「おじゃまします。」
俺は、部屋に荷物を置くとすぐに綾小路の部屋に向かった。
部屋の中は初日ということもあり、俺の部屋と変わらぬ何もない殺風景とした部屋だ。
「綾小路。コーヒーブラックで。」
俺は少し緊張をほぐそうと冗談混じりに綾小路にコーヒーを淹れるように言った。
「ん?部屋に人をあげる時はコーヒーがいるのか?すまない。あいにくまだここには水道水しか無いんだ。」
冗談に対して綾小路は素で答える。
やはり常識的なところは少し抜けているようだ。
「ごめんごめん。冗談だよ。でもそうだな。もし人が来た時にはお茶とかコーヒーとか出してあげると好感度上がるかもね。」
俺は綾小路の経歴を知ってるので素直にアドバイスを送る。
「それよりも話とは何なんだ?」
綾小路は早速、そう切り出した。
もうちょっと世間話でもして和やかムードにしたかったが、綾小路に小細工は効かないよな……。腹をくくれ。正直、ジャングルでジャガーと戯れたり、銃弾が飛び交う中の紛争に参戦したりしたけど今が一番怖い。当時まだ成長期前で小さかったとはいえ俺は体術でコイツにボコボコにされたんだよ。あの時の殴りながら何も感情の無い目には恐怖を覚えてね…。今も少しトラウマだよ。
頭に当時の記憶(トラウマ)を思い出しながらも俺は決心して話し始める。
「……………ふぅ。そうだな。まず、綾小路。久しぶりだな。」
俺はそう切り出した。
そんな俺の言葉に綾小路の目線が鋭くなる。
「………。…なんのことだ?俺とは初対面のはずだが…?」
「はっきり言おう、綾小路。俺はホワイトルーム出身だ。お前と同じ4期生……っ!!!!」
俺は咄嗟に腕で顔を防ぐ。
綾小路の手刀が襲ったのだ。
「…ここだと追手はすぐには来ないと思って入学してきたが…早速現れるとはな……。」
表情こそ変わらないが、明らかに敵意を向ける綾小路。既に臨戦態勢だ。
そんな綾小路に俺はあわてて声をかける。
「待て待て待て!落ち着け綾小路!お前が何を思って敵意を向けているか分からないが俺は別にお前の邪魔をしようとは考えていない!そもそも俺はあの部屋から離脱した身だ!」
「……話を聞こう。」
俺のあわてように綾小路は一旦矛をおさめたようだ。
「俺は親の意向であの部屋に入った。綾小路とは同期にあたるんだがお前と違って俺はずば抜けた成績は残してなかったからな…。覚えてないだろ?」
「あぁ…すまない。」
綾小路は全く見当がつかない、と言いたげな顔でそう答えた。
「まあ、綾小路は他に全く興味なさそうだったもんな。話しを戻すぞ。そんな中で俺は10歳の頃に親の意向でホワイトルームから出ることになった。勝手な話だよな。親の指示で入ったのに今度は出ろって。」
「そうか…。お前も親に振り回されてるんだな。」
俺の言葉に綾小路は同調していた。
そんな綾小路の態度に俺は、
綾小路も親に振り回された被害者に過ぎないのかもしれない。それなら案外気が合う可能性がある。
と思い、そうであれと願った。
「まあ別に俺はそこまで親を恨んでた訳じゃない。この能力もあの環境あっての実力なのは変わりようのない事実だからな。でだ、ホワイトルームから出た俺だが今度は一般的な小学校に通わされることになった。」
「そうなのか…。俺はずっと施設暮らしだぞ…。」
少し羨ましそうにそう綾小路は呟いた。
「いや、全然良いところじゃなかったぞ。正直ホワイトルームから出てすぐにあの環境に行くと物足りなさすぎるし、あまりのレベルの低さに頭がおかしくなりそうになった。まあこの考え自体がホワイトルームの一種の洗脳だったんだろう…」
「そんなものなのか。俺は少し羨ましく思うがな…。」
「無いものねだりってやつだな。実際綾小路も行かなくていいと思うぞ。」
綾小路の言葉に俺は反論する。
当時の綾小路なんかが一般小学校なんか行ってしまったら、どうなってしまうか考えたくもない。
「それから俺はすぐに親に高レベルな環境を求めた。それに対して親は俺に対してホワイトルームに近いカリキュラムとその環境、そして多くの教官を用意したよ。」
「お前自らその環境を求めたのか…?」
綾小路は少し驚いた、とばかりにそう聞く。
「あぁ、自由になったのに自ら逆戻りしたことに驚いたか?さっきも言ったが一種の洗脳状態だったんだろうな。もうあの環境が当たり前だったんだ。当時の俺は。でもその新たなカリキュラムはホワイトルームと大きく違うことがあったんだ。閉鎖的なホワイトルームと違って世界中飛び回り今までにない経験を多くしたことだな。」
「そんなに違ったのか?」
俺の経験談に気がつくと綾小路は食い入るように聞いていた。多分綾小路も自由に夢を見ていたのだろう…。
「ああ。閉鎖的なホワイトルームにはなかったあらゆる文化や価値観に触れ合ったことでいかに自分が狭い世界で生きていたんだと気付かされたよ。おかげで死んでいた感情も育まれたよ。まあそんなこんなあって去年、親からここを勧められて今年入学した感じだ。」
「だから改めて言う。綾小路に別に危害を加えるつもりは無いし、何なら仲良くしたいと思っている。」
俺は、そう綾小路に宣言する。
「まず言っておく。俺はただ平穏に過ごしたいだけだ。ただお前の話を聞いて思ったことがある。そうだな…。俺は普通の生活や自由というものに憧れがあったのかもしれない。」
綾小路は遠い目になりそう呟いた。
少しの間、静寂が部屋を包む。
「綾小路…。俺はお前について知ってたようで何も知らなかったようだ。俺の生い立ちは話した。次は綾小路の今までについて話してくれないか?」
そこからは綾小路の過去について詳しく聞いた。中でもホワイトルームが停止していたことには驚いた。あの規模感、緻密なカリキュラムのものが停止するとはかなり大きな力が動いたに違いない。そして、綾小路がここに来た経緯や思いも聞いた。
俺は綾小路について誤解していたのかもしれない。確かに機械的で冷酷なところはあるのだろう…。ただそれはあの環境によってつくられたもので根本の性質は違うんじゃないか。ホワイトルームのことを知っているのは俺しか居ない。コイツの心を溶かすのも俺の役割なんじゃないか?
俺はかつての恐怖心は既に消え、どう綾小路と向き合っていくか考えていた。
「なあ綾小路。俺はお前のことを知ることができて凄く嬉しかった。もちろんお前の願いについては全力で協力しよう。目立ちたくないなら俺を隠れ蓑にしてくれても構わない。」
俺は真っずくに綾小路を見つめる。
「…あぁ。そう言ってもらえると非常に助かる。」
綾小路はそう手短に言う。
表情こそ変わりはないが最初の敵意を向けるときと比べて明らかに表情が柔らかくなっている。
「よし。俺たちはこれで友達?協力者、いや相棒だ!よろしくな綾小路、いや清隆!」
そう言うと俺は綾小路に向けて手を差し伸べる。
突然の名前呼びに驚く綾小路だが、差し伸べられた手を取ると、
「ああこちらこそよろしく頼む。…九条。」
一瞬、言い淀む清隆だが、結局は九条と呼んだ。
「おいおい。そこは将だろ笑」
「すまない。俺にはいきなり名前呼びはハードルが高いようだ…。」
清隆のコミュ力ではキツかったようだ…。
そこからは二人で世間話を色々した。本当にホワイトルームは閉鎖的だったようであらゆる常識について清隆は疎かった。俺もそこまで一般常識がある方出ないと自負しているが、それにしてもひどかった。これは教育が必須であると心に留めるのであった…。
そして話は今日の茶柱先生のガイダンスについてになっていた。
「それにしても清隆。お前は今日の先生の話についてどう考えた?」
唐突の問いに清隆は一瞬考える素振りを見せ、
「あぁ…。あれは間違いなく何かあるだろうな。ポイントはほぼ間違いなく増減はあるだろう。あの無料用品はただの救済措置と言うよりはポイントの減少があると物語っているものだろう。買えるものもあの言い方だとおそらく法外なものまで購入が可能だろうな。」
清隆は確信を得たようにそう答える。
「やっぱりそうだよなあ…。とりあえず早めに色々情報は集めた方がいいだろうな。とりあえず俺は明日各クラスの確認と出来れば上級生と接触したいと考えてる。どうだ、一緒に来るか?」
「いや…、目立つだろう。俺は目立たない範囲で情報を集めるよ…。」
「じゃあ明日、また夜にここで作戦会議な。」
間髪入れずに俺は清隆にそう伝える。
「…分かった。ただあまり期待はするなよ。」
こうして、二人は互いの明日の動きを確認し、そして時間もだいぶ過ぎたこともあり解散した。
そして夜が更けていくのだった…。
対立、不干渉ルートも考えてみたのですが中々構想がまとまらなかったので友好ルートに突入しました。
今のところヒロインレースはぶっちぎりで綾小路がトップですね…。