無個性と呼ばれた提督   作:HYDRATION

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下位の方ではありましたが、ランキングに乗っていました。
3ヶ月ぶりの更新にもかかわらずそこまで伸びるとは……。
柳瀬川さん、マグネリボンさん、感想ありがとうございます。
「うちの嫁艦登場させろゴラァ!」という方は活動報告の方で登場させてほしい艦娘を募集しているので、そちらの方に殴り込んでください。


第二十四話

 モニタールームの重い扉を押し開けた瞬間、熱を孕んだ喧騒が津波のように押し寄せてきた。

 

「うおぉ! マジかよ碧海! 最後、どうやったんだ今の!」

「画面越しだと一瞬消えたみたいに見えたぜ! 吹雪ちゃんが暴れてるのに魅入ってたら、核に手が届いてるんだもんな!」

 

 クラスメイトたちがモニターに群がり、何度も繰り返される決着の瞬間を指差して騒いでいる。上鳴くんが隣の切島くんの肩を叩いて興奮を露わにしていた。

 ルーム内の空気は、一瞬の隙を突いた鮮やかな幕引きに対する純粋な興奮で沸き立っている。

 

 僕は、右肩にかかる瀬呂くんの重みをしっかりと受け止めながら、一歩一歩踏みしめるようにして部屋の奥へと進んだ。

 

「お疲れ様! 実に、エキサイティングな戦いだったよ、諸君!」

 

 オールマイトの朗々たる声が、部屋の温度をさらにもう一段階跳ね上げる。

 その傍らで、耳郎さんが自身のプラグを弄りながら、僕の方をジト目で見てきた。

 

「……ねえ碧海。あんたのあの動き、ちょっとおかしくない? 吹雪ちゃんの砲撃音があったとはいえ、足音一つしなかったんだけど。ウチの耳でも、一瞬完全に聞き逃すぐらいだった」

「ケロ。私も見ていたけれど、加速する前の『溜め』が全くなかったわね。碧海ちゃん、まるでお化けみたいだったわ」

 

 蛙吹さんが人差し指を顎に当てて、不思議そうに首を傾げる。

 すると、飯田くんが眼鏡を光らせて猛烈な勢いで詰め寄ってきた。

 

「うむ! まさに音もなく忍び寄る隠密の如き歩法であった! 碧海くん、一つ訊かせてくれ! あの動きも君の『個性』による身体強化、あるいは召喚に伴う特殊能力の一部なのか!? それとも、何か別のメカニズムがあるというのか! 

 

 真剣な眼差し。彼は僕の力を『個性』として正しく評価しようとしてくれている。

 僕は足を止め、飯田くんの目を真っ直ぐに見返して笑った。

 

「いや、個性の力じゃないよ。……これは、ただの練習の成果なんだ」

「練習……だと?」

 

 飯田くんが驚いたように声を上げる。周囲のクラスメイトたちも、僕の言葉に耳を澄ませた。

 

「そう。僕の個性は吹雪たちを呼ぶことだけど、呼んで終わりじゃない。彼女たちは戦場を全力で駆け回るんだ。そんな彼女たちに指示を出して、一緒に戦うには……僕がただ突っ立ってるだけじゃ、すぐに狙い撃ちにされて足手まといになっちゃうからさ。だから、加賀さん──もう1人の艦娘にみっちり叩き込まれたんだ。気配の消し方とか、重心の移動とかね」

 

 嘘じゃない。

 加賀さんの静かな、けれど確かな期待を込めた視線を背に浴びながら、自宅の庭で靴底がすり減るまで繰り返した歩法。

 いつか彼女たちと胸を張って並び立つために積み上げてきた時間が、今、推薦入学者である八百万さんの演算を僅かに上回った。

 

「なるほど……! 個性に頼り切るのではなく、自分自身の練度を上げることで、個性の真価を引き出しているというわけか! 実に合理的、かつストイックな姿勢だ! 感服したよ、碧海くん!」

 

 飯田くんは一人で納得して、深く、何度も頷いている。

 僕が「いや、そこまで大層なものじゃ……」と苦笑していると、オールマイトが僕の肩に大きな手を置いた。

 

「──素晴らしいよ、碧海少年! 己の無力さを知り、それを補うための研鑽を怠らない。その精神こそが、ヒーローにとって最も重要な資質の一つだ!」

 

 オールマイトの言葉に、クラス中から「おお……」と感嘆の声が漏れる。

 

 爆豪くんは相変わらず不機嫌そうに鼻を鳴らしていたけれど、轟くんは僕の足を、そして隣に立つ吹雪を、何かを確かめるように静かに見つめていた。

 

「さて! 講評に入ろうか。今回のMVPは……碧海少年だ!」

 

 オールマイトの太い指が、僕を真っ直ぐに指し示した。

 周囲から「当然だぜ!」「やるな司令官!」と声が上がる。

 けれど、僕の右肩に沈み込む瀬呂くんの体温が、その高揚を静かに冷ましていった。アドレナリンが引き、膝が笑いそうなほどの疲労が全身を巡る中、僕は自分の内側に残った苦い後悔の味を噛み締めていた。

 

「……ありがとうございます。ですが、僕は自分の判断の甘さを痛感しています。手放しで喜べる内容ではありませんでした」

 

 僕がそう切り出すと、八百万さんが少しだけ驚いたように目を見開いた。僕は肩に乗った瀬呂くんの腕をより深く掴み直し、彼女の真っ直ぐな視線を見つめ返した。

 

「最大のミスは、瀬呂くんへの指示です。外壁からの偵察は、機動力のある人間がいれば真っ先に選ぶ定石だった。そして定石である以上、八百万さんのような冷静な相手なら、必ずそこを警戒してくると予測できたはずです。僕の安易な判断が、彼を危険な目に遭わせました。指示を出す者として、もっとも戒めるべき失敗です」

 

 言葉にすると、重みが一層増した。隣で僕の肩を掴んでいる瀬呂くんが、短く息を吐き、口を開く。

 

「……いや、そりゃねーよ碧海。俺もさ、なんていうか……お前の言う通り動くのに必死で、現場の『勘』みたいなのが死んでたっていうか。窓が割れる直前、なんか嫌な予感がしたんだけどさ……体が動かなかったんだよな。ただ言われた通りやるだけじゃダメだった。上手く言えねーけど、俺がもっとシャキッとしてりゃ、あんな情けねー捕まり方はしなかったはずだわ。悪い、足引っ張っちまって」

 

 瀬呂くんの潔い言葉に、オールマイトが深く頷く。その表情は厳しくも、教え子の成長を喜ぶ師のそれだった。

 

「その通りだ! 現場の判断は常にヒーロー自身に委ねられている! そして、敵側の反省はどうかな。常闇少年、八百万少女」

 

 常闇くんが、腕を組みながら一歩前に出た。

 

「……完敗だ。黒影(ダークシャドウ)長さ(リーチ)に溺れ、自身の立ち位置を疎かにした。相手の誘いに乗り、防御を捨てて攻勢に出たことが、八百万の構築した防衛線を崩すきっかけを作ってしまった。己の力に頼りすぎ、敵の術中にはまった我が不明だ」

 

 常闇くんが腕を組み、己の至らなさを噛み締めるように言った。その言葉の端々には、武人のような厳格な反省が滲んでいる。

 最後に、八百万さんが絞り出すように言葉を繋いだ。彼女は悔しさに唇を噛みながらも、真っ直ぐに僕を見つめ返した。

 

「……私は、碧海さんを戦力外と認識してしまいました。吹雪さんという圧倒的な脅威を封じ込めることに演算能力の全てを割き、背後にいる指揮官が自ら核を奪いに来る可能性を、意識から完全に排除してしまいましたわ。

 戦場において、意識の外に置かれた人間ほど恐ろしいものはないと、今、痛感しています。あなたの指揮、そして個性に頼らない技術の研鑽。それらすべてを過小評価していた私の失策です」

 

 八百万さんの評価は、彼女が僕を一人の対等な人間として、そして一人の脅威として認めてくれた証だった。僕の中にあった申し訳なさが、ほんの少しだけ、次への覚悟に塗り替えられていく。

 

「素晴らしい! 勝利に溺れず、敗北に腐らず! 君たちは今日、間違いなく一歩前へ進んだ! さあ、次のチームは準備を!」

 

 オールマイトの激励によって講評会が締めくくられ、ルーム内に解散の空気が流れた。僕は瀬呂くんの体を支えたまま、ゆっくりと出口へ向かう。

 

「……悪ぃな、碧海。せっかく勝ったのに、そんな暗い顔すんなよ。外でサイレン聞いた時はマジでスカッとしたぜ。あの八百万を、お前の作戦で出し抜いたんだろ? 想像しただけで最高だわ」

 

 瀬呂くんは僕に気を使わせまいと、わざと明るい調子で笑ってみせた。

 

「暗い顔もするよ。君を危険な目に遭わせたのは事実だから。……でも、ありがとう。瀬呂くんの情報があったから、踏み込む決心がついたんだ」

「へへ、そう言ってもらえると嬉しいぜ。次はお前に置いていかれないくらい動いてやるからな。期待してるぜ、司令官」

 

 瀬呂くんは僕の肩で小さく笑った。吹雪もそのやり取りを見て、安心したように微笑んでいる。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 終礼の号令が静まり返った教室に響き、ようやく一日の緊張が解ける。

 担任の相澤先生が「以上だ。各自、明日の予習を忘れるな」とだけ言い残して教室を去ると、教室内は放課後特有の騒がしさに包まれた。

 

「……チッ」

 

 前の席で、爆豪くんが苛立ちを隠そうともせず机を蹴って立ち上がった。

 彼は僕や吹雪を一瞥することさえせず、荒々しい足取りで教室の出口へ向かう。その背中には、敗北への屈辱と、吹雪という未知の戦力に対する苛立ちがどす黒く渦巻いているようだった。

 

「おい待てよ爆豪! この後みんなで今日の実習の反省会……っつーか、親睦会やろうぜって話になってんだよ!」

 

 切島くんが明るく声をかけて引き止めようとするが、爆豪くんは足を止めない。

 

「そうだぜ爆豪、お前の意見も聞かせてくれよ!」

 

 上鳴くんや瀬呂くんも言葉を重ねるが、彼はそれらすべてを無視し、黙ったまま教室を後にした。

 

「……あーあ。相変わらずだな、あいつ」

 

 切島くんが僕に向かって肩をすくめる。

 爆豪くんが去り、教室の空気が少しだけ緩んだタイミングで、クラスメイトたちがドタドタと僕の席に集まってきた。

 

「なあなあ碧海、さっきから気になってたんだけどさ」

 

 上鳴くんがニヤニヤしながら身を乗り出してくる。

 

「吹雪ちゃんが呼んでるその『司令官』ってやつ。お前、もしかして家でもそう呼ばれてんのか?」

 

「ええっ、そうなの!?」と、芦戸さんも目を輝かせて詰め寄る。

 

「ええっと……。まあ、家でもそう呼ばれているよ。一種の絆みたいなものだからね。僕にとっては、それが一番しっくりくるんだ」

「マジかよ! 家でも司令官! お前、私生活でもそんな感じなのか?」

「ひゅー! 吹雪ちゃんみたいな美少女に、家でも四六時中『司令官』なんて呼ばれてるわけ? 羨ましすぎて爆発しそうだぜ、この野郎!」

 

 上鳴くんがこれ見よがしに悶えるフリをし、教室内がドッと和やかな笑いに包まれる。

 すると、それまで僕の後ろで控えていた吹雪の顔が、見る間に赤く染まっていった。

 

「あ、あの……! そんな、変な意味ではなくて……! その、司令官は、私たちの進むべき道を照らしてくれる、本当に、本当に大切な方なんです! だから……」

 

 吹雪はうつむき、もじもじと制服の裾をいじり始めた。普段の戦闘時の凛々しさはどこへやら、クラスメイトの視線に完全にドギマギしている。その様子がまた周囲の興味を引いたのか、「吹雪ちゃん可愛い!」と女子陣からも歓声が上がる。

 

 そんな賑やかなやり取りの最中、教室の扉が勢いよく開いた。

 

「あ、デクくん!」

 麗日さんの声に全員が視線を向ける。そこには、全身を包帯と湿布で固め、痛々しい姿になった緑谷くんが立っていた。

 

「あれ!? デクくん怪我! 治してもらえなかったの!?」

「あ、いや……これは僕の体力のアレで……。それより……」

 

 緑谷くんは息を切らしながら教室内を見渡した。その瞳は、何か切実な思いを抱えているように見える。

 

「……かっちゃんは?」

「爆豪ならさっき黙って帰っちゃったよ。みんなで止めようとしたんだけどさ」

 

 切島くんの言葉を聞いた瞬間、緑谷くんの表情が変わった。彼は僕に会釈すら忘れるほどの勢いで、踵を返した。

 

「そ、そうか……。ごめん、僕も行くよ!」

 

 嵐のように現れて、そのまま爆豪くんを追って飛び出していく緑谷くん。

 その後ろ姿を眺めながら、僕は小さく息を吐いた。あっちもあっちで、一筋縄ではいかない複雑な絆を抱えているらしい。

 

「司令官……そろそろ失礼しませんか? 加賀さんと長門さんがお待ちです」

 

 吹雪が、まだ少し赤みの引かない顔を隠すように、そっと僕の袖を引いた。窓の外を見れば、夕方の柔らかな光が、教室の床に長い影を作っている。

 

「……ああ。じゃあみんな、また明日」

 

 僕はクラスメイトたちに軽く手を振り、吹雪と共に教室を後にした。

 自宅に帰れば、加賀さんや長門さんとの『本当の反省会』が待っている。

 

 今日の出来を話せば、加賀さんは満足そうに頷きつつも、すぐにまた次の稽古の準備を始めるだろう。

 その厳しさを思い出し、僕は少しだけ足取りを速めて、校門へと向かった。




評価、感想などしていただけると連日投稿が続く可能性が爆発的に上がります。
春休みなので時間を持て余しているんです。

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