妖精が見えた少年   作:HYDRATION

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きりがよいところで切ったので文字数少なめです。カタパルトが不調だからね。しょうがないね。


訓練開始

 薄暗い木の壁の向こうから、鳥のさえずりが聞こえていた。

 秘密基地の天井にはまだほのかに夜の気配が残っている。

 

 その静けさを破ったのは、きびきびとした声だった。

 

〇六三〇(マルロクサンマル)。鎮殿、起床の時間であります」

 

 トントン、と寝袋の端を軽くたたかれる感触。

 目を開けると、ぴんと背筋を伸ばしたあきつ丸の姿が、目の前にあった。

 

「ん……あ、あきつ丸さん……」

 

「おはようございます」

 

「……おはようございます」

 

「朝の冷気が残っておりますゆえ、速やかに体を起こし、保温確保と軽いストレッチを開始するでありますよ」

 

 横を見ると、電がストーブの上にやかんを乗せて湯を温めていた。

 すでに着替えを終えており、身支度も完了しているらしい。

 

「まもるくん、おはようございます。今日から、がんばるのです」

 

「……うん。おはよう、電」

 

 さらに上の梁から、雷が頭をのぞかせる。

 

「ふふ、やっと起きたわね。雷さまは、とっくに準備完了よ!」

 

 秘密基地の朝は、思った以上ににぎやかだった。

 

 それでも、どこか心が引き締まるのは──

 今日が、変わるきっかけになると知っているからだ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 朝食は、あきつ丸が用意した非常食と、妖精たちが温めてくれたスープ。

 

 簡素だけど、身体の芯からあたたまるような味だった。

 パンに少しだけ蜂蜜を塗ってくれた電の優しさが、なんだか嬉しかった。

 

 食後、あきつ丸が立ち上がり、木の柱の前に立って号令をかける。

 

「本日より、鎮殿への基礎訓練を開始するであります!」

 

 妖精たちがぴしっと並び、電と雷も姿勢を正す。

 

 僕も、気が引き締まるのを感じながら、姿勢を正した。

 

「初日の訓練内容は以下の通り。ストレッチ三種目、体幹維持運動、持久走三十分、筋力補強運動──」

 

 さらさらとノートをめくる音が、やけに静かに響いた。

 

「学校終了後は座学訓練にて、兵站・伝達・基礎戦術の初級項目を講義形式で行う所存であります」

 

 思わず、口がぽかんと開きそうになった。

 こんなに……本格的なんだ。

 

「基礎とはいえ、初日からいきなり持久走三十分はきつくない?」

 心配そうに言ったのは、電だった。

 

 あきつ丸は、すぐに頷く。

 

「承知の上であります。無理はさせぬ。ただし、“できる範囲の全力”を尽くすのが本訓練の指針であります」

 

 雷がにやりと笑った。

 

「つまり、へばる前提ってことね。……やってみなさい。わたしがちゃんと見ててあげるわ!」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 広場のように整備された秘密基地裏の小道。

 

 木立の間を抜けて伸びる土の道を、僕は走っていた。

 

 いや、“走っている”というより、“なんとか足を動かしている”が正しいかもしれない。

 

 すでに呼吸は荒く、足は鉛のように重い。

 

「は、はぁ……っ、う……」

 

「ペースダウン、許可するであります。呼吸を整えつつ、動作は継続」

 

 背後からあきつ丸の声が飛ぶ。

 その声は、厳しいようでいて、僕の限界をちゃんと見てくれている声だった。

 

 横を飛んでいる妖精が、汗をぬぐうタオルを風に乗せて届けてくれる。

 

「まもる、あと少しで半分だよ。無理はしないで、でも……止まらないで!」

 

 応援の声が、まっすぐに届いてきた。

 

 僕は、唇をかみしめながら、また一歩を踏み出した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 小道を走る。ただひたすらに。

 

 どれだけ走ったのか、もう覚えていなかった。

 ただ、頬をかすめる風と、ふとももに溜まる熱と、汗の流れる感覚だけが、確かにあった。

 

「……まもるくん!」

 

 電の声に、足が止まりそうになる。

 

 でも、あきつ丸の言葉が重なるように響いた。

 

「ここが“踏ん張りどころ”であります!」

 

 その声に背中を押されるように、僕は最後の力を振り絞った。

 

 ──そして、終了を知らせるあきつ丸の笛の音が聞こえた瞬間。

 

 そのまま、膝から崩れ落ちた。

 

「まもるくん、大丈夫!?」

 

 駆け寄ってきた電が、肩に手を置いて支えてくれる。

 

「つかれた……でも……終わった、よね……?」

 

「はい。おつかれさまなのです、まもるくん」

 

 小さく微笑む彼女の声が、遠くで鳴る小鳥の声と重なった。

 

 あきつ丸もすぐそばに歩み寄り、手帳を閉じながら言う。

 

「基礎耐久、初回にしては上出来でありますな。根性も充分であります」

 

 その一言が、なんだかくすぐったくて。

 

 でも、やっぱりうれしかった。

 

「あはは……やった……」

 

「“初日としては”でありますよ」

 

 ぴし、と添えるのを忘れないところが、あきつ丸らしかった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 小学校から帰ってきて、夕方の秘密基地。

 基地の中では、妖精たちが訓練の記録をまとめ、電たちが食事の準備を進めていた。

 

「今日の夕ごはんは、まもるくんが食べやすいものを中心にしてみたのです」

 

 そう言って電が出してくれたのは、温かい野菜のスープと、柔らかく煮たチキン、おにぎりが2つ。

 雷もおかずの卵焼きを運んできながら、ふんと鼻を鳴らす。

 

「エネルギー補給とタンパク質バランスを考えたってことよ」

 

「ありがとう、ふたりとも……ほんとにおいしそう」

 

 一口、スープをすする。

 

 ──染みわたる。

 

 体の奥に届いていくような、優しい温かさだった。

 

 

 夕食が終わると、室内のランタンがやわらかく灯される。

 

 あきつ丸は木の壁に地図を広げて、妖精たちと何やら話し合っていた。

 

 どうやら、今後の訓練内容をより煮詰めているみたいだった。

 

 僕はその様子を見ながら、毛布を肩に羽織って静かに呟いた。

 

「……すごいな、あきつ丸さんは」

 

 電が隣に座りながら、小さく言った。

 

「はい。でも、あきつ丸さんががんばれるのは、まもるくんが“がんばりたい”って言ってくれたからだと思うのです」

 

「……そうかな」

 

「きっと、そうなのです」

 

 ──あのとき。

 

 ただ願うしかなかった自分がいた。

 

 でも、いまは少しだけ、踏み出せている気がした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 夜。

 

 寝袋の中に潜り込み、妖精たちが寝息を立てている中。

 

 僕は、空を見上げながらつぶやいた。

 

「明日も……がんばれるかな」

 

「がんばれるでありますよ」

 

 横からあきつ丸の声が返ってくる。

 

「“昨日よりも強くなる”──その積み重ねが、鎮守府を築く礎となるであります」

 

「……鎮守府?」

 

「はい。鎮守府とは、艦娘たちの拠点であり、指揮の中枢。いずれ、ここがその土台になるやもしれません」

 

「僕が、ここを……?」

 

「願いが届けば、道は開けるのであります」

 

 その言葉を、胸にしまうようにして目を閉じた。

 

 その夜──静かに、でも確かに、新しい何かが始まっていた。




プロローグを長引かせると言ったもののいざ書き始めてみると詰まってしまったんですよね……。

こういう時文才のなさが憎いものではありますが。

言ったことをクルクルとひっくり返して申し訳ないですが、早めに原作路線に合流したいと思います。全部オリジナルで書いていくのがなかなかキツイ……。
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