妖精が見えた少年   作:HYDRATION

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へへ、書ききってやったぜ……。お気に入り登録が100を超えたとあらば書かざるを得ないでしょう。さすがに気分が高揚します。


僕が変わる日

 ──雷が現れてから、数日が経った。

 

 秘密基地は、雷のエネルギーで満ちあふれたような空間になっていた。

 電と並ぶように雷が加わったことで、基地の空気はにぎやかになり、同時にどこかしっかりした雰囲気も漂っている。

 

「ちょっと、鎮! そこ、工具置き場にしておいたって言ったでしょ! 踏んだら危ないって!」

 

「ご、ごめん……」

 

 秘密基地の片隅。妖精たちが張りきって作った「整備スペース」の上に、僕はうっかり足をかけてしまっていた。

 

「ふふっ。雷ちゃんは、ほんとうにしっかり者なのです」

 

「それだけ電がフワフワしすぎてるのよ! ……でもまあ、それが電らしいけど」

 

 電が小さく頬をふくらませる。

 

「そういう言い方、ちょっとひどいのです」

 

「はいはい。艤装の整備も、雷さまにお任せってことで!」

 

 妖精たちが「わーい!」「頼りにしてます!」と楽しそうに声を上げた。

 

 そんなふたりと妖精たちのやりとりを、僕は静かに眺めていた。

 ──新しい空気が流れている。それは悪くない。

 だけど、どこかで僕は戸惑っていた。

 

 僕は……彼女たちと、どう接していけばいいんだろう。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 翌朝。

 

 登校の道を歩きながら、雷は見慣れぬ街の風景に目を丸くしていた。

 

「ねぇ鎮、ここが小学校ってところなの? 意外と普通の建物なのね」

 

「うん。ここにずっと通ってる」

 

「ふぅん……電もここに?」

 

「はい。建造されてから通ってるのです」

 

「へぇ……ちょっと楽しみかも」

 

 玄関で靴を履き替え、教室へと向かう途中。

 クラスメイトの数人が、廊下で雷を見て立ち止まった。

 

「……また新しい子?」

 

「碧海の個性……また増えたのか?」

 

 雷は止まることなく、にこっと笑顔を見せる。

 

「おはよう! 私は(いかずち)(かみなり)じゃないわ! よろしくね!」

 

 ぽかんとしていた子たちは、少し反応に困りながらも、軽く頭を下げて教室へ戻っていった。

 

「ちょっとずつだけど……受け入れられてきた気がするね」

 

 僕が言うと、雷はふふんと胸を張った。

 

「当然でしょ。わたしがどれだけ優秀なのか、すぐに分かるわよ!」

 

「雷ちゃんは、頼れるお姉ちゃん、なのです」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 授業中も、雷は静かに僕の席の後ろに座っていた。

 

 先生から特に注意されることもなく、クラスの誰もが“個性の一部”として受け入れているようだった。

 

 時折、雷が退屈そうに足をぶらぶらとさせるのが見えたけれど──

 

「けっこう静かにしていられるんだね」

 

 と僕が言うと、雷は小声で応じた。

 

「私だって空気ぐらい読めるわよ……まぁ、ちょっと退屈だけど」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 給食の時間。

 

「パン、ちょっと硬いんじゃない?」

 

「これはこういうパンなのです。明日はカレーだから、もっと食べやすいのです」

 

「ほんと!? よーし、明日は三杯いくわ!」

 

「だ、だめなのです。おかわりは一回だけなのです!」

 

 そのやりとりに、近くの席から笑い声がもれた。

 

「雷って、面白い子なんだな」

 

「電とも仲いいし……碧海、すごい個性持ってるんだな」

 

 クラスの雰囲気が、少しずつ変わってきていた。

 

 以前のように、僕だけが浮いている空気はなかった。

 むしろ──ほんの少し、“輪”の中にいるような感覚。

 

「……不思議な感じだな」

 

「まもるー。お皿、ちょっと傾いてるよ」

 

 妖精が机の端にとまって、ささやくように言った。

 

「ありがとう」

 

 妖精たちは変わらず、僕のそばにいてくれる。

 電も、雷も。そして、ほんの少しずつ周囲も。

 

 ……少しずつ、“ひとりじゃない”が当たり前になってきていた。

 

 

 

 放課後、空の色が夕焼けに染まり始めたころ。

 秘密基地の拡張部分に、またひとつ棚が増えていた。

 

「ふう……今日も、がんばったのです」

 

 電が艤装の整備を終え、工具を丁寧に布で拭いている。

 雷は天井の梁から身をのぞかせ、妖精たちと一緒に照明の調整をしていた。

 

「これで、夜でも艤装の点検できるようになったわね」

 

「雷ちゃん、ありがとうなのです」

 

 秘密基地に温かな空気が広がる中──僕の胸の奥には、また別の感情がくすぶっていた。

 

「……鎮。もしかして、考えごと?」

 

 肩にとまっていた妖精が、小さく首をかしげる。

 

「うん……電や雷が頑張ってくれてるのに、僕は何もできてない」

 

「そんなことないよ。まもるは願ったんだもん。それはすごく大事なことだよ」

 

「……でも、それだけじゃダメな気がする。僕自身も、強くならないとって思うんだ」

 

 その言葉に、妖精がぱっと顔を輝かせた。

 

「うん、来ると思った!」

 

「え?」

 

「実はさっきから、かけらの気配があるの。今度のはね……“鍛える者”って感じ」

 

 僕は目を見開き、静かに頷いた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 秘密基地の裏手にある朽ち木の根元。

 地面の下から、錆びたような赤銅色の金属が光を放っていた。

 

「建造、開始!」

 

 妖精たちの掛け声とともに、欠片が光を放ち、風が巻き起こる。

 その光の中心から、黒い服を身に纏った少女が現れる。

 

 ぴしっ。

 

「大日本帝国陸軍所属の強襲揚陸艦(きょうしゅうようりくかん)、あきつ(まる)。着任であります!」

 

 整った姿勢、迷いのない動作。

 目の前の彼女からは、圧倒的な“規律”の気配があった。

 

「え、えっと……はじめまして?」

 

 僕が戸惑いながら言うと、彼女──あきつ丸はびしっと胸を張って応えた。

 

「自分は、鎮殿の“鍛錬”のために顕現した存在であります!」

 

「た、鍛錬……?」

 

「はい。自分、鎮殿に必要なのは“根性”と“基礎体力”と見定めました。よって、直ちに訓練に入る所存であります」

 

「い、今から!?」

 

「明朝より。初日から詰め込みは非効率であります。まずは準備と環境整備から入るでありますよ」

 

「えっと、あきつ丸さん……僕を鍛えてくれるの?」

 

「そのために、ここへ参上したのであります」

 

 あきつ丸の言葉には、冗談も遠慮も一切なかった。

 ただまっすぐに、“自分を鍛えたい”という僕の願いに応えようとしていた。

 

「……お願いします。僕、本気で強くなりたいんです」

 

「その意気やよし、であります! では、訓練の場はこの基地。必要物資と寝床の確保、及び滞在の許可を親御さんに申請してもらいたい」

 

「え……泊まり込み、ってこと?」

 

「当然であります。日々の継続が基礎鍛錬の要。夜の体調管理も、指導内容に含むであります!」

 

 僕は焦ったようにスマホを取り出した。

 

「あ、お母さんに連絡……」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

夜、自宅のリビング。

 

夕食を終えた食卓の上に、温かいお茶の湯気が立っている。僕は両親と向かい合って座り、すこし緊張しながら口を開いた。

 

「──それで、お願いがあるんだけど。数日間、秘密基地に泊まり込んで、あきつ丸さんから訓練を受けたい」

 

お父さんとお母さんが顔を見合わせる。隣には背筋をぴんと伸ばしたまま立つあきつ丸の姿。

 

「……訓練?」

 

お母さんが慎重に訊ねた。

 

「うん。僕、自分が何もできなかったこと、ずっと気になってて……もっと強くなりたいって、思った。そう願ったときに、あきつ丸さんが来てくれて──」

 

「ご説明申し上げます」

 

あきつ丸が一歩進み出て、ぴしりと敬礼する。

 

「自分、あきつ丸。碧海鎮殿の個性によって建造された艦娘であります」

 

「建造……」

 

お父さんが眉を上げた。

 

「はい。自分が呼ばれた理由は、鎮殿の身体的・精神的鍛錬支援。将来的に指揮官としての資質を育むべく、訓練計画を提案するものであります」

 

「でも……なんで泊まり込みでなきゃいけないの?」

 

お母さんが不安げに問うと、あきつ丸は即座に小さなノートを取り出し、ページをめくる。

 

「基地内は、妖精殿の協力により、以下の整備が完了済みです」

 

そう言って、ページを開いて見せた。

 

・艦娘用整備設備

・訓練用の空間および装備

・衛生環境──寝具・蚊帳・防虫・換気完備

 

 

そして、さらに口調を引き締める。

 

「また、習慣化による基礎鍛錬が主目的であるため、生活の一貫として訓練を位置付ける必要があります。

よって、朝・昼・夜を通して計画的な生活と鍛錬を両立するには、泊まり込みが最も効率的であります」

 

「お風呂とか、そういうのは……?」

 

お母さんの問いに、あきつ丸は首を縦に振る。

 

「はい。簡易加熱式の折りたたみ風呂を設置済み。妖精殿が熱源調整を行い、湯温は安全管理されております。

目隠し幕・着替えスペース・洗濯用具も完備。使用後の排水も地面に害のないよう自然分解素材で処理されます」

 

「そんなところまで……すごいね」

 

お父さんが少し口元をほころばせる。

 

「自分も現地に常駐し、衛生・体調管理・夜間異常の確認まで責任をもって行います」

 

「……そこまで考えてくれてるなら、たしかに安心ね」

 

「鎮。君の“やってみたい”って気持ちは、本気なんだね?」

 

僕はまっすぐお父さんの目を見て、強く頷いた。

 

「うん。僕……誰かに守られるばかりじゃなくて、自分でも誰かを守れるようになりたいんだ」

 

しばしの沈黙。

 

お母さんが、お茶をひとくち飲んでから言った。

 

「……分かったわ。やってみなさい。ただし、連絡は毎晩必ず入れること」

 

「それと、体調がおかしかったら無理はしないことだよ。分かったかい?」

 

「うん、ありがとう!」

 

お父さんが静かに微笑んで、あきつ丸の方へ向き直る。

 

「あきつ丸さん。うちの子を……お願いします」

 

「任務、全身全霊で遂行いたします!」

 

ぴしっ、と見事な敬礼が返ってきた。

 

「……うちの子、手がかかるけど、どうかよろしくね」

 

「承知いたしました。鎮殿が“自分で守る力”を手にできるよう、着実に鍛錬を進める所存であります」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 夜の秘密基地。ランタンの明かりが、木の壁を淡く照らしていた。

 

「では明日より、基礎訓練計画を実行に移すであります」

 

「よろしくお願いします、あきつ丸さん」

 

 電が毛布を持ってきて、僕の寝床を整えてくれた。

 

「まもるくん、身体を冷やさないようにするのです」

 

 雷はちらりと僕を見た。

 

「ふふ、鎮。私が応援してあげるから、へばらないでよね!」

 

「うん……ありがとう、ふたりとも」

 

 妖精たちがそっと布団の周りに集まり、ぽわぽわと光る。

 

「まもる、がんばれ。ちゃんと見てるからね」

 

 僕は眠気と共に、静かに目を閉じた。

 

 あきつ丸の着任。

 

 雷、電、そして妖精たちの支え。

 

 僕の周りじゃない。僕自身が変わるための一歩が、ここから始まる。




ということであきつ丸、登場です。いや、ランキング上位に入っているあの作品の人気にあやかりたいとか……別に……へへっ。

当初は電が出たらそのまま時間を飛ばして受験パートまでもっていく予定だったのですが、艦娘要素目的で入ってきてくださった方々や、プロローグが長引いても待てるという方が多かったのでその好意に甘んじて主人公の幼少期、艦娘をどんどん引き入れていくパートを詳しく描写することにしました。文字通り艦隊これくしょんパートですね。
艦隊これくしょんをご存じない方でも読めるように書くつもりではありますので、今後ともよろしくお願いいたします。

長々と書きましたが、感想、評価、お気に入り登録などしていただけると筆が乗ります。本当に。どうぞよろしくお願いいたします。

次に出る艦娘は軽巡あたりにしたいと思いますので、どうぞ感想欄に推しの艦娘など書いていってください。
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