そこそこの話数になったので短編から連載へ変更しました。
詳細に描写すると総主長との再会だけでもかなりの話数が必要と今更気が付いて戦慄しています。
小剣と再会
皇帝陛下との再会は、私にとって自らの出生を知る歓喜に満ちた瞬間だった。惑星クトニアで初めて目にした陛下のお姿を、私は生涯忘れることは無いだろう。黄金の鎧を身に纏い多数の臣下を引き連れ現れた光景は、脳裏に焼き付き昨日のように思い浮かべることができる。
陛下に付き従う臣下は多かったが、中でも私の印象に残ったのは帝国宰相であるマルカドールだ。陛下の右腕としてその辣腕を振るい、陛下は心から宰相を信頼されていた。我々にも明かさぬ機密を任せるほどにな。
しかし未だに謎が残るのは、クトニアに陛下が降り立った際傍らに控えていた銀の鎧を着た近衛だ。かの者について陛下に尋ねても、何故かオフィシオという名以外はぐらかされる。陛下は一体、あの者にどのような仕事を任されているのだろう。
――
プロパトルが皇帝の乗艦であるブケファロスに到着したのは、連絡があった日から丁度5日後だった。
虚空に浮かぶ威容をモニター越しに眺めつつ、プロパトルは星系図へ目線を落とす。
「レギュラリティから見ると、テラを挟んで丁度反対の位置か。
このあたりのめぼしい惑星は征戦軍が確保したと聞いたが、なにか見落としていた発見でもあったか?
あるいは混沌関係か……」
などと独りごちていると、ドッキングの予定時間が近いとアラームが鳴った。
本来、レギュラリティから現在の宙域到着までは10日以上の時間がかかる。にもかかわらずプロパトルがその半数にも満たない時間で到着できたのは、今プロパトルが乗艦している皇帝直々に下賜された戦艦の性能故だ。
白銀の装甲を持つ小型の戦闘艦は、"擦り抜ける鏃"の名を与えられていた。皇帝直々に設計した、対混沌の鬼札であるオフィシオを効率的に運用するための専用艦。
速度と隠密性に特化した特務船の中で、プロパトルは専用の装置を使い白銀の装甲服を身に着ける。最高機密に指定された装備は、専用の技師が心血を注いで整備した代物だ。確認するまでもなく完璧に同期する装甲服の様子に内心満足しつつ、プロパトル……オフィシオは装着室から整備室へと踏み出した。
控えていた技師が一斉に視線を向け、代表者である技師長が記録媒体を片手にオフィシオへと歩み寄る。
「よかった、装着に不備がなかったようですね。
なにか現状で異常などは感じますか?」
オフィシオは反射的に口を開きそうになるが、なんとか手振りと指文字で問題ないことを伝えた。
特務艦所属の技師たちは機密に触れる立場であるが、それでも余計な情報は少ないに越したことはないのだ。声とて、迂闊に知られるわけにはいかない。この艦に乗り込むときでさえ、他の艦を3回乗り継ぎ顔を隠したほどなのだ。
不審そのものであるオフィシオの対応に、しかし技師長は満足そうに微笑んだ。
「なによりです。
異常や違和感がありましたら、内蔵されている連絡装置ですぐにお教えください」
一礼し、他の技師の元へ戻る。技術以外に興味を持たない、ある意味では得がたい人材だ。
手を振り謝意を示しつつ、オフィシオは自らの部屋に戻った。いかに皇帝直属とはいえ、いや、だからこそ装甲服姿に一切の装飾無しでは示しがつかない。
故に、用意していた飾緒を身につける。さらにいくつかの勲章を取り付け外套を羽織ると、丁度乗艦がブケファロスにドッキングしたと連絡が入った。姿見で軽く身だしなみを整え、オフィシオはドッキング用のエアロックへ歩を進める。
連絡通路を通りブケファロスへ入艦すると、華美な装飾が施された部屋へと繋がっていた。来賓に不快感を持たせないための工夫であり、皇帝の権威を入室した者にわかりやすく見せるための来賓用の控え室だ。
特注の家具で飾られた部屋の中心では、一人の近衛兵が待機していた。入室したオフィシオの姿を確認すると、優雅に一礼する。
「お待ちしておりました、オフィシオ様。
ご案内いたします」
ただの来賓に対する礼ではない。彼ら近衛の大半よりも古くから皇帝に仕える先達として、オフィシオは近衛たちから少なくない敬意を払われているのだ。
先導されるままにブケファロスの廊下へ踏み出すと、控え室に劣らぬ見事な光景が広がっていた。宮殿の内部であると錯覚するほどの造りは、設計担当者が文字通り移動する宮殿として生み出したものだ。
上質なカーペットの感触を足裏に感じながら、オフィシオは廊下を進む。来賓の到着予定は行き届いているようで、数多いるはずの乗員はすれ違うどころか音すら聞こえない。
沈黙のまま道中は過ぎ去り、ある扉の前で近衛は足を止めた。
「少々お待ちください。
オフィシオ様、御到着いたしました」
近衛の声に反応し、細やかな装飾が施された扉がゆっくりと開かれる。
「こちらで陛下がお待ちです」
一礼した近衛へ指文字で謝辞を述べ、オフィシオは会議室へと足を踏みいれた。室内には、皇帝以下数名の姿が見える。 いずれも名のある将校であり、見知らぬ銀鎧が現れたことに小さくない反応を示している。
だが皇帝は意に介さず、オフィシオへ視線を投げた。
「来たか。そこが貴様の席だ」
オフィシオが皇帝の指し示した椅子へ座ると、参観者たちの懐疑の目を断ち切るようにマルカドールが立ち上がった。
「さて、まずはこの宙域図を見てもらおう」
マルカドールが手を振ると、机に取り付けられた装置から現在ブケファロスが存在する宙域の立体地図が投影される。
「この赤い点がブケファロス。そしてこの惑星が、今回陛下が我々を招集した理由だ」
ブケファロスから数日程度の位置にある惑星が赤く表示される。添えられている名は、惑星クトニア。
「火星の技術司祭からは、数百年前に放棄された採掘惑星だと聞いている。資源はほとんど残っておらず、地表にはギャングが蔓延るらしい。
故に調査対象から外れていたのだが、この方面に余裕ができたと報告があり調査を命じたのだ。そこで、特徴的な波長を捉えた」
地図が切り替わり映し出された物体に、オフィシオは見覚えがあった。
「陛下が自らの遺伝子を分け与えた子ら、彼らを守るために造られた装置だ。
異端の手により失われたこれらから発せられる信号が、クトニアより発せられている」
惑星が拡大され、表面に赤い印が表示される。
「陛下の御子息がクトニアに漂着されたのだ。
我々は、陛下と共にクトニアへ向かうことになる。惑星程度ならば、陛下のサイキックで御子息の位置を特定できる」
マルカドールが言葉を句切ると、皇帝が立ち上がった。
「此度の招集は、我が息子との合流を目的としたものだ。
我が元へ迎え入れ、軍を率いる将とする」
皇帝の宣言に僅かな動揺がおきるが、それはすぐに収まった。参加者の脳内には、プロパトルを始めとしたいくつかの前例が存在していたためだ。皇帝の息子である以上ある程度の才は見込めるうえ、無能に軍を預け続けることなど無いという皇帝への信頼も手伝ったといえる。
落ち着いた会議室を睥睨し、マルカドールが立ち上がった。
「反対意見は無いようだな。
明日より我らはクトニアへ向かう。到着予定は3日後だ。
各々、遅れぬように」
その通達を最後に、その場は解散となった。
将校たちが部屋を後にする中、オフィシオはマルカドールから手招きをされ別室へ通される。小さな部屋には、皇帝と近衛長が待っていた。
扉を閉めたマルカドールが皇帝の隣へ並び、ゆっくりと腰を下ろす。
「この部屋は物理的、サイキック的に防諜してある。口を開いて問題ないぞ」
マルカドールの言葉に、オフィシオ……プロパトルは兜を外す。
跪こうとしたところで、皇帝は手で動きを制した。
「楽にせよ、プロパトル。
私が下賜した艦に問題は無いか?」
突然の問いだったが、プロパトルは即座に返答する。
「はっ。実に良い乗り心地でありました。
速度も申し分なく、より迅速な任務達成が可能かと」
「ならばよい。
オフィシオとしての活動だが、対混沌に加え私の側近として動くことが増える。手始めが、クトニアにおける我が息子との再会だ。
心しておけ」
「かしこまりました」
深々と頭を下げるプロパトルを満足そうに見つめ、皇帝は部屋を後にした。残されたプロパトルは、改めて近衛総大将へと向き直る。
「コンスタンティン・ヴァルドル卿。挨拶が遅れ、申し訳ございません。
プロパトル、遅参いたしました」
跪く見知らぬ男に、ヴァルドルは僅かに眉を顰めた。
「問おう。
アララト山の密約は?」
突然の問いに、しかしプロパトルは怯まずに答えた。
「選抜隊の許可と、生き残った隊員の身分保障」
プロパトルの答えを聞いたヴァルドルは僅かに沈黙し、ふと肩の力を抜く。
「陛下と宰相閣下から話は聞いていたが、まさか真に蘇ったとはな。
こうして目の前にしても、にわかには信じがたい」
「肉体的には別人でありますので、信じがたいのは道理でしょう。
皇帝陛下とマルカドール閣下は、記憶に加え魂の特異性から同一人物であると納得していらっしゃいました」
サイキックに優れる二人ならば間違えることはないだろうと、ヴァルドルは自らの疑念を取り下げる。そして、本物であるならば問おうと考えていた疑問を投げかけた。
「貴様は、小剣部隊には戻らないのか?
自らの手で育て上げた部隊なのだから、未練もあるだろう」
その問いに、プロパトルは悩むことなく答えた。
「今更私が戻ったところで、無用な混乱を招くだけでしょう。
陛下から、治安維持の要として民からも信頼されていると聞き及んでおります。それだけで、望外の喜びです。
なによりも、すでに新たな部隊を任されたのです。これ以上所属を増やせば、とても手が足りません」
「……そうか。ならば、仕方が無いか」
「はい。仕方がありません」
どこか嚙みしめるように、二人の超人は言葉を交わす。
「私は執務に戻る。
貴様は皇帝陛下直属なのだ。今度はつまらないことで命を落とさぬことだな」
「心得ております。次はいつ戻れるかもわかりませんのでね」
「ならばよい」
そう言い残し、ヴァルドルは部屋を去った。扉が閉まるまで頭を下げていたプロパトルは、無人の部屋で先ほどの会話を咀嚼する。一人会話内容の消化を終えると、無言のまま兜を身に着け扉に手をかける。
無人となった部屋には、どこか暖かい余韻が残されていた。
雲に覆われ砂嵐が吹き荒れる荒野を、大規模なバイク集団が隊列を組んで横断している。隊列の中央には、3メートル近い巨人が巨大なバイクを駆っていた。
その巨人へ、一人の男が車体を寄せる。
「ホルスのお頭。ガンスの連中、本気で俺たちに逆らうつもりなんですかね?」
「今論じても結論は出ない。ガンスと直接話せばすぐにわかることだ」
チンピラに毛が生えたような男とは違い、ホルスと呼ばれた巨人の言動からは思慮と知性を感じ取ることができた。落ち着きのある声に、問いかけたチンピラは気圧され列に戻る。
その様子を見ていた男が、静かにホルスへ車体を寄せた。
「お頭、確かなんですか?
俺にはあのガンスが裏切るとは思えないんです」
「ローケン、俺も信じてはいない。だが、俺が送った連絡係が帰ってこないのは事実だ。
唯一戻ってきたメモも、支離滅裂な絵と文字しか無かったからな。抽象化された赤い髑髏のマークなんて、このあたりのギャングで使ってる連中は……」
不意に、ホルスが口を噤んだ。視線は周囲を鋭く探り、警戒心を顕わにしている。
「……例の、感覚ですか?」
「ああ、何かが俺を探っている。
しかもまた感覚が強くなった」
頭の返事に、ローケンの背を冷たい汗が流れた。
数日ほど前から、ホルスは自分を探るような気配を日に数度感じるようになったのだ。私室であろうとも荒野であろうとも関係なく起きるそれは、ホルスの側近しか教えられていない。
当然だろう。迂闊に話せば、リーダーの気が触れたと思われるだけだ。そしてほとんどの者は精神不安定なリーダーを排し、自らが新たなリーダーとして君臨しようと考える。ギャングの構成員など、単純な思考をしている者が大半なのだから。
なによりも、ホルスはこの探るような感覚に嫌悪感が無かった。むしろ、どこか心地よく感じてすらいたのだ。クトニアでは非常に稀な、陽光を浴びる感覚に近い。
そのような迷いを抱いていると。ふと特徴的な岩山がホルスの視界に入った。次いで気がついたローケンの脳裏に、1つのアイデアが浮かぶ。
「お頭、丁度例のカプセルが近いです。自分のルーツを見て、少し落ち着いちゃどうですか?」
「……そうだな。ガンスの件は確認にも時間がかかる。
進路変更。ブレーク山へ向かうぞ!」
伝令を任された男が先頭へ向かい、バイク集団の進行方向が変わる。山頂に抉られたような跡が残るブレーク山の麓へ到着すると、ホルスは感慨深く特徴的な山頂を見つめた。
視線を下げると、小規模なクレーターの中心に球場の金属塊があった。直径にして一メートルほどのそれこそ、山頂を掠め落下した保育カプセルに他ならない。
自らの来歴を思い返していたホルスだったが、そんな彼を再び探るような感覚が襲った。今までで最も強いそれは、明確な意思を察するに十分なものだ。
すなわち、見つけたと。
彼の持つ超人的な感覚器官が、遥か上空からせまるナニカを察知した。それは異常な速度でホルスめがけて降下する。勘の鋭い者たちが何かに気が付き騒ぎ出すも、その大本は速度を落とすことなくホルスへとまっすぐ突き進む。
分厚い雲を突き破り、その物体は現れた。視界いっぱいに広がる、巨大な空飛ぶ艦。帝国の誇る戦闘艦隊が、皇帝の息子を迎えるために姿を現したのだ。
「街が、飛んでやがる」
ローケンの呟きを意に介さず、ホルスは眼前の光景に目を奪われていた。精緻な彫刻が施された巨大な建造物が、宙を泳ぐように飛行しているのだ。その数は一つや二つではない。数十の艦が空を覆いつくす光景は、クトニアで生まれ育った者たちにとってありえざる光景だ。
その中でも一際巨大な艦が、ゆっくりと地表すれすれまで高度を落とす。連絡通路がホルスのすぐそばまで伸び、圧縮空気と共に扉が開いた。
通路からは黄金の鎧に身を包んだ巨人の軍団が現れた。ホルスに迫る長身の隊列は、一糸乱れぬ動きで行進する。
「…………」
現実離れした光景に、ホルスたちは声も上げられず見入っていた。神話の軍勢もかくやという戦団が整列し、一斉に跪いたのだ。
開かれた通路の奥から、一人の男が歩み出た。彫刻のように整った顔は、威厳に満ちている。身に纏う鎧は精緻な装飾が施されているが、それすら男が発する圧倒的なカリスマの前には霞んで見えた。
まるで光り輝いているかのように見える男は、静かにホルスを見つめた。
「こうしてまみえること、嬉しく思う。
私は人類帝国を統べる皇帝。迎えに来たぞ、我が息子よ」
ホルスの両目から、自然と涙が溢れた。そうするのが当然のように、膝を折り手を伸ばす。
「貴方が、私を探していたのですね。
数日前より、貴方の気配を感じ取っていました」
「ほう、サイキックを学んでいるのか?」
片眉を動かす皇帝に、ホルスは顔を伏せたまま首を振った。
「いいえ、特異な術を学んだわけではありません。
ただ、何かが自分を探しているのだと感じていたのです」
「そうか、ならば問おう。
我が息子よ、私と共に来い。星々の世界を、人類の元に統一するのだ」
その誘いを受け、ホルスは迷うことなく皇帝へ跪いた。
「忠誠を捧げます」
その一言に、皇帝は満足そうに頷いた。
「人類の帝国を治める皇帝の名において、ホルスを惑星クトニアの惑星総督に任ずる。
そしてホルスの遺伝子を用いて強化されしスペースマリーン、第16兵団の指揮権を与える。
詳しい話は船でする。さあ、来るがいい」
促されるままに歩き出すホルスの背に、彼が治めるギャングの視線が集まる。
それを感じ取ったホルスは、足を止め振り返った。
「心配するな。お前たちは私の信頼する部下だ。
少し待たせるかもしれないが、必ず戻る」
その一言で、ギャングたちの間から不安が消えた。一言で部下を統率するカリスマを見て、皇帝は自らの息子が持つ資質に内心で感心する。
「安心するがいい、貴様らを無下には扱わぬ。
他ならぬホルスの部下故な」
皇帝の一言に、ギャングたちは圧倒された。中には、誰に言われるでもなく平伏する者さえいる。その様子を見たホルスの眉が僅かに動いたことを、唯一銀の鎧を着た男だけが気にかけた。
「来るがいいホルス。話し合いの場は用意してある」
近衛を引き連れ鑑に乗り込む皇帝を、ホルスは静かに追う。艦内の光景に目を奪われるホルスがそれに見惚れる間もなく、貴賓室の扉が開いた。
「入るがいい」
そう言ってホルスに入室を促すと、皇帝は、同行していたオフィシオを呼び止める。付近の近衛も貴賓室へと入れ、人の目がいないことを確認し小声で囁いた。
「惑星を精査した際、混沌の穢れを感じた。詳細はマルカドールに話してある。
先行し、汚染が広がる前に浄化せよ。手段は問わんが、ホルスの一派に我々の関与が悟られぬよう動け」
「かしこまりました」
事を済ませ貴賓室へと去ろうとする皇帝を、オフィシオが引き留める。
「陛下、一つだけ諫言をお許しください」
「後にせよ。貴様は混沌の対策を、私はホルスとの話し合いがあるのだぞ」
「故にでございます」
珍しく食い下がるオフィシオを、皇帝は珍しいものを見る目で見つめる。諫言と聞いた皇帝の脳内に、かつてプロパトルが戦死する前の手紙がよぎった。
「ならば話すがいい。手短にな」
「感謝します。
先ほどホルス様の部下へお声がけされた件、この後の会談でホルス様へ言及してください。
自分よりも陛下を恐れる者が少なくない様子を、彼は気にしておいででした」
その諫言の意味を、皇帝は理解できなかった。ホルスと皇帝の間には、隔絶した力の差がある。それに敏感なギャングが、皇帝の言葉に強く反応するのは仕方のないことではないかと。
だが、同時に人間としては何か不都合があるのだろうとも考えた。故に、首を縦に振る。
「いいだろう。謝罪とまでは行かぬが、不快にさせたのだろうと伝えよう。
後で、貴様がなにを問題視したのか聞かせよ」
「お聞き入れ、感謝いたします。
陛下の都合のよろしいとき、お聞かせいたします」
オフィシオの礼を背に、皇帝は貴賓室へ足を踏みいれた。室内では壁に沿って近衛が身動ぎもせずに整列しており、ホルスは落ち着かない様子で周囲を見回している。
「待たせたな。
座りなさい」
促されるままに着席したホルスへ、皇帝は椅子に腰掛けながら口を開いた。
「話の前に、先ほど私がお前の部下に声をかけた件だ。
長であるお前の頭を越えたのは、少々無作法だったな」
その一言に、ホルスの脳裏に燻っていた小さなしこりが消えた。
「いえ。陛下の御言葉を賜り、あの者たちも安心したことでしょう。
心を割いていただき、感謝いたします」
ホルスからほんの僅かな険が取れたことを感じ取り、皇帝は何かが解決したことを悟る。それが感情に関するということだけは察し、プロパトルの報告時に追求しようと記憶に留めた。
「そうか。
それでは、これより帝国へのクトニア編入に関しての会談を始める」
開催された会談により、ホルスは正式に皇帝傘下の将となる。自らの指揮下に収まった第16兵団に付けられていた仮称であるルナーウルフの名を気に入ったホルスは、それを正式名称とした。
彼が率いたギャングにはスペースマリーン手術を受ける栄誉が与えられ、クトニアからの志願者も含めルナーウルフ兵団は多大な人員増加に成功した。彼らは今後、大征戦において非常に大きな活躍を重ねることとなる。
余談ではあるが、スペースマリーン増員後に裏切り者の粛正に向かったホルスは無人となった廃墟を発見することとなる。死体すら見つからなかったこの件は未解決として記録され、ホルスは不可思議な顛末に首を捻ったという。
ウォーハンマー40K用語解説
あいうえお順
・抽象化された赤い髑髏
混沌神の一柱であるコーンの紋章。
血と殺戮を司る神に相応しく、戦う者は潜在的にコーンの信徒であり戦場は擬似的なコーンの祭場になり得る。
異能の力に親和性があったためホルスの部下は乗っ取られるような形でコーンのカルトと化したが、介入した謎の対混沌勢力により浄化された。
・クトニア
ホルスの流れ着いた惑星であり、古の採掘惑星。
テラから亜高速航行でたどり着けるほどに近い惑星なのだが、それ故機械教団にほとんどの資源を掘り尽くされ打ち棄てられていた。
地表ではギャングが抗争を繰り返す無法地帯であり、ホルスはその大半をまとめ上げていたとされる。
※擦り抜ける鏃
オフィシオへ皇帝が下賜した専用の小型特殊高速艇であり、皇帝自らの実験的設計により速度と隠密性に特化し感知されることなく惑星に降り立つことを可能としている。
ゲラーフィールド発生装置が小型化しており、乗組員の搭乗スペース以外は歪み空間に晒されて進む狂気の産物。
歪みのデーモンからはゲラーフィールドが目視できないため、彼らからすると重要区画を損失した廃艦が高速で移動する怪奇物体と化している。
※ブレーク山
クトニアの荒野にそびえる山であり、特徴的な山頂から周辺からは目印として扱われている。
ホルスを納めた保育カプセルが山頂を擦った結果山肌が大きく抉れており、それが山の名の由来になった。
裾野には保育カプセルが穿ったクレーターが存在しており、ホルスはこの地を自らのルーツとして特別視している。
・兵団 へいだん
スペースマリーンの軍団区分であり、20存在する。
1つの兵団につき1人の総主長を元とした遺伝種子が使用されており、兵団員は元となった総主長の遺伝子的な子供たちといえる。
編成数に制限はなく、新たなマリーンが生み出されては補充されているため各兵団ごとに人数の差が大きい。
・ホルス
皇帝の20人の息子のうちの一人であり、公的には最初に皇帝と再会した息子。
高いカリスマと軍事的才能を併せ持っており、前線指揮官として突出した存在。
また不和を治める調整力にも優れた対人関係の天才でもあるが、自らがトップに立ち物事を動かすことに慣れすぎているという欠点を併せ持つ。
・ルナーウルフ兵団
16番目に生み出されたスペースマリーン兵団であり、ホルスの遺伝子を元とした遺伝種子を使用するホルスの息子たち。
敵の要点を正確に攻撃する強襲戦法を得意としており、大征戦初期でも皇帝の指揮の元かなりの戦果を挙げていたとされている。
特にテラ統一後に起きた月の遺伝子工学カルト伐時に大功を挙げ、その際にカルトの指導者が放った「この狼共を追い払ってくれ」という嘆願が元となって皇帝直々にルナーウルフの仮称が名付けられた。
・ローケン
フルネームをガルヴィエル・ローケンという、ホルスの部下でも側近に近い立場の一人。
ホルスの相談役の一人でもあり、そのなかでも特に思慮深く後々兵団の重要人物に任命されるほど。
彼の来歴には不明な点が多く、クトニア時代から交流があった点は当作品オリジナルの設定なので注意。