この話と同時に、新作を投稿しております。そちらも是非読んでみてください。
吹雪の凛とした声が、グラウンドに響き渡った。
その言葉が、引き金だった。
ずぅん、と。腹の底に響く、重く、鋭い発射音。それは、空気を圧縮し、一気に解放したかのような、衝撃波を伴う音だった。
彼女の構えた砲身から、白いソフトボールが、一条の光となって空へ射出される。それはまるで流星のようにぐんぐんと高度を上げていき、やがて春の青空に吸い込まれるようにして小さな点となって消えた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、グラウンドは、今日一番のどよめきに包まれた。
「おい、なんだそりゃあ!? 反則だろ、兵器じゃねえか!」
爆豪くんが、信じられないものを見る目で、吹雪を、そして僕を睨みつけながら叫んだ。
クラスメイトたちの驚愕と、困惑と、中には畏怖の視線さえもが、僕と吹雪の二人に突き刺さる。
その喧騒の中、緑がかった髪の少年だけが、ブツブツと何かを呟きながら、空と吹雪を交互に見ている。
「顕現させた少女自身の身体能力も高い。兵装の展開は、その少女の能力の一部なのかな? それとも、本体の碧海くんの指示で別々に発動する、一つの個性の中の二つの側面なのか? エネルギー源は一体……」
……ちょっと怖いな。
相澤先生は、そんな僕たちを、ただ、じっと見ていた。その目は、いつものように眠たげだが、その奥には、獲物を観察するような、鋭い光が宿っている。
彼は、手元の計測器に視線を落とすと、無感情な声で、結果を告げた。
「……5860.3メートル」
その、常識からかけ離れた数値に、クラスは再び静まり返った。
吹雪は何事もなかったかのように艤装を光の粒子に変えて消し、「任務完了です、司令官」と言って僕の隣に戻ってくる。
◇ ◇ ◇
全ての種目が終わると、相澤先生は僕たちの前に向き直った。
「さて、チャッチャと結果出すぞ」
その言葉に、クラス全体に緊張が走る。特に、自分の成績に自信がなさそうな生徒たちの顔は青ざめていた。
「ちなみに除籍はウソな」
先生の、あまりにも軽い一言に、クラスの半分以上が「はああああ!?」と絶叫する。
「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
先生は、そこで言葉を切ると、悪戯っぽく笑った。
「さあ、お待ちかねの結果だ」
空中にスクリーンが投影され、僕たちの成績が一覧で表示される。
僕の名前は、2位という自分でも信じられない順位に表示されていた。吹雪との連携で叩き出した記録が、僕をそこまで押し上げてくれたのだ。
◇ ◇ ◇
教室に戻ると、空気は一変していた。
さっきまでの緊張感はどこへやら、誰もが、お互いの『個性』について、興奮したように語り合っている。
そして、その興味の大部分が、僕と、僕の隣にいる吹雪に向けられているのは嫌でも分かった。
「ねえねえ、吹雪ちゃんって言うの? そのセーラー服、すっごいカワイイ! どこのブランド?」
「えっ、あ、ええと……これは、その、制式装備でして……」
「さっきの大砲、マジやばかったね! どういう仕組みなの?」
「し、仕組み、ですか……?えっと……魂、です!」
「タマシイ!?」
特に女子生徒たちに囲まれた吹雪は、完全に目を回していた。助けを求めるように、ちらちらと僕に視線を送ってくる。
僕は、クラスメイトたちの質問の嵐に晒されながら、ひたすら当たり障りのない返答に徹した。
一日が終わり、僕と吹雪が教室を出る。
どっと、疲労感が身体を襲った。体力テストの疲れじゃない。一日中、他人の視線と好奇心に晒され続けた、精神的な疲れだ。
「よお、碧海!」
廊下で、不意に、後ろから声がかけられた。
振り返ると、そこに立っていたのは電気のメッシュが入った髪の少年と、その隣で歯を見せて笑う赤髪の少年だった。
「ええと……」
「俺、切島鋭児郎! こっちが上鳴電気な! よろしく!」
赤髪の少年──切島鋭児郎が、元気よく自己紹介をしてくれる。
「今日はすげかったなー! お前の個性!」
「ああ、うん。ありがとう。」
僕が戸惑いながら返事をすると、上鳴くんが、少しだけ照れたように頭を掻いた。
「いやー、その、改めて礼を言いたくてさ。入試ん時、助けてくれただろ? 俺、完全にショートしちまってて、あん時お前がいなかったらマジでやばかったわ。サンキュ!」
「……!」
僕は、彼の言葉に一瞬意表を突かれた。入試の時のことなんて、もう忘れていると思っていたから。
「おー! そうだったのか! 碧海、ヒーローみてえでカッケーな!」
切島君が、さらに大きな声で笑う。
「いや……大したことじゃないよ。困ってるみたいだったから」
「それが、ヒーローの第一歩なんだろ? 俺、お前みたいなやつ好きだぜ! これからよろしくな!」
そう言って、切島君と上鳴君は、僕の肩を軽く叩いて、去っていった。
僕は、その場に立ち尽くしたまま、じんわりと温かくなる胸のあたりを、そっと押さえた。
……僕は最低だ。すごく親しげに話しかけてきてくれたのに、何か裏があるんじゃないかと一瞬だけ身構えてしまった。でも、二人の目には、何の計算も、侮蔑も見えなかった。ただ、真っ直ぐな好意だけがそこにあった。疑ってしまった自分が恥ずかしい。
「良かったですね、司令官」
「……うん」
そうして僕と吹雪は、二人で家への帰路を辿った。
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