異世界シンジ   作:憲彦

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息抜きです。軽い気持ちで読んでくだされば幸いです。


第1話

 14歳の少年が、特撮に出てくるような巨大な人造人間のパイロットとして戦い抜いた。その戦いは凄まじく、最後の人間同士の戦いの後、肉体的にも精神的にも追い詰められ限界を越えた少年「碇シンジ」は、昏睡状態に陥ってしまう。

 それから17年、時代が変動した現代に、彼が再び目覚めた。喜ばしいことである。

 

「イレルラーズ、「グランバハマル」トナ、ガルトリエバ、リレクス」

 

 頭がおかしくなっていたと言う点を除いて。

 

「碇くん」

「……日本語……あぁあ!ごめんごめん。異世界、グランバハマルに17年間居たけど、ようやく帰ってきた。だったね。ハハハハハ」

 

 連絡を受けて迎えにきたかつての同僚、綾波レイの心中は穏やかではなかった。少なくとも彼女が知るシンジはこんなのではない。そもそも冗談なんてほとんど言わない内向的な少年。それが17年ぶりに目を覚ましたかと思えば、笑えない冗談をいきなり飛ばしてくれた。

 

「検温で~す」

 

 看護師が入ってきた。

 

「ザルべ、マディーラ、コルストナムコルストナム」

「アハハハ。そうですね~」

 

 何食わぬ顔で冷静に対応して相槌を打っている看護師。2人のやり取りから目を反らさなかった綾波を褒めて上げてほしい。

 

「ピピッ)デルストーバ、トナ、ラベルトガル」

「そうですね~。平温です。また来ますね~」

 

 そう言って立ち去る看護師。再び病室はシンジと綾波2人だけの空間となった。

 

「綾波……だよね。あれから17年。随分と雰囲気が変わったね。他のみんなは?」

「ネルフは本部より半径200kmを領土として独立。葛城三佐と赤木博士は、学校の教員をしつつ地球の環境をセカンドインパクト以前に戻すために活動。元ネルフ職員も研究員として尽力中。だけど、昏睡状態の碇くんの処遇を巡って、言っちゃいけないことを言い合って関係に亀裂が。司令は諸々の責任追求のため日本政府と国連が身柄を拘束。現在は冬月副司令がネルフの指揮官をしているわ。葛城三佐は会わせる顔がないから、正直会いたくないって……」

 

 どこからか取り出した手帳に、綾波の言ってくれたことを書き込んでいき、裏表紙に何かのカウントを刻む。

 

「イキュラス・キュオラ……ふぅ……あぁ……」

「…………」

「さて。じゃ、異世界に居た証拠を見せようか」

「え?いや、別に……」

「ワーグレント・セルド!」

 

 近くに置かれていたペットボトルの水とコップに手を向けて唱える。しかし何も起こらない。

 

「あれ?ワーグレント・マグナ!!……ワーグレント・ラルド!ワーグレント・ネルド!!」

「碇くん……辛いわよね。ネルフ共和国は経済的に安定してきてるけど、私たちはそうでもなくて、微力だけどネルフが主体の自立支援とかの、あれするあれの書類を持ってきたから……」

「風よ運べ!」

 

 未知の言語では全く反応しなかったが、日本語で唱えるた瞬間、無風だった病室に風が出てきて、ペットボトルとコップを浮き上がらせた。

 

 

「ッ!?」

「風よ戻せ。……こっちじゃ日本語なんだ」

 

 シンジが本当に魔法を使った状況を見て、綾波に電流が走った。今彼女の頭には、少し前にアスカの保護者である三尉から借りた小説で読んだ勇者とその仲間たちが、ドラゴンや魔王やらを倒す光景が流れていた。魔法を本物と確信すると、持ってきていたネルフの自立支援の案内用紙を破り、ポケットに押し込む。

 

「なんか、今エグいこと言おうとしてなかった?」

「言ってないわ」

「ホント?」

「それより、さっきのは?」

「魔法だよ。ほら、火よ」

 

 そう言うと、今度は指先に小さな火が灯る。綾波は詳しく知ろうと聞いてみたが、そんなことよりと、シンジはより詳しく現在の事を聞いた。

 曰く、最後の戦い。そう、戦略自衛隊との戦闘後、加持の暗躍でネルフ共和国が出来上がり、都合の悪いあれやこれやは全部抹消。地球環境再生のために全ての技術を総動員させることと、様々な問題の根元であった碇ゲンドウの身柄を引き渡すことで自治権を獲得。その後しばらくは仲良くやっていたのだが、アスカと三尉の結婚後少ししてから、ネルフメンバーの関係がギスギスし始めた。

 原因は過度の労働。教員免許を持っていた職員とミサト、赤木博士は教職と研究職を掛け持ち二足のわらじで日々働き、司令に就任した冬月は市政と外交と諸々に追われ、全員精神的な余裕と言うものが完全に消え失せていた。

 そこに昏睡状態のシンジだ。誰が引き取る?誰が面倒を見る?最悪入院費や治療費はネルフから出せば問題ないが、目を覚ました後はどうする?となった。

 青葉、日向、伊吹のオペレーターズは毎日激務に追われそんな余裕はない。できても精々見舞いに顔を出すくらいだ。

 ミサトは加持と結婚。したまでは良かったが、加持はまだ件のバイトをしており、中々家に帰ってこない。結果として教職、環境復興のための陣頭指揮のストレス発散を理由に、酒の量が増えまくる。そして何より気不味すぎてシンジと顔を合わせたくないと言う。

 赤木博士は、ゲンドウとの関係でシンジを引き取ることは端から考えていなかったし、そもそも研究などが忙しすぎてとても世話なんかできない。むしろ自分の世話をして欲しいと言っていたレベルだ。

 アスカは保護者の三尉と結婚。アスカはネルフで研究者として働き、三尉も教職と研究職の二足のわらじで活躍。できれば2人とも引き取りたいと言っていたが、現状はとても不可能と言う状態である。

 

「ふぅ……イキュラス・キュオラ」

 

 また頭にペンを付けてそう唱える。綾波はその魔法に興味を持ったのか、効果を聞いてみた。

 

「記憶消去の魔法だね。耐えがたいことがあると使うんだ」

(やっぱり辛いよね……)

「異世界は辛いことが多くてね……見る?」

「え、えぇ」

 

 手帳を手渡され、その中を読んでいく。その瞬間、綾波は後悔した。読むんじゃなかったと。膝を付いて息を整えようと呼吸をするが、受け入れがたいシンジの経験に混乱が収まらないで居る。

 

「消して……読んだ記憶、消して下さい……」

「そうだろ?記憶の精霊よ、忘却の彼方へ──」

(この世界での出来事も、このレベルだったのね……)

 

 1週間後、退院したシンジの力を使って、生活を安定させることを心に決めた綾波。取り敢えず、複数の大手動画投稿サイトで動画を掲載して、6万程の広告収入を得た。

 動画には、魔法で剣を作ったシンジが見事な剣舞を披露している。

 

「住まわせてもらってて悪いんだけど、広くない?この部屋」

 

 当然の事ながら、綾波はあれから引っ越した。アスカと三尉の協力で、感性が普通になってきた綾波は、自身の居住環境に不満を持つようになり、環境の整ったマンションに引っ越した。引っ越した直後はアスカとルームシェアをし家賃や水道、光熱費を折半。が、結婚を機にアスカは三尉の部屋へと転がり込み、以降は一人暮し。2人でも充分に生活できる部屋なため、一人暮しには広く感じるのだ。

 

「え?アスカと同居?同棲してたの?三尉と結婚したのに?」

「ルームシェアだけど?……あ、」

 

 ルームシェアと言う言葉が広く浸透し使われるようになったのは、シンジが昏睡してから少し経った後。言葉事態を知らないと言うことに気付き、スマホを取り出してルームシェアと言うものを教えた。

 

「へぇ~。そんなすぐに調べられるんだ。文豪ミニも進化したね~。あの綾波がアスカと共同生活か~」

 

 そう言うシンジに、綾波は気になっていた事を聞いてみる。異世界での生活のことだ。どんな仲間と行動していたのか気になったのだ。

 

「あぁ。僕は基本的に、17年間1人だったかな」

 

 パンを噛りながら平然と言うシンジに言葉を失った。

 

「異世界人は容姿が整ってて、美男美女が多かったんだ」

 

 皿を拭いている綾波に、唐突にそんなことを言い始めた。

 

「良いことじゃないの?」

「僕は違ったからさ……亜人として狩られかけた」

「碇くん、ちょっと待って」

「それでさ」

「重い!……皿洗いしながら聞く話じゃないわ」

「まぁ万事そんな感じでさ、特に攻撃的なのがさ」

「ちょっと待って!」

「毎日纏わり付いてきて、嫌がらせって言うか、僕が何やっても人格否定とか罵倒とかばっかりしてくるんだ」

「……それは、酷いわね。異世界ファンタジーって言っても、結局はそんななのね」

「初めて会ったときも、魔物から助けたのにお礼も言われなかった……」

「最低ね。その人」

「だよね!確か、誰も助けてなんか頼んでないわ!触らないで!とか、アンタの為に助けたんじゃないわ!勘違いしないで!とか、アンタ見たいなサキュバス顔と居て平静で居られるの私くらいなものね!とか、兎に角、嫌がらせの言葉が酷いんだ……適当な町で巻いて逃げたよ」

 

 アスカみたいだな。と綾波は思った。そう思った瞬間、先程シンジの口から言われたセリフをアスカのような素直になれない系の美人キャラで自動再生される。

 

(ツンデレと言う概念はあるけど、碇くんは知らなかったのね……)

「その後、その子は?」

「うん?さぁ?まぁ、そう言った訳で、異世界でも上手く行かなかったんだよね」

 

 その後、パソコンを開いて自身が投稿した動画の反応を見ていたのだが、煽り耐性が無いためか煽りの定型文として送られてくるコメントに反応したり、「w」をたくさん付けたコメントに困惑していた。




シンジが狩られかけた理由はアレです。過労で頬が痩け、ストレスで目が死んでいた結果です。故に、サキュバスかインキュバスの亜種と認識された感じですね。
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