よければ見て行ってください。
どっちかと言えば後半、すいちゃん視点がメインです。
俺の名前は○○、普通の高校生。
俺は正直、歌が上手なことぐらいしか取りえがない。
幼少期母と歌うのがすごく楽しくて、それがきっかけで歌うことに没頭し始めた。
陰キャと言われ思い浮かぶような痩せ細った体ではあるが、高校生となった今では高音から低音まで幅広い歌声を出すことができるようになった。
しかしお世辞にも人付き合いは苦手で、友人と呼べる関係を結んでいる人はあまり多くない。
その友人たちも、俺が実は歌うのが好きだということは全く知らない。
俺のもう一つの趣味、ゲームをきっかけに知り合った者たちばかりだ。
そんなこんなで高校生活を送っていた俺だったが、ある日転機が訪れる。
休日、俺がよく行くカラオケ屋さんでドリンクバーへ向かうと、
「あ、○○くんじゃん」
背後から聞こえる、少し低めな女性の声。
振り返ると、ウェーブがかった青い髪が特徴的な女性が立っていた。
「……星街、さん」
星街すいせいさん。
俺と同じ学校で、歌姫とも称される女子生徒。
クールな外見、聴く者をひきつける圧巻のボーカル、ライブ時とは打って変わって繰り返されるサイコパスな言動。
これら3つの理由から、学校内では女王という立ち位置にいると俺は認識している。
そんな星街すいせいさんと、休日のカラオケ屋さんで偶然出会った。
「君も、ここで歌を練習しに来てるの?」
「えぇ、まぁ……」
人と会話するのがいかんせん得意ではないため、たじたじになりながら会話を続ける。
「ふぅん、そうなんだ……」
会話が進まない。
星街さんの世界と俺の世界はかけ離れすぎていて、会話が成立しないのである。
「……ねぇ、どうせなら○○の歌、聴かせてよ」
「え、えっ?お、俺の歌ですか……?」
「うん、○○の歌。ここで出会ったってことだし聴かせてよ」
「そ、そんな……お、俺の歌なんかが星街さんなんかに……」
「うっさいなぁ……聴かせてって言ったら聴かせてよ」
星街さんから湧き出るオーラになす術もない俺は、星街さんのそばで歌を歌うことになった。
「ほら、私はここで見守ってるから。○○の十八番聴かせてよ」
「えぇ……」
「……じゃあ逆に聞くけどさ、なんであたしの前で歌えないの?」
「そっ、それは……」
「どうせあれでしょ?星街さんの前なんかに自分の歌声は通用しないとか、思ってるんでしょ?」
「……」
「そんなの関係ないから。あたしが聴きたいってだけだから。ほら、歌って?」
「わっ、わかりました……」
星街さんに押され、俺は渋々十八番である楽曲を予約した。
「なるほどね、楽しみにしてるよ」
そんな星街さんの声はなぜか聞こえなかった。
緊張しているのか、はたまた集中しているのかは自分でもわからない。
でも、今自分の持つ全てを出し切れる十八番の楽曲でミスをするわけにはいかない。
やがて前奏が始まり、俺は歌い始めるのだった……。
星街すいせい視点
同じ学校の同級生、○○くんと偶然カラオケで出会った私。
ここは料金も高くないけれども、採点は結構厳しめの場所。
そんなこのカラオケで歌う○○の実力が知りたくて私は言う、○○くんの歌を聴かせてほしいと。
始めは自信なさげにしていた彼を脅すようにまくし立て、彼の十八番を聞くまでに至った。
しかし楽曲予約をした途端、彼は何かしらのオーラを纏ったことを私は見逃さなかった。
なぜ、彼があんなに強いオーラを纏うことができるのか興味が湧いて仕方がない。
そして前奏が始まり、歌い出し。
(!?)
正直、度肝を抜かれた。
男性である彼から考えられないようなハイキーと、そのまま伸びる歌声。
歌詞もさらなることながら、歌声の伸び縮みを、そして高低差をものともしない彼の歌う姿。
その姿はまるで、舞台上の私とは同じようでまた違う。
彼だけの独創性が、この空間に満遍なく満ちていた。
そんな衝撃から体勢を立て直し、彼の歌の続きを聞く。
ストレートすぎる歌詞と、ギターだけの伴奏。
歌詞と一緒に彼の背中を見ると、曲の世界観に完全に入り込んでいた。
決して体を動かさずただ淡々と、しかし情熱的に歌い続ける彼。
ここでふと、歌詞に着目してみる。
さっきも着目したが歌詞にはストレートな表現が多く、自らの主張を包み隠すさず伝えようとしている。
メッセージ性の強い楽曲の内容を、彼はただ歌声だけで伝えていた。
常人にはできない所業を、彼はいとも簡単にやってのけていた。
心のうちに秘めた憤りが耳から頭へ、そして私の心へと届いていた。
観客へ心を伝えるのはまるで彼が歌うときみたいなのだと、改めて理解した。
そしてここで一つ、疑問が浮かぶ。
彼には素質があるのに、どうしてそれを隠そうとしているのか。
その歌声で世間の注目を浴びるのはいとも簡単なはずなのに、一体どうしてなのだろうか。
「……どう、でしたか?」
歌い終わった彼が、私へ振り向きそう聞く。
「……度肝を、抜かれたよ。まさか、こんなにも上手だなんてね……」
実際、カラオケ機が彼の歌声に下した点数は100点満点だった。
どうして、彼はあんなにも上手なのか。
「……もしかしてキミってさ、ボイトレとか通ってたりした?」
「いいえ、特には……」
「嘘でしょ……?」
信じられない、あの歌声が独学だなんて。
私も確かに専門的な指導は受けずに歌声を確立させたが、私をもはるかに上回る実力を、独学で……。
「へ、へぇ……やるじゃん……」
そう言ってみせる私だったけど、実際は彼の上手さに完全に脱帽していた。
その後、○○に興味を持った私は彼にまた歌を歌ってほしいとリクエストした。
渋々ながらに応じてくれたのちに数曲歌ってくれたが、そのどれもが楽曲と彼の独創性という柱で成り立っていた。
もちろん、私もめげずに歌ってみせた。
でも、実力は完全に彼が上回っていた。
そんなこんなで1〜2時間ほどぶっ通しで歌い合い、気がついた時には退室時間が迫っていた。
「あ、もうこんな時間……」
歌唱モードが抜けていない彼がそう残念そうに言う。
そんなことを言われ、私は考えるよりも先に動いていた。
「延長してくるから」
「え、でも……」
「全部私の持ち、拒否権なし」
そう言って財布片手に延長を申請しに私は向かっていた。
彼と歌う時間はプレッシャーだらけでも、どこか楽しい気がした。
初めて、自分以上の実力を持った人とカラオケで歌い合っている。
ある意味の快感が、私の体や思考を埋め尽くしていた。
自販機で買ったエナジードリンク片手に、部屋へと戻る私。
「星街さん……」
「いいの、私がしたいことだし。何より○○と歌うのが、さいっこうに楽しいから」
そう言われた彼はどこか申し訳なさそうにも、どこか嬉しそうにも見えた。
そしてまた、私と○○は歌い出す。
歌を歌うことの楽しさ、喜びを分かち合える人ができて、私はご機嫌だった。
それからしばらくして○○の提案で、お互い一度外の空気を吸いに行くことになった。
何せ3時間ほど熱気のこもったカラオケ室にいたものだから、外の空気がひんやりとしていて気持ちよかった。
そしていつの間にか日は落ちていわゆる夜遅い時間になっていた。
ここのカラオケまでの移動手段はお互い電車であり、終電も危うい時間帯になっていた。
「あの、星街さん終電がそろそろ……」
そう言う○○の口をふさいで私は言う。「ダメ。終電ないし、まだ一緒にいる」と……。
閲覧いただき、ありがとうございました。
参考にしたイラストと楽曲の考察、お待ちしております。