夜のネオンが道路を照らす。
反射光が目を灼き、視界を眩ませる。
とてもじゃないがサングラス無しでは目を開けていられない。これが太陽の反射光で日焼けするなんて話を聞く雪原だったら一体どうなっていたことか。
コロニーにとって水は貴重な資源。
イズマ・コロニーはコロニーの中でも裕福な方なのは、軍警察の成金ビルを見れば明らかだが、わざわざ気温を下げて雪にする必要性なんて皆無に等しい。
雨を降らせるのは気候循環の観点から必要にしても、雪は寒くて交通機関が麻痺する以上、生活にとっては不便でしかないのだから。
……ゲレンデなんて、それこそ地球にでも行かねば見る縁なんてないだろう。
なんて取り留めのないことを考えながら都市部から出発したバスを降りる。
等間隔に配置された街灯と、ぽつぽつと窓から漏れる暖色の室内光が散りばめられた住宅街に出て、ようやく一息つく。
「……」
サイド6、8バンチ。
ホワイトベースにいた頃、立ち寄ったコロニー。
あのジオンたちを帰らせた後、すぐに店を閉めてここに来ていた。同じサイドでも、移動に時間がかかってしまうのは難点だったが、無事丸一日かけて辿り着くことができた。
思い起こせば、ここは色々と因縁深い場所だ。
初めてシャアとララァ、あとシャリアの奴と顔を合わせ、ミライさんが婚約者だったカムラン監察官──────今は大統領補佐官か。大出世したものだ──────彼との再会と決別もこのコロニーだったか。
僅かな小休止にもかかわらず、印象的な場面が多く記憶に残っている。
今、降りたバス停も、懐かしく思う。
戦争中、テムさんと再会したアムロはここで涙を流していた。
酸素欠乏症で変り果ててしまったことや、一言では言い表せない複雑な感情が綯交ぜになったあの様子。
なんて声を掛ければいいかわからず──────かと言って、独りにしておけず、ただ肩に手を置いて泣き止むまで待つことしかできなかった。
そんな感傷に背を向け、歩みを進める。
残っているわけのない足跡を辿るように。
辿り着いたのは、短くない年数を重ねた2階建てのガレージ付きのアパート。
扉についた窓から微かに見える、ぼんやりとした灯火のような照明。中に人がいることを確認した上で扉をそっと開けた。
「こんばんは」
驚くほど、穏やかな声が出てきたと思う。
昨日、毒ばかり吐き続けた反動だろうか。
室内を見渡すと、家具の配置から小物まできちんと整頓されている。床に物を置くことなぞ以ての外。
住人の几帳面な人間性が垣間見える。
「……ん、ああ、イセリア君か」
ずっと机に向かい合っていた男は作業の手を止め、こちらに体を向ける。
夜も遅いというのに、突然の訪問者が来たら顔を顰めるのが普通だろうが、快く迎え入れた。
テム・レイ。
アムロの実の父親で、ガンダムの生みの親である技術者。
その瞳は、はっきりと焦点が合っていた。
「電気は……つけないほうがいいか。どうだ、調子は」
「良くはなりませんね。まあ不便は感じていませんが」
急な来訪にもかかわらず、淹れてくれた緑茶に口をつける。淹れたてで舐める程度しかできないが、それでもわかる濃い味。作業台を見れば、湯気が漂うコーヒーが視界の端に入る。夜も遅いため、わざわざ俺のために用意してくれたなんて、ここまで気を遣わせるのはさすがに申し訳ない気持ちになる。
「君も強情だな。こんな老いぼれ、放っておいても誰も気にもしないだろうに」
「何を言っているんですか」
老いぼれというには若すぎるし、他ならぬガンダムの製作者を放っておくわけにはいかないだろう。連邦とジオン、双方に技術が渡っているにしても、ノウハウやアイディアは決して機体やデータの中にあるとは限らない。
しかも、あれだけ戦争の勝敗そのものを左右しうる存在として想定以上の活躍をしてしまった。
これにはアムロとシャア、そして俺にも責任はある。
両陣営とも、喉から手が出るほどの人材であることは明らかだ。
そんな彼は、戦争終結後、酸素欠乏症から奇跡的に回復を果たす。
特別な治療が施されたわけでもなく、何の前触れもなしに聡明な彼が帰ってきたため、周囲も驚いたことは想像に難くない。
目覚めたばかりの彼は何を思ったのだろうか?
丹精込めたガンダムがジオンに奪われ、連邦に牙を向く存在になったこと。
息子がもう一つのガンダムで歴史に残る戦果を上げたこと。
……最後は息子共々、宙の彼方に消えたこと。
正気に戻ったことによってかえって混乱するというおかしな事態。幸いにも、再び錯乱状態に陥ったことが連邦側に回復を悟られずに済んだのだった。
その後は連邦も拠点のない宇宙で活動するのは困難と判断したらしい。頭のイかれた男一人の監視に注力できるほどの余裕はなく、いつのまにか姿を消して、晴れて自由の身になれたそうだ。
しかし、狙っているのは連邦だけに留まらない。どこに誰の監視があるのかわからない以上、外では酸素欠乏症のフリを続けてもらっている。
こうして腰を落ち着けるのは、この隠れ家にいる時だけなのだ。
「店の方は?」
「閉めてきました。最初に来た人が気前のいいお客さんで、2日分の売上は確保できましたし」
「ならもっと開けばいいだろうに。金は多いに越したことはないぞ」
「別に稼ぎ目的でやっているわけでもないので」
今では親のようにこちらの心配をしてくれる。
昔の印象、前世の視点からすると、人格者とは言えこのように気遣う言葉を投げかけるイメージはなかったため、どこか違和感は拭えない。
お互いの近況を話していると、不意にテムさんが視線を落とす。
「……まあ、私が言えたことではないか。こうして無為に時間だけを使っていて何になるというのだ」
机の上にある機械を指でなぞる。
5年前、アムロに渡したあの回路のような形状。
しかし、使い物にならないアレとは異なる代物だ。
インストーラデバイス。
民間に払い下げられた
……そういえば、この隠れ家は元々ジャンク屋の拠点を間借りしてもらっていたような。おそらくは家賃代わりとばかりに頼まれたのだろう。
なんと贅沢なことか。
この人にそんなものを作らせるなんて宝の持ち腐れもいいところだ。
「貴方にはまだできることがあるじゃないですか」
「いいや、もう私の役目は充分果たせたさ」
「そんなわけない」
前世の知識によると、酸素欠乏症から回復したテムさんが一年戦争の責任を果たすため、この広い宇宙から錚々たる技術者たちとともに挙兵して地球圏統一を果たし、恒久平和をもたらすことになる未来もあったそうだ。
連邦とジオンが停戦しても、これからも戦争の火種は蒔かれ続けるのが宇宙世紀。冗談みたいな話だが、戦争を無くす夢のような装置を作れるとすれば何と素晴らしいことか。
「貴方なら、この世界から戦争そのものを無くすようなものが作れるはずです」
「できないさ。
しかし、テムさんは頑なに否定する。
諦め、哀しみ、無力な自分への怒り。
あらゆる感情がない交ぜになった表情。
そのまま机の上の写真立てを手に取る。
誰が写っているか、なんてわざわざ確認するまでもないだろう。
「君には、私がどのような思いでガンダムを作ったか話したかな?」
「息子のような、子どもが戦場に出る前に戦争を終わらせるため」
「……なるほど、お見通しか」
「コアブロックシステムなんてパイロットの安全を第一に考えた機能までつけた貴方です。
ブライトさんからもお話を聞いてますし、何より、俺が貴方と過ごした時間がそれの証明です。
実際、あれ以上戦争が続けばスペースノイドもアースノイドも僅かな数しか残らなかったでしょうね」
一年戦争に巻き込まれる前は数えるほどしか顔を合わせなかったが、今ではこうして話をする関係になってかれこれ約4、5年。
以前よりも言葉を尽くしてくれるようになったおかげで、彼の人となりは充分に理解できたつもりだ。
「私の思惑どおり、ガンダムが戦争を終わらせたさ。
……よりにもよって、一番乗ってほしくなかった、
「……」
皮肉な形で叶ってしまった願い。
その是非については口を噤むしかない。
間違っても、昨日聞いたジオンの学徒兵について口にしないように。
さらに俺が乗ったガンダムがそれらを蹂躙のかぎりを尽くしたなんて言ってしまえば……本当に救われなくなってしまうから。
別の世界では、連邦がガンダムの盾にするべく、学徒兵を動員する可能性だってあった。
戦争である以上、ボタンの掛け違いで“どちらもありうる”ことに過ぎない。
それでも、彼の想いが所詮はただのノイズだったなんて、この世界の誰にも言わせたくなかった。他ならぬテムさん自身であっても。
だから、話を強引に終わらせるしかなかった。
「貴方が居なければ、あいつはどこに戻って来ると言うんですか。他ならぬ父親の貴方が」
「私は帰る場所にはなり得んよ」
言葉からも、俺と同じくアムロが生きていることを信じてくれている。
しかしもう自分の前に現れないと口にしたのだ、この人は。
「そんなはずないですよ。あいつは貴方のことを嫌ってはいなかったし、むしろ──────」
「聞いたよ。息子が、
被せるように飛び出た言葉にまたも閉口させられた。
地球で偶然再会したアムロの母親については俺も顛末を聞いた。それに前世の知識を統合すると……筆舌に尽くしがたい、家庭の事情がのしかかる。
「別に、嫁のことを今あれこれ言う気はない。しかし、その後、アムロと君がここに来た時、私は何と言った?
あいつは私が生きていたことを喜んでいたのに、よりにもよって私は戦えと言ったのだぞ! あんな骨董品を渡してまで!」
『急げ! お前だって、軍人になったんだろうが!』
『……っ!』
扉の側で控えていた時の場面が想起される。
察してはいた──────なるべく触れずにいたが、この人は酸素欠乏症だった自分のことを明確に覚えているのだな。
この人の聡明さが、かえって己の首を絞めることになるなんて。なんと皮肉なことか。
「頭がおかしくなっていた、なんて言い訳はできまい。全て過ぎ去った後でも、考えない時はないのだよ。
もしも、あの時──────少しでもあいつの境遇に向き合うことができれば、未来は変わっていたのかもしれない、とな」
突き放してしまったことに対する罪悪感や自身に対する嫌悪感。彼の腹の中に沈殿する泥のような後悔は晴れることはない。
こうして吐き出しても、吐き出しても、きっと止まることはないのだろう。
彼の境遇は、あまりにも救われないものだと思い知らされてしまう。
アムロではない俺ではどんなに言葉を尽くしても引っ張り上げることは叶わない。
「家族って、特別ですよね」
……俺と、フラウのように。
横を向き、小さい窓の先にある真っ暗な夜の闇に思いを馳せる。その彼方にいる妹は、今も無事に過ごせているだろうか。
乾いた笑みを前に、テムさんも視線を落とした。
◆◆◆◆◆
人肌よりも冷めてしまった緑茶を呷る。
僅かばかり、小休止を挟ませた。
溜息をひとつ。呼吸を整える。
ここから話す内容は今日ここに来た本題でもある。
「昨日、俺の店にジオンが接触して来ました」
「……そうか」
テムさんの方もある程度身構えていたようだ。
それはそうだ。イズマ・コロニーにジオンのホワイトベース……ソドンが無理矢理立ち入ってきたのはサイド6中で大きなニュースになっているのだから。
因縁深い俺が巻き込まれているのは充分に考えられる事態だ。
一瞬、目を見張ったのはサイド6に来てから遭遇するまでのスピードに驚いたのだろう。
俺だって驚いているから気持ちはわかる。
本当に、なんでアイツは俺の居場所がわかったんだよ、全く。
「あいつは、アムロとともに消えた赤い彗星を追い続けている。そして、ここ最近サイド6に現れた赤いガンダムに目をつけた。その捕獲の協力を打診されました」
「……あのガンダムは、赤い彗星なのか?」
「違いますね。アムロでもありません」
これは俺とシャリアの共通認識だ。
人探しという観点で、完全に人違いであることは出会う前からわかっている。
「君は、なんて答えたんだ?」
真意を探るように、テムさんの視線が突き刺さる。
隠すつもりなんてないが、元とはいえ敵国。はいそうですか、と穏やかな話としては聞けないだろう。
まあ、そこまで深刻な取引を持ちかけられたわけではない。
昨日の夜、クランバトルの後の会話を思い返す。
◇◇◇◇◇
『別にジオンの軍門に降れ、とは言っていません。
我々はこのコロニーにおいて、あくまで地位協定の範囲内で行動をします。貴方には、それではカバーできない範囲を協力していただきたい』
『範囲外って、それ犯罪に近いやつじゃないですか?』
『貴方も他人事ではありませんよ、エグザべ君。あなたにサポートしてもらいますので』
『……僕がジークアクスを奪われた責任もあります。命令には従います』
『教本に載っているニュータイプが真かどうか、確かめる絶好の機会です。貴方の成長のためにも、頑張ってください』
『せめて責任は取ってやれよ。
……いや、そもそも完全に俺を鉄砲玉にする気じゃないか。使い捨ての駒を所望するなら他を当たれ』
『撃った鉄砲が戻ってくるなんて質が悪すぎます。君もそんな面白い冗談が言えたのですね』
『戻ってくるついでに撃ったやつの胸に飛び込んでやろうか? きっと機嫌がいいだろうから優しく抱きしめてやる』
『ははは』
『ははは』
『お願いですから、雑談のついでに殺気飛ばし合うの本当に止めてください。うっ、吐きそう……』
◇◇◇◇◇
「……と言ったように、やるかどうかは別として、しばらくは連絡を取り合おうと思います。目的は完全に同じではないにせよ、こちらにも利はあるのは確かなので」
「……私はそのシャリア・ブルという男と面識はないし、危険な真似はしてほしくないが、珍しく君が楽しそうで何よりだよ」
「ははは。酸素マスク必要ですか?」
「君、こんな毒を吐く子だったかな……」
テムさんは昔を思い出してほろりと涙を流してしまっていた。
いかん、思い出してつい漏れ出てしまった。
おいアムロ、何とかしろ。早く戻ってきてこの人を安心させてやれ。
閑話休題。
ともかく、サイド6に現れた赤いアレは歴としたガンダムだ。
テムさんだって、あのクランバトルの映像を流せば同じことを言うはず。
ここ最近のデマ情報よりも遥かに信憑性の高い手がかりなのは間違いない。
「……それにしても、何を企んでいるのだ、奴らは」
お互い、連邦を離れた身でも相手がジオンというだけで抵抗感を拭えない。
たった一年間の戦争でも、溝を埋めるためにはあと何年もの歳月を重ねる必要がある。
ニュータイプだからと言って、他人の考えていること全てが手に取るようにわかることなんてないのだから。
まあ、アイツに限ってはある程度わかる気がするが。紆余曲折あろうとも、至上命題はわかりきっているから。
「個人的に言えば、軍警の方が胡散臭く感じますがね。治安維持の組織とは言え、些か武力を持ち過ぎな気がします」
「同感だな。連邦もジオンも、戦争で疲弊しているからこそ際立って見えるのかもしれないが、警官ひとりひとりの行動は目に余る。
……ネノクニの件はニュースで観たが、本庁のあるイズマがあんな調子なのだ。8バンチはまだマシなのかもしれないな」
「複雑ですね。俺達のような難民モドキは」
戦争が終わり、コロニー内の難民問題が顕在化する前にこのサイド6に来て生活基盤を整えた俺達でも、対岸の火事とは言えない。
ここまで周りの人間に助けられたからこそ、台無しにされるような真似は何としても避けたいところだ。
……いずれ、この8バンチも同じようなことが起きるのだろうか。
何にせよ、あれこれ考えているうちに事態が動いてしまうなんてことがないように。
手遅れにならないように。
「誰が何を企んでいたとしても関係ない。正面から叩き潰します。
──────テムさん、
怪物の力をここに忍ばせてきた。
遠くない未来、その爪と牙を見せることになるだろうという、確信めいた予感を胸に。
◇◇◇◇◇
試運転と肩慣らしを兼ねた運転は申し分ない成果を得られた。
軍警にも見つからずにイズマ・コロニーに戻った頃にはもう朝になっていた。
しかし、往路は一日かかったというのに、復路は大して時間はかからなかった。
正規航路とほぼ直線距離の非正規航路。当然の如く差が出るのは間違いないが、まさかここまで縮まるとは嬉しい誤算だ。俺の戦い方はどうしても近接寄りだから、機動力は生命線とも言える。
数年かけて作り上げた、この世界の遙か先、もしくはなかった発想を詰め込んだ理想的な機体。
百年、とは言わないもののこれさえあれば、むこう十年くらいは戦えるだろう。
「本当、あの人たちには頭があがらないな」
通勤車両が疎らに通る高速道路の下、まだ光が弱いうちの人工太陽の朝陽を浴びないように煙草を吹かす。ニコチンが徹夜明けの頭に染み渡る。
『機体に不調を感じたらいつでも戻ってきなさい。君の為なら、まだ私も頑張れそうだ』
脳裏に浮かび上がるのは、出発前にそんな言葉をかけてくれたテムさん。
まるで親のように背中を押すように送り出してくれた。アムロの代わりに──────いや、言葉を多く交わすようになったのと同じく、アムロにできなかったことを俺にしてくれているのだろう。
二度も過ちを起こさない、という心情からなのだろうが、有難い反面、俺に向けるのは少し勿体無い気もする。
まあ、機体開発の時は無茶ぶりばかりして怒ることもあったが。ぶつくさ言いつつも、本当に実現させるから驚嘆に値する。技術屋としては別の世界のアナハイムもびっくりだろう。
それともう一人。
『貴方の抱える苦しみを全て理解できるとは言えない。けれど、私達が宇宙に出てからずっと貴方に支えられてきた事実は変わらないわ。
兄さんとのことも、貴方のおかげで──────
……アムロに先を越されちゃったし、こんな形であろうとも、私だって貴方を守らせて頂戴』
「あ」
少しクリアになった思考で思い出した。
そろそろ店にオーナーが顔を出す頃ではないか?
困った。シャリアのやつ、しれっと「また来ますよ」とか言っていた。
アイツ、また理由をこじつけて店に通う気だ。
……絶対鉢合わせたくない、と言うのが正直な感想である。
おそらく、致命的に相性が良いか悪いか、の両極端だ。どちらに転ぶかは俺にもわからない。
特に、“赤い彗星”の話に関しては、下手をすればハンマーが飛んでくるかもしれない。
このタイミングでシャリアを死なせるわけにはいかない。
せめて、アイツの伝手で頼んだ“
「ん?」
ふと、下の階層の道路が目に入った。
この時間帯には珍しく女子高生らしき女の子が自転車を走らせている。漕ぐ度に異音が鳴りそうな古めかしい風貌だ。
これでも機械いじりは趣味のまま。古めかしい人力駆動のものであっても歴然とした機械だ。
最近ご無沙汰だったので、つい視線を奪われてしまった。
俯瞰して見れば、他にも駆けるバイクたちが──────
「軍警?」
二人組の軍警が女の子を追い回していた。
朝っぱらなのにサイレンまで鳴らして。
改めて女の子の方を見る。
服装。荷物。自転車……そして軍警があんなに執拗に追うなんて、ただの交通違反とは考えられ──────
「ちっ」
散らばったピースが繋がった。
煙草を携帯灰皿の中で握りつぶして走り出す。
幸運にも、下道まで続く階段が近くにあったため、手摺を滑りながら降りていく。
サイレンの音が消えていった方向に走ると、ビルとビルの間にできていた空き地の前に辿りつく。
防犯登録が削られたオンボロの自転車が乗り捨てられ、軍警のバイクも2台とも停まっていた。
間抜けなことに、色灯を点滅させたまま。
息を殺して、空き地の様子を伺う。
行き止まりを背にして立つ長身、黒髪長髪の女の子と、じりじりと距離を詰める警官たち。がたいの良い体格でにじみ寄る様は威圧感はあるだろう。
……なんとまあ、よくありがちな構図だ。
“軍”警察を名乗っておきながら、片方が背後の警戒をしていないのも何とお粗末なことか。
無駄な警戒をした、と。
足跡を殺して近づきながら、コートから取り出した手袋を両手につける。
「ここは監視カメラもないからな。何をしたって記録には残らない。へへへ、どうしたもんかな──────」
「そうか、良いことを聞いた」
「へ」
言葉を放つ前に髪の毛を掴み、全体重をかけて顔を地面に熱烈な接吻させる。
もう片方の男には後ろから足払いをする。後頭部から頭を打っていたが、万一受け身でも取られていたら面倒なので、顔面を踏みつけてやった。
靴跡は残してしまうが、元より匿った
さてと、顔を割れずに処理できたところで、唖然としている女の子へと声をかけた。
「おい」
「は、はい!?」
おっといけない。
徹夜明けで嫌なものを見たから苛ついていたのが声に出てしまった。
驚いた女の子が体を大きく震わせ、つけていた大きめのサングラスがズレて左眼が顕になる。
……治りかけている痣が、昨日のエグザべ君の姿と重なった。この子、軍警に追われるのは初めてではないな。
「その制服。正規のものじゃないな」
「えっ」
「安っぽい。サイズが合ってない。特になんだその袖の丈。せめて捲れ。アレンジすればまだ違和感がないだろう」
「え、でも……行儀悪いし」
「真面目かバカ」
変なところで意固地な女の子は図星であろうとも口答えしてきた。
実は育ちがいいのか、と改めて風貌を見てみればそんなことはなさそうだ。どうしても違和感のある色々と丈の短い服装が鼻につく。
「あの自転車も何だ。鍵が壊れていて、防犯登録も削って、こんなの怪しさ満点だ。よくもこんな状態で使おうと思ったな」
「て、撤去された粗大ゴミから拝借したから……」
「だからなんだ。ゴミでも立派な窃盗だろ」
また無意識に声が強くなってしまった。反省。
いや、それでも何でさっきから口答えしてくるんだこいつは。
しかも保身としての意味合いでなく、純粋に普段使われているような自転車を盗むのはその人が困るから、なんて一丁前な感情を感じ取れてしまった。
「……ちっ」
何度目の舌打ちだろうか。
デカイ図体の割におどおどしているのがかえって癇に障る。
せめてもの抵抗と言わんばかりに、背負っていたであろうデリバリー用のリュックサックを抱き締めていた。ここまでして彼女が何をやっているか、なんて導き出すことは容易だった。
彼女も、イズマコロニーに来た難民なのだろう。
軍警には虐げられる存在である以上、いつネノクニの時のようなことに巻き込まれてもおかしくない。
そんなの俺には関係のない話だ。
変にお節介を焼いても余計なお世話に過ぎないし、自分のことで精一杯の俺に何ができると言うのだ。
『ミハル……』
──────ふと、皮肉の鎧で取り繕えなくなったあの人の背中を思い出した。
「ベツニイソイデイマセンヨ」
「えっ、いや、いま荷物は持って」
「黙れ。来い」
間が悪かった、なんて言わせたくなかったから。
僅かばかり、俺が魔を差すことにした。
これが深夜特有の気分の高揚なのだろうか。
勢いに任せながら、女の子の手を引いて空き地を後にする。
朝焼けの人工太陽はみるみる照度を強くする。
彼女の新しい朝は、はたして希望の朝となるだろうか。
■????〈モビルスーツ〉
主人公がアイディアを、まともなテム・レイが己のノウハウを、あしながおねえさんが金に物を言わせた信頼できる技術者たちを集約させてできたMS。
元々は木星のクソとの戦いを想定して作った機体だったが、赤いガンダムとジークアクスの一件に加担することを決めた主人公が先行して引っ張りだすことにした。
今話は描写しなかったが、見た目は一年戦争にジオンが使っていたとある機体にそっくりだが、どこかサイズが大きい上に何か背中にくっついているような……。
詳細は追々。ネタバレすると、ビームサーベルはいっぱい積んでいる。
■木星のクソ
例のあの人。主人公が最も警戒している人物。連邦が勝った未来でもあれだけの無法をやらかしている癖に、連邦とジオンが疲弊しているこの世界にとっては絶対に良からぬことをやからす劇薬中の劇薬的存在である。
主人公は木星から戻る道中でキルする気満々であり、シャリアとの協力関係を受けたのも、副次的に木星圏における細部の情勢まで把握することが叶いそうだったからという意味合いもあった。
メタ的な話をすると、この人は製作陣から直々に出禁を食らっているため、少なくともこの時代にはまだ現れることはない。よって主人公の懸念は徒労に終わるのであった。
■女の子
コンニチハオイソギデスカ?
地位が低くて可哀想なやつ。略してちいかわ。
軍警に囲まれていたのを助けられたと思ったら、もっとおっかないおじさん(お兄さん)に捕まった件。
助けて……マチュ……シュウちゃん……愛媛みかん……
いよいよアニメが劇場版のその先へ……!
ネタバレをしますと、連邦は敗けておりません。連邦はまだ負けておりません。まことでございます、連邦は──────
次回は猫虐待スレ(掲示板ではないよ!)になります。まずはどうしてやろうかククク……!