ちなみに大規模侵攻編は丸々カットしますが、ご了承下さい。
遠征は何とか無事に終わった。帰ったら数日後には期末試験があるが、俺は予め担任に遠征で居ない間の授業の内容を課題として受け取っているのでそんなに心配はしていない。
遠征と言っても常に戦っている訳じゃない。移動と休息を繰り返しながら目的地まで行く。休息は船を休めることを目的にしており、ここで戦闘が起きることもある。近界は何が起こるか分からない。突然の敵襲もあり得ない話ではない。
とはいえ移動中は比較的自由行動が多い。食事は当番制で持ち回りも交代制だ。なので自由時間にはゲームをしたり各々の時間を過ごしている。俺はその時間で勉強をしているのだが、リーゼントや太刀川隊の面々から何故か引かれた。いやお前らも勉強しろよ。
そしてようやく帰れるとなった数時間前の話である。
「おえぇぇ……き、気持ち悪い……。」
我が隊の隊長が絶賛船酔い中である。前回の遠征の際もダメだったが今回もダメらしい。めちゃくちゃ気持ち悪そうにしながら横になっている。全く締まらないな。
「全く前回に引き続き今回もか。少しは対策なり学習しろ。」
「ひでぇよ真木ちゃん……おぇぇ……。」
「──ったくしょうがないな。理央、お前降りたら医務室まで運んでやれ。」
「何が悲しくて帰還早々おっさんの介護をしなきゃならんのか。」
「当真、お前は隊長代理で報告へ行ってこい。」
「えっ、俺?こういう時は真木ちゃんが行った方が……。」
「隊長除いたら1番年長者だろ。偶には年長者らしく役に立て。」
これである。都合の良い時だけ当真先輩を年長者扱いするのが理佐だ。そもそも隊立ち上げ時も隊長職はおっさんに任せてる辺り抜け目がない。
遠征艇がボーダー本部へようやく着いた。俺は隊長の肩を抱きながら医務室へ向かう。船員は軽いメディカルチェックを受けたのち、各隊の隊長は司令本部へ報告に向かう。
「しっかりしろ隊長。ほらボーダーのベッドだ。」
「あ、ありがとう理央……優しいのはお前だけだ……。」
「誰かがやらなきゃいけねぇからな。じゃあ隊長のことお願いします。」
医務室の管理人に隊長を預けて俺は隊室に戻る。とりあえずの一時待機だ。暫く待っていると当真先輩が帰って来た。
「よお。どうやらこの後もう一仕事あるらしいぜ。」
「はぁ?冗談だろ?ふざけんなクソが。」
「しゃあねぇだろ命令じゃあ。なんでも玉狛に新しく近界民が入隊するらしいんだが、そいつがどうにもブラックトリガー持ちらしい。それを奪い取って来いとよ。」
「上の派閥争いか。パワーバランスが崩れるのはごめんてか?それで遠征部隊が帰って来るまで待ってやがったな。まあブラックトリガー相手じゃ仕方ないか。草壁隊と片桐隊は居ないし三輪隊だけじゃ流石にキツいもんな。」
「てことで太刀川さんが作戦会議するって言うんだがどうする?」
「帰る。夜までには戻る。それにどの道隊長がダウンで参加出来ねえなら意味ないだろ。後で概要だけ聞く。」
「えぇ……マジかよ。てか真木ちゃんは何処行ったよ?」
「三上さんのとこ。」
「あぁ……なるほど。」
「だから会議とやらは適当にあしらっとけ。」
俺たちは久しぶりの一家団欒を楽しんだ後、ブラックトリガー争奪戦に向かった。ちなみに会議を当真先輩に任せた詫びに家から持って来た夜食を渡すハメになった。お前どうせ会議まともに聞いてなかっただろ。概要がイマイチ分からんかったぞ。
─────────
ブラックトリガー争奪戦が始まった。三輪が凄い剣幕なのはともかく早速クソリーゼントが隊長不在を喋りやがったあの馬鹿が。理佐が通信からかなりキレ気味に『口を噤め』と。ああ恐ろしい。
迅さんは1人で立ち向かうらしいが、いくらSEと風刃があると言ってもボーダーのTOP3とおまけに三輪隊相手じゃ厳しいだろうと思っていた。
「嵐山隊現着した。忍田本部長の命によりこれより玉狛に加勢する!」
嵐山隊か。こりゃ逆にこっちが厳しいか?そもそも迅さんが嵐山隊を呼んだ時点で勝ちの目算があるってことだ。勝算もなしに立ち向かうほど愚かでも蛮勇でもない。
そんなことを考えていたら風間隊の菊地原が真っ先に落とされた。菊地原のSEは味方に共有できる。耳で情報を得られれば戦いを優位に進められるのだが……迅さんもそれが分かっているから最優先で倒しやがったなクソが。
『チッ。あいつ自分の駒としての価値を理解してるのか馬鹿が。』
理佐からまた怪訝な通信が飛ぶ。一応これは同じ隊だけに向けた通信だが、オープンチャンネルで話しててもおかしくないくらいキレてる。全くふざけやがって。
『とりあえず嵐山隊を落とす。配置に付け。』
『これ半分消化試合だな。』
『どういうことだよ理央。』
『恐らくは風刃のデモンストレーションだ。ボーダーの精鋭部隊を蹴散らせる性能を見せつけた上で交渉の席に立つ。つまりこの戦いで負けようが上の思惑は叶う。てか普通に負けだろうしな。まあ手は抜かねぇし命令は遂行するが、割に合わん仕事だ。』
『御託は良い。とにかくやるべきことをやれ。』
つーかこの戦い隊長が居ないから罠も何もねぇな。もう俺は狙撃捨ててトラッパーとして動くか。
『当真先輩、トラッパーやってくるから狙撃は任せた。』
『了解。』
『おい出水、三輪、ワープとトラップ張るから有効に使え。』
『了解。』
嵐山隊はさっさと倒しておきたいが向こうは引きつけと時間稼ぎが目的だから面倒だな。中距離の連携はボーダートップクラスだし普通に厄介だ。
「──なんかベイルアウト多くね?」
時枝1人と木虎の片足を削ってベイルアウトする米屋に木虎に頭を斬られる当真先輩とかこりゃあかんな。仕方ないな。
「──仕事はしておくぜ。」
佐鳥のツインスナイプが三輪たちを捉えたその一瞬だけを俺は待っていた。
「──ナイスツインスナイプ。じゃあ死ね。」
ワープで背後に回り込んでのゼロ距離アイビスで佐鳥をベイルアウトさせたところでゲームオーバーだった。風間さんたちが負けたらしく撤退の命令が理佐から入った。
「作戦失敗かぁ。5位のチームに一杯食わされたのは腹立つなぁ。」
「うちの隊はテレビや広報の仕事を熟した上での5位です。普通の5位と一緒にしないでもらえます?」
「木虎相変わらずクソ生意気だな。」
「だが事実負けたんだ。何も言えんだろうが。」
「つか理央!お前今回やる気無さすぎだろ!狙撃も全然してねぇし。」
「No.1狙撃手様が居ただろうが。それに俺は佐鳥をちゃんと落としただろ。まぁお前らが撃たれた後だったが。」
「てか迅さん半端なくね?6対1で勝ったんだろ、ブラックトリガーヤバすぎ。」
「この戦いはそもそも迅さんのデモンストレーションに過ぎん。こんな風刃の性能お披露目会に遠征帰還早々に付き合わされてやる気が出るならそりゃイカれてるぜ。」
本気で抵抗するつもりなら玉狛第一を出したっておかしくない盤面だったはず。それを自身の力だけで事を収めたのは最後には交渉の席に立つつもりだからだ。つまりまんまと迅さんの思惑通りに運んでしまった訳だ。腹が立つことこの上ない。
「だからさっさと帰る。言っとくが手抜きをしたことは断じてない。今回の戦いだって2人掛りでどちらも落とせないお前らが悪い。──ベイルアウト。」
冬島隊の隊室に備え付けられているベイルアウト用のベッドに戻って来た。
「作戦失敗か。こりゃ真木ちゃんにどやされんなぁ。」
「どうしようねぇだろ。迅さんを突破出来なかったボーダーNo.1が悪い。まあ当真先輩は隊長不在を口走ったり木虎に裏掻かれたから説教確定だな。」
「えぇ……マジかよ。」
逆に考えろ。何故説教されないと思ったんだよ。