無個性と呼ばれた提督   作:HYDRATION

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ニコニコカービィさん、感想ありがとうございます。

もう三十話目ですか。

「これ誰得なん……?」と思いつつ自分の妄想で先人の方々が数えるほどしかいない謎クロスオーバーを書き連ねてきましたが、想像の1000倍(誇張抜き)の人に見られて、感無量です。

ちょうどキリがいいので、定期更新はここで途絶えます。
最低でも月1で更新はしたいと思います。これまでみたいに3ヶ月待たせる……なんてことには多分ならないはず。

感想、評価などいただけると更新が早くなります。


第三十話

「これより、追撃戦に移行する!」

 

 自分の口から出た宣言が、硝煙の立ち込める広場に鋭く響く。

 ヘルメットの淵からは、せき止められなくなった生暖かい血が絶え間なく滴り落ちていた。顎を伝い、首筋を濡らし、赤い点が石床に点々と広がっていく。脳を直接灼かれるような鈍い頭痛は依然として僕を苛んでいたが、極限まで高まった集中力がそれを無理やり意識の隅へと追いやっていた。

 提督として過ごしたこの数ヶ月の経験が、刻一刻と変わる戦況の最適解を僕の脳内に叩き出していく。

 

「碧海くん! 鼻血が……それ、大丈夫なの!?」

 

 隣で緑谷くんが悲鳴に近い声を上げる。だが、僕は止まらない。ここで僕が倒れれば、この絶好の勝機を逃すことになる。

 

「……大丈夫。吹雪! 加賀さんに伝えて。上空からの制圧を継続、黒霧のワープの起点を爆撃で潰し続けてって!」

「了解です! 加賀さん、聞こえますか!? 司令官からの指示です!」

 

 吹雪が目を閉じ、艦娘のみが共有する特殊な連絡網を介して、遠く離れたマンションにいる加賀さんへ意識を飛ばす。

 直後、上空から飛来した第二次攻撃隊が、黒霧が広げようとしていた靄の端々を正確に機銃掃射で穿った。物理的な衝撃と熱が、空間を歪めようとする個性の発動を強引に阻害していく。

 

「っと動くな!!」

 

 爆豪くんは黒霧の首元にある実体の防具を正確に押さえ込み、獰猛な笑みを浮かべていた。

 ボン! という小規模な爆破を掌で繰り返し、黒霧に反撃の隙を与えない。

 

「怪しい動きをしたと俺が判断したらすぐ爆破する!!」

 

 その脅しは、脱出の鍵である黒霧を完全に沈黙させている。

 

 脳無の右半身を巨大な氷の牙で固定した轟くんが、冷徹な視線でヴィランを見据える。

 

 圧倒的な劣勢。それまで首を掻きむしっていた死柄木が、不気味なほど静かに言葉を漏らした。

 

「出入り口を抑えられた……こりゃあピンチだなあ……」

 

 死柄木は自らの首筋に指を食い込ませ、僕たちを、そしてこの盤面を値踏みするように見渡す。

 

「攻略された上に全員ほぼ無傷……すごいなぁ最近の子供は……恥ずかしくなってくるぜ敵連合……!」

 

 その言葉とは裏腹に、彼の瞳にはいっそのこと清々しいほどの狂気が宿っていた。

 

「脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」

 

 命令が下った瞬間、氷漬けにされていた脳無の巨体が『ピキッ』とガラスの割れるような鋭い音を立てて震えた。

 

 ──バキ……バキバキッゴキッ!! 

 

「なっ……身体が割れてるのに……動いてる……!?」

 

 緑谷くんが戦慄し、目を見開く。

 脳無は、凍りついた己の右半身を、自らの怪力で強引に引きちぎったのだ。砕け散る氷塊と共に、肉と骨が剥き出しになる凄惨な断面が晒される。

 だが、その断面から赤黒い筋繊維が盛り上がるように蠢き出し、一瞬のうちに失われた腕と脚を編み上げていく。

 

 僕が事前に伝えていた通りの光景。

 

「……まさに君の言った通りだ、碧海少年! これほど厄介とはな……!!」

 

「脳無はお前の100%にも耐えられるように改造された超高性能サンドバッグ人間さ」

 

 再生を終えた脳無の、焦点の合わない眼が、黒霧を抑え込んでいる爆豪くんを捉えた。

 

「球磨! 爆豪くんを──」

 

「大丈夫だ碧海少年! 問題ない!」

 

 僕が叫ぶよりも早く、オールマイトの声が空気を凪いだ。

 完全な姿へと戻った脳無が、爆風をも切り裂くような速度で、無防備な爆豪くんへと跳躍する。

 

 ──ドォォォォォォォォォォォォォォォンッ!! 

 

 鼓膜を直接揺らす、あまりに巨大な衝撃音。木々が傾ぐほどの暴風が吹き荒れる。

 

「……ッ!? かっちゃん!!」

 

 緑谷くんの悲鳴が重なる。

 しかし、横を見ると爆豪くんが困惑した顔で立っていた。

 

「ゴホッ、ゲホッ……加減を知らんのか……」

 

「仲間を助けるためさ。仕方ないだろう? さっきだって、ホラそこの……あー……セーラー服を着たガキが、俺を撃ち抜こうとしたぜ?」

 

 死柄木が首をガリガリと掻きむしりながら、吹雪をその濁った瞳で射抜く。

 黒霧は再び自由の身となり、その靄を戦場全体へ広げようと不気味に蠢き出していた。

 

「他が為に振るう暴力は美談になるんだ、そうだろ? ヒーロー!」

 

 死柄木の独白は、毒のように重くこの空間に染み込んでいく。

 

「俺はな、怒ってるんだ! 同じ暴力がヒーローと敵でカテゴライズされ、善し悪しが決まるこの世の中に!!」

 

「……めちゃくちゃだな。そういう思想犯の眼は、静かに燃ゆるもの。──自分が楽しみたいだけだろ、嘘吐きめ」

 

 オールマイトが歯を食いしばり、不敵に笑う。

 

「──バレるの、早……」

 

 死柄木が、まるで子供がいたずらを見つけられた時のような無邪気さと、底冷えする狂気を混ぜ合わせた顔でニタリと笑った

 その背後で、僕はヘルメットの中で固まりかけた鼻血で呼吸を乱しながらも、必死に艦娘たちへ意識を繋ぎ止めていた。頭痛が視界を歪めるが、まだ、終わらせるわけにはいかない。

 

「3対8だ」

 

「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた……!」

 

「とんでもない奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ……撃退できる!」

 

 切島くんの言葉に、僕はヘルメットの中で血の混じった呼吸を整えながら、吹雪の肩を借りて前を見据えた。

 

「……そうだね。吹雪たちなら、脳無の動きを数秒なら止められる。……加賀さんの爆撃と合わせれば、隙は作れるはずだ」

 

 僕の掠れた声に、吹雪が力強く頷く。だが──。

 

「ダメだ!! 逃げなさい」

 

 平和の象徴は、振り向くことなく僕たちを遮った。

 

「オールマイト、でも……! 僕の艦隊なら、少しはあなたの役に立てます!」

 

 僕は食い下がる。頭痛で意識が飛びそうだが、ここで彼を一人にするわけにはいかない。

 

「……さっきは俺のサポート入らなきゃやばかったでしょう」

 

「それはそれだ! 轟少年!! ありがとな! 碧海少年も、その意気や良し!! ……しかし大丈夫! プロの本気を見ていなさい!!」

 

 黄金の圧が膨れ上がる。ここで引き下がるのは、提督としての僕が許さない。でも……彼の背中が、言葉以上のものを語っていた。

 

「……分かりました。脳無は、あなたに預けます」

 

 僕はヘルメット越しに、死柄木と黒霧を射抜くように見据えた。

 

「ですが、追撃戦は続行します。 吹雪、加賀さん、球磨! オールマイトに指一本触れさせるな! 周囲を完全封鎖、黒霧がワープで割り込む隙さえ一秒も与えるな!!」

 

 オールマイトが不敵に口角を上げた。僕の意図を汲み取ったのだ。

 

「頼もしいな! では、最高の舞台を整えてもらうとしよう!!」

 

「脳無、黒霧。やれ。俺は子供をあしらう。せっかくコンティニューしたんだ──クリアして帰ろう!」

 

 死柄木の号令と同時に、黒霧がオールマイトの死角を突こうと揺らぐ。だが、それよりも早く吹雪の威嚇射撃がその座標を穿ち、加賀さんの爆撃が逃走経路を焼き切った。

 

「行かせないと言ったはずだ、黒霧」

 

 艦載機と砲撃のカーテンが、死柄木たちを外界から隔絶し、広場の中央に一対一の聖域を作り出した。

 

 その鉄壁の封鎖陣の中で、オールマイトと脳無の拳が激突した。

 

 ──ドドドドドドドドドドッ!!! 

 

 目にも止まらぬ速さで繰り出される拳の応酬。

 激突のたびに発生する衝撃波が、USJの広場を、空気を、僕の五感を物理的に叩き伏せる。

 

「……ッ、すごい……!!」

 

 吹雪に支えられながら、僕はその光景を凝視した。

 爆風を伴う打撃が交差するたび、周囲の地面はクモの巣状に割れ、瓦礫が礫となって飛び散る。加賀さんの機銃掃射や吹雪の砲撃さえ入り込む余地のない、純粋な暴力の極致。

 

「『ショック吸収』って……さっきそこのガキが言ってたじゃんか」

 

「そうだな! しかし──『無効』ではなく『吸収』ならば!! 限度があるんじゃないか!? 私対策!? 私の100%を耐えるなら……更に上からねじ伏せよう!!」

 

 オールマイトは止まらない。血を吐き、傷口を抉られながらも、彼は笑みを消さずに拳を叩き込み続ける。

 黄金の光が一段と輝きを増し、ラッシュの速度がさらに跳ね上がった。

 

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの! 敵よ、こんな言葉を知ってるか!?」

 

 全身の筋肉がはちきれんばかりに膨れ上がり、オールマイトが最後の一撃を振りかぶった。

 

Plus Ultra(更に向こうへ)!!!」

 

 ──ドガァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!! 

 

 音を置き去りにした、世界が爆ぜるような衝撃。

 脳無の巨体がUSJの強固なドーム天井を粉々に突き破り、遥か彼方の空へと消えていった。

 

「漫画かよ……。ショック吸収を無いことにしちまった。究極の脳筋だぜ」

 

 目の前で起きたデタラメな光景に、切島くんが呆然と呟く。爆豪くんや緑谷くんも、ただその圧倒的な余韻に立ち尽くすしかなかった。

 

 もうもうと立ち込める土煙の中。

 黄金の蒸気を立ち昇らせ、なおも不敵に立ち続ける一人の男の背中があった。

 

「やはり衰えた。全盛期なら、三発も打てば十分だったろうに……二〇〇発以上も撃ってしまった」

 

 オールマイトが、自分自身に言い聞かせるように静かに、けれど重く吐き出す。

 その背中は、勝利の栄光以上に、今の彼が背負っているものの重さを物語っていた。

 

「司令官、鼻血が……」

「……平気だ。吹雪、まだ終わっていないよ」

 

 僕は鼻の下を流れる感覚を無視して、視界を塞ぐ煙の向こうを凝視した。

 脳無は消えた。けれど、この場にはまだ、首謀者の男と黒い靄が残っている。

 

 提督として注ぎ込んだ精神力(資材)の重みが、鈍い頭痛となって脳を揺らす。けれど、意識はむしろ氷水に浸したように冴えていた。オールマイトが作ってくれたこの決定的な隙を、一秒だって無駄にはできない。

 

「チートが……!」

 

 死柄木が、狂ったように自身の首を掻きむしる。

 脳無を失い、さらに眼前に屹立する平和の象徴と、依然として自分を包囲し続ける艦隊。

 彼の瞳には、計算外の事態に対する憎悪と、僕への強烈な殺意がどす黒く渦巻いていた。

 

「……逃がさないよ、死柄木。黒霧」

 

 僕の掠れた、けれど明瞭な声が広場に響く。

 僕の言葉に呼応し、吹雪が主砲の照準を微調整し、球磨が退路を断つように瓦礫を蹴って回り込む。上空では加賀さんの艦載機が、逃走の要である黒霧に狙いを絞り、死神のような唸りを上げて旋回を続けていた。

 

「……吹雪、球磨。今だ、二人とも──」

 

 僕が最後の一撃を命じようとした、その瞬間だった。

 ドォォォォォォォォォォォォン……! と、腹の底を揺らすような不気味な地鳴りがUSJ全体に響き渡った。

 

 先ほどのオールマイトの規格外な一撃──脳無を天井ごと突き破った際の衝撃波が、この巨大なドーム施設の構造そのものに致命的なダメージを与えていたのだ。

 広場を囲む崖が崩れ、頭上の鉄骨が悲鳴を上げて軋む。

 

「碧海! 危ねえ!!」

 

 切島くんが叫ぶ。僕たちの真上、衝撃でひび割れていた巨大なコンクリートの破片が、重力に従って降り注いできた。

 

「司令官!!」

「危ないクマ!!」

 

 死柄木たちへの照準を維持していた吹雪と球磨が、反射的に僕を守るために動いた。

 吹雪の砲撃が落下する瓦礫を空中で粉砕し、球磨がその破片を艤装で弾き飛ばす。

 僕を守るという行動が、ほんの一瞬だけヴィランへの包囲網に空白を生んだ。

 

 そして。

 その一瞬こそが、提督としての僕の限界だった。

 

「──ッ、あ……がッ──」

 

 視界が、急激に反転する。

 注ぎ込み続けていた精神力(資材)が、文字通り枯渇した。

 脳内を直接氷でかき回されるような感覚。ヘルメットの中で、鼻血が喉の方まで逆流してくる。

 

「死柄木弔……チャンスかも知れません。オールマイトは脳無に受けたダメージが確実に表れ、あの謎の少女たちに指示する少年は気絶一歩手前と言った所。死柄木と私で連携すれば、まだヤれるチャンスは十分にある」

 

「うん……うん、そうだな……そうだよ、そうだ。やるっきゃ無いぜ。ラスボスが目の前に居るんだもの。なにより……脳無の仇だ」

 

 死柄木が地面を蹴った。

 それと同時に、黒霧の靄が爆発的に広がり、オールマイトの視界を塞ごうと揺らめく。

 満身創痍のオールマイトは不動の構えで彼らを迎え撃とうとするが、立ち昇る蒸気は明らかに勢いを失っていた。

 

「オールマイトから──離れろ!!」

 

 その時、僕の横を凄まじい風が駆け抜けた。

 緑谷くんだ。

 彼は顔を歪めながらも、オールマイトに迫る魔の手を阻むために死柄木へと弾かれたように飛び出した。

 

(だめだ、緑谷くん……!)

 

 叫ぼうとしたが、口からは鉄の味のする血が溢れるだけだった。

 死柄木は突っ込んでくる緑谷くんを見ると、目の前に開かれた黒霧のゲートへと、迷わずその手を突き入れた。

 

「2度目はありませんよ!」

 

 緑谷くんの目前、空間から現れる死柄木の五指。

 空中では回避不能。吹雪や球磨も、僕を瓦礫から守るために位置を変えた直後で、再加速が間に合わない。

 指が、緑谷くんの顔面に触れる──。

 

 

 ──ズド

 

 

 銃声が広場に木霊した。

 緑谷くんの顔面に触れる寸前だった死柄木の手が、見えない衝撃に弾かれるようにしてあらぬ方向へと跳ね上げられる。

 

「あ、が……っ!?」

 

 死柄木が苦悶の声を上げ、たたらを踏む。

 何が起きたのかを理解するより早く、USJの入り口、遥か上方の扉から頼もしい声が聞こえた。

 

「ごめんよ皆。遅くなったね。すぐ動けるものをかき集めてきた」

 

「1-Aクラス委員長、飯田天哉! ただいま戻りました!!」

 

 飯田くんが連れてきた、雄英のプロヒーローたちの援軍。

 校長の根津を筆頭に、プレゼント・マイク、スナイプ、エクトプラズム。プロの第一線で戦う大人たちが、その圧倒的な威圧感と共に戦場へ降り立つ。

 

「あーあ、来ちゃったか。……かえって出直すか、黒霧──がぁっ、あああああッ!!」

 

 死柄木の腕、足、そして肩。スナイプ先生の個性による正確無比な射撃が彼の肉体を次々と穿ち、血飛沫が舞う。

 

「──今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ、平和の象徴オールマイト」

 

 ヴィランの気配が、USJから消え去る。

 それを見届けた瞬間、僕の意識を無理やり繋ぎ止めていた最後の一本の糸が、音を立ててプツリと切れた。

 

「司令官!? 司令官!!」

「提督!! しっかりしろクマ!!」

 

 吹雪と球磨の必死な叫び声が、どこか遠い世界の音のように聞こえる。

 精神力を注ぎ込み続けた反動が、濁流となって脳内を飲み込んでいく。

 

 ヘルメットの中で、止まらなくなった鼻血の温かさと、鉄の匂いが混ざり合う。

 視界が急速に真っ暗になり、僕はそのまま、吹雪の温かな腕の中へと深く、深く沈んでいった。




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