無限に広がる空の下で愛を紡ぐ 作:亀半
「美国織莉子様の連絡先ですか?」
使用人達がいる部屋に入った紡は開口一番、美国織莉子の連絡先を聞いた。
「そ。用があるから教えて」
「分かりました。すぐにお持ち致します」
そそくさと使用人の一人が部屋を出ていく。その間、紡は腕を組みながら壁にもたれ掛かっていた。
(連絡手段はこれでなんとかなる……後は美国が素直にオレに会うかって所か)
あの笑みの下にどんなドス黒い思想が隠れているのか、唯一の不安要素ではある。
だが、術式の使い方も解って来ているし、杏子に付き合わせてした練習の甲斐があったのだろう。一子相伝と言われる無下限の術式だが、取説ありきでもピーキーすぎて扱いは非常に難しい。
無限を使ったバリアも、術式順転『蒼』も、扱いを間違えれば自爆してしまうようなシロモノである。
成長し、強くなっていく過程はとても心地よいものだと紡は感じていた。今、紡が目指しているのは術式の反転である。だが……これは練習以前の問題で、そもそも使い方が判らない。
完成系は蔵の取説に載っていたが、そこに至る過程が不明なのだ。負の力を正の力に反転させる。言ってしまえばそれだけなのだが、そのそれだけが非常に難しい。
「まぁ、なんとかなるだろ」
魔女との戦いやマミとの戦い、杏子との模擬戦を得て現状、自分の無限を貫く魔法は今の所存在していない。もし仮に織莉子がピンポイントでそんな魔法を持っていたとしても、勝てるだろうという自信が紡にはあった。
杏子がこの場に居たならば強者ゆえの慢心と吐き捨てているだろう。
「紡様」
「お、早かったな」
使用人の一人が様々な人物の名が連なる連絡簿を開いて紡に見せる。
「……うし、登録かんりょ。もういいよ」
「はい。分かりました」
「あ、オレ今から出かけるから杏子たちに適当に寿司でも食わせといてよ」
「分かりました」
頭を下げる使用人にひらひらと手を振りながら振り向くことなく紡は家から出ていった。
その裏で、杏子はマミから最近出来た友人を紹介したいと言われていた。
「へー、友達出来たんだ」
チョコ菓子をぽりぽりと齧りながら杏子は興味なさそうに呟いた。
「えぇ! 鹿目さんと美樹さん、
「勝手に話すなよ、人のこと……まぁ良いけどさ」
「きっと佐倉さんも仲良くできると思うわ! とても良い子たちなの!」
「あー、はいはい」
何かのスイッチが入ってしまったのか、マミは三人の良いところを聞いてもいないのに話し始めた。その様子を見た杏子はこりゃ、長くなるなと興味津々で話を聞くゆまを見ながら諦めた。
⭐︎
『もしもし? どちら様かしら』
紡は一人街を歩きながら織莉子へと通話をかけていた。
「オレオレ、五条」
『……五条さん? どうして私の番号を?』
織莉子は訝しみながら聞き返す。聞かれると思っていたその問いに、紡は面倒くさそうに返答した。
「家の連絡簿に載ってた、以上」
『なるほど……わざわざ貴方から掛けてくるなんて余程の事情なのね』
クスクスと笑い声が聞こえてきそうな声色で織莉子は紡にまた問いかける。
「聞きたいことがある」
「あら……それは
まるで五条紡が自分に通話をかけてくる事を知っていたかのような、そんな言い方に紡は違和感を覚えた。
「そうね……余り人通りのある場所で話せる様な事でもないでしょうし、何処かで待ち合わせをしましょう?」
「あぁ。それでいい。場所は任せる」
「では、メールで場所を送るわ。それで構わないかしら?」
「あぁ」
通話を切って数秒後、メールが届いた。内容はここに来いと言うメッセージである。今、紡がいる場所とは少し離れているが、特に問題はない。
「建設途中のビルね……」
記されている場所には紡も見覚えがあった。確か、ここは土地の権利者に許可なく建設を始めたとして解体が予定されていたはずだ。
「ま、人気のない場所としては好都合か」
どちらにせよ、やる事は変わらない。と紡は笑みを浮かべた。
紡が指定の場所へと到着する頃には陽が傾き始めており、道中には学校帰りの学生やスーツを着た大人が多くいた。織莉子の待つ解体予定のビルは不自然なほど静かな空間だった。
「お〜い。来てやったぞ〜」
気の抜けた紡の声が響く。
しかし、返事は無い。埃やらが積もった床をきたねー、と思いながら踏みしめボリボリと頭を掻いた後、紡はもう一度声を上げる。
「美国織莉子〜。インドアすぎて返事もできなくなったか〜?」
……またもや返事は無く、紡は苛立ちながら携帯を取り出し、美国織莉子に連絡をしようとしたその時、背後からタッ! と何かが駆ける音が聞こえた。
「──へぇ? 随分な歓迎だな。で、お前だれ?」
巨大な鉤爪を振り下ろす右目に眼帯をした黒の少女。はギリ、と歯軋りをしながら紡を睨みつけていた。
「うるさいッ! さっさとやられてどっかいけッ!」
両手の鋭利な爪を容赦なく紡へと叩きつけるその顔は憤怒に染まっていた。しかし、見たこともない少女をここまで怒らせるような事をした覚えがない紡は首を傾げていた。
「いや、マジでお前のこと知らねーんだけど?」
「あぁぁぁぁぁ! どうして、当たってない!」
距離を取り、鉤爪で地面を抉って飛ばしてくるが、紡は腕を組みながら、うーんと首を傾げたままだ。その呑気な態度と、攻撃が何故か届かないもどかしさが少女を余計にイライラさせていた。
「このっ!」
「美国のダチ?」
「うるさいっ!」
「えー? もっと会話しようぜ? もしかしてお前友達いないの?」
「だ、黙れェええええっ!!」
紡の煽りに思い当たる節があったのか、女子は顔を赤くし、鉤爪を振り回す。怒りで激しくなる攻撃を浴びている中、冷静に女子を観察していた。
(特殊な力はないタダの鉤爪って感じか。確かにこんなでけー爪軽々振り回せるなら小細工は必要ねーって思うか)
「すげーじゃん、攻撃速度なら杏子並みだぜ?」
パチパチと手を叩きながら賞賛するが、怒っている相手には逆効果である。素で煽っているように見えるから尚タチが悪い、という奴だ。
「──ッッ!!」
言葉にならない叫びをあげながら少女は一心不乱に攻撃を続ける。
(情報も引き出せそうにないしそろそろ終わらせるか……ん?)
そうして呪力を纏わせた拳を振おうとした時、紡は周囲の違和感をようやく感じた。その考えを確かめるために、紡は近くに落ちていた瓦礫を思い切り蹴飛ばした。
「そんなものっ!」
少女は爪を振るい、瓦礫を切り裂く。だが、それは紡の狙い通りだった。
(──なるほどね、そういう事)
飛び散る石は一定の距離を越えると倍近くの速さで飛んでいくのが見えた。その距離は、少女の視界から離れた位だろうか。少女の攻撃は段々とスピードを増しているように思っていた。
(加速か何かかと思ってたけど、あいつの魔法は減速か? それも視界の範囲内での。種が分かれば速さも普通に見えるな)
自身に影響は無いが、周囲の速さが変化した事による、無限を纏う紡だからこそ起こった錯覚なのだろう。
「いい魔法持ってんじゃんお前! まぁオレには意味ないけど、な!」
少女の大振りな攻撃をその手で掴み、拳を容赦なく顔面に打ち込んだ。呪力を纏った拳をまともにくらった少女はボールのようにぶっ飛び、壁へと激突する。
「やべ」
軽く吹っ飛ばすつもりだったのだが、思いの外力を込めすぎたらしい。少し焦りを覚えた紡は恐る恐る少女へと近づいた。
「生きてる?」
うつ伏せのまま動かない少女の頭をツンツンと押したりデコピンを軽くしたりして確かめてみるが反応はない。魔法少女の装いのままだから生きてはいるのだろうか?
どうすっかなー。と晩飯の献立をどうするか、くらい軽いノリで考えていた紡の携帯が震える。着信主は、美国織莉子だった。
「おい」
紡の第一声は低かった。
『ごめんなさい。貴方の力を試そうと彼女……キリカをけしかけてしまったわ』
顔を見せないため、本心で思っているかは分からないが織莉子はそう謝罪した。
「ふーん、キリカって言うの、こいつ」
ツンツン、と頭を突くと小さな唸り声が聞こえた。
『……そこまで殺意を持って向かうなんて少し、計算違いだったわ』
「あ、そ。まぁこいつの事はいいや。さっさと本題行こうぜ?」
『そうね、直接話しましょうか』
コツコツと、通話の最中に背後から足音が鳴る。
「──こんばんは、五条さん」
純白のショールの付いた帽子を被り、白い衣装を身に纏った少女──美国織莉子がそこには立っていた。