妖精が見えた少年   作:HYDRATION

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処女作です。こんな作品ないかな~と思っていろいろ探したけどあんまりなかったから書きました。
いろいろな作品から発想を得ている部分が多いため、表現が被ったりすることもあるかもしれませんが、大目に見てください。お願いします。
今後の展開はある程度は考えていますが、ほぼ見切り発車です。
週に一回は投稿できることを目指します。


プロローグ
ぼくと妖精


ぼくの名前は、碧海(あおみ) (まもる)

 

 

 

ぼくの世界は、家族と、おやつと、おもちゃと、笑顔でいっぱいだった。

 

 

 

……そう、あの日までは。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「鎮、3歳のおたんじょうび、おめでとう!」

 

 

 

おかあさんの元気な声といっしょに、ロウソクが3本立てられたケーキが、テーブルの真ん中に置かれた。

 

 

 

そのケーキの上には、甘そうなホイップクリームがくるくると渦巻いていて、

一番上には、ぼくの大好きなあのヒーロー──アンパンマンの顔がチョコで描かれていた。

 

 

 

「アンパンマンだ! アンパンマンだー!!」

 

 

 

両手をぶんぶん振ってはしゃぐぼくを見て、おとうさんとおかあさんがにこにこしてる。

おとうさんはスマホのカメラを構えて、「こっち見てー!」と笑ってる。

 

 

 

「ふーするよ! ふーするのー!」

 

 

 

「うん、鎮、がんばって!」

 

 

 

ロウソクの炎が、ゆらゆらと揺れている。

「せーの」の合図も待たずに、ぼくは思い切り息を吸って──

 

 

 

「ふーーーーーっ!!」

 

 

 

一気に吹き消すと、まわりから拍手がわあっと響いた。

 

 

 

ぼくの、人生で3度目のたんじょうび。

だけど、はじめての記憶に残るたんじょうび。

 

 

 

なぜなら──このあと、すごくふしぎなことが起こったから。

 

 

 

 

 

ふと、テーブルのケーキのまわりに、何かが見えた。

 

 

 

 

 

ひらひらと、まるで光るちょうちょみたいに、小さなものが飛んでいる。

でも、それはちょうちょじゃない。

ちゃんと手と足があって、スカートみたいな服を着ていて、背中には透明な羽根。

 

 

 

それはまるで……ちっちゃな“ひと”みたいだった。

 

 

 

「あれ……?」

 

 

 

思わず手を伸ばすと、その小さな“ひと”がくるくるっと回って、ぼくの目の前にふわっと降りてきた。

 

 

 

近くで見ると、ほんとうに人のかたちをしてる。

それも、セーラー服みたいなかわいい服を着た女の子。

 

 

 

その子はぼくの手のひらにとまって、まっすぐこっちを見て──にこっと笑った。

 

 

 

「……こんにちは、まもる」

 

 

 

「……!?!?」

 

 

 

言葉が出ない。だって、その声は、耳の奥に直接届くみたいで、まるでおとぎ話の中にいるみたいだった。

 

 

 

「わたしたちはね、『妖精』。まもるが三歳になったから、お話できるようになったんだよ」

 

 

 

「よう、せい……?」

 

 

 

「うん。まもるにしか見えない、小さなともだち」

 

 

 

うしろをふりかえると、ケーキの上にも、テーブルのうえにも、空中にも。

同じような小さな妖精たちが、楽しそうに飛びまわっていた。

 

 

 

「ねぇ、おかあさん! この子たち、だあれ?」

 

 

 

ぼくが大きな声でたずねると、おかあさんは首をかしげた。

 

 

 

「この子……? どこに誰かいるの?」

 

 

 

「ここだよ! ほら、飛んでるの!」

 

 

 

指さしても、笑顔で首をふるだけ。

 

 

 

「鎮、今日は元気いっぱいだから、なんでも楽しく見えちゃうのかな?」

 

 

 

「ちがうよ! ここにいるもん!!」

 

 

 

──でも、見えてないらしい。

 

おとうさんも、ちかづいて見てくれたけど、やっぱり見えてなかった。

 

 

 

「ふーん……へんなの」

 

 

 

ぽつりとそうつぶやいたぼくに、手のひらの妖精がふわっと立ちあがって、言った。

 

 

 

「だいじょうぶ。見えないだけで、ちゃんといるから。

まもるが見えるってことは、それだけ特別な力を持ってるってことなんだよ」

 

 

 

「ちから……?」

 

 

 

「うん。これは、『個性』。まもるの、世界にひとつだけの、ちからだよ」

 

 

 

個性──それがどういうものなのか、ぼくにはまだよくわからなかった。

 

でも、この子がすごくやさしいことと、

なにより、“ほんとうにいる”ってことだけは、ちゃんとわかった。

 

 

 

その日から、ぼくの世界には妖精たちがふつうにいるようになった。

 

 

 

朝おきたら、布団のうえにちょこんと座ってる。

ごはんのときは、お皿のはしっこに小さなお皿を置いてる。

お風呂に入ると、洗面器のふちに腰かけて、あわで遊んでる。

 

 

 

それが、とってもたのしくて、うれしくて。

 

 

 

──そして、それが、ぼくにとって、いちばん大切な“ふつう”になった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

それからの日々、妖精たちはずっと、ぼくのそばにいた。

 

 

 

気がつくと、朝目を覚ますたびに、カーテンレールの上で妖精たちが寝転んでいたり、

ぼくの使っているクレヨンを並べ直してくれていたり。

 

 

 

「おはよう、まもる!」

 

「今日も元気だね!」

 

 

 

あたりまえみたいに話しかけてきて、

ぼくもあたりまえみたいに返事をして、

いつのまにか、一緒にいるのが当然になっていた。

 

 

 

──でも。

 

 

 

それは、ぼくにとってだけの“ふつう”だった。

 

 

 

年少さんになって、ようちえんに通うようになったころ。

 

はじめて妖精の話をしたとき、先生はやさしく笑ってくれた。

 

 

 

「鎮くんは、想像力が豊かなんだね〜」

 

 

 

でもそれは、本当の意味で信じてくれた笑顔じゃなかった。

 

 

 

クラスのおともだちは、妖精の話を聞いて、最初は興味をもってくれたけど、

あるとき、ひとりが「うそつき!」って言った。

 

 

 

すると、周りもそれに続いて、みんな、ぼくの話を聞かなくなった。

 

 

 

「まもるの“ようせい”なんて、ほんとはいないんだよ」

 

 

 

「そんなの、見えないもん!」

 

 

 

──だれも、信じてくれなかった。

 

 

 

おとうさんとおかあさんも、

「うんうん、いるんだね」ってやさしく笑ってはくれるけど、

その笑顔の奥に、「やっぱり空想なんじゃないかな」って思ってる気配が、少しだけにじんでた。

 

 

 

足の小指の関節がない──

だから、個性があること自体は、医者にも確認されてる。

 

でも、その個性が“見えないともだち”だと言ったとたん、

信じる人は、ほとんどいなくなった。

 

 

 

そんな日々が、ずっと続いた。

 

 

 

学校では、なるべく妖精と話さないようにした。

話せば話すほど、まわりから変な目で見られる。

 

 

 

だけど、妖精たちは変わらなかった。

 

 

 

「気にしなくていいよ、まもる。わたしたちは、ここにいるから」

 

 

 

「まもるがさびしいときは、いちばん近くにいるからね」

 

 

 

その言葉が、ぼくを何度も救ってくれた。

 

 

 

気がつけば、ぼくの世界は、

“みんな”じゃなくて、“この子たち”との時間のほうが、ずっと長くなっていた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

小学五年生になっても、状況はあまり変わらなかった。

 

 

 

まわりは個性を使ってヒーローごっこをしたり、技を真似したりして盛り上がっていたけど、

僕の『妖精』は、相変わらず誰にも見えない。

 

 

 

「おまえの個性、なにができんの? 飛べんの? 火とか出せんの?」

 

「いや、妖精が見えるんだってさ。見えないけどね、はは」

 

「こえーって。ひとりでブツブツ言ってるの、マジでこわい」

 

 

 

……なんて、そんなふうに陰で言われてるのも、知ってた。

 

 

 

だけど、もう気にしなくなった。

慣れた──というより、慣れてしまった。

 

 

 

どうせ誰も見えない。誰も信じない。

 

だったら、この子たちと一緒にいたほうが、ずっと心が楽だった。

 

 

 

 

 

そんなある日、学校の帰り道。

 

 

 

「ねぇ、まもる。今日は、あそこに行かない?」

 

 

 

肩に乗っていた妖精が、いつもよりちょっとだけ真剣な声で言った。

 

 

 

「あそこ? 秘密基地のこと?」

 

 

 

「うん。今日は、奥まで行ってみよう。

いつもより、ちょっとだけ、遠くまで」

 

 

 

僕はランドセルの肩紐をぎゅっと握って、首を縦に振った。

 

 

 

「うん、いいよ。行こう」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

僕と妖精たちで作った、山の中にある秘密基地。

 

住宅街のはずれ、古い木が立ち並ぶ雑木林の奥にある。

 

 

 

誰にも見つからないように、小枝で隠した入り口をくぐって斜面をのぼると、ブルーシートと木の板で作った小さな小屋がある。

 

 

 

天井には穴があいてるし、隙間風も入るけど、僕にとっては世界で一番落ち着く場所だった。

 

 

 

「ただいま……」

 

 

 

そう呟くと、妖精たちが「おかえりー!」と元気に跳ねる。

 

 

 

クラスでは誰も僕を待っていないけど、ここには待ってくれてる子たちがいる。

 

それだけで、胸がじんわりと温かくなる。

 

 

 

妖精たちは、基地の裏の小道を指差した。

 

 

 

「今日は、そっち。気になるものを見つけたんだ」

 

 

 

僕は頷いて、草むらの中へと歩き出す。

 

 

 

枝が絡まって歩きにくいけど、

足元を妖精が照らしてくれるから、暗くても平気だった。

 

 

 

その先にあったのは──ぽっかりと木々がひらけた、小さな空き地。

 

 

 

夕日が差しこんで、落ち葉がきらきらして見える。

 

 

 

「ここ、なんだろう……」

 

 

 

「まもる、あそこを見て」

 

 

 

妖精が指差した場所を、僕はおそるおそる覗きこんだ。

 

 

 

土の中に、何かが埋まっていた。

 

 

 

手のひらで落ち葉を払い、土をかきわける。

 

 

 

指先に冷たい金属の感触が伝わって──

それを、そっと持ちあげた。

 

 

 

 

 

黒光りする、分厚い金属の欠片。

 

 

 

 

手のひらほどの大きさ。

だけど、その表面には、何かの文様が刻まれていた。

 

 

 

稲妻のような、細い紋章。

 

 

 

「これ……なに?」

 

 

 

艤装(ぎそう)のかけらだよ」

 

 

 

「ぎそう……?」

 

 

 

「誰かの“体の一部”。でも、今はまだ、“誰でもない”。

でも、きっといつかは──」

 

 

 

妖精たちは、僕の手の中の欠片を囲んで、ふわりと舞った。

 

 

 

「この子は、(いなづま)って名前だった気がする」

 

 

 

「……電?」

 

 

 

「うん。まもるが『守りたい』って心から願ったとき、

この子は、目を覚ますんだと思う」

 

 

 

「……分からないよ。でも、なんだか……温かい」

 

 

 

僕は欠片をハンカチに包み、大切にランドセルの中に仕舞った。

 

 

 

この日から、僕の世界は、少しずつ、でも確かに動き始めていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
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