無個性と呼ばれた提督   作:HYDRATION

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お久しぶりです。生きてます。
もう三ヶ月経っていることに驚きを隠せない作者です。
マグネリボンさん、豚缶の本さん、アルミサエルさん、感想ありがとうございます。
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第二十三話

「うお、まぶしッ!」

 

 先陣を切って階段を登った瀬呂くんは、差し込んできた光に目を細める。二階は、一階とは打って変わって明るかった。窓は塞がれておらず、穏やかな午後の陽光に満ちていた。

 僕らは一度立ち止まり、建物の見取り図を広げる。

 

「うーん……。核を置くなら、多分最上階かな? 下からの侵入に対して時間稼ぎになるし、この建物の最上階に通じる階段は一つしか無いから守りやすいだろうしね。まさしく要害の地って感じだ」

「そうだな。けど、部屋が何個かあるな……。これ、全部しらみ潰しに探すしか無いのかよ? ちょっと面倒だぜ。一階みたいに罠が仕掛けられてるかもしれないしよ……。ドア開けた瞬間ドカン、とかありそうじゃねぇか?」

 

 瀬呂くんの懸念は最もだ。八百万さんの個性が有れば、選り取り見取りの罠が作れるだろう。全部の部屋を警戒しながらクリアリングしていくのは、精神もすり減るし何よりも時間を浪費させられる。そんなことをしていては相手の思う壺だろう。

 

(考えろ……。僕が(ヴィラン)なら、どこに核を置く? 僕が創造を持っていたら、どう立ち回る?)

 

 核のダミーを複数創造して時間稼ぎ。壁を創造して隠す。周りに罠を作って囲う。あるいは──全部。

 

「そうだ、吹雪。電探である程度核の場所を探れないかな?」

「わかりました、やってみます!」

「瀬呂くんは……そうだな、一度外壁を伝って外から部屋をみれないかな?」

「おう、やってみるか」

 

 そう言って、瀬呂くんは窓から身を乗り出して壁にテープを貼り付け、スルスルと五階まで登っていった。

 僕は見取り図にペンを走らせながら突入ルートのシミュレーションを始める。瀬呂くんの情報次第では、窓と扉からの同時突入も視野に入れるべきか──。

 

 そう考えた矢先だった。

 

「うおおお!?」

「──ッ!?」

 

 窓の外から瀬呂くんの悲鳴が響き渡った。同時に、ガシャーン! と何かが激しく割れる音と、バチバチという弾けるような音が聞こえてくる。

 

「瀬呂くん! 大丈夫!?」

 

 慌ててインカムのスイッチを入れ、安否を尋ねる。

 

『ぐ、ワリィ碧海……! 八百万に外から来ること読まれてた!』

 

 インカム越しに、瀬呂くんの苦悶の声と、風の音が混じって聞こえてくる。

 

「一体何があったの!?」

『五階の窓だ! 近づいた瞬間、窓ガラスが内側から吹き飛んでネットが飛び出してきやがった! おまけに……いってぇ! 電流のセットだ、畜生!」

 

 僕は窓から身を乗り出し、上階を確認した。

 五階の壁面。瀬呂くんは八百万さんが創造したであろう特製の捕獲網によって、蜘蛛の巣に捕まった蝶のように壁へ縫い付けられていた。電撃でその身体に力が入っていないのが遠目にも分かる。

 外壁からの偵察あるいは侵入。機動力のある個性持ちなら定石とも言えるルートを、八百万さんは完全に予期していた。窓にセンサーか何かを設置し、接近に反応して迎撃するトラップ。あるいは彼女自身が待ち構えていたのか。

 

「何にせよ、僕の判断ミスか……! ごめん、瀬呂くん!」

 

 彼女の判断力を完全に舐めていた。推薦入学は伊達じゃないということか。

 

「自力で脱出は……」

『いや、無理そうだ! ウグッ、結構きっついなこれ……ッ!』

 

 つまり、瀬呂くんは実質的な脱落。助けに行くことも考えたが、その部屋には更にトラップがある可能性が高い。ミイラ取りがミイラになってしまっては元も子もない。

 だから僕は──

 

「──ごめん、瀬呂くん」

『いいよ。気にすんな』

 

 見捨てる判断をする。瀬呂くんはそれを察したらしい。インカムから聞こえる瀬呂くんの声は、悔しさと申し訳なさ、そしてスタンガンによる疲労が混じっていた。不甲斐ない。僕が未熟なせいで。何故トラップがあることを予測できなかった? 少し考えればわかったはずだ。

 ネガティブな思考が、泥のように頭をぐるぐると巡る。

 

「司令官」

 

 その声と同時、僕の頬を吹雪の両手が包み込む。

 温かい。火薬の匂いと、少しだけの汗、そして彼女自身の体温。

 

「誰だってミスをするときはあります。後悔はあとでも出来ます。今は、先陣を切ってくれた瀬呂さんに感謝をして前に進みましょう。それに……まだ、私がいます」

「……そうだね。そのとおりだ」

 

 真っ直ぐな、一点の曇りもない瞳に、冷え切っていた思考が熱を取り戻す。

 今、僕がすべきことは後悔じゃない。瀬呂くんが体を張って暴いてくれた『八百万さんの防衛能力』を、どう攻略するかだ。

 

「瀬呂くんがいなくなった今、階段を通るのは避けられないか。それは向こうも理解しているはず。となると、十中八九罠だらけであろう階段を突破するのが第一目標。

 第二目標は核がある部屋を見つけ出すこと。

 第三目標は、そこにいるであろう八百万さんを撃破して核を回収すること。八百万さんのことだ。不確定要素をできる限り潰すために、核がある部屋にいると考えて間違いないだろう。罠に任せて別の部屋で見守る、なんてことは多分しない。

 核のある部屋はお互いに銃火器の類は使えないから、こちらの戦力はかなり削られるな……。

始まる前にブラフをかけておいて良かった。

催涙ガスなんかを撒かれたら一発で詰みになるところだった。吹雪の耐久性が未知数な以上、危ないことはさせられないし。

 向こうが札として出すべきは、数の利をひっくり返しつつ周りに被害を出さないタイプのもの。閃光手榴弾(フラッシュバン)、とか?」

 

 大体の方向性は定まった。あとは、動くだけだ。

 

「……よし。行こう、吹雪。まずは階段の突破だ」

「はい、司令官!」

 

 二階から上へと続く階段。そこには、案の定精巧な罠が仕掛けられていた。

 

「ピアノ線──と赤外線センサーか。厄介なことをしてくるなぁ……」

 

 目に見えるピアノ線だけを警戒していたら、そのまま赤外線センサーに引っかかって罠が作動、ってところか。単純、かつ効果的だ。

 

「吹雪、あの踊り場の端。あそこの手すりを一発、蹴り飛ばして」

「了解です!」

 

 吹雪が鋭い蹴りを見舞うと、ひしゃげた鉄の手すりが複数のピアノ線を巻き込みながら吹っ飛ぶ。同時に、天井からバシュッ! といくつかの空のネットが射出される。

 念の為、再度手すりを蹴り込んでもらう。しかし、特に動きはなかった。流石に複数回射出するほどの罠は用意できなかったらしい。

 

 その後、張り巡らされた罠を何とかかいくぐり、ついに五階へと到達した。

 

「──! 司令官! 電探に感ありです!」

「よくやった吹雪! 核はどこに?」

 

 吹雪に地図を差し出すと、この階の一番広い部屋を指した。

 

「制限時間は……あと3分強、か。一気に畳み掛けるしかなさそうだね」

 

 扉に手をかけ、ノブを捻る。その瞬間感じた、僅かな違和感。

 

「しまっ──! 吹雪!」

 

 内部でピンが抜ける硬質な金属音がする。僕は反射的に吹雪の影へと潜り込み、彼女の艤装を盾にするよう指示した。

 

 

 ──カッ!! 

 

 直後、扉の隙間から溢れ出した強烈な光が、廊下の壁を白一色に焼き潰した。続いて、脳を直接揺さぶるかのような爆音が鳴り響く。扉の裏側に仕掛けられていた閃光手榴弾(フラッシュバン)が炸裂したのだ。

 

「ぐ……ッ!!」

 

 事前に吹雪の後ろへ隠れたとはいえ、至近距離での衝撃は凄まじい。平衡感覚が狂い、膝をつきそうになる。だが、八百万さんがこの隙を見逃すはずがない。

 

「来ます、司令官!」

 

 爆音の余韻を切り裂き、吹雪の鋭い警告が飛ぶ。

 扉の向こうから飛び出してきたのは、八百万さんが創造したであろう複数の網。吹雪とまともにやり合うと負けると判断したためか、足止めに全力を割いている。

 しかし、吹雪は目を閉じたまま、音と電探の情報を頼りに網を避けた。

 

「甘いです!」

「……!? あの閃光を、完全には受けていない……!?」

「司令官の指示通りでしたから!」

 

 八百万さんが驚愕する。その隙に、僕は吹雪の足元を滑るようにして部屋の中へと潜り込んだ。

 ここからは、僕の仕事だ。

 責任感。それが今の僕を突き動かす唯一の動力だった。僕の判断ミスで瀬呂くんを窮地に追い込み、吹雪に肉体的な負担を強いている。指示を出した者として、この状況を勝利で終わらせる義務が僕にはある。

 僕は姿勢を極限まで低くし、部屋の隅にある機材の影へと意識を同化させた。

 

 中央では、八百万さんと吹雪の激しい攻防が始まっていた。

 八百万さんは、身体能力が圧倒的に違う吹雪に対して真っ向からの打撃戦は選ばない。彼女が選択したのは、創造による遅滞だ。

 次々と厚手の盾を創り出し、吹雪の進路を物理的に塞いでいく。さらに粘着剤を床に撒き、吹雪の機動力を削ぎにかかっていた。

 

「行かせませんわ! ここで時間を稼げば、私たちの勝ちです!」

 

 八百万さんの必死な叫び。彼女の脳内演算の九十九パーセントは、目の前の圧倒的な戦力である吹雪を止めることに費やされている。彼女の目は、吹雪の艤装が放つプレッシャーから一瞬たりとも逸らすことができない。

 吹雪はそれに応えるように、あえて派手な音を立ててバリケードを叩き壊し、八百万さんの意識を自分に釘付けにしていた。

 

 その光景を、僕は冷静に観察する。

 加賀さんに教わった技術をなぞる。足音を消すのではない。相手が『意識を向けるべき音』に自分の音を紛れ込ませる。相手の瞬き、呼吸、そして思考が吹雪の動きに固定される瞬間。その隙間を縫う。

 

 八百万さんが、吹雪の突進を止めるために大型の捕縛装置を創造しようとする。

 一瞬、彼女の視線が核から離れ、前方の吹雪に完全に固定される。

 

 僕は、彼女の死角から弾かれたように飛び出した。

 

「──え?」

 

 八百万さんが僕の存在に気づいたのは、僕の足音が彼女のすぐ真横を通り抜けた時だった。

 彼女の目は驚愕に見開かれる。だが、脳はまだ正面の吹雪への対処を終えていない。創造の手をこちらに向けようとする動きに、コンマ数秒のラグが生じる。

 

 僕は核兵器の模型に向かって、床を滑り込んだ。

 伸ばした指先が、冷たい金属の感触を捉える。

 

「──確保ッ!」

 

 一瞬の静寂。

 そして、ビル内にサイレンが鳴り響いた。

 

『ヒーローチーム、WIN!!』

 

 スピーカーから流れるオールマイトの高らかな勝利宣言が、荒れ狂っていた室内の熱を一気に奪い去った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 サイレンが止み、室内には再び静寂が戻った。

 僕は核兵器の模型からゆっくりと手を離し、乱れた呼吸を整える。足腰に確かな疲労感はあるが、立っていられないほどじゃない。アドレナリンが切れてきたせいか、どっと汗が噴き出してきた。

 

「……碧海さん。一つ、伺ってもよろしいかしら」

 

 床に座り込んでいた八百万さんが、顔を上げて僕を見た。その瞳にはまだ、整理のつかない複雑な感情が揺れている。

 

「吹雪さんにガスの類が効かないというのは……本当でしたの?」

 

 僕は彼女の隣まで歩き、少しだけ迷ってから、正直に答えることにした。

 

「……いや、ブラフだよ。実は、僕もまだ吹雪の能力について良くわかっていないんだ。もし君が部屋をガスで満たしていたら、僕たちは手も足も出ずに負けるか、危険な博打に出るしかなかった」

「ということは、試合前のあの『ハンデ』などという強気な態度も……」

「そうだね、君に信じ込ませるために演じた」

 

 八百万さんは目を見開き、それから力なく笑った。

 

「……やはり。私は不確定要素を重く見すぎましたわ。リスクを恐れすぎて、自ら必勝の選択肢を捨ててしまった」

「でも、それは君が最悪の事態を想定できる優秀なヒーロー志望だからだよ。……今回は、僕の性格の悪さが君の誠実さを上回っただけだ」

 

 僕が手を貸すと、彼女はその手を掴んで立ち上がった。彼女の敗北は、決して能力の不足じゃない。僕が、彼女の『正しさ』を逆手に取った結果だ。八百万さんは深く一礼し、「次は、そのハッタリごと打ち砕いて見せますわ」と凛とした声で言った。

 

「さあ、まずは瀬呂くんを回収しないと」

 

 僕たちは窓際へ向かった。そこには網に捕まったまま、五階の壁面に貼り付けられている瀬呂くんの姿があった。

 

「瀬呂くん、大丈夫か!」

 

 窓から身を乗り出して声をかけると、瀬呂くんは網の中でひょいと首を動かした。

 

「おっ、碧海! サイレン聞こえたぜ、お前ら勝ったんだな! 最高じゃねぇか!」

 

 電撃のダメージで少し顔色は悪いが、その声は驚くほど明るかった。吹雪がその膂力で網を室内に引き入れる。

 

「瀬呂くん、本当にごめん。……君を助けに行くより、核の確保を優先した」

 

 地面に降ろされた瀬呂くんに、僕は真っ先に謝罪した。司令官として、仲間を危険に晒したまま放置したという事実は重い。だが、瀬呂くんはガシガシと自分の頭を掻きながら、屈託のない笑みを浮かべた。

 

「謝んなよ。時間もちょいやばかったし、あの状況で助けに来られて二人して捕まる方が最悪だろ? 俺を囮にしてでも勝つ。それがお前の仕事なんだからよ、気にすんなって!」

 

 その言葉に、胸のつかえが少しだけ取れた気がした。

 

「ありがとう、瀬呂くん。……君が外壁の状況を教えてくれたから、僕は確信を持って踏み込めたんだ。あの情報は、この勝利の土台だった」

「へへ、そう言ってもらえると体張った甲斐があったぜ!」

 

 瀬呂くんは親指を立てて笑う。その姿は、僕にはない眩しさに満ちていた。

 

 ふと見ると、吹雪の艤装には八百万さんの放った粘着剤やバリケードの破片が無数にこびりついていた。彼女もまた、僕の指揮に応えるために全力を尽くしてくれた。

 

 今回の勝利は、僕のハッタリだけでも、吹雪の武力だけでもない。

 瀬呂くんの勇気ある偵察。吹雪の献身的な盾。そして、それらを繋ぎ合わせるために僕が積み上げてきた、泥臭い指揮の技術。

 そのどれが欠けても、常闇くんのような圧倒的な個の武力や、八百万さんという天才を出し抜くことは、決してできなかったはずだ。

 

「……さて、モニタールームへ戻ろう。オールマイト先生の評価が怖いけどね」

「そうですね。でも、司令官のあの動き、きっと加賀さんも褒めてくれますよ!」

 

 吹雪の言葉に、僕は「だといいけどね」と苦笑いしながら応える。

 心地よい疲労感と共に、僕は一歩一歩、自分たちの勝利を噛みしめながら歩を進めた。




賢いキャラVS賢いキャラの頭脳戦が書きたい、でも作者以上に賢いキャラは書けない……!
そんなジレンマに、しばらく執筆から離れていましたが、春休みに入ったため重い腰を上げて書き始めたら意外とスルッと書けました。
でも、やっぱり難しいですね。八百万も碧海も、もっと色々と出来る気がします。

作者ページに生存報告をするかも知れないXアカウントを載せています。
また、活動報告の方で今後登場させてほしい艦娘を募集しています。ドシドシ送ってきてください。

せめてUSJ編までは行きたい、ね……。

どちらの作品に興味があってこの小説を読んでいますか?

  • ヒロアカ
  • 艦これ
  • 両方知らない
  • 両方知っている
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