電話はひっきりなしにかかってきているようだ。
Dクラスの生徒はもちろん、茜先輩や真澄、有栖、椎名さん、なんなら伊吹さんからもチャットが入っていた。
俺は一応今日の午後には退院を予定している。
どうしようか…。
とりあえずDクラスの数が多いので今日午後に退院予定なので俺の自室にいます。と連絡を入れる。
茜先輩には『心配かけてすみません。また生徒会室に顔出します。』とチャットをしておいた。
あと椎名さんにも『もう退院するからまた図書室で…』とチャットを入れる。
伊吹さんはまだ関わりは少ないのだが、かなり心配をかけていたらしく不在着信もチャットもそれなりに入っていた。
『今日退院するから心配かけてごめんね。お詫びにまた晩御飯ごちそうするから日程合わせよう。』とチャットする。すぐに『分かった。』とだけ返信が入った。デレ期なのか?
こういう時、穏便な子達は助かる。ただしっかりケアしてあげることは忘れてはいけない。
あとひどかったのが真澄だ。不在着信数が二桁を有に超えている。ちなみに有栖は理事長から話を聞いたらしい。『完治するまで貴方の右腕(物理)になります。』って中々重いよ…有栖……。
退院後しおらしかったのに、徐々に本来の有栖が戻りつつある。まあいいことなんだろう…。
で真澄は…………、どうしようか…。テスト期間から少し治療(逢引)のペースが減っていたが、毎週会ってはいる。多分2日後には会える。ただ早く会ったほうがいいと頭の中で警鐘がなっている。
すぐ会えたらいいがDクラスとの会合もあることだし少し申し訳ないが、今日の夜に部屋に招くこととした。有栖にも真澄のフォローよろしく、と言っておいたのでなんとかしてくれるだろう。
あと清隆…。『お前女性関係拗らせると刺されるって話したじゃないか…。』って俺は別に拗らせてない。何を勘違いしてるんだ……。それから六助。お前の自撮り送ってきても俺はなんて反応すればいいんだ。
予定通り退院の手続きを終え、俺は病院から出る。
数日しか経っていないが外の空気がとても久しぶりに感じる。
感慨深さを感じながら学生寮に戻ったが、まだ授業中だ。とりあえず放課後までは掃除でもしながら待つ。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
チャイムが連打される。
嵐が来たらしい…。
ガチャ
ドアを開けるとDクラスの生徒達がなだれこむ。
「うぇーーーーん、ぐじょうぐん!!」
「心配したんだよ?」
「大丈夫?」
「なんでそんな危険なことになったの?」
「私が、介抱します。」
「犯人ユルサナイ……。」
「無事で良かった。」
「九条……、また刺されないようにな。」
佐藤さんが突進してくるので受け止める。
それから後ろには軽井沢グループ、櫛田グループを筆頭にお見舞いに来てくれたようだ。男子は綾小路含めて数人らしい…。いや、男子は部活動所属割合高いからね。
実際平田からは『部活動でいけないけど無事で安心したよ。また明日からよろしくね。』と連絡が来ていた。
決して俺の人望がないわけではない……はず。
号泣する佐藤さんを落ち着かせてるが、俺は周りの視線が気になる。
鈴音…、ジト目で見ないで。
松下さん、篠原さん、羨ましげに見ないで。
みーちゃん、井の頭さん、恥ずかしいのか顔を手で隠してるけどチラチラ隙間から見てるの見えてるよ。
あと清隆、合掌しないで。
「えっと…、まずみんな心配かけてごめんね。」
俺はたまらず佐藤さんを撫でながら周りに声をかける。
「はぁ……、事情が事情なだけにあんまり強くは言えないけどあんたのせいで今日のクラスの雰囲気最悪だったんだけど?」
軽井沢さんがやつれ顔で俺を非難する。
「特に佐藤さんなんか…ずっと「どうしよ…。どうしよ…。」ってブツブツブツブツ…、はあ…夢にも出てきそうだわ。」
ごめんね軽井沢さん…。ただ…やっぱこれも俺が悪いのか…?いや悪いのか…。
「まあ無事だったから結果オーライってこと……………、にはならないよね…、ごめん。」
軽く流せたらなぁと思ったが周りのジト目に我慢できず俺は謝る。
「あははは。まぁみんな九条君も謝ってることだしあんまりイジメないであげてね……。」
櫛田さん……、そういう声かけほんとに助かる。
「それにしても、佐藤さん…、もう泣き止んでるでしょ?いつまでそこにいるわけ?」
松下さんが佐藤さんに声をかける。
佐藤さんはビクッとするが、まだ俺の胸に顔を埋めている。
「ちょっと、離れろー。」
森さんと篠原さんに引き剥がされる。
目元はまだ赤いが確かに泣き止んでいるようだ。
「それはやりすぎ。」「ちょっとセコいね。」「いやいや、そりゃ堪能したくなるって。」目の前で痴話喧嘩が始まり、収拾がつかなくなる。
そんな空気に後ろの方にいた清隆らはこちらに手を挙げると帰っていく。長引きそうな感じなので清隆の判断は間違ってないと思う。
そんな清隆につられ何人かも少し申し訳なさそうにこちらに会釈をすると帰っていった。ごめんね、みんな……。わざわざ来てくれたのに。とりあえずお礼のチャットはしとこう……。
そんな少し後ろの数が減ったがまだ前方には女性陣が陣取り言い争っている。
「とりあえず狭いけど…、部屋入る…?
あっ、用事ある子とかは全然帰ってもらっていいからね。わざわざ来てくれてありがとう。」
そんな収拾のつかなさに俺はそう声をかける。
まぁ…、廊下でこの人数居座るのも迷惑だろうし…。
軽井沢、佐藤、篠原、松下、森、櫛田、王、井の頭、堀北。
このメンバーで鈴音がいるのは珍しい気がする…。あとみーちゃんとか井の頭さん。軽井沢グループに圧倒されて少しビクビクしてるようだ。
「改めて心配かけてごめん。」
視線が俺に集中する。なんだか謝罪会見を行っているようだ…。
「まず、なぜ襲われるようなことになったのか説明してほしいのだけれど?」
鈴音がそう切り出す。
それはごもっともな疑問だが、ストーカーの件は愛里も公にはしたくないだろう。うまいことごまかさなければ…。
そこで俺は犯人が本校女子生徒らにただならぬ視線を向けており、それを注意したところ逆上された。と少し濁して伝えた。嘘はついてない。
その言葉に彼女達は、そんな危険人物が敷地内にいた事の嫌悪感と恐怖心。
「えぇ………。敷地内にそんな人が…。」
「ちょっと怖いかも……。」
「夜一人で出歩けないね。」
それからそんな人物を止めた俺への感謝が徐々に出てくる。
「よくそんな人に注意したね…。」
「もしかしたら私達もそいつの対象になってたかも…。」
「じゃあ、九条君は私達の英雄ってこと?」
「えっまじ。すごいじゃん九条君。」
「はぁ…、危ないことに手を出して…、全く将君ったら…。」
軌道がいい方に向いてきたようで助かった…。と俺は思っていたのだが…。
「……………、ちょっと待って。今……堀北さん、九条君のこと……………名前呼び…した……?」
松下さんが鈴音の呟きを拾ったっぽい。
「えぇぇぇ!!!」
「まさか……二人って………。」
佐藤さんや篠原さんが煽る。
なんか雲行きが怪しい………。
「どういうこと?九条君?」
松下さん………、その笑顔が怖いよ?
「他意はないよ。ただ名前呼びする仲なだけだよ。」
ちょっと鈴音さん…。なんでちょっと不満そうなの?ごめんて、また相談乗るから許して。
「ふーん…。私達は苗字なのはそこまでの仲じゃないってことなんだ。」
松下さんそういうことじゃないって、勝手に名前呼びするって軽い感じがするからあんまりしないようにしてるんだ!
(真澄と有栖は例外らしいです。)
「えっと、ごめん。名前で呼んで良かったの?」
俺はあくまで呼ぶつもりはあった意思を見せる。
とりあえず、軽井沢グループは名前呼びになった。軽井沢だけは「どっちでもいい。」とのことだったが、彼氏がまだ苗字呼びなので俺も苗字呼びのままに落ち着いた。
てか平田君まだ軽井沢さん呼びってほんとに君たち付き合ってるの?
あと櫛田グループも成り行きで名前呼びになった。みーちゃんはそのままだけど…。心は呼んでみると一番反応が可愛かった。こういうシャイな子の赤面はたまらん。
反対に俺のことも名前呼びになったらしい。呼び方に個人差はあるが……。
それからしばらく部屋にいたが、日も傾いてきたので彼女達は部屋をあとにする。
佐藤さんら一部はごねていたが、「退院してすぐだからゆっくりさせてあげて。」との声に引いてくれたようだ。
ナイス声かけ軽井沢さん。
ただ彼女達が去ってすぐにまたチャイムがなる。
「……鈴音?」
鈴音が戻ってきた。部屋に忘れ物かとも思ったが、鈴音は一人先程から少し様子がおかしかった。
もう一度部屋に招き入れ、ドアを閉めると俺に近づく。
「………………。」
鈴音は何も言わず、顔を俺の胸に埋める。
「鈴音?どうした?」
もしかしたら……、と俺は考える。
鈴音はご褒美に名前呼びをお願いしたが、他のメンバーはあっさりと名前呼びを許された。嫉妬なのか………?あのツンツンしてる鈴音が?ちょっとデレ期もあったけど基本ツンツンオーラだからな…。
「もしかして他の子の名前呼びのこと?」
「……………別に。」
明らかな間がある鈴音。顔は見えないが多分不満げな顔をしているのだろう。
俺はサラサラな鈴音の黒髪をゆっくりと撫でる。ふんわりといい匂いが漂ってくる。
「どうしたら許してくれる?」
暫く撫で続けるが、返答はない。ただ撫で続ける。
「……………。私はただのクラスメイト。嫉妬なんて間違ってる。けど……、九条君が襲われたって聞いて、どうしたらいいか分からなくて、心配して、無事だと分かってほっとして、そしたら別の子を慰めてて、簡単に名前で呼び合って、私は何なんだろうって分かんなくなって………それで………。」
鈴音はせき止めてきた気持ちが決壊したのか、思いを俺にぶつける。
ただ声は力なくどこか震えている。
部屋に来たときは不安げにしておらず、寧ろ冷静な雰囲気をしていた。
ただ内心はかなり気持ちが揺れ動いていたらしい……。
………俺って全然ダメだなあ…。ほんと不甲斐ないわ…。
そんな鈴音に気づかなかった俺は自分の不甲斐なさを猛省する。ただここから挽回すれば……。
「………鈴音?心配かけてごめんな。それから君の気持ちも考えずにちょっと軽率だったかもしれない。」
俺はまず謝罪する。
「………いえ、将君が優しいのは知ってる。それに彼女達もかなり心配してたし彼女達をとやかく言うのは違うわ…。」
鈴音はあくまでも自分が気持ちの整理できないことが悪いと考えているらしい。
少し前までの鈴音ではまずないであろう自責の念。周りのこともしっかり見れるようになったのだろう。
ただもう少し我儘にいてもいいと思う。
「鈴音、もう少し自分に我儘になってもいいんだよ。………こんな俺が言えたことじゃないけどね…。だけどさ…ちょっとでも気が晴れるなら俺にできることはないか?」
裸踊りでも土下座でもなんでもしよう……。今は鈴音の気持ち優先だ。
鈴音はチラッとこちらを見る。目は赤く普段のキッとした顔の面影はない。
「…………。キ…………いや…、強く抱きしめてほしい。壊れるくらい。」
一瞬言い淀むがそう鈴音は答える。
「それで気持ちが晴れるなら……。でもいいのか?鈴音なら抱きしめるくらいいつでもやるよ?」
「………、いいの。こういうことに特別なことをお願いするのは違うと思ったの…。」
鈴音は本当にいい女になった。ここ数週間で急成長している。兄さんのお話がかなり効いているのかもしれない。
「分かった。痛かったらすぐ言うんだよ?」
俺は鈴音の背中と後頭部に腕を回すと強く抱きしめる。
鈴音の髪が俺の顔に触れる。鈴音の身体が俺にギュッと密着する。少し息苦しいが、強く強く腕に力を入れる。
鈴音の吐息が微かに聞こえる。
鈴音の手がギュッと俺の背中の握る。
「鈴音?苦しくない?」
「……………、もっと…もっと強く。」
だいぶ強めにしているつもりだが、鈴音はまだまだ強めを所望のようだ。
ギュゥゥゥゥゥ
俺はさっきよりも強く抱きしめる。先ほど以上に密着する。おかげで鈴音の身体のライン、柔らかいところが全て俺の身体に感じる。
「あぁ……。」
さらに、鈴音の息が漏れなんだかやらしい声が聞こえる。
こちらまでいけないことをしているように錯覚してしまいそうになる。
しばらくそのまま過ごすが何事にも終わりがある。
俺はスッと力を緩め、鈴音の両肩を掴み身体を離す。「あっ…、」と名残惜しそうな声が聞こえるが仕方ない。俺は鈴音の方を見る。目は潤み頬は赤くなり恍惚な表情をしている。ずっとひっついていたので少し汗ばんでおり、かなりエロさが際立っている。
うっ………、鈴音がエロすぎる……。
俺はそんな姿の鈴音に脳内煩悩に溢れそうになるが、ぐっとこらえる。
「鈴音?満足した?」
「………………………、将君…。もっと甘えさせて?」
鈴音の表情から恐らく頭がぼーっとしているのか、そんなことを呟く。普段の鈴音じゃあ考えられない言動だ。
俺はその破壊力に一瞬意識が飛びかける、が正気に戻る。
鈴音、もとに戻ってくれ………。破壊力がヤバすぎる。
スゥーーッハァァーーーッ
スゥーーッハァァーーーッ
スゥーーッハァァーーーッ
俺はひたすら深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせにかかる。
そんな姿が功を奏したのか、鈴音の表情が徐々に戻ってくる。
ただ冷静さを取り戻したのか徐々に顔は険しく真っ赤になっていく。先程の言動はしっかり覚えているらしい……。
「っ////////////さっきのは忘れなさい…………。」
鈴音はただ一言呟く。
あぁ、可愛いすぎる…。
俺はほぼ無意識に鈴音の頬に顔を近づけ…………
チュッ
口づけをする。ギリ口にしない理性は残っていたらしいが、俺は我慢できなかったらしい。
「えっ………なっ…………はっ……////」
鈴音は言葉を失い、俺は俺であぁ、やっちゃったと冷静になる。
「鈴音が可愛すぎるのが悪い。」
ただこれは俺は我慢した方だと思う。
愛里も波瑠加も鈴音も俺の理性をぶっ壊しに来すぎなのが悪いんだ。おれは一周回ってそう結論づける。
「ちなみに俺の(この学校で&医療行為除く)はじめてだよ。」
そうボソッと耳元で囁くと、鈴音は赤面が限界突破して「じゃあ、元気になったらしいし帰るわ、また学校で!」と早口になりながらドタバタと部屋から出ていった。
ほんと可愛いなあ……。
しみじみと感じるのであった。
ただ、今日はまだ女の子を部屋に連れ込むらしい…………。まじでさぁ…九条………。
こんなイチャついてるのにこれからまだ別の女を部屋に呼んでるんだぜ?やべーぞこいつ。