あと今回の話は前話の1通目のメールを茶柱先生に送って間もなくくらいの時系列からとなっております。
さて、茶柱先生からの返信が無くてむしゃくしゃしていた俺は、コンビニへ足を運んでいた。
交渉も成立したことだし、なにかご褒美でも買おうかと思っていた。特に俺はコンビニスイーツと言うものに興味がある。今までの環境では、そもそもコンビニに行くことすらほとんど無かった。
何を買おうか、テンションをあげながら店に入ると、ふと目線の先にいた女子生徒の挙動が気になった。
……あいつ、万引きか…?
あの挙動には、見覚えがあった。スラムの子供が市場でものを物色しているような…はたまた髪が抜け落ちた初老の男性がロング缶とつまみを自分の服へ忍ばせていた時のような、そんな挙動と似ていた。
俺は、その女子生徒にバレない位置へ移動し、女子生徒の行動を監視した。
スッ…
缶ビールに女子生徒の手が伸ばされ、そしてそのままカバンへと入る。
……っ。
俺はその女子生徒の腕を掴んだ。
「とりあえず今カバンに入れたもの、棚に戻そうか?」
俺の言葉に女子生徒はため息を吐くと素直に従った。
そして、そのまま俺たちは店から出る。
「さて…。君、名前は?」
「…………。」
女子生徒は口を閉ざしている。
俺はじっと女子生徒を見つめる。
それでも女子生徒は何も答えない。
埒があかないと考えた俺は携帯を取り出す。
「あのさ、実はさっきのここに録画してるんだけど、それでも話さない?」
俺の言葉に女子生徒は舌打ちを打つ。
「……チッ、神室真澄。満足?」
「なんでこんなことしたの?」
「別に理由なんてないわよ。てか何なのよあんた。万引き防いでヒーローにでもなったつもり?」
神室は反省するどころか、開き直るように話す。俺に睨みつけながら不満げな態度に俺は笑みを浮かべて告げる。
「とりあえず俺の部屋、行こうか。」
神室はその言葉に表情を歪め抵抗するが、俺が左手で携帯をひらひらさせると観念したのか大人しくついてきた。
「さて、とりあえずどこでも座って。」
俺は先に部屋に入るが神室は中々ドアの前から中に入ってこない。
「あんた…。もし私の身体に少しでも触れてみなさい。その時は舌噛み切って死んでやるから。」
神室は、俺が身体目当てで部屋に呼んだと思ってるのだろう。
確かに神室は容姿にすぐれているが、弱みに漬け込んで身体を要求するなんて下衆なことはしない。(多分)
そう思われているなら心外だ。
「神室さん。別に弱みに漬け込んで何かするとかしないから部屋に入って来てよ。」
「なら、なんでひと目のない部屋に連れ込むのよ。」
「誤解をさせたのは申し訳ない。ただ、話の内容が内容なだけに外で話すのもどうかと思ってね。」
神室はまだ警戒を緩めずにいた。しかし、弱みを握られている以上は従うしかなかった。
そして神室は部屋に入り、隅の方に腰を下ろす。
ーーー神室Sideーーーー
そこからは、九条が質問をしてそれについて私が答える作業が続いた。
万引きに至った経緯、親との関係、小中学校との友人関係、他にも多く質問を繰り返す。
いきなりの質問攻めに私は、不信感しかなかった。しかし、九条のあまりにも真剣な表情に嫌々ながらも答えるしかなかった。
「なんなのよ…。」
あまりの真剣さに私は困惑していた。
そして、いつまでこのやり取りが続くのか考えていた。
そして時刻が20時と30分を刻んだ頃…。
「お疲れ様。長時間付き合ってくれてありがとうね。」
九条の一言に、私はやっと終わった…、とホッとしていた。さらにこれはそもそも何なんだと疑問が大きくなっていた。
「というか、そもそもこれってなんだったのよ。」
私の言葉に九条は一瞬、迷う仕草をする。しかし、すぐに答えた。
「そうだね…。実は俺は初めから君の万引きについて考えていたことがあって。それについて確認するために質問させてもらったんだ…。」
そして、九条は一息あけて、
「今から少し酷な話をするよ。」
そう呟いた。
そこから、私は九条から万引きについては恐らく精神疾患であると告げられた。窃盗症やクレプトマニアと言うらしい。原因は恐らく強い虚無感や孤独感からだと言う。その宣告に正直私はホッとしているところがあった。
別に万引きをしたくてしていた訳じゃない…。ただ、気がついたら万引きをしていた。刺激を求めていた。ただそれだけ。
そんな中、九条の言葉にはストンと納得した所があった。
ツゥーーーー
安堵か絶望か憤怒か何かわからない。私は気がついたら涙が溢れていた。泣いていることを認識するともう止まらなかった。唇は小刻みに震え、視界はぼやける。
「なんで……、わたし……。」
自分の変化に私は困惑する。私は別に気に病んだことはなかった。どちらかと言うと強く生きようと決意していたくらいだ。
しかし、私の身体は勝手に涙が出る。何故、何故、何故?
その時、ふいに身体が引っ張られる。引き寄せられ、私は九条の胸に頰が触れる。腕が背中に回って、私を強く抱きしめてくる。
「今まで頑張ったな。よく孤独に耐えた。もう大丈夫だ。」
九条はそう耳元で呟いた。
中学時代、帰っても誰もいない家。
いくら勉強、スポーツを頑張っても親の関心は私に向かない。
クラスでの派閥争い、増える陰口。
成長と共に向けられる男子の下衆な視線。
私は彼の胸の中で過去を思い出す。
ーーーー九条Sideーーーー
俺の宣告の後、静かに涙を流す神室に俺は思わず抱きしめる。
壊れないように優しく、でも守り抜くように強く。
暫くして、神室は目を腫らしながらも泣き止んだ。
「…………。あんたいつまで抱きついてるのよ…。」
神室の言葉に俺はスッと離れる。
「ごめん…。初対面の男に抱きつかれて嫌だったよな。」
俺は部屋に入ってきた時の神室の発言を思い出し、どんよりとした表情で俺は謝る。
「別に嫌とは言ってないんだけど」
神室は小さな声でそう呟く。
少しの間、部屋に静寂が流れる。
「あんた。連絡先。」
神室はおもむろに携帯を取り出す。俺と連絡先を交換してくれるようだ。
「なあ、かむ……真澄さん。」
「………、いきなり名前呼びなんてあんたどんな神経してるのよ。」
いきなり名前で呼ばれたことにジト目で神室は答える。
「……。呼び捨て。…。特別に呼び捨てで呼ぶことを許可してあげる。」
神室は少し頬を赤らめ目線を反らしながらそう呟く。
そんな神室に、俺は頬を綻ばせながら名前を呼ぶ。
「真澄。うん、綺麗な名前だね。」
俺は真澄との距離がグッと近づいたと確信した。
そして、そこから話題は治療の話へと変わっていく。
「それで、少し真面目な話なんだけど。この病気ってやっぱり日々の治療が必要なんだ。それこそ毎日通うレベルの。でも真澄レベルだともう少し頻度は少なくても良いかもしれない。ただ問題はこの学校内にその専門施設は無いだろう、という点だ…。」
窃盗症の医院なんか全国的にも珍しいだろうに、こんな一学校施設内なんかあるわけ無いだろう。
そう頭や悩ます俺に対して真澄は…、
「ならあんたが見なさいよ。」
まるで決定事項のように真澄は答える。
「いや…、俺は別に医師じゃないし、薬の処方もできない、治療法も簡単な知識程度しか無い、真澄のためにならない。」
俺はなまじ知識は持っているが、処方できるわけでもなく、治療のスペシャリストな訳でもない。
「何、ここまで私を見ておいていざ治療は無関係だなんて、そんな都合がいいこと私は許さないわ。……………それに私はあんたとなら頑張れる。」
そう、真澄は呟いた。
そんな姿を、見て俺も決心する。
「分かった。俺も頑張るよ。一緒に治して行こう。」
そうして俺と真澄はここから放課後や休日を使って、治療という名の傍から見れば逢い引きのような、そんな日々を過ごしていくのであった。
アニメでは、確か入学式当日に坂柳にバレる、はずだったのですがそのあたりの時系列の違いについては目を瞑っていただけると幸いです。
唐突に真澄さん回でした。ここで絡まないと次回どこで絡ませるんだ、となりまして…(メタ発言すんません)
案内、真澄さんってコロッといきそうだなあ…、と投稿主は思ってます。異論は認めます。