妖精が見えた少年   作:HYDRATION

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なるほど、ここまで読まれますか……。
なら、書くしかないわねっ!

ということで第四話です。原作ルート合流はまだです。あと数話!あと数話でプロローグが終わる予定なので、お待ちください!


変化の始まり

朝の光が、カーテン越しにじわじわと差し込んでくる。

 

僕が目を覚ますと、ベッドの隅にちょこんと座った妖精が、何かを縫っていた。

 

「……もうすぐ終わるよ」

 

声をかけられて視線を動かすと、電が静かに座っていた。

 

彼女のシャツの袖を、妖精が小さな手で器用に縫い直しているところだった。

 

「おはよう、まもるくん」

 

「おはよう。……まだ服、ちょっと破れてるんだね」

 

「昨日の戦いで、少しだけ。でも、妖精さんたちが手伝ってくれているのです」

 

その言葉通り、糸の先端を持って引っぱっている妖精が小さなハサミを掲げた。

 

「はい、これで一か所終了!あと肘のとこ~」

 

ランドセルのふたの上でも、別の妖精が靴下のほつれを直していた。

 

「昨日はよくがんばったね、電ちゃん。こっちのほつれも、すぐに直しちゃうからね」

 

「ありがとうなのです。助かるのです」

 

電はすこし照れたように、でも嬉しそうに目を細めていた。

 

 

 

朝食の食卓では、変わらぬ湯気と味噌汁の香りが広がっていた。

 

「今日の給食、電ちゃんの分もちゃんと用意してもらえるって、先生から連絡が来てたわ」

 

お母さんが言った。

 

「本当に?」

 

「うん。学校としても、ちゃんと配慮してくれてるって」

 

「ありがとうございます、なのです」

 

電は深々と頭を下げてから、小さな口を開けてご飯を食べていく。

 

お父さんが新聞を置いて言葉を続けた。

 

「今日はたぶん、昨日より周囲の目が集まる。けどね、鎮。大事なのは、怖がらずにまっすぐいることだよ。いつも通りでいい」

 

「うん。ありがとう、お父さん」

 

「電ちゃんも、よろしく頼むよ」

 

「はい。まもるくんを守るのが、わたしの役目なのです」

 

 

 

登校の道。

 

昨日の事件があまりにも大きかったせいか、登校途中に顔を合わせた同級生たちは、みんな微妙な距離をとっていた。

 

けれど、その距離は昨日までのような『拒絶』ではなかった。

 

遠巻きに見ながら、少し考えるような目つき。

 

「……今日は、なんか静かだね」

 

僕が言うと、肩に乗った妖精が、ぽつりと言った。

 

「昨日、まもるの“見えてる世界”が少しだけ、こっちの世界と重なった気がする」

 

「それって、どういう意味?」

 

「うまく言えないけど……今、みんな“見ようとしてる”感じがするんだ」

 

その言葉に、電がうんと頷いた。

 

「昨日の戦いで、何かが変わったのだと思うのです」

 

 

 

教室に入ると、周囲の視線がこちらに集まった。

 

でも、それだけだった。

 

誰も話しかけてこないし、誰も避けようともしない。

 

僕と電は静かに席についた。

 

そのとき、筆箱のふたが開いて、中から妖精が顔を出した。

 

「机の下、ちょっと埃あるかも。あとで掃除しよっか」

 

「気づくとこ、変わってるね」

 

電がくすくすと笑った。

 

「おもしろいのです、この子たち」

 

 

 

やがてチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。

 

「はい、みんな。……まずは、昨日のことについて話します」

 

全員が静かに顔を上げた。

 

「怖い思いをした人もいると思います。先生も、突然の出来事に驚きました」

 

先生は僕と電のほうをちらりと見てから、全体に向かって続けた。

 

「でも、誰も大きなケガをせずに済んだ。それは、皆が冷静だったこと。そして──電さんが皆を守ってくれたからです」

 

教室に、しんとした沈黙が流れる。

 

「電さんは碧海君の個性に関係のある存在です。学校側とも相談のうえで、しばらくの間、同伴として一緒に登校することが認められました」

 

先生はそれだけ言って、静かに教卓に向かった。

 

拍手もなければ、反論もなかった。

 

けれど、昨日のような拒絶の空気は、もうそこにはなかった。

 

 

 

給食の時間。

 

電の分も、しっかりとトレーに用意されていた。

 

「これ、電さんの……」

 

配膳係の子がトレーを手渡すと、電はぺこりと頭を下げる。

 

「ありがとうございます、なのです」

 

僕の隣で、電はパンにそっと手を伸ばす。

 

「これが、学校のごはんなのですね」

 

「うん。今日のシチュー、けっこうおいしいよ」

 

「いただきます、なのです」

 

ひとくち食べた電が目を見開く。

 

「……やわらかい。あったかい。とっても、おいしいのです」

 

その感想に、妖精たちが給食袋の中からひょこっと顔を出した。

 

「わたしたちの分のお皿もつくってみました!」

 

「電ちゃんの分からもらってしまいましょう」

 

「ちょ、電は初めてなんだからとっちゃダメだって!」

 

僕が慌てて止めると、電がくすくすと笑った。

 

それを見ていた周囲の子たちは、また少しだけ興味深そうにこっちを見ていた。

 

誰も何も言わないけれど、どこかに気にしている気配があった。

 

それは、昨日までにはなかった感触だった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

放課後、教室を出た廊下で。

 

「……また明日」

 

ぽつんと背後から声がした。

 

僕が振り返ると、昨日までは一言も話さなかったクラスの男子が、視線を逸らして廊下の向こうへ歩いていった。

 

不思議な感覚だった。けれど、胸の奥が少しだけじんわりと温かくなる。

 

 

 

帰り道。

 

電が僕の隣を歩いていた。その肩に、ひとりの妖精がふわりととまり、耳元で囁く。

 

「まもる、今日もあそこに行こう?」

 

「うん。電も一緒に行こう」

 

「ぜひ、行ってみたいのです」

 

 

 

雑木林の中を抜け、草むらを踏み分けた先にある、小さな小屋。

 

僕と妖精たちで作った、秘密基地。

 

落ち葉の上に立つその場所は、子どもの力で作ったとは思えないほど丁寧に整えられている。

 

電は小屋の入口で足を止め、静かに目を丸くした。

 

「ここが……秘密基地、なのですね」

 

「うん。ずっとここに来てたんだ。妖精たちと落ち着いて話せる唯一の場所だったから」

 

「すごいのです……まもるくんが作ったなんて」

 

中に入ると、屋根の梁の上や木のベッドの縁から、妖精たちが次々と顔を出した。

 

「おかえりー!」

 

「今日は来てくれてありがとう!」

 

電は少しだけ身をすくめたが、すぐに穏やかな笑顔を浮かべた。

 

「こんにちは、なのです。わたし、電といいます」

 

妖精たちはわらわらと舞い降りて、電の周りに集まった。

 

「わー、ほんとに電ちゃんだ!」

 

僕は小さく笑ってから、ランドセルの中を探った。

 

だけど、やっぱりーー

 

「……あのときの欠片、もう残ってないんだよね」

 

僕の言葉に、妖精がうなずいた。

 

「うん。電ちゃんを建造したとき、あの欠片は完全に消えちゃったの」

 

電も静かに頷いた。

 

「あれは、わたしのための“扉”だったのです。まもるくんの願いに応えて、開かれた」

 

「じゃあ……次に艦娘を建造するには、また欠片を探さなきゃいけないんだよね」

 

「そうなるのです」

 

別の妖精が、少し前に出てきて説明を続けた。

 

「でもね、まもる。電ちゃんのときに使った“願い”は、特別だったんだよ」

 

「特別……?」

 

「うん。建造の力は、まもるの個性の一部なの」

 

「最初は眠ってたけど、あのとき、まもるが心から“守りたい”って願ったことで、初めて目を覚ましたんだ」

 

電が、僕の顔を静かに見つめて言う。

 

「まもるくんの願いが、わたしを呼んだ。そう感じたのです」

 

僕はそっと目を伏せて、手をぎゅっと握った。

 

「……あのときは、ただ……守らなきゃって、それだけで」

 

「それで十分だったのです。まもるくんの想いが強かったから、わたしはここに来られた」

 

もう一人の妖精が、ふわりと空中を舞いながら補足する。

 

「でもね、これからは違うよ」

 

「違う?」

 

「うん。一度建造の力が目覚めたから、次からは欠片と、まもるの意思さえあれば大丈夫」

 

僕は壁際に腰を下ろして、天井を見上げた。

 

「……じゃあ、次にまた艦娘を呼ぶには、欠片を見つけるだけでいい?」

 

「ううん、“だけ”じゃないよ」

 

妖精が指を立てて言った。

 

「まもるが“この子が必要だ”ってはっきり思ったとき。そのときは、建造がちゃんと動き出すの」

 

それを聞いた電が、すこし嬉しそうに笑った。

 

「それなら……きっと、まもるくんには、まだまだ仲間が増えるのです」

 

僕は頷いた。

 

「うん。もし、また必要な誰かがいるなら──僕が呼ぶ」

 

「そのときは、わたしたちがまた手伝うからね!」

 

秘密基地の空気が、少しだけ明るくなったように思えた。

 

落ち葉の音、夕方の木漏れ日、そして妖精たちの声。

 

ここは──僕の個性の、始まりの場所。

 

この先、どれだけの艦娘たちがここに加わっていくのだろう。

 

そんなことを思いながら、僕は、電と妖精たちと一緒に、静かな夕暮れを迎えていた。




最後までお読みいただきありがとうございます。

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