シンジが帰ってきてから驚いたもの、それは急速な技術の発達だ。特にネットの進み具合には驚いた。自分がグランバハマルへ行く前は、ネルフ内部でも無線でネットを満足に使うことができなかった。それが17年で一般の建物でも不便なく使えるようになったことに心底驚いていた。動画を投稿するようになり、その便利さを改めて理解したのだ。
しかし、誰でも簡単に使えるようになった弊害とも言うべきか、シンジの動画には常套句や定型文とも言える煽り文句や大量に付けられるWに慌てふためいていた。
「この携帯欲しいんだよね。開くんじゃなくて、画面が回るやつ」
「碇くん、それ2G」
「ん?このネットオークションって言うので買えるんじゃないの?」
「そうじゃなくて、それもう使われてない電波だから、通話とかできない筈」
「いいよ。通話は」
「でも、皆と連絡とか」
「綾波。僕にそんなことする相手、居ると思う?」
居るわ!と即答できなかった。冷静に考えれば通話する相手は居るし、なんならしてくれる。だが、なら何故今まで綾波以外だれもシンジに会おうとしてないんだと言う話になってしまう。
アスカや三尉は忙しいから置いといて、トウジとケンスケ、委員長辺りは連絡をくれてもおかしくないのだが、いまだに何もない。それが全てを物語っている。
「うん。そのオークションが最安値みたい」
「調べるの速いね。そんなに小さいのに、スマホはスゴいね~」
「碇くんも覚えればすぐに使いこなせるわ」
「タッチにスワイプ、ピンチアウトか。馴染みがないから、ボタンいっぱい付いてるの触りたい」
「そう」
コーヒーを注ぎながら、そんな会話をしていた。開いたりスライドしたり回ったりする、シンジがいた頃のカッコいい携帯と言うのが全て無くなってしまったことに、少し寂しさを覚えたシンジだった。
「技術革新ね。今までそんな余裕がなかったけど、ようやく進んだのよ。今はタッチパネルが支流」
「17年も経てばそうなるか。ぁあ、そう言えば僕も、異世界で1つ技術革新をやったよ」
「なにやったの?」
「干ばつに苦しむ村で、水の涌き出る壺を作ったんだ」
「スゴいね。どうやったの?」
「2つの魔法を……頭の中を見せた方が早いか。イキュラス・エルラン」
呪文を唱えると、テーブルの上に小さい画面が出てきた。それは異世界でのシンジの記憶で、直接他者に見せる魔法だ。そんな誰もが想像しなかった魔法に、綾波は驚きながら異世界の様子を見ていく。
「魔法を込めた札。呪符って言うのがあって、詳細は覚えてないから省くけど、水の電気分解の逆をやったら上手く行ったんだ」
その言葉通り、画面に映っている蛇口の付いた壺からは水が出ていた。所謂、現代科学無双にあたる展開で、現地の人からの感謝と尊敬の声がスゴかっただろうと、シンジに聞いてみた。だが帰ってきた答えは、自分の想像をフルスイングで裏切ってくれるものだった。
「いや。吊るされかけた」
直後、映像には狂気に満ちた表情の村人たちがシンジを囲み、斧や鍬や鎌や槍を無理回し、長老とおぼしき女性がシンジの作った壺を叩き割った。その間に、村の若い人達がシンジの過ごしていた家を焼いていた。
「どうやら、宗教的に不味かったんだよね。壺が神聖な物として扱われてた村だったみたいでさ」
『待て!』
「誰か助けに入ったわ」
「あぁ。例の嫌がらせの人だよ」
「え?この人が?」
『確かにこの男は邪悪な眼をしている!淫魔その物だ!不振に思うのも無理はない!しかし!!──』
『ワーグレント・グラッカ…………ふぅ。参ったな』
「とまぁこんな感じだね」
ダンッ!と、綾波は力一杯テーブルを叩いた。もう色々と言いたいが、それを表現する言葉が見当たらずそう訴えたのだろう。
「だよね……見辛いよね。一人称視点」
「え?そこ?」
ずれた返答をされた。画面をタップして指でスワイプ。そしてピンチインで縮小。見易いように画面を調整してくれた。それができることに綾波は驚いた。
「かなり狩られかけたわね……あ、じゃあさっきの人、どうなったか見れる?」
「じゃあピンチアウトで、拡大っと」
『あの臆病者……!逃げたのね……!!』
画面には拳を握り、肩を震わせながら怒りの声を発する女性の姿が映し出された。
『たく』
(ッ?!凄くいい人だ!!しかも美人!)
「はいはい。臆病臆病」
「え?」
その反応は絶対違うとでも言いたげな表情を向けた。その直後、さっきまで見ていた携帯のオークション終了のお知らせがパソコンに表示される。1分を切っていて、カウントダウンが始まっている。
「時間が!?あ、あぁ、入札する!」
「待って!送料は調べた?」
「え?(カチッ」
商品のページへ行き、支払いの詳細を確認。落札価格1600円、送料2000円と、商品より高くついていた。しかも住所は聞いたこともない離島。送料2000円も納得の場所だった。
「直接会って取引できれば、送料は無料になるけど」
その言葉の後、力なく立ち上がったシンジはベランダへと歩いていく。そして手すりに足をかけ、そのままダイブ。あまりにも自然に行った為、綾波は一瞬反応が遅れてしまった。
「碇くん?!」
「ちょっと行ってくるよ」
空中に浮遊し、複数の魔方陣を展開すると、エヴァでも不可能な加速を付けて離島の方向へと飛んでいった。そして30分後、ただいまと携帯を持ったシンジが帰ってきた。
「碇くん。このヘッドホン、行ける?」
「出品どこ?」
「熊本」
「5分だね」
「このソファーは?」
「いや絶対重いよ?」
「帰ってきたら肩揉むわ」
「あぁ~、じゃあ行ける」
シンジは送料無料で落札する能力を覚えた。
それから数日後、綾波の部屋に荷物が届いた。通販なら取りに行ったのにと言うが、今日のは某最大手ネット通販の特売の米であり、流石に取りに行くのは不可能と伝えた。テープを切るためにカッターか何かがその辺に無いかを尋ねる。
「ん?はい」
「ありがと……ッ!?なにこれ?何処から?」
「収納魔法だよ。あとそのナイフ、ドラゴン殺せるやつだから注意して」
そう言いながら、手帳も取り出した。病院の時にも持っていたヤツだ。気になったのか、それ以外にも異世界から持ってきた物が無いかを聞いた。そしたら魔剣や貴金属が出てきた。
「これは人魚の涙を魔法で結晶化した物で、リングは七色珊瑚の削り出し。異世界ではこれ1つでお城が建つんだよ」
「なら!」
「50円……質屋に持っていったら、50円って言われた」
異世界で貴重な物は、この世界では希少過ぎた。その結果価値が殆どないと見なされたようだ。
「ん~……再生数が今一つだな~。なにかワンアイディア……」
「碇くん」
「ん?」
「こう言う指輪を持ってるってことは、異世界に送る相手とか居たの?」
「いや?宝石は単なる記念品かな。結構大変なダンジョンをクリアしないと手に入らないんだ」
「そうなんだ」
少し沈黙が流れ、シンジがパソコンを閉じると、恋バナがしたいのかと綾波に尋ねた。が、当然綾波はそんなことを思っておらず、単純に気になっただけで、シンジ自身興味なさそうだから別にいいと返す。
「まぁ、僕も30年以上生きてるんだ。そんなことも……無いね。全く」
実の父親のせいで、そんなことに精神を割り当てる余裕なんて無かった。そんな状態で10年以上過ごし、更に異世界に行ってしまって17年。普通の人が経験する、惚れたはれたを全く経験してこなかった。
(改めて、碇くんの人生って悲惨だったのね……異世界も含めて)
「異世界でいい人とか居なかったの?」
「ん~?多分いたよ。イキュラス・エルラン」
思いきって聞いてみると、その人とであったときの状況が映し出される。巨大なオークのようなモンスターに襲われている姉弟達が出てきた。画面の中のシンジは、光の剣を作り、一撃でオークを撃破。崖から落ちて確実にシトメたのを確認すると、姉弟に向き直って手をさしのべる。
『あ、ありがとうございま──ッ!』
何故か姉弟揃って一瞬で凍り付いた表情になる。弟の1人が前に出て、両手を広げ何かを懇願するように叫ぶ。その後ろで、まるで今生の別けれかのような顔でもう1人の弟を抱きしめ、何かを伝えた後にシンジに近付く女性。涙を流し、覚悟を決めたような目でシンジの手をとった。
「こんな感じで、モンスターから守ってあげたんだ」
(どう見ても、自分を犠牲にして弟たちを守ろうとしていたような……)
「いい感じでしょ?でも、この直後にゴブリンか何かの不意討ちを受けて、崖から落とされてそれっきりなんだよね」
「それは酷い目に……ん?」
画面には弟2人がスゴい目付きで後ろに回り込む影像が。事実を察した綾波は、何に襲われたのか確かめようとするシンジを制止し、ゴブンリであると納得させた。
「で、死にかけたところに、偶々例の人がいてさ」
「え?」
「悔しいけど、それで助かったんだよ」
『……ッ!……君は。何故僕を?』
『勘違いしないで。これは貸しよ。生涯かけて、地べたを這って償うといいわ』
『生涯?』
『え?!……ち、違うわよ!ずっと一緒にとか、変な意味で取らないでよ!……え?ちょ!なに?!寄らないで!』
『そんな大きな借りは作りたくないよ。これでどう?』
『え?……え?!』
『世界に7つしかないと言われる、天聖石の指輪』
『ちょ、なになに?!どうする気よ!』
『サイズは合う?』
『ま、待って待って!……そんな、急に』
『いらないの?』
『え?……いる……』
(碇くんがなんかとんでもないことしようとしてる!!?)
「大丈夫なの?こんなことして。反応見る限り、異世界でもそう言う意味らしいけど。責任とかって……?」
「当たり前だよ。ちゃんと責任もって、次の町で換金してきたよ」
(碇くん!!)
状況を飲み込めていないのか、ギコギコと油の切れたような動きでエルフは歩いていった。同情せずにはいられなかった。
「何処かの町で撒いたって行ったけど、ここだったのね」
「いや。この後も付きまとわれたよ。お金に味をしめたのかな」
『銀行に預けてきたわ!次は何処に行く気?!え?ここで休む?それは奇遇ね!私もよ!!』
「……タフね」
画面を閉じると、アイテムボックスを開いて指輪をしまう。こんな感じで色々と使い勝手がいいと話したが、正直綾波は納得行っていない。とは言え、過去のことに口を出しても仕方ないため、言葉を飲み込んだ。
「あぁ。そのナイフもここにしまって」
「えぇ」
「「ッ!?」」
シンジの心臓に刺す形でナイフをしまうと、2人とも動画のアイディアを思い付いたのか同時に声を上げた。そして、それを使った新ネタ動画は、再生数200万を超えた。
pixivの方でも異世界シンジを上げようかな~と思ってます。向こうではこことは全く別の作品上げてますので、見つけた場合は遊びに着てください。因みに名前はノンフロンで活動してますw