テレビの画面の中で、一人のプロヒーローが撃ち落とされた。爆炎を上げる海面に、その姿が消える。アナウンサーの絶叫と、他のヒーローたちの怒声が、納屋の小さなスピーカーから響き渡っていた。
「司令官、助けに行かないと!」
吹雪が、悲痛な声を上げる。彼女の瞳には、かつて仲間を失った時のものと同じ、深い悲しみの色が浮かんでいるように見えた。
「待ちなさい、吹雪」
冷静な、しかし有無を言わさぬ声で、加賀さんがそれを制した。
「無策で突入するのは自殺行為よ。それに、私たちの力を公にするのは、あまりに危険すぎるわ」
「でも、このままじゃ、あの人たちが!」
「だからと言って、我々まで共倒れになるわけにはいかない」
二人の間で、意見がぶつかる。どちらの言っていることも、正しい。僕たちの力を明かせば、どんな騒ぎになるか分からない。でも、目の前で、助けられるはずの命が消えていくのを見過ごすことなんて、僕にはできなかった。
画面の中で、僕も知っている、この地方で活躍する若手ヒーローの一人が、集中砲火を浴びて動けなくなっているのが見えた。
「……作戦を立てる」
僕の声に、二人がはっとしたようにこちらを向く。
僕は、目の前のテレビ画面と、卓袱台の上の地図を交互に見比べながら、震える頭を必死に回転させた。
「目的は、敵基地の殲滅じゃない。今、動けなくなっているヒーローたちを救出し、撤退させるための血路を啓開する!」
僕の言葉に、加賀さんがわずかに目を見開く。
「……正気? 我々の戦力で、あの弾幕を突破すると言うの?」
「突破するんじゃない。こじ開けるんだ。一瞬でいい」
僕は、地図の一点を指差した。
「加賀さん、航空隊、発艦! ありったけの艦載機で、基地の対空砲台を、南側から攻撃。陽動をお願いしたい」
「……なるほど。敵の注意を、ヒーローたちのいる正面から逸らすのね」
「うん。そして、吹雪」
僕は、無線機を手に、吹雪の目をまっすぐに見た。
「君は、海岸線から最大戦速で突入。陽動で敵の迎撃が手薄になった一瞬を突いて、ヒーローたちを拘束している小型の深海棲艦だけを叩く。いいな?」
「はい、司令官!」
吹雪の顔に、決意の色が戻っていた。
作戦は、数分後に開始された。
納屋の屋根から、加賀さんが放った艦載機が、再び夜の闇へと飛び立っていく。
僕は、無線機を握りしめた。
「加賀さん、第一次攻撃隊、攻撃開始!」
『了解』
遠くの海上で、閃光が迸るのが見えた気がした。加賀さんの艦載機が投下した爆弾が、敵基地の装甲を叩いているのだろう。テレビの映像の中でも、基地の砲台のいくつかが、明らかに上空へと向きを変えた。
「今だ! 吹雪、行け!」
『一番艦、吹雪、抜錨です!』
無線機の向こうから、勇ましい声が響く。
海岸で待機していた吹雪が、海面を滑り始めた。彼女の速度は、テレビのヘリコプターが追いきれないほど速い。画面の端に、白い航跡だけが一瞬映り込む。
『敵駆逐艦、三隻を発見! ヒーローを包囲しています!』
「よし。そのまま、蹴散らせ!」
『全砲門、開いてー!』
次の瞬間、テレビの画面が、凄まじい閃光で白く染まった。
ヒーローたちを囲んでいた三体の駆逐イ級が、吹雪の放った砲雷撃によって、一瞬で鉄屑と化して爆沈したのだ。
その光景に、救出されたヒーローたちが呆然としているのが、画面越しにも分かった。
『な、なんだ、今のは……!?』
『どこから……!?』
『女の子……?』
「吹雪! よくやった! すぐに離脱しろ!」
僕が叫ぶ。これ以上、姿を見られるのは危険だ。
『了解!』
吹雪が反転し、再び戦場から離脱していく。陽動を行っていた加賀さんの艦載機も、役目を終えて次々と帰還していく。
テレビの中では、アナウンサーが興奮したように叫んでいた。
『た、たった今、正体不明の、セーラー服を着た少女のような人影が現れ、ヒーローたちを救いました! 彼女は一体何者なのでしょうか!? まるで、幽霊のように現れ、そして、嵐のように去っていきました!』
僕は、椅子に深くもたれかかり、大きく息を吐いた。ひどい汗だった。心臓が、まだバクバクと音を立てている。
でも、僕たちはやったんだ。
後日、この事件は、世間を大きく騒がせることになる。
救出されたヒーローたちの証言から、彼女は”海の幽霊”と呼ばれ、ヒーロー社会における、最大の謎として語られ始めることになるのを、僕たちはまだ知らなかった。
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