原作の動きが激しすぎて難産でした。
今日もコロニーの人工太陽は分け隔てなく仮初の大地を照らす。
元々イズマに住んでいた住民も、流れ着いた難民だろうとも。それはネノクニなんて名前をつけられた、光の届かない地下世界を意味する場所でも例外ではない。
昼下がり。日差しが弱まるタイミングを見計らって外へと繰り出した。
林のように生える電柱と蔦のように木々に巻き付く電線を見上げると、嫌というほど難民たちの巣窟なのだと思わされる。いかにも乱雑に絡まったところを見ると、急ピッチで復旧させたことが見て取れる。おそらく、この前の軍警が荒らした跡地なのだろう。
ニュースで見た光景が目の前に広がる。
こうして目の前に映ると一気に実感が湧いてくる。そう言えば、サイド6では俺達ホワイトベース隊とコンスコン隊の戦いが中継されていたと聞く。
戦争なんか対岸の火事と思っていた彼らもきっとこんな気持ちだったのだろうな、なんて思ってみる。
この中立コロニーに産まれて育った子達は幸運にも戦争の経験がない。所詮、戦争なんて手に持った携帯端末越しから覗いて知る出来事でしかない。その“当たり前”がどれほど尊いものなのか自覚があるのだろうか。
ネノクニの難民街にいる人たちは大なり小なり身をもって経験した人達の巣窟だ。彼らもそんなことを日々考えながら過ごしているのかもしれない。
「思ったより深いな」
そんな詮無きことを考えながら、ネノクニにある今は使われていない整備用トンネルを覗き込む。
底の見えない暗闇はまさに空のゴミ箱だ。
ここを下っていけばコロニーの底部分に着き、エアロックを外せば宇宙へと解き放たれる。ちょうど
そう、
実際にクランバトルに興じる者たちは、ほとんどこの経路で宇宙とコロニーを行き来している。
であれば、このトンネルを見張っていれば自ずとバトルに参加する
胸ポケットに仕舞ったものをゴミのように捨てる。
『ザッケンナオラー!』
空中に放り投げられた黒塗りのそれは物騒な機械音声とともに二枚の羽を羽ばたかせて地下へと潜り込んでいった。
取り出した鳥型ロボット──────『クロウ』はただのペットロボットではない。自律行動は勿論のこと、物体検知カメラを内蔵している。 物騒な言葉使いだが、音声も女性や子供の肉声、環境音まで再現可能である。
……元はカツの誕生日プレゼント用に手慰みで作ったそれだったが、機能を追加していくにつれて意外にも陽動や捜査において役立つ便利アイテムとして重宝していた。
地下の様子はクロウに任せ、本体の俺はネノクニをぶらぶらと歩みを進めた。
夜も通常どおり営業があるというのに、昼間からなぜこんなことをしているのかというと──────
「ジークアクス、か」
件のジオンのガンダムを追っているのだった。
◆◆◆◆◆
「──────と、木星の動きはこのような様子ですね」
時は昨夜にまで遡る。
ニャアンが退勤した後に一人で店に押しかけてきたシャリアから提出された報告には驚きを隠せなかった。
元々交換条件のために頼んでいた“木星圏の情勢”。
このイズマ・コロニーに居座っていながらも細やかな情報を吸い上げてきたのだから。
……こいつ、改めて考えるとあの木星船団の船長していたんだよな。普段の言動がアレだから、頼んだ手前忘れかけていた。
部下には無茶振りするし、最近ではウチの新人アルバイトにクラバのことをあれこれ解説しているし。
それでも根っこは赤い彗星に骨抜きにされて早五年という。何というか、属性が渋滞しすぎて笑えない。
論文のようにページ数の多い報告データをすらすらとタブレット画面を操作していく。
文体も丁寧でわかりやすいのに、文字の一つ一つから伝わる怨念がスワイプの進みを遅らせる。
このプレッシャーは……コモリさんか?
情報収集は元船長たるシャリアにしかできないとは言え、この文章量をこの短時間で書かせるなんて、また無茶振りしているのか、お前は。
なんて、前世の力を借りた並列思考で無駄なことを考えながら報告書の情報を頭に入れていく。
ふと、最後の画像データのところで手が止まった。
隠し撮りのような画質の荒い画像からでも見て取れるシルエットは、この宙域においては誰も知らない謎めいた新型の機動兵器。
取り囲むように組み立てられた足場と散らばる作業員の姿から見るに、まだ完成には至っていない。
一体、どのようなものが出来上がるのかは、設計図を頭に浮かべている設計者しかわかり得ない。
……しかし、前世だけは知っている。
三角錐型にそびえ立つ砲塔と大型のブースターが、二対。異形とも言える造形は木星における大重力下においても活動できるように独自に発展を遂げている証左か。
そう、間違いなく可変機の代表格ともいえる
「……そんな彼らが着実に力をつけている。なぜ今になって──────と思いましたが、かの御仁が関わっているとなれば腑に落ちました」
他にも同じような画像が出てくるのを見るに、シャリアも俺と同じ所感を抱いたようだ。
きっと、こいつが木星にいた頃よりも発展を遂げているのだろう。
採掘船であるジュピトリスの工業区は新型の開発に躍起になっている。木星近辺にも海賊や無法者が現れる以上、戦う力も求められるにしても、この規模は些か個人の思惑が蠢いているように見えてもおかしくはない。
「ん? 本人に会ったことあるのか?」
「こう見えても責任者を任されていましたから」
顔を合わせたことは数少ないですが、と前置きをして、さらにシャリアは言葉を続けた。
「当時も、その名前は木星船団公社の中でも話題になっていました──────“世紀の天才”と。
随分と高い能力をお持ちのようでしたよ。
連邦が勝とうと、ジオンが勝とうと奴は変わらない。遠くない未来、この
「ちなみに、貴方は彼をどう思いますか?」
「自分のことをゲーム感覚で世の中を動かせる天才だと思い込んでいる小うるさい劇団の主宰」
「フフッ……いや失礼。まるで会ったことのあるように話すのですね」
「こんなの受け売りだ。会ったことなんてないが、まあ質の悪い妖怪の類か何かだろう?」
「酷い偏見ですね。似た者同士、意外と話が合うかもしれませんよ?」
「いきなりヘイトスピーチかよ……これだからはジオッパリは」
涼しい顔で俺の殺気を流す“木星帰りの男”。
暖簾に腕押しとはまさにこのことか。
……似た者同士、と言われて耳が痛くなる。
半分は当たっていたかもしれない。
今世はともかく、前世のスタンスは奴に近い。
いつもいつも脇から見ているだけ。
人は弄ぶ……わけではないが、もしこの肉体が前世の意のままに操れるようになったら、と考えると気が気でない。
興味本位でいらぬちょっかいを加えて、あらゆる混乱を招くに違いないから。
……そんなことしない?
僕はハッピーエンドが好きだから、だって?
どれだけ親しい人でも他人の死に対して一切共感できない破綻者が何を言うかと思えば。
もう黙れ、ずっと俺の中でじっとしていろ。
「自己嫌悪はそのあたりにしましょう。
ところで、貴方は彼をどうするつもりですか?」
「木星からやって来たら殺す。それだけだが」
店内のBGMが途切れる。
曲と曲の合間。僅かな静寂は永遠かのように思えた。
「……貴方はあくまで殺そうとするのですね。同じニュータイプを」
「相互理解のために能力を使ってくれるのなら良いさ。だが、悲しいことに現実はそうじゃない。悪用する奴は悪用するものだ。
……そして、さらに悲しいことに、そんな悪用する奴らを止めてくれる人間がいないんだ、この世界は」
連邦が勝利しなかった世界。
これだけでこの宇宙世紀の未来は大きく分岐しても、変わらないことだってある。
ティターンズは誕生しないが、連邦内の極右集団は依然として存在している。例のコロニー内で毒ガスを撒かれた事件を知った時の今世の気持ちを、一体誰が推し量れようか。
そんな過激な集団に対抗馬として存在するはずだった組織は、名前すら一切聞かない。
代わりに俺が組織を立ち上げようとも考えたこともあったが、残念ながらそんな求心力なんて持ち合わせていない。
せいぜい機械いじりと腕っ節、そして
「でも、俺が止めないといけない。どんなに野蛮で、雑な解決方法だと蔑まれても。
きっと、それこそが俺がこの世界にいる意味だと思うから」
この世界でカミーユは何をしているのだろう。ティターンズが生まれない以上は親子関係もマシになっているだろうか。
ジュドーは何をしているのだろう。順調にお金を貯めてリィナを山の手の学校に通わせられるのだろうか。
世界の歪みは変わらず沈殿していく。
そんな精算しなければならない歪みを直視させられる度に、己の首を絞めつけたくなる。
……でも、彼らはガンダムに乗らなければ幸せに暮らせる、なんてことを考えれば多少は溜飲は下がる。
なら、なんで、アムロは────────────
「……格好良いサングラスが傾いていますよ」
「……そう言うお前こそ、キマっている前髪のセットが崩れてきたな」
「ふふっ」
「ははっ」
沈黙を断ち切るように次に店に流れ始めた音楽はピアノとサックスの二重奏。
客観視してみれば、なんと異様な光景か。大の大人が二人揃って不意に笑い出すなんて。
「話し過ぎた。とにかく情報提供には礼を言う」
「結構。では、報酬は今日のお代ということで」
シャリアは氷の溶けきったウィスキーを呷り、店を後にした。
片付けしている途中、コースターに挟まれた紙切れを手に取った。
……わざとであろう、置いていった写真には、この前のクラバでも獅子奮迅の活躍をしたジークアクスが映っていた。
◆◆◆◆◆
そして現在に至るわけだ。
依頼していたとおり、シャリアは木星の情報を持ってきた。着実に戦力を蓄えているのはわかったが……実のところまだ足りない。
欲を言えば、“木星のクソ”がどのタイミングで頭角を表してくるかまで知りたいところだ。
このジークアクスの件も何かしら進展があれば、俺の依頼の方にも時間を割けると踏み、俺も独自で調査することにした。
……別に、あの置いていった写真を見て急かされている気になったわけでない。ないのだ。
「実はアイツ、もう居場所見つけているとかじゃないだろうな?」
陽除け代わりに件の写真を太陽光に翳しながら独りごちる。
何となく口にしてみた独り言は思っていたよりも簡単に想像できてしまって頭を抱えてしまう。
……まあ、そもそもこのジークアクスの捜索とは異なる、シャリア自身の思惑が別にあるような気もしている。
確証はない。ただの勘だが。
実は的外れな考えかもしれないため、一先ず置いておく。
ただ、ジークアクスのパイロットとは面識を持っておきたい。それは正直な気持ちだ。
エグザべ君の話によると軍とは関係のない一般人のようだ。巻き込まれて成り行き的に乗っているのであれば、境遇的にはホワイトベース隊に近い。
追々、ジオンに見つかって回収され、処罰をされようとした時、何か力になれることがあるのかもしれないから。
「おっと」
「あら」
考え事をしながら歩いていると、突如目の前に長細い扉が出現した。
出入口扉の可動範囲と一般道が重なることなんてざらにある場所がネノクニだ。都市部とは対照的に、土地区画の整備が後回しにされている以上、こういうこともある。
「ごめんなさい。お怪我はありませんか?」
「いえ。こちらこそ失礼しました」
柄の悪い男なら穏便に“お話”が始まるところだったが、出てきたのは温和そうな黒髪女性。
こんな無法地帯に近い場所には明らかに浮いているのに、特に物怖じすることもなくこちらの心配をしている。
「……まあ」
ただ、その視線はみるみる色を変えていく。
一瞬、ぽかんとした後、目を見開いて柔和な笑顔を浮かべた。
まるで、偶然旧い知人に会った時のように。
「ねえ、私のこと覚えていないかしら?」
「……え」
本当にそのとおりの笑顔で面食らった。
改めて彼女の風貌を見る。首元にかかるくらいの黒髪のボブヘア。年下のように思える丸いシルエットの童顔。俺の胸辺りくらいに位置する背丈から年下のように思えてしまうが、落ち着いた立ち振舞いは間違いなく大人のそれ。
宇宙世紀なんて人種が入り乱れる時代でも、決して特徴がないなんてことはない容姿は決して記憶に残らないとは思えないのだが……本当に覚えがない。前世の記憶とも照合してもそれらしき人物が見当たらず。
「………………………………どちらさま?」
困り果て、失礼ながらそんなありきたりな言葉で返す。相手は気を悪くした様子を見せない。
……今世の知人、となると嫌な予感がしてならない。
サイド6はあくまで隠居先。知人など数えるほどしかない。
となると必然的に、故郷であるサイド7の人間か──────
「
──────連邦時代の人間に限られるからだ。
◆◆◆◆◆
軽キャノン。
ガンダムの派生で生まれた量産機であるジムではなく、ガンキャノンの派生で生まれた量産機である。
二対砲門があるガンキャノンとは異なり、軽キャノンは一門のみに絞られ、代わりにビームサーベルが搭載されている。ガンダムとガンキャノンを足して割ったような姿を最初見た時は驚かされた。
聞くところによると、軽キャノンの製造に使われた戦闘データは俺がガンダムに乗り替える前に乗っていたガンキャノンがベースだと聞く。
俺のガンキャノンは砲撃機にも関わらず前線に突っ込んでザクたちと肉弾戦をしていた分、駆動のデータは多く収集できたため、必然的にそうなってしまったとのこと。
結局、連邦軍の強みである“数”を活かすために、量産体制は安価で組めるジムの方が優先されることになった。
ジャブローでのお披露目の際、お前のせいでこうなった、みたいな技師たちの視線を受けた時は理不尽極まりなかった。
甚だ遺憾だったのは五年経った今でも覚えている。
解せぬ。カイさんだって砲撃しないで岩投げていたのに。
そんな軽キャノンたちで組織された部隊が俺達ホワイトベース隊とは別に活動していたらしい。
その部隊に所属していた彼女──────シイコ・スガイさんは、件のジャブローで俺に挨拶してくださったそうな。
……申し訳ないことに、憶えていなかった。
あの頃はシャアの赤いガンダムが乗り込んできた上に、精神的に余裕がなくなってきた頃だからそれどころではなかった、と往生際の悪い言い訳をしておく。勿論心の中で。
忘れていたこちらが一方的に非がある以上は口に出すわけにもいくまい。
「バイトさんも付き合わせてしまってごめんなさい。旧い知人って言っても、二人でお茶したって話を旦那が聞いたらやきもち妬いちゃいそうだから」
「……まあ、別にいいですけど」
そんなシイコさんと、彼女が用のあったジャンク屋のバイトしている赤毛の子の三人で、駅前の喫茶店で腰を落ち着かせていた。
……いや、俺だけ落ち着いていない。
完全に油断した。
事故に近い形とはいえ、まさか連邦の関係者に見つかるとは思わなかった。
身を隠し通していた五年間がご破算になるかもしれない瀬戸際にいる。ここでの行動次第では軍が動く可能性もある以上、落ち着けなんて無理がある。
無性に煙草を吸いたくて吸いたくて仕方ない。
しかし店員に案内されたのは禁煙席。
若奥様と女子高生が同席している中で喫煙席に座れるわけもなし。
謀ったな、シャアめ。
「まさかイズマに居るなんて思わなかったわ。元気そう……でもないかしら? ちゃんと眠れている?」
「………………」
「ああ、ごめんなさい。そんなに身構えなくても大丈夫よ。
私も結婚して、子供が産まれる前に退役しているから。今更貴方の存在を連邦に伝えたりしないから安心して頂戴。
私もそれどころじゃなくなりそうだから、せめてその前に少しお話をしたくて呼び止めたの」
丁寧な所作で紅茶を一口飲むシイコさん。
カップを持つ左手の薬指には確かに輝く指輪がつけられている。結婚したというのは確かなようだ。
……俺に出されたアイスコーヒーには口をつけない。釣られて飲みそうになったのをぐっとこらえた。
「あ、バイトさんには説明しないといけないわね」
「……え、私?」
「事務所の中で
実は、彼と彼のマヴがツートップで、私が三位。
撃墜スコアは彼の方が上なのよ」
「ってことは、100機以上ってこと?」
──────え、こいつが?
先程まで興味なさそうに画面の割れた携帯を操作していたバイトの子から、そんな視線が突き刺さる。
なんと失礼な。まあ、尊敬の眼差しをされても、それはそれで不快になるから良しとしよう。
「凄いでしょう、彼。18歳にもなっていなかったのに倍近く差をつけられてしまったの」
「……記録では50機にも満たなかったはずですが。実際、俺の相方の撃墜数が圧倒的に多かったから誇張して思われていただけ──────」
「
ぴしゃり、と遮られた。
一瞬、柔和な雰囲気が、嘘のように冷ややかなものへと変わる。
「公式の記録はそのくらいの数値にさせられていたわね。
けれど、貴方の……貴方たちの戦い方を見てきた人は決して騙されない。あの“赤い彗星”と対等に凌ぎを削っていた貴方が堕としてきた相手は、数も質も私とは違う」
「赤い、彗星と……?」
バイトの子の呟く声は耳を素通りする。
シイコさんからの視線に目を離せないからだ。
笑顔を浮かべているものの──────目は一切笑っていない。
「撃墜数は勲章……組織の中で優れた者を正当に評価する仕組み。もしこれが会社なら、受けるかどうかは本人の意志もあるでしょう。
でも、軍は違うわ。そこには奪ってきた命の重みや責任が伴うの。貴方はそれを背負うことから逃げたと言えないかしら?」
「…………」
まあ、言っていることはその通りなのだろう。
ホワイトベース隊は避難民の寄せ集め部隊だ。
裏で連邦の上層部からは厄介もの扱いされてきたものの、俺達はあのジャブローで正規の軍人として編入している。それは公然とした事実である。
経緯はどうあれ、軍人である以上は果たすべき責任はあったに違いない。
戦争が終わった後とはいえ──────俺はそれから逃げた身である。正規の軍人であった彼女からは、そんな目で見られても仕方のない話だ。
「ブライト艦長、窶れたご様子だったわ。貴方の遺留に失敗して、行方すらを追わなかったこと上層部から相当詰められたそうよ。
さらには情報の改ざんも疑われて軍事裁判にかけられる寸前までいったわ。証拠不十分で不起訴になったけれど、貴方を英雄視していた下の層からのやっかみとも板挟みになって……あの勢いなら今も続いているんじゃないかしら?
せっかくご結婚もされたのに、同情しちゃうわ」
「うぐ……」
ブライトさんの名前を出されると弱い。
悲しいことに、当時はずっと放心状態で全くと言っていいほど記憶がない。だからブライトさんとの記憶はホワイトベースの中で止まったままだ。
カイさん共々、俺の逃亡に尽力してくれたことは今の隠れ蓑を用意してくれたオーナーからも聞いている。
撃墜数を改ざんしたところで、実際に見てきた人は騙せなかった。専用機、専用の識別色を持つものの宿命、と言ったところか。
なまじ状況が状況だ。戦死として偽装することもできなかったため、皆も苦渋の選択だったのだろう。
……俺なんか、皆が痛みを伴ってまで助けられるような存在じゃないのに。
「いや、英雄視って。ただジオンが懲りずに攻めてくるから、生き残るために必死に戦っていただけですよ。ジャブローで俺達に会ったならわかるでしょう。結局はただの子供の集まりだって」
「そうね。ニュータイプ部隊なんて揶揄されながらジオンに格好の標的にされて可哀想、なんて思ったわ。最初は」
「最初は?」
「ええ、最初は」
シイコさんの目が細くなる。
一層低くなった声で発される言葉は、俺を瞠目させるには十分だった。
「観たの。ルナツー包囲網突破作戦」
「っ」
誇張抜きで、呼吸が止まった。
触られていないのに、首を絞められた錯覚に陥る。
「ジオンの虎の子の兵器とも言える大型
私は別ルートでア・バオア・クーに向かっていたから、現場で目の当たりにできなかったのが残念で仕方ないわ」
ブライトさんたちが記録したものの、念入りにデータベースから抹消したはずの映像を、この人は観ていたと宣う。
……いや、公式では俺の黒いガンダムはアムロが乗っていたことになっているはずだ。
「あ、あれはアムロが」
「
辛うじて出てきた定型的な躱し方も諌められた。
冷や汗が吹き出す。動悸が止まらない。
にもかかわらず、相手は現実を突きつける。
「私達、軽キャノン隊は
塞がらない傷口が酷く沁みる。
いくら年月が経とうとも、たった一人の妹に拒絶された、あの瞬間がフラッシュバックする。
「上の方は戦々恐々としているようだけれど。あの場に居た人、あの映像を観た人は今も貴方の帰りを待ち続けているの。次のジオンとの戦争に備えて。
戦争に負けてないわ──────
……まくし立てるように、それでいて淡々と語る
思考がまとまらない今世に代わって、いつもどおり他人事のように。
「勘違いしないでほしいけれど、私は貴方を神格化している層と一緒にしないでほしいの。貴方はただの人間だもの。ジオンのプロパガンダどおりのニュータイプがいるなら、望むもの全てを手に入れられたはず」
──────この女は、
「どうかしら?
「いい加減、その口閉じろよ」
決定的なことを口にした
久しく感じなかった、頭に冷水をかけられた感覚。
冷や汗と動悸が嘘のように収まり、ただただ己に対する不愉快な気持ちだけが
「なあ、さっきから何だ、お前。
そこまで必死に否定してどうなる?」
故に、どこまでも攻撃的になってしまう。
人の心に土足で踏み込んだ報いを受けさせてやる。
そんなドス黒い感情は自覚があって止められない。
「
ひたすら見苦しくて、不毛で、哀れだな──────お前の戦争とやらは」
吐き捨てるように出た言葉は静寂を呼ぶ。
談笑に興じていたはずの周囲の客が、黙ってこちらに視線を向けていた。
「うふふ、ふふふふふふふ」
しかし、それを真正面から受けたはずの女は笑っていた。
恍惚とも言っていいだろう、この表情は。
そして悟った──────
「よくそんな心にもないことペラペラと言えますね。“魔女”の異名は伊達ではない、ってことですか?」
「あら、心外ね。まさかこんなことで思い出してくれるなんて」
人殺しの数を競い合う風潮は好まないが、繰り上がりの
しかし……形容しがたい敗北感が拭えない。
前世も含めれば人生経験はこちらの方が上のはずなのに、終始手玉に取られてしまった。
せめてもの仕返しの意味も込めてここは否定せずに黙っておこう。
「ごめんなさい。気を悪くさせたでしょう?」
「こっちも言い過ぎました。お互い様ということで」
お互い、頭を下げて謝り合う。
店内からほっと安心するような感情が伝わってくる。そうして周囲の談笑が再び始まった。
……どうやら、無意識にプレッシャーを放っていたようだ。
最悪な空気を振りまいて本当に申し訳ない、と各方面にも心中で謝っておく。
「感覚があの頃のように研ぎ澄まされていくのを感じる。感謝するわ──────これで私も、安心して戦場に出られる」
そして、シイコさんが俺を散々煽った目的を語った。
このサイド6における戦場と聞いて思い浮かぶのは決まってひとつ。
「クラバに出るんですか?」
「ええ」
「いっ!? 嘘ぉ!?」
「あら、いけない。この件、オフレコでお願いね、バイトさん」
ついうっかり、とした表情をシイコさんは浮かべているものの、果たしてそれは無意識だったようには思えない。
もうこの人を第一印象どおりの、おっとりとした人として見ることは叶わなそうだ。
「クランの宛は?」
「知人が勤めている
ここだけの話、そこには貴方の知人もいるの。興味があったら是非顔を出してあげなさいな。きっと喜ぶと思うわ」
そう言いながら差し出された名刺を受け取る。
記された会社は俺も知っているものの、残念ながら知人と聞いて思い浮かぶ人間に心当たりはない。
誰だろう、と一瞬考えたものの、一先ずそれは置いておくこととした。
それはそれとして──────確かめなければならないことがあるから。
「あのガンダム、赤い彗星じゃないですよ」
「知っているわ。でも、私は止まれない」
「旦那さんもお子さんもいるのに?」
「ええ、坊やは可愛いわ、旦那も優しいし。でもね……」
何かを手に入れるために、何かを諦めなければならない。
望むもの全てを手に入れられる人間なんていないことを証明するために戦うの。
柔和な笑みが消え、真っ直ぐに見据える瞳の奥は戦士のそれだった。
ああやはり、と、納得する。
一連のやり取りで感じていた、彼女に渦巻く感情は決して嘘はない。
彼女の中で──────一年戦争は続いたままなのだ。
「ねえ、バイトさん?」
「な、何ですか?」
「“赤いガンダムのパイロット”って──────どんな人?」
そんな言葉を残して去っていった。
これが、彼女との最後の会話になるような予感がする。
そんな勘が的中しないことを祈りながら、その背を見送る。
「あの人、怖っ」
それはそれとして正直な感想が溢れてしまうが。
珍しく前世と意見が合うほどに“濃い”性格に戦慄を覚えた。
この激動の宇宙世紀、戦争を生き抜いた女性は皆女傑揃いなのかと震えが止まらなくなる。
……と、呆然としているバイトの子が視界に入る。
この子、完全に巻き添えになってしまった。
さすがにフォローしておかない使命感に駆られ、出来るかぎり優しい声色を意識して声を掛ける。
「……俺はまだしばらくここに居るから先に 出ていっていいぞ。あの人も言っていたけど、付き合わせて悪かった。支払いはやっておくから」
「え、じゃあ追加でパフェとか頼んでいい?」
「強か過ぎないか?」
そんな心配を他所にケロッとしていたが。
「いや、その、あたしも少し頭混乱してて……糖分欲しいんだよね」
「あ──……仕方ない。好きなの頼め」
「やりっ」
一瞬見せた弱った表情を見せたものの、にしし、と笑みが戻っていく。
どうやら通常の三倍くらい強い人間だったようだ。
この強かさ、ニャアンも見習った方がいいと思いながら店員を呼んで注文をするバイトの子。
しかもメニューに書かれた中で一番高いものを頼む始末。通常の三倍どころか、五倍以上のエネルギーゲインがあるようだ。
……やはり、この世界の女性は皆女傑なのではないか?
認めたくないが、“木星のクソ”が提唱するあの考えに同意しかける今世であった。
いや、何だよエネルギーゲインって。
「ね。連邦にいたってことは、地球にも居たってことでしょ。地球の海ってどこでも自由に泳げるの?」
会話なんてすることもない、と思われたものの、意外にも話しかけてきたのはあちらの方だった。
「海水浴したいならちゃんとしたビーチに行け……って、何だこの話」
「今度、友達と地球に行こうって話してるんだよね。パフェ食べ終わるまででいいから、色々教えてよ」
「ええ……」
一瞬試されているのかと勘繰ったものの、あちらは雑談のつもりで話を振った様子だ。
……時計に視線を向ける。
店の開店時間まではかなり時間がある。
目的も果たせたし、開店前にニャアンの勉強を見ることを加味しても、暇潰しにはちょうど良いかもしれない。
「……まあいいか」
巻き込んでしまったお詫びも兼ねて、静かに地球にいた頃の話を語る。
……できれば、シイコさんともこんな他愛のない話をしたかったな、なんて感傷を胸に抱きながら。
◆◆◆◆◆
「ジークアクスのパイロットと接触しましたか。それはそれは」
「推定だけどな」
ニャアンを帰した後、シャリアに今日の出来事を語った。
エグザべ君が記憶しているかぎり語ってくれた特徴と一致する上に、シイコさんが去り際に言い残した発言に対する反応を見るにほぼ間違いない。
そも、見るからにわかるお嬢様がネノクニのジャンク屋に出入りするなんて怪しいにもほどがある。
きっと、あのバイトの子が“
二人が出てきたジャンク屋──────カネバンの地下トンネルにクロウを仕込んでおいた。
次のクラバになればジークアクスが出てくるはず。それで裏取りもできるだろう。
「ああ、けど──────」
「構いませんよ。下手に刺激して、
「……本当に?」
「本心ですよ?」
相変わらず別の思惑を感じるものの、シャリアの言葉からは嘘は感じられない。
今、考えても詮無きことか、と思考を切り替える。
目下、注目しなければならないのは次のポメラニアンズのクラバだ。
予定どおり、魔女……シイコさんと赤いガンダムとのマッチアップが成立した。
……悲しいことに俺ではあの人を止めることはできない。力づくで止めたとしても、彼女は再び進んでしまうだろう。彼女が抱える執着に決着をつけられるのは、他ならぬ彼女自身しかないのだから。
だからせめて、ここで祈っておこう。
──────シイコさんが、無事に家族の元へ帰ることができるように、と。
「さて、こちらも追加の報告です」
そして、昨日の夜の焼き増しのように、シャリアから提供された情報に目を通す。
紙に出力すれば一枚にも満たない文字の羅列。
しかし、それは端的に何が起きているのかを明確に示していた。
「冗談だろ?」
「残念ながら、信憑性が高いでしょう」
「……笑えないな」
タブレットに映っていたのは、イズマ・コロニーにおけるヘリウムガスの入庫記録。
入庫記録だけ見れば何の変哲もないものに見える。しかし、出発地の輸出伝票と照らし合わせると計測された重量と規格が一致しない。
表向きは伝票の誤植として処理されているものの、誤植前の規格は明らかにヘリウムガスのタンクとは思えない。
極めつけには、そのガスタンクを購入したグループとして
この企業も、広告としてクランバトルに参加していることは公然とした事実だ。
つまり、これが意味することはひとつ。
「木星圏の試作
今後、性能実験も兼ねて、ここのクランバトルに出るかもしれません」
俺の戦いも、始まろうとしていた。
■イセリア(主人公)【今世】
天パのことを考えるとサングラスがずり落ちてくる男。己の勘に身を委ねて行動したら、いつの間にか子持ち人妻とプロレスを繰り広げていた。はっきり言ってその戦争意味ないから。お前犬死するよ。
基本、連邦軍に対しては天パとホワイトベースに乗っていた第13独立部隊に関心が偏っているため、外伝の方々の動向は気にしている余裕はなかった。しかしそれがシイコ・ スガイの夫の息子の母の逆鱗に触れた!
それはそれとして、連邦内で本来の目的であったジークアクスのパイロット(推定)とも接触できたものの、シャリアの出方を伺うために一旦様子見を続けることに。
■イセリア(主人公)【前世】
あまりに人妻のキャラが濃すぎて珍しく今世の気持ちに共感した模様。まあこんなに死亡フラグが乱立しているため助からんやろ、と平常運転をして今世を苦しめている。
今世と違って外伝組に対しては野次馬として関心がある方。シローとアイナはどうなったんやろ? 添い遂げてくれたら嬉しいなぁ。まあ知らんけど。
なお、この後のクラバに出るゲルググを見てフリーズする模様。完全にジムに対する当てつけじゃねぇか! 退屈しねぇなこの世界はよぉ!
■シイコ・スガイ
旦那以外の人間とプロレスを繰り広げた人妻。
寝ていないのでNTRではない。いいね?
この世界でも軽キャノンを駆り、連邦の
おっ、反応があった。やっぱ各方面からニュータイプなんてジオンが提唱する迷信で呼ばれている奴らもホンマのことを言われたらハラ立つんやな……いや、別に自分や自分のマヴが眼中に無いことなんて気にしていないが????
そんな感じのプロレスを経て啓蒙と戦意を高めて赤いガンダムとのクラバに臨む。この先生きのこれるか。
■シャリア・ブル
大佐のことを考えると前髪が垂れてくる男。
え……プロレスしたのですか……私以外のニュータイプ(本人は否定)と……?
部下が居ようと居まいと主人公のいるバーに押し掛けて来る。木星の情報を小出ししながら、もっとジークアクスの件に介入させようとしてくる。わざと写真を置いていったのもその一環。
◆この男の目的は……?
■アマテ・ユズリハ(マチュ)
女の子にモテる系のエキセントリック女子高生。突飛な行動で周りを振り回す側であるが、今回は完全に巻き添えを食らっている側である。
主人公に対しては初対面では不審者として見ていたものの、強烈なプレッシャーに当てられて「普通じゃない」判定にカテゴライズされた。
そもそも
それはそれとして、ちょっとした雑談のつもりで地球の話を振ってみたら思いの外盛り上がって楽しかった。フラミンゴの群れとか絶対コロニーでは見られないから見てみたいなぁ。
■????
なんか丁寧に痕跡消しているけど、チョロチョロ嗅ぎまわっているカトンボがいるパプテマスね〜。
おっ、おあつらえ向きに非合法な
異常すぎる嗅覚で遠く離れた地のプレッシャーを感知した模様。しかし脅威には感じていないのでいつもどおりエンジョイし続ける。
なんか原作がZガンダムを始めそうですね。
サイコガンダムも出るようですし、例のあの人って実は出禁(登場しないが関与しないとは言っていない)みたいな感じなんです?
まあ原作がその方向ならこちらも舵を切っていきますね。そろそろニュータイプ同士の空中戦だけでなくMS戦もやりたいので。
さて、ドゥーちゃんのお墓を建てるウラ(先行入力)