一週間が過ぎ、高度育成高等学校での生活にも慣れてきた。
Dクラスは相変わらず、遅刻、雑談、携帯、睡眠、それはそれは派手にやらかしを重ねている。そんな中この日は朝から、山内や池と言った問題児組が笑顔に満ち溢れていた。
「おはよう山内!」
「おはよう池!」
「いやあー、授業が楽しみすぎて目が冴さえちゃってさー。全然眠れなかったんだよな。」
「はははは、分かるぜ〜。俺もだからな。この学校は最高だ!何せ四月から水泳の授業が行われるんだから!」
そういうことね…
俺は呆れていた。
池や山内の言う通り、体育では今日から水泳の授業が開始される。しかも男女合同である。
頭が猿以下に成り下がる10代の男子生徒と同じ場所に水着姿の女子生徒をあてがうなんて何を考えてるのだろうか…、この学校は…。
つまり合法的に女子生徒の水着姿を目に収めることが出来る訳だ。
しかし、山内や池は気づいていないのだろうか…。中々の大声でそんな発言をしているおかげでクラスの大半の女子が冷めた目で見ていることに。
因みに俺は今、清隆の席の横にいる。つまり堀北も一緒である。堀北も他の女子同様にゴミを見るような目で山内らを見ていた。
「あの二人の所に行かないの?」
堀北は唐突に俺たちに対してそう聞いた。
堀北は、俺たちに死んでこい、と言いたいのだろうか…。
「堀北、本気で言っているのか? 流石に俺でもあそこに入るのが地雷なことは分かるぞ…。」
俺を除く同性だと、特に山内や池らと関わっている綾小路だが、クラスの女子生徒全員を敵に回したくないようだ。
俺としては、あそことつるむ清隆には理解し難いが、向こうから話しかけてくれるのでそれとなく付き合っているらしい。
しかし、そんな否定的な目を向けられていることに気づきもしない山内らが、こちらを見たかと思うと、
「あやのこうじー」
清隆の名前を呼んで手招きしてくる。山内、池の他にも須藤と外村もその和の中にいた。
清隆は、明らかな地雷原に行くことに戸惑う。しかし男の友情も捨て難いと考えてなのか葛藤していた。女子生徒の視線は恐ろしい。ただ同時に男子の友情も無碍にはできない。
そんな清隆の様子に俺は、
「清隆。お前のやりたいようにやればいいんだぞ…。」
そう後押しした。
そして、清隆は………、男子の友情を選択した。
「九条君。あなたは行かなくていいの?」
清隆を見送る俺に対して堀北は問いかける。
「俺はいいよ。堀北さんといる方が良い。」
「本当にあなたは…。」
俺の返答に堀北はやれやれと肩をすくめる。
因みに、山内らは水泳の授業でクラスの女子の胸の大きさを賭けようとしているらしい。女子の視線は汚物を見るかのようになっていた。
清隆…、バッドチョイス。
そして、時間は過ぎ場所は男子更衣室。
俺は服を脱ぎ捨て、学校指定の水泳着に着替える。水泳着になった俺は視線を2つの意味で集めていた。
「お前……、なんて肉体をしているんだ…。」
「お前、その傷跡って…。」
まずは、鍛え上げられた肉体。浮き上がる血管。男でさえ見惚れるほどらしい。
そして、もう一つが左側腹部の傷跡だ。これはかつて紛争地に送り込まれた時に負ったものだ。マジで何させてんだよ、って話だ。ただあそこの経験は洒落にならないほど胆力は身についた。まあ二度と行きたくはない。
そして着替えた俺を含めた男子は屋内プールへ移動する。
「女子は? 女子はまだなのかっ?」
池は落ち着かないのかウロウロ動き回りながら血走った目をして、辺りをキョロキョロとしていた。
池や山内らの行動によって目立っていないが他の生徒もどこかソワソワと落ち着かないようだ。
そんな中ついに遠くの方から女子たちの声が聞こえてくる。
「来たぞ……!」
誰か分からないが、そう小さく声を上げた。
その声にDクラス男子は心を通わせて身を引き締める。
その光景に俺は面白い物を見るかのように眺める。
ただ、俺も興味があるのには違いない。こんなに顔面偏差値が高い学校での異性の水着だ。全く興味無いなんて出家した僧侶くらいなものだろう…。
しかし、そんな俺たちの期待は裏切られることになる。
あまりにも数が少ないのだ…。
「長谷部が居ないぞ!佐倉もだ! 博士、これは一体どういうことだ!? 神様は俺たちを手放したのか!?」
池らは胸の大きさの賭けで、1番人気、2番人気の長谷部、佐倉がいない事に騒いでいた。
見学用スペースを見るとそちらに多くの生徒がいたのだ。その中には長谷部や佐倉の姿があった。
恐らく、朝の池や山内らの会話が不快に感じだ女子の一部が、水着姿を視姦されるくらいなら…、と欠席を申し出たのだろう。
山内や池は頭を抱えていた。
うん…。自業自得だろう。
「どうしたの皆? 元気ないけど……」
しかし、そんな状況の中で天使が登場する。クラスで既に何人もの男子のハートを掴んでいる人気者、櫛田桔梗だ。
スクール水着を着た櫛田は、男子にとっては毒である。一部男子は、前かがみになっておりそれどころではない。
そういう俺も、全く揺さぶられれないことはなかったが、表情は変えずその情景を眺めていた。
そんな中、ふと後ろを振り向くと堀北がこちらへ来ていた。
水着姿の堀北は櫛田ほどの爆発力は無いが(どことは言わない)、引き締まった腰回りにきめ細やかな肌。これまた非常に毒である。
「九条君。何を舐め回すように見てるのかしら。あなたも獣だったようね…。」
俺としては、一瞬チラッと全身を見た程度だったのだが、想定以上に女子は視線に敏感なようだ。
反省です。
「ごめんね堀北さん。あまりに魅力的だったからつい見ちゃったよ。」
「……ほんと、あなたってよくもそう恥ずかしげもなく話せるわね。」
堀北は、呆れたようにそう述べる。
さらに続けて
「それにしても九条君…。あなたどうなったらこの年でそんな身体になるのよ…。」
一瞬目線が傷跡に向いたようだが、そこには触れずに肉体について感想を言う。
「あと綾小路君も、前腕や背中の筋肉のつき方が普通じゃなさそうなのだけれど…。」
続けて、綾小路に対しての感想も述べる。
堀北は筋肉に目がないようだ。
「いや。俺は特に何もしていないな…。」
清隆は、特に表情も変えずにそう答えた。
いや…清隆よ…、その肉体で何もしていないのは無理があるぞ。
心の中でそう突っ込むのであった。
それから、櫛田さんが話しかけに来たり、櫛田さんについてきたのか近くでこちらをチラチラ伺うみーちゃんや井の頭さんと会話を楽しんでいた。この一週間でみーちゃんは井の頭さんや櫛田さんとよく一緒にいるようになったらしい。俺もちょくちょくお世話になっている。
あと、俺の傷跡にただならぬ視線を送る生徒が居たのだが、俺は気づくことなく彼女達との会話を楽しむのだった。
まもなくしてチャイムが鳴り、授業が始まる。
「見学者は……、16人か。随分と多いようだが、まあ良いだろう。ただし、欠席には正当な理由が必要だからな。報告は怠るなよ。」
先生は、欠席の多さに特に詳しく言及はしないようだ。流石に多すぎると思うんだが…ここでも放任主義は徹底されているようだ。
「早速だが、個々で準備運動をするように。終わりしだい実践に入る。」
説明などは、特になく早速実技にうつるようだ。一部の生徒は、泳ぎ方のコツや説明などがあると思っていたのか慌てて先生へ質問を投げかける。
「すみません、先生。俺あんまり泳げないんですけど……」
そんな生徒に、先生は他にも泳げない生徒がいないか確認する。
その男子生徒を皮切りに、数名が恐る恐る手を挙げ、泳げないと申告する。
「なるほど…、手を下ろしてくれ。泳げなくて不安に感じる者もいるようだが安心しろ。夏までに俺がお前たちを泳げるように指導してやる。」
そう先生は宣言する。
中々の熱血教師らしい…。
そんな先生に対して…、
「えぇー。別に大丈夫ですよ。プールも海も行く予定なんてありませんから。」
と声があがる。
正直、今まで泳げなくても特に不自由なく来たのだろう。今更泳げるようになったところで利点を見いだせないようだ。
「まぁそう言うな。 泳げるようになれば必ず後で役に立つことになる。」
必ず役に立つ。 相変わらず、ここの教師は含みをもたせた表現が好きらしい…。
ガイダンス以来、俺は教師の言葉を注視する癖がついてしまった。恐らく何かあるのだろう…。
先生の指示に従って、個々で準備運動に取り掛かる。そして、準備運動を終えるとまず50メートルを軽く泳ぐように指示が出される。
俺自身、水泳は可もなく不可もなくと思っている。(ホワイトルーム基準)かつて泳がされたことはあったが、ここ1年は水泳から離れていたしクロール以外はホワイトルーム時代にやって以来だった。俺は、とりあえずゆっくり身体の動きを確認しながら50メートルを泳ぐ。かつてと筋肉量も身長も変わっているので思った以上に感覚のズレを感じていた。
全員が五十メートルを泳ぎ終わると、先生はプールサイドに集合するよう指示を出す。
「よし。それでは今から男女別に50メートルの競泳を行う。」
先生は、そう宣言した。
その宣言に、生徒たちはざわつく。その光景に先生はにやりと笑った。
「お前らがやる気を出せるように一位を取得した生徒には俺から5000ポイントを支給する。逆に、最下位になった生徒は放課後に補習を受けてもらうからそのつもりでな。」
泳ぎに自信がある生徒からは歓喜の声が上がり、自信がない生徒からは悲鳴が上がった。
それから先生は女子・男子共にいくつかのグループに分けた。それぞれ予選を行って決勝戦を行う形だ。最初は女子から行うそうで、男子と見学者はプールサイドへ散らばった。
俺は、自信が無さそうなみーちゃんや井の頭に声をかけ、一人で佇んでいる堀北さんにも声をかけた。なんだかんだ堀北さんは1位を狙っていそうだ。
結果は、小野寺が完勝だった。水泳部だと言うことで圧巻の泳ぎだった。その綺麗なフォームに俺は、教えてもらおうかな、と思っていた。因みに堀北さんは2位だった。
「惜しかったね。」と声をかけたが、「別に勝ち負けは気にしてない。」と素っ気なく返された。ただ表情は悔しそうで、負けず嫌いなんだなぁ、と俺は微笑ましく思うのであった。
続いて、男子のレースが始まろうとしていた。やはり平田は人気なようで多くの女子が彼を応援していた。特に軽井沢を中心としたグループは既にクラスでもトップのカーストとなっており、平田を半ば占領していた。
そういう俺は、みーちゃん達に応援されていた。その献身さに俺は頭を撫でまわりたくなる衝動を抑え、レースに備える。
まず予選では高円寺がアホみたいな速さでトップ通過していた。ついで俺、そして須藤、平田と決勝へ駒を進める。ちなみに綾小路は中間ほどの順位でフィニッシュしていた。やはり目立つのは嫌なようだ。
俺は練習の時と同じくある程度自分の身体を確認しながら泳いだ。かと言って別に手を抜いていた訳ではない。まさか高円寺がここまで能力が高いとは思っていなかった。
「ははは。私の肉体はいつも通り絶好調のようだねぇ。君も中々やるようだ、九条ボーイ。次は本気で戦えることを祈っているよ。」
そんな俺に対して、高円寺はそう言った。
なるほど…、俺はどこか冷静に一歩引いてやっていたようだ。いち授業とはいえ、これも勝負の世界。こんなところで負ける訳にはいかない。
俺は、決意を固め、決勝戦へ挑むのだった。
あっという間に時間は過ぎ、俺は既にスタート台の上に立っていた。
用意の合図が出て、スタート音を待つ。
スタートのブザーの音が鳴った。
瞬間、俺は全身の筋肉を奮い立たせ、光より速く飛び出した。
「なんだあのスピードは!」
どこからか声が上がる。
そんな周りのことなど気にせず、俺はただがむしゃらにひたすら前へ進む。
綺麗なフォーム、効率的な形など今の俺にはどうでも良かった。少しでも速く、少しでも前へ。全ては勝利のために…。
勝敗がつくまではあっという間だった。
「……九条。お前が1位だ。」
その言葉に俺は、やりきった様に空を見上げた。
「フフフフ。中々言い勝負をさせてもらったねぇ。今回は私の負けだ。まさか私が敗北を喫するとは…。」
あとからプールサイドへ来た高円寺はそう言いながら俺に向かって言う。結果的には頭一個分差だった。
「男と男の真剣勝負!あぁ、美しい!!!!今、私は非常に気分が良い。さて九条ボーイ。君のことはこれから将と呼ばせてもらおう。なぁに、信頼の証さ!私のことは六助と呼びたまえ!では、ははははは。」
高円寺は一方的にそう告げるとプールサイドを後にした。
「……九条、お前変な奴に目をつけられたな…。」
ぼそっと清隆が呟く。
「…やめてくれ。清隆。俺も理解がまだ追いついていないんだ…。」
とりあえず、5000ポイント手に入って良かった。(思考停止)
さて、主人公の傷跡にただならぬ視線を向けていたのは誰なんでしょうね…?シンパシーを感じてるみたいですけど…。(すっとぼけ)
とりあえず、新たに高円寺君が仲間になってくれたようなので、より充実したスクールライフを送ることができるでしょう!