無個性と呼ばれた提督   作:HYDRATION

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急にUA増えたな? と思ったらランキング載ってました。

ニコにコさん、感想ありがとうございます。励みになります。
ストックは尽きましたが、おそらく近日中に続きを出せると思います。

……今気づいたんですけど、掲載開始から一年経ってたんですね。
マジか。
本当に限られた層にしか需要のない作品ですが、頑張って供給していきたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。


第三十三話

 ゲートに1年の生徒がひしめく中、僕は吹雪と並んで前方を見据えていた。

 

 視線の先には、轟くんの背中がある。彼の右足が、微かに地面を擦るように動いたのを、僕は見逃さなかった。

 

(……来る)

 

 個性把握テストの時に見た、あの圧倒的な氷結。このスタートで使わない理由がない。

 

「吹雪、スタート直後に轟くんが氷を使う。足元に注意して」

 

「了解です」

 

 吹雪が小さく頷く。周囲を見渡せば、A組のクラスメイトたちも同じことを考えているらしく、それぞれが構えを取っていた。USJを共に生き延びた仲間たちだ。轟くんの個性の恐ろしさは、全員が身をもって知っている。

 

『スタート!!』

 

 号砲と同時に、轟くんの右足から氷の津波が地面を覆った。

 

 白い凍結が、瞬く間に広がっていく。他科の生徒たちの足が次々と凍りつき、悲鳴が上がった。

 

 だが、僕たちA組は違う。

 

 爆豪くんは爆風で跳躍し、切島くんは硬化した足で氷を踏み砕き、八百万さんは棒を創造して跳び上がる。それぞれのやり方で、轟くんの先制を凌いでいた。

 

 僕と吹雪も、予測していた分だけ反応が速かった。氷が到達する直前に跳び上げた足で凍結面の端を蹴り、吹雪に腕を掴まれて体勢を立て直す。氷上を滑るように走る吹雪の機動力に引かれて、僕は凍結地帯を抜け出した。

 

 前方には、既に独走態勢に入った轟くんの背中が見える。その後ろを、爆豪くんが猛追していた。

 

 ゲートを抜けると、広大なフィールドが広がっていた。

 

『さぁいきなり障害物だ!! まずは手始め……第一関門!』

 

 プレゼント・マイクの実況が響き渡る。

 

『ロボ・インフェルノ!!』

 

 目の前に立ちはだかったのは、入試で使われた仮想ヴィラン──しかも、あの0ポイントの巨大ロボが、複数体。その鉄の巨体が、コースを壁のように塞いでいる。

 

「入試のあれか……!」

 

 後続の生徒たちが悲鳴を上げる中、先頭を走る轟くんは立ち止まることすらしなかった。右手を前方に突き出し、巨大ロボの脚部を一瞬で凍結させる。

 

「あいつが止めたぞ!! あの隙間だ、通れる!」

 

「やめとけ、不安定な体勢ん時に凍らしたから……倒れるぞ」

 

 轟くんが呟くと同時に、バランスを失った鉄の巨人がゆっくりと傾ぎ始めた。

 

『1-A轟!! 攻略と妨害を一度に!! こいつぁシヴィー!!!!』

 

 倒壊するロボの隙間を、数人の生徒が駆け抜けていく。だが、倒れたロボの残骸がさらなる障害と化し、後続の道は塞がれていった。

 

 僕たちの前にも、巨大ロボが立ちはだかる。轟くんが倒した個体とは別の一体だ。その巨大な腕が、コースを横断する生徒たちに向かって振り下ろされる。

 

「吹雪、あのロボの接合部──左膝の関節を撃て」

 

「照準、合わせます!」

 

 吹雪の連装砲が火を噴いた。砲弾はロボの膝関節を正確に穿ち、支えを失った脚部が崩れ落ちる。派手にロボを吹き飛ばすのではなく、構造上の弱点を突いて最小限の射撃で通路を確保する。訓練で繰り返した、僕の判断と吹雪の精密射撃の連携がここで活きていた。

 

『おっと1-A碧海、具現化した少女の砲撃で巨大ロボの膝を撃ち抜いたぞ! 効率的だなぁ!』

 

 崩れたロボの残骸の間を駆け抜ける。後方からは切島くんが硬化した身体でロボの腕を弾きながら突進し、B組の鉄哲くんもスチールの身体で強引に道を切り拓いていた。

 

 ロボ・インフェルノを突破し、第二の障害エリアに突入する。

 

『第二関門! ザ・フォール!』

 

 目の前に巨大な峡谷が口を開けていた。底は遥か下方に霞んでいて、渡る手段は細いワイヤーロープが何本か張られているだけだ。落ちればリタイア。

 

 先行する轟くんはワイヤーの上を軽快に駆け抜け、爆豪くんは爆風で空中を飛んでいる。

 

「司令官、私が運びます」

 

「頼む、吹雪」

 

 吹雪が僕の腰にしっかりと腕を回す。そして、ワイヤーの上に飛び乗った。

 

 荒れ狂う海上を36ノットで疾走する艦娘にとって、静止したワイヤーの上を走ることなど、凪いだ海を行くようなものだ。吹雪は僕を抱えたまま、ワイヤーの上を迷いなく駆け抜けていく。

 

 眼下に底の見えない峡谷が広がるが、僕の目は前方に釘付けだった。この高さから見ると、コース全体の地形が俯瞰できる。最終関門までの距離と、先頭集団との差を目算で測る。

 

「通過します!」

 

 吹雪が最後のワイヤーを蹴り、対岸に着地した。ここまでの順位は、轟くん、爆豪くんに次ぐ三番手付近。飯田くんがエンジン全開で猛追してきている。

 

『最終関門! 一面地雷原!! 怒りのアフガンだ!! 地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってんぞ! 目と脚酷使しろ!!』

 

 地面一面に地雷が敷き詰められたフィールドが広がっていた。殺傷力はないが、踏めば派手に吹き飛ばされてタイムロスになる。

 

『ちなみに地雷! 威力は大したことねぇが……音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』

 

 マイク先生が楽しそうに解説している。

 

 先頭の轟くんと爆豪くんは、既にこの地雷原の中で激しく競り合っていた。二人が暴れるたびに周囲の地雷が誘爆し、爆煙と閃光が上がる。

 

「吹雪、電探で地雷の配置を読める?」

 

「はい。……やってみます」

 

 吹雪が目を閉じ、意識を集中させる。水中の機雷を探知するのと同じ要領で、地中に埋められた金属反応を捉えようとしていた。

 

「……分かりました。大まかな配置図、頭に入れます」

 

「よし。僕も地面を見る。よく見れば、埋まっている場所は土の色が微妙に違うはずだ」

 

 言葉通り、注意深く地面を観察すると、地雷が埋まっている箇所はわずかに土が盛り上がり、周囲と色味が異なっている。吹雪の電探による大まかな配置図と、僕の肉眼による微細な地表の差異。二つの情報を重ね合わせれば、安全な経路が浮かび上がってくる。

 

「右に二歩、そこから真っ直ぐ五歩。その先で左に大きく迂回」

 

「了解!」

 

 僕が声で道を示し、吹雪がそれに従って先行する。僕は吹雪の足跡を正確に辿りながら、後方の状況にも意識を配っていた。

 

 飯田くんがエンジンの推力で地雷原の上空を跳び越えようとしているが、着地点の読みが甘く、一つ踏んで爆発に巻き込まれていた。

 

 地雷原の中盤を過ぎた頃、背後から異様な気配を感じた。

 

 振り返ると、地雷原の入口付近で、緑谷くんが何かをしていた。しゃがみ込んで、地面から掘り返した地雷を──大量に、一か所に集めている。

 

「……まさか」

 

 僕が呟いた瞬間、緑谷くんが集めた地雷の山の上に、ロボ・インフェルノから剥ぎ取ったらしい装甲板を叩きつけた。

 

 ──ドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!! 

 

 凄まじい爆発が、地雷原全体を揺るがした。爆風が砂塵を巻き上げ、先頭で競り合っていた轟くんと爆豪くんすら、衝撃波でバランスを崩す。

 

 その爆発の勢いに乗って、緑谷くんの身体が空高く打ち上げられた。装甲板を盾にして爆風を受け、その推進力で一気に地雷原を飛び越えていく。

 

「嘘だろ……!?」

 

 会場が絶句する中、緑谷くんは空中で轟くんと爆豪くんの頭上を越え、一気に先頭に躍り出た。個性を使わず、知恵と度胸だけで、状況を丸ごとひっくり返してみせた。

 

「すごい……!」

 

 吹雪が思わず声を上げた。

 

 だが、感嘆している暇はなかった。緑谷くんの爆発で地雷が大量に誘爆し、進路上の危険が激減している。そして前方では、態勢を立て直した轟くんと爆豪くんが、着地する緑谷くんに猛然と追いすがろうとしていた。三人の背中が、ゴール直前で団子状に固まっている。

 

(……ここだ)

 

 一瞬の判断だった。

 

「吹雪! 構えて!」

 

「はいっ!」

 

 吹雪が即座に両手を組んで構えた。一言で意図が通じるのは、二週間の訓練の賜物だ。

 

 僕は全速力で吹雪に駆け寄り、組まれた手の上に足を乗せた。吹雪が、艦娘の膂力を全開にして、僕の身体を前方へ射出する。

 

 世界が一瞬、浮遊する。

 

 風を切り、地面が遠ざかり、スタジアムへ続くトンネルの入口が視界いっぱいに広がった。

 

 その瞬間、前方で緑谷くんが着地し、再び装甲板を地面に叩きつけて二度目の爆発を起こしているのが見えた。轟くんと爆豪くんが、その衝撃波の中で必死に前に出ようとしている。

 

 僕は空中で体勢を整え、トンネルの入口に着地した。衝撃で膝が悲鳴を上げるが、駆け抜ける。

 

 トンネルを抜けた。

 

 スタジアムの歓声が、津波のように僕を飲み込んだ。

 

『一位通過はァァァ!! ヒーロー科、緑谷出久!!』

 

 プレゼント・マイクの絶叫がスタジアムを震わせる。ゴールテープを切った緑谷くんの背中が目の前にあった。その直後、轟くんと爆豪くんが僅差でゴールする。

 

 僕は、三人のすぐ後ろでゴールラインを越えた。直後に追いついた吹雪が、隣に並ぶ。

 

『四位通過、碧海鎮!』

 

 四位。膝に手をつき、荒い息を繰り返す。最後の跳躍で全身の筋肉が軋んでいた。

 

「お疲れ様です、司令官。見事でした」

 

 吹雪が、少しだけ息を弾ませながら微笑んだ。彼女自身は僕を射出した後、自力で地雷原を走り抜けてきたのだろう。

 

 後続の選手たちが次々とゴールしていく。飯田くん、常闇くん、瀬呂くん、芦戸さん、八百万さん。

 

 息を整えながら、僕はスタジアムの観客席を見上げた。無数のカメラのレンズが、僕たちを捉えている。全国のプロヒーローたちの視線が、この場に注がれている。

 

 四位という結果は、十分に存在感を示せる順位だ。加賀さんと長門が言っていた通り、ここで力を見せることが、将来の味方を作る布石になる。

 

 スタジアムの巨大スクリーンに、障害物競走の最終結果が表示される。

 

「予選通過は上位42名!」

 

 ミッドナイト先生が高らかに宣言する。僕と吹雪の名前は、当然のようにその中にあった。

 

「さあ、次からいよいよ本選よ! 次の種目は──これ!」

 

 スクリーンに、次の種目名が大きく映し出された。

 

 僕はそれを見上げ、隣の吹雪と顔を見合わせた。

 

「……騎馬戦、か」

 

 チーム戦。加賀さんと球磨が分析していた、僕の本領が問われる種目。

 

 第一種目を四位で突破した手応えと、次に待つ戦いへの闘志が、胸の中で静かに燃え始めていた。

 




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