「幸せ」は人それぞれ

「カクヨム」様にも掲載しています。

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藤思ふ桜想ふ

 ある日の放課後、人がほとんどいない教室に男女二人きり。一見すると告白の現場のようだが僕たちの場合は違う。

 

「ねえ、どうやって誘えばいいと思う?」

 

 僕のクラスメイトであり、幼馴染でもある桜木(さくらぎ)(つむぎ)は椅子を揺らしながらそう言った。

 彼女は今、バスケ部の藤原(ふじわら)先輩に片思いをしている。運動神経抜群でルックスも完璧な藤原先輩を狙っている女子は数多く、僕はそんなライバル達を蹴散らすための作戦会議に度々召集されているのだ。

 今回の議題は夏休みが近いということもあって「どうやって藤原先輩を夏祭りに誘うか」である。

 

「ねえ和也(かずや)、聞いてる?」

 

「聞いてるよ。普通に誘ったらいいんじゃないの? 『一緒に夏祭り行きませんか』って」

 

 僕がそう言うと、紬は寄りかかっていた机に突っ伏してふくれっ面を浮かべる。どうやら期待していた答えではなかったようだ。

 

「ちょっと、真面目に考えてよ! そんな普通過ぎる誘い方じゃ他の子に盗られちゃうじゃない!」

 

 失礼な。僕はいつだって真面目だというのに。この学校の先生のうち十人に「(たちばな)和也君とは一体どんな人なのですか」と聞けば、そのうち五人は「とても真面目な素晴らしい生徒です」と答えてくれるはずだ。多分。

 

「こういうのはシンプルなほどいいんだよ。変に記憶に残ろうとして大滑りするのが一番ダメ」

 

「大滑りするとは限らないでしょ」

 

「悪いことは言わないから普通に誘いなよ。男ってのは女子に夏祭りに誘われるだけで意識する生き物なんだから、変に工夫しなくてもいいの。料理だって下手にアレンジするよりレシピ通りに作ったほうが美味しく作れるだろ? それと一緒だよ」

 

 そういうもんかなあと呟く紬にそういうもんだよと返しながら、自分の荷物をまとめ終えた僕は時計に目をやる。時刻は十六時十分、部活が始まるまであと五分だ。

 

「紬は今日も部活あるんだろ? 時間やばいよ」

 

 そう言うと紬はちらと時計を見やり、慌てて立ち上がった。

 

「やばっ、本当じゃん! じゃあね和也、また明日! いつも相談乗ってくれてありがと!」

 

 そう言い残すと、紬は何度も机に体をぶつけながら慌ただしく教室を後にした。

 

 ……さて、僕もそろそろ帰るとするかな。

 いつもなら部室へ向かうところだが今日は部活が休み。紬の恋愛相談も終わった今、僕には学校に残り続ける理由なんてない。

 それに今日は友人の竹田(たけだ)と帰りにゲームセンターに行く用事があるのだ。友人を待たせすぎるというのもあまりよろしくないだろう。

 どこにいるのかと連絡してみると、数秒もたたないうちに正門で待っているという旨の返信が来た。気持ち駆け足で正門に向かえば、竹田は僕に気が付いたようでスマホをいじる手を止めて大きく手を振る。

 

「遅ぇよ、橘。待ちくたびれたぞ」

 

「ごめんごめん。紬の話聞いてたら結構長引いちゃってさあ」

 

 手を合わせてそう謝ると、竹田は呆れたような表情を浮かべた。

 

「お前、また桜木の恋愛相談の相手してたのかよ……。お前も大変だよな、惚れた女に恋愛相談されるなんて」

 

 はて、一体何処で聞いたのだろう。

 僕が紬に恋愛感情を抱いているというのは確かにその通りなのだが、高校に入ってからそれを他人に話した記憶はない。

 戸惑いを隠せずにいると、竹田は「わかりやすいんだよ」と言って軽く笑った。

 

「お前はすげぇよな。俺なら耐えられねーよ、好きな相手の恋を応援するなんて──」

 

「だからこそだよ」

 

 怪訝な顔をされた。想定していた返答ではなかったらしい。

 とはいってもごく簡単な話だ。取り柄も特にない僕より、藤原先輩のほうが紬と釣り合っているのは明白。僕といるより、藤原先輩と一緒にいるほうが彼女は幸せになれるだろう。僕は放課後に一緒にいられるだけで十分だし、紬が幸せになれるならそれが一番。

 彼女が幸せでいることこそが僕の幸せなのだから。

 

「ま、いいや。そろそろ行こう」

 

 そう言っていつの間にか伏せていた顔を上げ、笑いかける。

 そんな僕を見つめる友の顔は何故だか酷く歪んでいた。


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