無個性と呼ばれた提督   作:HYDRATION

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第十六話

 絶望的な状況だった。

 目の前には、僕を仕留めようと腕を振りかぶる2ポイントヴィラン。背後からは、全てを薙ぎ払うかのような、0ポイントヴィランの地響きが迫ってくる。

「くそっ……!」

 僕は、ショートして動けない金髪の少年を背中に庇い、鉄パイプを強く握りしめる。どうする。どうすれば、この状況を打開できる? 思考が、恐怖で焦げ付いていく。

 

 その時だった。

 ゴオオオオオッ! 

 

 0ポイントヴィランが振り下ろした巨大な拳が、僕たちがいる路地の、すぐ隣のビルに叩きつけられた。凄まじい衝撃と爆風が、僕の身体を襲う。

 

「危ない!」

 僕は、金髪の少年を庇うように、咄嗟に覆いかぶさった。

 凄まじい揺れで、僕たちの足元の地面が、蜘蛛の巣のように砕け散る。舞い上がった土砂が、視界を覆った。

 

 そして、その土砂の中から、何かが、僕の目の前に転がり落ちてきた。

 

 キラリ、と。鈍い光を放つ、金属の塊。

 今まで見た二つの欠片よりも、ずっと大きく、重厚で、そして、比べ物にならないほどのプレッシャーを放っていた。

 

 その欠片が、まるで僕に応えるように、淡く、温かい光を放ち始める。

 僕の目の前では、体勢を立て直した2ポイントヴィランが、再びその腕を振り上げていた。もう、防ぎきれない。

 でも、不思議と、恐怖はなかった。

 

 僕は、無我夢中で、その欠片を拾い上げた。

 手にした瞬間、脳内に、凄まじい情報と、力強い意志が流れ込んでくる。

 巨大な41cm連装砲。幾多の戦場を駆け抜け、味方を鼓舞し続けた、不屈の魂。

 その存在の全てが、僕に語りかけてくるようだった。

 

「──頼む! 力を貸してくれ!」

 

 ノートも鉛筆もない。本来なら、この複雑な情報を、一度、設計図として紙に写し取らなければならないはずだ。

 でも、そんな時間はない! 

 僕は、奥歯を食いしばる。脳が焼き切れそうなほどの激痛が走る。でも、構わない。

 僕は、設計図を描く代わりに、自分の精神そのものを、回路として無理やり繋ぎ、欠片に宿る魂の情報を、直接この世界に引きずり出す! 

 

 

 

「──戦艦、長門!!」

 

 

 

 その叫びに呼応し、僕の身体から、凄まじい光が溢れ出した。

 それは、吹雪や加賀さんの時とは比べ物にならない、巨大な光の奔流。光の中心で、一人の女性のシルエットが、ゆっくりと形を成していく。

 

 腰まで届く、艶やかな黒のロングストレート。その隙間から覗く、全てを見透かすような真紅の瞳。

 頭部には、戦艦の艦橋を模した、精悍なヘッドギアが装着されている。

 服装は、これまでの二人とは全く違う、SF的なデザインの戦闘服だった。白い袖なしのトップスは、引き締まった腹筋と、健康的な色合いの肌を大胆に覗かせている。白いミニスカートの腰には、菊の御紋をあしらったベルトが巻かれていた。

 そして、その身体を挟み込むように、左右に展開された巨大な艤装ユニット。そこから伸びる、4門の41cm連装砲が、圧倒的な威圧感を放っていた。

 

 彼女は、振り下ろされようとしていた2ポイントヴィランの拳を、こともなげに、その手で受け止めた。

 ミシミシと、ヴィランの腕が、逆に軋みを上げる。

 

「長門型戦艦一番艦、長門だ。貴様が私の提督か。……ふむ、悪くない顔つきをしているな」

 

 彼女は、僕を一瞥すると、そう言って静かに告げた。

 そして、僕が何かを言う前に、周囲の状況を一瞬で把握する。巨大な0ポイントヴィラン。逃げ惑う受験生たち。

 

「提督、指示を頼む」

「あ、あの巨大なやつを……みんなを、助けてくれ!」

「承知した」

 

 彼女は、僕の言葉を聞くと、ゆっくりと、その背中に背負った主砲を、0ポイントヴィランへと向けた。

 その姿は、絶対的な王者の風格を漂わせている。

 

「全主砲、斉射、用意。──少し、派手に行くぞ!」

 

 放たれた主砲の一撃は、音の壁を突き破り、空気を切り裂いた。

 それは、もはや”攻撃”というより、”破壊”そのものだった。

 着弾した瞬間、0ポイントヴィランの上半身が、凄まじい爆発と共に、完全に消し飛んだのだ。

 

 シーン、と。

 会場全体が、静寂に包まれる。

 僕の周りにいた受験生たちが、目の前で起きた、あまりにも規格外な出来事に、言葉を失って立ち尽くしている。

 

 けたたましいブザーの音が、試験会場全体に鳴り響いた。

 

『終──────────了────────!』

 

 プレゼント・マイクの、いつもと変わらない、しかし、どこまでも響き渡るシャウトが、僕たちの戦いの終わりを告げた。

 

 それを聞いた瞬間、僕の身体から、ぷつりと糸が切れたように、力が抜けていった。

 極度の緊張と、本来の手順を無視した無茶な建造による、凄まじい消耗。僕の意識は、急速に遠のいていく。

 

 僕の隣には、巨大なヴィランの残骸を背に、最強の戦艦が、静かに佇んでいた。




ストックが尽きたので定期更新はここまでとなります。すみません。
出来上がるたびに不定期に更新するか、ストックができてから定期更新するかは未定です。
いずれにせよ、夏風邪が長引いているため次に投稿できるまで少し間が開くかもしれません。

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