これからもよろしくお願いします。
筆記試験を終えた僕たちは、巨大なホールに集められていた。
プレゼント・マイクのハイテンションな声だけが、巨大なホールに虚しく響き渡っていた。受験生たちは誰一人として声を発さず、ただ、互いを値踏みするような視線と、ライバルへの警戒心を孕んだ冷たい沈黙だけが、そこにあった。
「リスナー! 今日は俺がお前らのために、実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ! Are you ready!?」
その問いかけに、返事はない。シーンと静まり返った会場で、プレゼント・マイクは少しも気にすることなく説明を続けた。
「この後、お前たちには、それぞれの指定された模擬市街地演習場に向かってもらう! 持ち込みは自由! 制限時間は10分! 仮想ヴィランを、そのリスナー自慢の個性でぶっ飛ばして、ポイントを稼ぎまくれ!」
スクリーンに、三種類の仮想ヴィランのシルエットと、それぞれのポイントが映し出される。
「敵は、1ポイント、2ポイント、3ポイントの三種類! そいつらの行動を不能にすれば、ポイントゲットだ! 簡単だろ?」
その時、いかにも真面目そうな眼鏡の少年が、静かに、しかし、よく通る声で質問した。
「失礼! お手元の資料には、仮想ヴィランは四種類いるはずです! もしそれが誤植ならば、日本最高峰の雄英として、恥ずべきことかと存じます!」
「オーケー、受験番号7111番! いい質問をサンキューな! そいつは、『0ポイントヴィラン』! いわば、お邪魔キャラだ! 各会場に一体ずつ、暴れ回ってるギミックよ! 倒してもポイントはゼロ! 見つけたら、逃げるが吉だぜ!」
説明が終わると、僕たちは、指定されたバスに乗り込み、それぞれの試験会場へと向かった。
巨大なゲートの前で、多くの受験生たちが、静かに闘志を燃やしている。僕も、ポケットの中で、吹雪たちが今朝、こっそり忍ばせてくれた小さな妖精に、「頼むよ」とだけ心の中で念じ、深呼吸を繰り返していた。
その、張り詰めた空気を、プレゼント・マイクのハイテンションな声が、唐突に切り裂いた。
『──ハイ、スタートォォォ!!!』
突然の宣言に、会場全体が一瞬、思考を止める。
『どうしたぁ!? 実戦じゃ、カウントなんざねぇんだよ! 走れ走れぇ! 賽は投げられてんぞ!?』
その言葉に、受験生たちはハッと我に返り、一斉にゲートへと殺到した。エンジンを吹かす音、レーザーが飛び交う音、肉体が変化する音。凄まじい勢いで、個性豊かな集団が市街地の中へと駆け出していく。
僕は、その流れに乗らなかった。まずは、観察。加賀さんの教えだ。
僕は、周囲の建物の壁を使い、パルクールのようにして、素早く屋上へと駆け上がる。吹雪に鍛え上げられた、僕自身の身体能力。
屋上から、戦場全体を見渡す。どこで、どんな戦闘が起きているのか。敵の配置は? 受験生たちの動きは? 頭の中で、情報を整理し、戦術マップを組み立てていく。
「……あそこだ」
僕は、他の受験生たちが派手な戦闘を繰り広げている大通りから一本外れた、手薄になっている区画を見つけた。そこには、1ポイントの小型ヴィランが、数体うろついている。
僕は、屋上から飛び降りると、音もなく路地裏に着地した。そして、そこに転がっていた、手頃な長さの鉄パイプを拾い上げる。
一体目の1ポイントヴィランが、僕の存在に気づき、センサーアイを赤く光らせて突進してくる。動きは速いが、直線的。吹雪との模擬戦で、何百回と繰り返した動きだ。
僕は、その攻撃を半歩でかわし、懐に潜り込む。そして、加賀さんに教えられた、首の後ろの動力パイプ。そこに、鉄パイプを、渾身の力で叩き込んだ。
ガコン、と鈍い音を立てて、ヴィランの動きが止まる。
「……よし!」
やれる。僕のやってきたことは、間違いじゃなかった。
僕は、次々と同じやり方で1ポイントヴィランを狩っていく。派手さはない。誰の目にも止まらない、地味な戦い。でも、僕のポイントは、確実に積み上がっていく。
その時だった。
「──うぇ~い……」
近くの路地から、間の抜けた声が聞こえた。
僕がハッとしてそちらへ向かうと、金髪に、黒い稲妻のメッシュを入れた派手な見た目の少年が、地面にへたり込んでいた。大規模な放電の副作用で、脳がショートしてしまっているらしい。
そして、そんな彼の無防備な背後に、一体の2ポイントの中型ヴィランが、その腕を振り上げようとしていた。
僕の身体は、考えるより先に動いていた。
「危ない!」
僕は、彼の前に飛び出し、鉄パイプを構える。
「うぇ~い?」
僕の意図など全く理解できない様子の彼に、僕は叫んだ。
「大丈夫! すぐに助ける!」
中型ヴィランが、僕にターゲットを変更し、その剛腕を振り下ろしてくる。
速い。そして、重い。
僕は、吹雪との訓練を思い出す。
「──ここっ!」
僕は、振り下ろされる腕を、鉄パイプで受け流す。その凄まじい衝撃で、腕が痺れる。でも、僕は、その勢いを殺さず、利用して、敵の体勢を大きく崩した。
がら空きになった胴体。でも、そこに弱点はない。
「くそっ……!」
体勢を立て直したヴィランが、再び攻撃を仕掛けてくる。防戦一方だ。どうする。どうすれば……。
その時だった。
ズウウウウン……!
地面が、大きく、そして長く揺れた。ビルが軋む音がする。
僕だけじゃない。市街地の全ての受験生が、動きを止めて、一つの方向を見上げる。
ビルの向こうから、巨大な影が、ゆっくりと姿を現した。
『0ポイントヴィラン』。
その、絶望的なまでの巨体と威圧感に、会場全体が、静まり返った。それは、ただの『お邪魔キャラ』ではなかった。歩くだけでビルを砕き、瓦礫をまき散らす、巨大な『災害』そのものだった。
僕の目の前には、2ポイントヴィラン。そして、背後には、天を突くほどの、巨大な絶望。
僕は、完全に追い詰められていた。
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