「早速だけど、一つ聞かせてほしいことがあるの。将君はこの事件、裏で何を動いているの?」
部屋に入るとともに鈴音はそう切り出した。
「普段の将君なら、もっと積極的に動くところなのに他のクラスメイトと同等の動きしか見せていない。それに、目撃者の可能性の高い佐倉さんのことも聞き出すどころかか、佐倉さんの肩を持つような発言もしていたわ。何かしているのでしょう?」
鈴音は、俺の行動に疑問を持ったらしい…。確かに俺は最低限の協力しかしないと伝えたのだが………、この子俺に対しての信頼度が高すぎないだろうか?
ただ、今回の件はやはり審議が終わるまでは言わない方が良い。特に鈴音なんかが真剣に正攻法で取り組んでくれるからこそ、Cクラスは騙される。
「何か勘違いしているようだけど、今回の件俺は特に何もしてないよ。流石にこの状態だから中々作戦もたてれないし。」
俺はあくまでもしらばっくれる。
「…………、なら何故佐倉さんの肩を持ったのかしら?」
「彼女とは、中間テストの勉強会から少し付き合いがあってね。人と話すのが苦手だから、鈴音みたいにグイグイ行っちゃうと彼女の負担になっちゃうからね。それで止めさせてもらったんだ。」
鈴音は佐倉さんに目撃者について問い詰めるのを止めた俺にかなり疑問を持っていたようだ。ただ、俺の言うことも事実ではある。嘘をつくにも少しは本当を入れると真実っぽくなるんだよね。
「へぇ…。随分と佐倉さんのこと詳しいみたいね。」
鈴音は少し不満げに言う。
「まあ、それは今はいいわ…。それより水曜日の審議だけれども、どう乗り越えればよいか…、あなたの知恵を借りたいの。」
鈴音は本気でこの状況をどうにかしたいようだ。
「ちなみに鈴音はどのような結果を望む?」
「それはもちろん、完全勝利よ。」
鈴音のことだ。やはり曲がったことは嫌いらしい。
「そうか…。今の状況を整理してみようか。まず、暴力をしたと疑われているのが須藤。そして身体にいくつも怪我をしているCクラス3人。Cクラスの奴らも評判はあまり良くないが、須藤も評判は悪い。それに事件後須藤も報告することなく時間を過ごしている…。明らかに心象は良くない。」
「えぇ…。」
「仮に須藤の言葉を信じるなら、向こうからの挑発があって殴りかかって来てから須藤は行動している。それに須藤はそれぞれ1発しか殴っていないそうだね。Cクラスの怪我の度合い的にはもっと殴られてそうだが恐らく心象を悪くするため、陥れるためわざと怪我をしたのだろう…。」
「でもどちらから行ったか、なんか証明しようがないから今は状況証拠で戦うか、Cクラスの証言の矛盾点をつくか…、たとえそれができても無罪にするのは難しいが…。」
俺はあくまで証拠がない体で話をする。
本当に愛里がいなかったら、中々大変なものになっていた………。
話しながら、改めて愛里の業績の大きさを実感する。
「やっぱり、完全無罪は難しいのかしら…。」
鈴音のことだ。俺の言っていることは既に理解はしているだろう…。
「鈴音には悪いが恐らく厳しい審議になると考えられる。だが、いくら怪しくても完全に黒じゃないと裁くのは難しい。Cクラスは3人の証言と怪我という証拠があるが、ここは陥れ合う場所だ。学校側もそれは承知の上だろう。それに事件場所もわざわざ防犯カメラのない場所で行っている。100%こちらに分がないわけじゃ無い。決定的な証拠がないのは向こうも同じだ。」
「そうよね………。……分かったわ。とりあえず今ある不審なところを徹底的につくことに徹する。それで審議なのだけれど九条君も審議に出てほしいの…。」
そうきたか…。今でも鈴音は俺に少し疑念を持ってるのにこれも断ったらさらに不審がられる可能性が高いよな。けど、流石に今回は鈴音達に任せたい。
「……、それなんだけど今回は鈴音達に任せようと思ってる。」
「……理由を聞いても?」
「この事件、Cクラスは裏で手を引いてる奴が恐らくいる。多分今後もクラス間で争う場面は多くあると思う。そのために俺はまだ表立って行動しない方が今後のためになると思ってね。」
俺はそれらしい理由をつけて鈴音を説得する。
「将君がそう言うなら…、分かったわ。」
鈴音の俺への好感度が高いことが幸いして、鈴音は納得してくれたようだ。
そこからも俺と鈴音は審議に向けた話を続ける。
鈴音の本気でこの事件をどうにかしたい、という気持ちがひしひしと伝わってきた。その本気度に徐々に俺の罪悪感が堆積していくが、俺は心を鬼にしてその話を聞き続ける。
審議終わったら、本気で謝らないとな……。
審議についての話し合いを終えた俺たちは、もう夜になっていることに気づいた。
夜ご飯もまだ食べてない、との話になり今日は鈴音と共に夕食を取ることになった。
キッチンでは鈴音が、料理をつくっている。俺がやると言ったのだが頑なに許してもらえなかった。
料理をする鈴音………。うん、いいな。
俺はリビングから鈴音の料理姿をじっと観察いていた。
「そんなに見られるとやりづらいのだけれど……。」
「あぁ、ごめんね。あまりに様になってたから。」
俺は視線をキッチンから外す。
「……、べ…別に嫌とは言ってない…。」
鈴音は照れながらそんな言葉を発する。
激かわやん………。
そこから料理ができるまで、俺は鈴音を堪能しつくした。
「美味い。」
「そう……。」
できた料理を食べ感想を述べる。鈴音は澄ました顔でそう呟くが、目が泳いでいる。嬉しさが溢れているようだ。
その噛み締めているのがまた愛おしい。
「今度は俺にも作らせてよ。ぜひごちそうしたい。」
毎朝味噌汁つくってほしい、的な言葉を言いかけたのだが、流石にぐっとこらえた。
次はぜひごちそうしてあげたい。
「なら審議終わったらお願いしようかしら?」
思ったより近々の約束だが、俺は即了承する。
思った以上に俺も鈴音の魅力に惹かれているのかもしれない。
夕食を終えて、鈴音は帰るのかと思ったが今は一緒にリビングで雑談をしている。
俺としては鈴音の人間関係に進展があったのか気になっていたので聞いてみる。
ただ、一匹狼の頃の名残は中々抜けきらず、まだ一人行動が多いらしい…。
本人的には有事に手を取れる仲間さえいたらいいそうだ。
まあ、鈴音はそういう感じでちょうどいいのかな…、と俺も思ったのだが、
「………、それに私には将君がいるから。」
と恥ずかしげにそう呟く。
思わぬ不意打ちに俺はクリティカルヒットした。
鈴音は、俺をどこまで乱せばいいのだろうか…。堀北会長には人を導くようなカリスマ的なオーラがあるのだが、鈴音にも案外人を惹き付ける才能があるっぽい。
ゴリゴリ俺の理性を削り、好感度をあげ続ける鈴音。
「…………。鈴音…。それは可愛すぎ。」
留めようと思ったが、俺は思わず声に出す。正直、止めようがない。
「っ。/////」
その言葉に鈴音も恥ずかしくなったのか、顔を赤らめて顔を俯ける。
少しの間静寂が流れるが、俺も抑えきれずにベッドに持たれかかり座る鈴音の真横に移動する。
鈴音と触れ合いたい……。
普段なら、そう思っても理性が働くはずが俺は無意識に鈴音の真横に座り、肩に手をまわし体を寄せる。
そうだ。これは鈴音のせいだ。
俺はその行動を鈴音のせいにしてただ鈴音と密着する。
鈴音も少しはじめこそ強張っていたが、それを受け入れ俺の肩に頭を預けている。
そこからしばらくは、無言でそんな時間を俺たちは過ごすことになった。
それから、鈴音とは特に何もなく程なく鈴音は部屋に帰っていった。
あまりに雰囲気が良かったのでそのまま、手を出しそうにもなったのだが、既に他に手を出している俺は一線を超えるのには慎重にならないといけない。
鋼の意思と素数を数えることで難を逃れた。
鈴音も密着をやめたときは何か言いたげだったが、「審議頑張らないとな。」と俺が言うと意識をそちらに戻したらしい。
てか、俺の勘違いじゃなければ鈴音はもう俺のこと好きなんだろう…。
それは非常に有り難いことだが、あとは真澄らとの関係をどう納得させるかなんだよな…。彼女を悲しませる結末だけはしてはいけない…。クラスの皆が審議に意識を向ける中、俺は一人そんな覚悟を決めるのであった。
審議前日もあっという間に過ぎ、もう審議当日の終礼を迎えていた。
決定的な証拠は最後まで出なかった。
ただ鈴音の鼓舞によって一定のモチベーションはクラスは持ち続けていた。
俺の鈴音への好感度はとどまることを知らない。
それから鈴音は須藤へ審議中の態度をひたすら叩き込んでいた。
心象を少しでもマイナスにしないためだろう。俺も鈴音を応援するためにしっかり審議を乗り越えたら須藤に肉を奢ると約束し、須藤のモチベーションを上げることに成功した。
審議には鈴音、それから清隆が行くことになった。鈴音が無理やり引っ張り出したらしい…。清隆も鈴音には少し弱いみたいだ。
そして、終礼も終わり審議メンバーは茶柱先生に連れられ教室を出ていく。
クラスも流石に緊張感が見られ、佐藤なんかは俺に「どうなるかな…。」と不安を漏らしたがもう今からできることはない。ただ見守るだけである。
俺はただ、もうほぼ決まった未来の結果を待つだけ。
一人さっさと自室へ戻る荷物をまとめているのであった。
鈴音は堕ちれば非常に理性を削る行動をしてきそうとの作者の妄想が暴走しました。
お前、千尋ちゃんと話してたばかりだろ……。女たらしだから仕方ないですよね。