「今日は集まってくれてありがとう。みんなの協力があれば、きっと今の状況を変えることができると僕は思ってる。」
茶柱先生の宣告があった放課後。平田は対策を話し合おう、と言ってクラスメイトを集めていた。流石、平田と言ったところだろう。ほとんどの生徒が参加していた。
もちろん、俺も参加している。清隆の横を陣取ろうとしたが、篠原と佐藤が両サイドを固める。
ちょっと、二人とも近くない?
あと清隆。何カバン持ってるんだ…。………あいつ帰りやがった…。
清隆は鞄を持ち、後ろのドアから教室を出る。その時だった。校内放送の案内が鳴り響いた。
『一年Dクラスの綾小路君、九条君。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください。』
俺は佐藤さん、篠原さんに断りを入れて教室から出る。
「待っていたぞ。」
教室を出ると、いつも通り表情が変わらない清隆がいた。
「清隆。俺は今日助けてくれなかったことまだ許してないからな…。」
「俺は目立つのは嫌いだ。」
相変わらず、清隆は変わらない。
職員室に着き、ドアを開ける。
清隆に呼んでこい、と言ったが結局俺が職員室へ先頭になり入る。
「すみません。一年Dクラスの九条です。放送で茶柱先生に呼ばれたのですが、いらっしゃいますでしょうか?」
入室すると一人の女性教諭と目が合った。
「あら、サエちゃんに用事?さっきまでいたんだけどー。」
その女性教諭は周りを見渡すが茶柱先生はいないようだ。
軽くウェーブのかかった髪型で愛嬌のある容姿をしている。茶柱先生とは真反対といった印象を受ける。
「今は席をはずしているみたい。………………って、君、九条君じゃない?」
向こうは俺のことを知っていたようだ。
「君ってここでは結構話題になってたのよねぇ。入学間もなく学校のシステムに気づいた上、凄い額のポイントを勝ち取った生徒だって。」
あの契約が職員室で行われたため、ここにいる教員ないではかなり話題になっていたようだ。
派手に動きすぎた…、と少し俺は後悔する。
「座って、座って!君のこと、知りたいな。」
その教諭は、俺の手を引いて自分のデスクへと案内する。
…清隆は?………あれっ?いねぇ……、面倒と思ってまた逃げたなあいつ…。
清隆は既に職員室から退避していた。
先生のデスク横に俺は座らされる。
茶柱先生の時のもだったが、距離が近い。この人は生足だからさらにたちが悪い。そんな状態なのだが、女教諭は話し始める。
「初めてまして。 私はBクラス担任の星之宮知恵。九条君とは一度話してみたかったんだよね〜。ちなみにDクラスの茶柱先生とは、高校の時からの親友でね。下の名前で呼び合う仲なのよ〜。」
グイグイくる感じは悪い気はしない。
星之宮先生も自分の可愛さを理解しているのだろう。距離感や仕草一つ一つがあざとい。ただ、生徒にするのはどうかと思う。
「ねえ、サエちゃんにはどういう理由で呼び出されたの? 何やらかしちゃったの? どうして?」
この人、よく話すなあ…、と感心しながら星之宮先生の話を聞く。
「さあ。特に何かやらかしたとかは記憶にないんですがね……。」
「ふーん、分かってないんだ? それにても、九条君がこんなに色気ある子とは思わなかったよ〜。かなり格好いいし~。モテるでしょ~? うわ〜、凄い筋肉だね。」
星之宮先生は、断りも入れずに俺の胸あたりを触り始めた。ただ触るのではなくねちっこくいやらしい手付きだ。
この人、ここが職員室だって分かってやってるのだろうか…。
別に悪い気はしないので俺はされるがままになる。
「俺は、フリーですよ。」
「ふーん? 意外。私なら絶対アプローチするのになあ〜。」
「雰囲気もウブっぽくないし…、私としてはもっと反応してほしいのに〜。」
そう言いながら俺の制服の袖をつまみ引っ張ってくる。
星之宮先生は俺をからかっているのだろう。
そんな中俺は思う。やるならやられる覚悟あるんですよね?と………。
俺の右手が星之宮先生の左膝へ伸びる。
「え、九条君?」
突然のことに星之宮先生は少し戸惑う。
しかし、俺は止まらずその手を少しずつ腿へ……。そして、内腿へ……。優しく、軽く触れるように、ゆっくりゆっくり奥へ奥へと………。
「ひゃぁ!? ちょっと、九条君!?」
流石にやり返されることは想定していなかったのだろう。星之宮先生は顔を赤らめる。
さらに俺は攻め続ける。顔を星之宮先生へ近づけ、左手を髪で隠れた右耳の耳朶へ触れる。そして、星之宮先生と目線が合う。
「あっ………。」
星之宮先生は目を潤ませる。頬は少し赤らめ、手は自信のスカートをギュッと握る。俺はそんな星之宮先生に向かって
……………………、
「お前ら。何してるんだ……。」
ふと、振り返ると茶柱先生がこちらを呆れたように見ている。後ろにはちゃっかり清隆もいた。
「九条。お前は何職員室で教師を口説いてるんだ。それに星之宮。お前もお前で何受け入れようとしてるんだ。」
「ぶぅ〜。いいところだったのに〜。」
星之宮先生は頬を膨らませ不貞腐れる。
そんな星之宮先生の態度に茶柱先生はため息をつく。もう、諦められているのだろう。
「それより九条。待たせたな。話は生徒指導室でするからついて来てもらおうか。」
生徒指導室という言葉に俺は何か本当にやらかしたんじゃあ…、と不安になる。
「安心しろ。別に何か咎めるようなことではない。」
俺の表情を見てか、茶柱先生はそう言う。そのまま、茶柱先生はドアの方へ歩き出す。
俺もついていこうと立ち上がる。
すると、星之宮先生が俺の腕に抱きついて、一緒についてこうようとする。
「お前は来るんじゃない。」
「えぇ〜。別に減るものじゃないしいいじゃない!それに私ももっと九条君とお話したい〜。」
星之宮先生は俺の腕に胸を押し付ける。
互いににらみ合いが続く。
俺はこれじゃ先に進まないな…と考え、くっつく星之宮先生の耳元へ顔を近づける。
「星之宮先生。我慢してくれたら、今度デートしますから。あと、からかうにしても相手は選ばなきゃですよ。俺も男なんで…、我慢できませんよ。」
結果、星之宮先生は素直に退いてくれた。満面の笑みだったのが逆に怖い。
茶柱先生や清隆には、呆れられたが仕方ないだろう。あんなあざとさを兼ね備えた女性に来られたら、こっちだってそれなりに返すのが男ってものですよ。
生徒指導室につくと、俺と清隆は有無を言わさず給湯室に押し込まれた。
勝手に出れば退学らしい。
「清隆。俺らはなぜこんなところに押し込まれてんだ?」
清隆なら、なんかわかるかと聞いてみる。
「さぁ、さっぱりだ。」
清隆にも、これは難問らしい。
程なくして、生徒指導室のドアが開かれる。
「まあ、入れ。堀北」
ここに来たのは堀北だったらしい。ただ何故ここに連れて来られたかはまじでわからない。
「茶柱先生。率直にお聞きしますが、何故私の配属がDクラスだったのでしょうか?」
堀北はDクラスに配属されたことに不満をもったらしい。
堀北は自分の入試試験において、筆記テスト、面接共に特に悪くはなかったはずだと主張する。
対して茶柱先生も筆記テストや面接における評価は高かったと伝える。
「そうですか…。では何故Dクラスに?」
茶柱先生の答えにますます堀北は分からないといった表情で問いかける。
「その前に、お前はどうしてDクラスであることが不服なんだ?」
それに対し挑戦的な表情の茶柱はそう堀北に反問する。
「正当に評価されていないのに納得する訳がありません。ましてこの学校はクラスによって、将来が大きく影響します。」
「正当な評価? おいおい、お前は随分と自己評価が高いんだな?」
堀北も教師に対して一切退かずに答える。よっぽどDクラスと評価されたことが癪に触るのだろう。
しかし、納得いく回答が得られないと判断したのか、堀北は諦めたように呟いた。
「………、今日のところはこれで失礼します。しかし私が納得していないことだけは覚えておいてください。」
話し合いは終わったらしい。ドアの方に歩く足音が聞こえる。
「あぁそういえば、お前とは別に二人、ここに呼んでいたんだった。お前にも関係のある人物だぞ。」
「関係のある人物…………? まさか……兄さ、」
「出て来い綾小路、九条。出てこないと退学にするぞ。」
放置されてたかと思うといきなり俺たちは呼び出された。流石に盗み聞きのような形になっていたので、少し気まずそうな顔で生徒指導室に入る。
「今の話……聞いていたの?」
「全部聞いてたよ。」
俺はそう答える。
「……先生、何故このようなことを?」
この状況が理解できないのだろう…。
茶柱先生に堀北は抗議する。
「お前にとって必要なことと判断したからだ。さて、お前達を指導室に呼んだ訳を話そう。」
茶柱先生は堀北の質問を受け流し、俺達へと話題を向ける。
「私はこれで失礼します…。」
堀北は自分の話は終わったとばかりに退室しようとドアに手をかける。
「待て堀北。最後まで聞いておいた方がAクラスに上がるためのヒントになるかもしれないぞ。」
その言葉にドアに手をかけていた手を戻し堀北は、こちらへ戻ってきた。
「まずは九条、お前からだ。」
茶柱先生は持っていた資料に目をやり、数枚捲りるとにやりとこちらを見て話出す。
「私はこのクラスを『不良品』と評価したが……、九条、お前はホントに優秀な生徒だな。」
資料を横目に茶柱先生はそう評価した。
「入試ですか?まあ確かに手応えは良かったですよ。」
まあ生徒会長に点数はバラされてるし…。学力的なところだと優秀なんだろう。
「ここにお前の入試の結果がある。今回の入試では全教科文句なしの満点だったようだな。堂々の入試一位。」
「さらに運動面でも優れた成績だと既に体育教師から連絡を受けている。嘆いていたぞ。何故部活に入らないのか…。と。」
「まあ部活に時間取られたくないんで…。」
「まあ部活の有無はこの際どうでもいい。さらにこの学校のシステムを数日で看破する洞察力や分析力も持ち合わせている。」
堀北はそう告げられ、何故Dクラスへ…?と懐疑的な表情で俺を見る。
俺としてもこれで不良品クラスはなぁ…とは思った。ただ、義務教育なんか受けたことないし内申点的なのは皆無だからな、といちおうは納得している。
そして彼に対する話題は終わったのか、話題は清隆の方に向いた。。
「そして綾小路、お前は本当に面白い生徒だな。入試の結果を見たが、心底驚いたぞ。」
そう言って茶柱先生は机の上に一枚の資料を置く。そこには清隆の入試の成績が載っていた。
「国語50点、数学50点、英語50点、社会50点、理科50点」
茶柱先生は俺たちが資料に目を通したと確認して話を続ける。
「これに加えて今回の小テストの結果も50点。これが意味するものが何か分かるか?」
堀北は驚いた様子で清隆へと視線を向ける。
「偶然って怖いっスね」
清隆…。Dクラスにいるのはなんとなく目立ちたくないから入試で手を抜いたのかとは思っていたが、これは一周まわってアホだろう…。
俺は呆れたように清隆の方を見る。
堀北も訳がわからないといった表情だ。
「あなたは……、どうしてこんな訳の分からないことをしたの?」
「いや、だから偶然だ。別に隠れた天才的な設定は無いぞ。」
「どうだか…。ひょっとしたらお前よりも頭脳明晰かも知れないぞ堀北」
茶柱先生は堀北を挑発する。
そんな中、茶柱先生は手元の資料をまとめる。
「そろそろ時間だ。職員会議の始まる時間になるから私はもう出る。ここも閉めるから三人ももう出ろ。」
そういうと、俺たちは問答無用で生徒指導室から出された。
追い出された俺たちは、何も話さず歩き出す。
教室ではまだ話し合いが行われているかもしれないが、流石に今戻る気はおきないので、とりあえず出口に向かう。
清隆は相変わらず何を考えているかわからない表情をしているが堀北さんは何か考え込んでいるようだ。
あまりに何もないので、俺は考え込んでいる堀北さんの目の前で手を降ってみる。反応なし。もっと激しく手を降ってみる。反応なし。
「何してるんだ…九条。」
そんな俺に清隆は呟く。
あまりに反応がないので胸でも揉んでやろうか、とも考えるが流石に限度超えか。そもそもそこまでの関係性はまだ築けていない。そんなこんなしていると…、
「九条君。あなたは何をしているのかしら…。」
全部気づいてたらしい。恥ずかしい。
「ごめん。あまりに堀北さんが考え込んでたから周り見えてるのかなって思って。」
「………、私はAクラスへ上がらなければならない。」
堀北はそう話し始める。
「まだDクラスになったことへ納得はしていないわ。けれど、文句を言っても現状は変わらない。」
堀北の言葉に俺も清隆もじっと話を聞く。
「……、とにかく今日は部屋に戻って冷静に考えてみるわ。」
堀北は、そういうと足早にその場から去っていった。
「清隆はどうしたい?」
堀北が去って、二人となった俺達だが、俺は清隆にそう問いかけた。
「俺の願いは変わらない。平穏な生活を送ることだ。出来るだけ目立つことからは避けたい。」
清隆は、一貫している。
「まあ、清隆はそうだよな。Aクラスなんて興味ないよな。」
「ん?九条はAクラスにあがりたいのか?」
俺の言い方が気になったのか、清隆は俺に問う。
「別にAクラスの特権などはどうでもいいんだが…、俺はここで己の強さを証明することを求められていてね…。まあ3年あるから、ぼちぼちやっていきますよ。」
そうだ。強さを証明することが俺には必要になる。まだ始まったところと言ってもこれだけの差があるからな…。まあこのくらいひっくり返すぐらいしないと最強とは言えないだろうし、ちょうどいいハンデだろう。
「それにしても清隆…。全て50点は流石にやりすぎだぞ。こんなの誰が見ても異質に思えるわ。」
「………。そうなのか…。」
まず、今日は清隆に常識を教えることにする。
星之宮先生と出会いました。入試結果やシステムを看破する洞察力などを目の当たりにしているので、星之宮先生にとても興味を持たれたのでしょう。