった。

 

フードの奥、白い髪が青白い光を反射して揺れる。

背にはアダマンチウム製の黒刀が二本、静かに交差している。

少年は何も言わず、足音さえ空気に溶かしながら前に出た。

 

「……任務は終わってる。騒ぐな、デッドプール」

 

「いやちょっとは騒がせてよ! 主役だよ俺!? ねぇ!?」

 

龍斗は無視して、手に持つ冷却装置を見下ろした。

その中心には黒い小型データ盤——“Ωコード”。

ただのデータではない。

触れているだけで、胸の奥の生存本能を逆撫でするようなざわつきが走る。

 

(……これは、世界そのものを揺らす)

 

龍斗がそう感じた瞬間、

要塞全体の照明が赤に染まり、耳障りなサイレンが鳴り響いた。

 

「警告。Ωコード強制移送失敗。MCAへ緊急報告を開始——」

 

「おいおいおい! ねぇ龍斗くん、これマジでヤバいやつじゃん!? “触ったらダメな箱”の匂いしかしないよ!? フューリーめぇ!」

 

龍斗はすでに駆け出していた。

黒刀の鞘が腰で揺れ、長い影を引く。

 

「急ぐぞ。捕捉される前に離脱する」

 

二人は破壊された廊下を突っ切り、デッドプールのタイムポータルに飛び込む。

 

吐き出された先は、寂れた荒野。

風が冷たく、砂が金属のように尖っている。

朽ちたビル群は骨の塔のように立ち尽くし、遠い昔に“ここが都市だった”名残りだけが残っていた。

 

「ここ、まじで無人……?ホラー映画の“最初に死ぬ場所”だよこれ」

 

「元はM.M.Bの実験区画だ。誰も来ない。だからこそ——」

 

龍斗が言い終える前に、

空が唸り、巨大な影が差し込んだ。

 

上空に降下船団。

まるで雲ごと張り替えたような圧倒的質量で、惑星の空を塞ぎ込む。

黒い重装スーツの兵士が次々に降下してきた。数百、いや千に近い。

 

龍斗の背筋に、嫌な予感が微かに走る。

 

(……来たか。MCA)

 

降り立った司令官は無駄のない動きをし、ただ一言だけ告げた。

 

「Ωコードを返還しろ。

宇宙の整合性に関わる。貴様らに選択肢はない」

 

デッドプールは数秒黙り込み、司令官を指差した。

 

「ねぇ君……その黒スーツのピッチリ具合。どう見ても“メン・イン・ブラックの亜種”だよね?」

 

司令官の目がほんの少しだけ細まった。

 

「……我々を地球の喜劇と同列に語るな。MCAは宇宙そのものを統治する」

 

「出たー! 権力者の一番寒い決め台詞! 龍斗君、今の顔見た? 完全に“管理職のラスボス”!」

 

龍斗はため息をひとつ落とした。

 

「……煽るなと言っても無駄か」

 

司令官が腕を上げた。

 

次の瞬間、空から光弾が雨のように降り注ぐ。

峡谷の影が白く照らされ、砂と石が爆ぜる。

 

デッドプールは身を翻し、

まるで踊るように弾幕の中を駆け抜けた。

 

「うわこれ! スター・ウォーズのブラスターより速いんだけど!? ちょっと監督カット!?」

 

銃声が混じる。

赤いスーツの彼はふざけているように見えて、撃つべき点だけは外さない。

 

龍斗は静かだった。

黒刀を抜いた瞬間、周囲の空気が一段引き締まる。

 

飛来する光弾が、

——斬り割られた。

 

光に傷が入る。

それほどの速さで、刀が空間を断ち切っていた。

 

「……効かない。軌道は読める」

 

ほんの一瞬、龍斗の視界に数十のデータが重なる。

兵士の装甲の継ぎ目、動力炉の位置、関節の可動範囲。

全部が“弱点”として浮かぶ。

 

超光速演算。

動く前に、戦いの結末が見える。

 

黒刀が走り、三人の重装兵が静かに崩れ落ちた。

 

司令官が低く命じる。

 

「シールド展開」

 

空気が歪み、透明の結界が広がる。

内部の兵士の火力が一気に跳ね上がり、先ほどの比ではない弾幕が襲いかかってきた。

 

デッドプールは銃を見て叫ぶ。

 

「バリアとか聞いてないんだけど!? 俺の銃、こういう時マジでカスなんだよ!!」

 

「なら、割る」

 

龍斗は地面を蹴り、跳躍。

わずかに揺らぐ結界の“薄い点”を正確に見抜き、

黒刀をそこへ突き立てた。

 

光が裂ける。

静かに、綺麗に、真っ二つ。

 

司令官の声が裏返りかける。

 

「な……!? あれが人間の動きか……!」

 

その裂け目を見逃すほど、デッドプールは鈍くない。

 

「はいはーい! 開いてますよね!? 開いてるってことは入っていいんですよね!?」

 

彼は飛び込みざま、手榴弾を大量に投げた。

 

爆炎が峡谷に吹き荒れ、

朽ちた都市の影が大きく揺れた。

 

だが上空には、さらに別の降下船団の影。

いくら倒しても、終わりが見えない。

 

デッドプールは焦りながら叫ぶ。

 

「ねぇ龍斗! 無限湧きってズルくない!? 俺これ一人だったら冒頭で死んでるよ!?」

 

龍斗は淡々としていた。

 

「……退くぞ。ここは戦う場所じゃない。死んだら意味がない」

 

「撤退! 了解! 俺は撤退系男子!!」

 

デッドプールがタイムパッドを操作し、

橙色の四角いゲートが展開した。

 

背後から、地形ごと吹き飛ぶほどの砲撃が迫る。

 

龍斗は地面を蹴って走り出す。

その一瞬遅れて、デッドプールも走り始めた。

 

「飛べ! リトルファング!」

 

「……その呼び方、次言ったら斬る」

 

二人はほぼ同時にゲートへ飛び込み、

背後で峡谷全体が白い閃光に飲み込まれた。






空中の低い位置に開いたゲートから、二人は転げ落ちた。
着地の衝撃で、タイムパッドが崖の先へ滑っていく。

「やべ、俺ちゃんたちの秘密道具……!」

デッドプールが慌てて追おうとした瞬間、足元の岩盤が崩れ落ちた。
砂塵が巻き上がり、乾いた風が顔を叩く。

視界を覆うのは、赤茶けた砂と灰色の空。
地平線の先まで荒廃した世界が広がり、錆びたビルや壊れた戦車が砂に半分埋まっていた。
遠くでは、崩れた高速道路の骨組みが空に突き刺さっている。

――ここは、“虚無(The Void)”。
多元宇宙から排除された時間と存在が吹き溜まる、終末の荒野。

「……まるでマッドマックスの世界だな」
龍斗が呟く。

「だろ? 実は俺、前にも来たんだ。『デッドプール3』のときな。
あの時も砂と地獄とライアン・レイノルズのギャラしかなかったぜ」

「つまり……知ってる場所ということか」

「まあな! 観光地案内してやるよ、リトルファング。
こっちの砂丘の向こうに廃墟バーがあったはずだ。看板には“Welcome to the End”って書いてある」

「……そんな場所に二度も来る奴がいるか?」

「俺ちゃんは例外中の例外だ。しかも“続編”で再登場!」

龍斗は無言でため息をつき、歩みを進めた。
砂の感触はざらつき、足を取られる。風は焦げた鉄の匂いを運んでくる。

二人は崩れた道路を進みながら、景色を見渡した。
地平線には、溶けかけた巨大なロボットの残骸。
空には、紫の裂け目が幾重にも走り、雷光がときおり空間を切り裂いていた。

「……酸素はあるが、空気が濁ってる。おそらくここは“時間の廃棄場”だな」
龍斗は分析するように呟く。

「つまり宇宙の廃棄場ってことか? なるほど、
じゃあ俺たちは今、“宇宙の不燃物”ってわけだ!」

「……喋る余裕があるなら前を見ろ」

「はいはい、俺ちゃんはベテラン観光客ですよっと」

二人は錆びた高架下を抜け、風にあおられながら歩く。
次第に、地面が微かに震え始めた。

「……今の、聞こえたか?」

「風じゃないな。地鳴り……いや、違う。もっと深い」

砂の奥から響く、低く唸るような音。
風の流れが変わり、遠方の空がゆっくりと暗く染まっていく。

龍斗の表情がわずかに強張った。
「何かが、起きている……」

次の瞬間——空が裂けた。
砂嵐の中から、雷鳴を纏った巨大な影が現れる。

雲と闇と稲妻が混じり合い、世界を喰らうように形を成していく。

“アライオス”——時間そのものを喰らう獣。

「……あー、コイツもいたな。そういや前回、俺ちゃん逃げるだけで精一杯だったわ!」

「逃げるぞ!」

「言われなくても分かってるって!」

崩れた瓦礫を蹴り、二人は砂嵐の中を走り出した。
虚無の風は皮膚を裂くほど冷たく、雷鳴が追いかけるように轟く。

「おいリトルファング! 確かこの辺りに――あった!」

デッドプールが指差した先、崩れた高架橋の影に、朽ち果てた車の群れが砂に埋もれていた。
装甲トラック、燃料タンク車、スーパーカーの残骸が無造作に重なり合っている。

「ここ、前に俺ちゃんが隠れてた“スクラップ墓場”だ!
映画撮影のときもここでエンジンふかしたんだぜ!」

「撮影……?」
龍斗は一瞬だけ呆れたように眉を動かしたが、すぐに現実に戻った。

「どれが動く?」

「多分コレ! エンジン、マジで“生きてる”感あったんだよなぁ!」

デッドプールは、砂に半分埋まった古い改造車のボンネットを叩いた。
外装は錆びているが、エンジンは異様に綺麗だ。
龍斗が無言でボンネットを開けると、中には見慣れぬ光るエネルギーコアが組み込まれていた。

「……これは多元エネルギー炉。MCA製か……?」

「そう! 俺ちゃん、前にここで盗もうとしてバレたやつ!」

「そういうことは早く言え……!」

龍斗が配線を調整し、デッドプールが勢いよくイグニッションを回す。

ガァンッ――!

轟音とともに、エンジンが唸りを上げた。
黒煙と砂を巻き上げながら、改造車が再びこの終末の地で息を吹き返す。

「よっしゃああ!! “マッドプール号”再起動ぅぅぅ!!」

「名前がダサい……!」

龍斗が助手席に飛び乗る。デッドプールは笑いながらギアを入れ、アクセルを踏み抜いた。

タイヤが砂をえぐり、火花が散る。
背後では、アライオスが姿を変えながら迫ってくる。
闇と雷の塊が、まるで巨大な嵐の壁のように地平線を覆っていた。

「速く……もっと速く行け!」

「アクセルは床まで踏んでる! 俺ちゃんの足が消し飛びそうだぞ!」

「なら、壊す覚悟で踏め!」

車体が跳ね、砂丘を飛び越える。
空間が歪み、空は裂け、遠くで過去の街並みが蜃気楼のように揺れる。

「この感じ、懐かしいなぁ……あの時も同じだ。
まるで世界がフィルムの外側に落ちてくみたいな――!」

「余計な感想は後にしろ!」

風景がぐしゃりと潰れ、次の瞬間、車の前方に影が現れた。
――もう一台の車。
ピンクと黄色の車体、前面には巨大なアイスオブジェ。

「……またコイツか! ムーンナイトの奴の残骸だろこれ!!」

「ふざけてる場合か!」

衝撃。
車体が横転し、砂とガラスが舞う。
重力が狂い、上下の感覚が失われたまま、二人は宙を舞った。

——ドンッ!

砂の地面に叩きつけられる音が響く。
鉄の匂い、焼けた砂の熱。世界が一瞬、静止したように感じた。

息を吸う。肺が焼けるほど痛い。
デッドプールが咳き込みながら立ち上がる。

「生きてるか!」

「ギリギリ。だが……アライオスが来る。」

地平線の向こうで、黒い稲妻がうねりながら近づいていた。
砂塵を吹き飛ばしながら、時間そのものを食い破るように迫ってくる。

「走るぞ!」

「了解、再び“映画の続き”だな!」

息をする暇もなく、二人は荒野を駆けた。
空の裂け目が広がり、地面が沈む。
その途中、龍斗の視界に光が走る。

「……あった!」

崩れた岩の隙間に、タイムパッドが埋もれていた。泥と砂にまみれながらも、形は無事だ。

「拾った。」

「グッジョブ相棒!! 今度は絶対に落とすなよ!!」

龍斗が装置を起動する。橙色の光が虚無を裂き、ポータルが開く。
黒い触手が目前に迫るなか、デッドプールが叫ぶ。

「行くぞリトルファング! ここは地獄すぎ!」

「言われなくても」

二人で同時に跳び込む。
虚無が崩れ、すべての音が消えた。

——次に見たのは、青い空。
息を吸う。肺に“現実”の空気が流れ込む。

二人は確かに生還した。
だが、俺たちの“最悪な一日”は、まだ終わらない。

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