無個性と呼ばれた提督   作:HYDRATION

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近日中に投稿すると言いつつそこそこ経ってしまって申し訳ない……。
nohitoさん、感想ありがとうございます。励みになります。


第三十四話

「第2種目は──騎馬戦よ!」

 

 ミッドナイト先生の宣言が、スタジアムに響き渡った。

 

「ルールを説明するわね! 4人1組で騎馬を組み、他チームの鉢巻を奪い合うの! 制限時間は15分! 終了時に鉢巻のポイント合計が高い上位4チームが、最終種目に進出よ!」

 

 スクリーンにルールが表示されていく。

 

「ポイントは障害物競走の順位に応じて配分するわ! 最下位が5ポイント、そこから5ずつ上がっていくの! 騎馬メンバーのポイントは合算して、鉢巻に記載されるわよ! ……そして!」

 

 ミッドナイト先生が、妖艶な笑みを浮かべた。

 

「1位のポイントは──1000万!」

 

 会場がどよめく。全員の視線が、1位通過の緑谷くんに集中した。彼の顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 

「もう1つ、大事なルールよ! 鉢巻の奪取と保持は、騎手が騎馬よりも上にいる状態でのみ有効! 騎馬が崩れても、鉢巻を奪われても、アウトにはならないわ! でも、騎馬より上に誰もいない状態で奪った鉢巻は無効だから気をつけてね!」

 

 その一言を聞いた瞬間、僕の頭の中で、いくつかの可能性が高速で組み上がっていった。

 

 騎馬が崩れてもアウトじゃない。鉢巻を奪われてもアウトじゃない。条件はただ一つ──奪取と保持の瞬間に、騎手が上にいること。

 

 ということは。

 

 誰かが上にいる状態を維持さえすれば、騎馬の構成そのものを試合中に変えていい、ということか。

 

 たとえば、上の人間と下の人間を入れ替える。下にいた誰かが先に上に登り、それから元の上の人間が降りる。その手順を踏めば、「上にいる人間」が途切れない。

 

 原則として騎馬戦は、組んだ4人で最後まで戦う種目だ。だが、ミッドナイト先生は今、「上に誰もいない状態」だけを禁じた。それ以外の入れ替えについては、何も言っていない。

 

 使える。これは使える。

 

 チーム編成のための15分間が、与えられた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「碧海ちゃん」

 

 最初に声をかけてくれたのは、蛙吹さんだった。

 

「一緒に組まない? USJでも一緒に戦ったし、あなたの指揮なら信頼できるわ」

 

「蛙吹さん……ありがとう。ぜひお願いしたい」

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 碧海・吹雪・蛙吹さん。3人。あと1人、誰を引き入れるか。

 

 頭の中で、クラスメイトの顔と能力を順番に思い浮かべる。決めた。

 

「障子くん」

 

 僕は1人立っていた長身の彼に声をかけた。

 

「俺か?」

 

「うん。チームを組ませてほしい。君の複製腕の索敵能力と、6本腕の体格。騎馬の土台としても、防御の要としても、君がベストだ」

 

 障子くんは数秒、僕の顔を見つめた。それから、低く短く頷いた。

 

「……分かった。お前の指揮を見せてもらおう」

 

 碧海・吹雪・蛙吹さん・障子くん。4人が揃った。

 

 ポイントを計算する。僕が4位通過で195ポイント。蛙吹さんが14位で145ポイント。障子くんが15位で140ポイント。吹雪は僕の個性の一部という扱いなので、独自のポイントはない。

 

 合計、480ポイント。1000万には遠く及ばないが、それなりの数字だ。

 

 僕は残り時間を使って、作戦を説明した。

 

「基本形態は、吹雪が上で鉢巻を持つ。僕と障子くんと蛙吹さんで騎馬を組む。この形態では防御を厚くしつつ、隙があれば他の騎馬から鉢巻も積極的に狙いに行く」

 

「防御しながら攻めるの?」

 

 蛙吹さんが首を傾げる。

 

「うん。吹雪が上にいれば、砲撃で接近する敵を牽制しながら、同時に相手の鉢巻にも手が届く。障子くんの複製腕で周囲を索敵して、蛙吹さんの舌で至近距離の敵を弾いたり、鉢巻を掠め取ったりもできる。守りを固めつつ、チャンスは逃さない」

 

「なるほど。攻防一体ね」

 

 蛙吹さんが納得したように頷く。

 

「そして──切り札がある」

 

 僕は、4人の顔を見回した。

 

「さっきのルール、聞いてたよね。騎馬の上のポジションを入れ替えることができる。終盤、吹雪が鉢巻を僕に渡して、僕が上に入れ替わる。吹雪は騎馬から降りて、完全にフリーになる」

 

「フリーになった吹雪が、単独で全力機動する……ということか」

 

 障子くんの目が、僅かに見開かれた。

 

「そういうこと。吹雪が騎馬に縛られなくなれば、砲撃も格闘も制限なしで動ける。ただし、僕が上に入れ替わるということは、防御が薄くなる。だからこれは最後の手段だ。使うタイミングは、僕が判断する」

 

 吹雪が、強く頷いた。

 

「了解です、司令官。いつでも行けます」

 

「障子くん、蛙吹さん。切り替えた後は、僕を守りながら動いてもらうことになる。負担をかけるけど──」

 

「問題ない。俺の腕は6本ある」

 

「任せて。私の舌も結構長いのよ」

 

 頼もしい2人の言葉に、僕は小さく笑った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「騎馬戦、スタート!!」

 

 号砲と共に、フィールドが一気に動き出した。

 

 予想通り、大半のチームが緑谷くんの1000万ポイントに殺到していく。轟くんのチームが氷壁で進路を塞ぎ、爆豪くんのチームが爆風で切り込んでいく。緑谷くんの周囲は、瞬く間に戦場と化した。

 

「今は1000万に群がる流れに乗らない。周囲の混戦で手薄になった騎馬から、確実に鉢巻を積み上げる」

 

 僕の指示に、3人が応える。

 

 障子くんの複製腕が、周囲360度の音と気配を拾い上げていく。

 

「碧海、左前方。騎馬が1つ、1000万狙いに行こうとして隊列が崩れている」

 

「見えた。蛙吹さん、あの騎馬の騎手の鉢巻──舌で届く?」

 

「任せて」

 

 蛙吹さんの舌がしなやかに伸びる。混戦に気を取られて防御が甘くなっていた騎馬の騎手から、鉢巻が音もなく引き抜かれた。

 

「あっ……!? 鉢巻が!」

 

「碧海ちゃん、取れたわ」

 

「ありがとう。吹雪、右から来てる騎馬を牽制」

 

「はいっ!」

 

 蛙吹さんが奪った鉢巻を吹雪に渡し、吹雪が砲撃で接近してきた騎馬の足元を撃つ。爆煙が上がり、相手が進路を変えて離れていく。

 

 攻防一体。吹雪の砲撃が盾と矛を兼ね、蛙吹さんの舌が奇襲と防御を同時にこなす。障子くんの索敵が死角を潰し、僕がそのすべてを束ねて判断を下す。

 

 1000万ポイントを巡る混戦の裏で、僕たちは着実にポイントを積み重ねていった。

 

「碧海、後方からもう1つ騎馬が接近」

 

「吹雪、威嚇射撃。正面に回り込ませて──蛙吹さん、回り込んできたところを」

 

「はい」

 

 吹雪の砲撃で進路を限定し、蛙吹さんの舌が待ち構える位置に誘導する。追い込まれた騎馬の騎手から、2枚目の鉢巻が奪い取られた。

 

 堅実に、確実に、ポイントを積み上げる。

 

 だが──。

 

「残り1分!」

 

 プレゼント・マイクの声が響いた瞬間、僕はスクリーンに表示された途中経過に目を走らせた。

 

 1位は轟くんのチーム。1000万を奪取して圧倒的だ。2位は爆豪くんのチーム。そして3位、4位──。

 

 僕たちは、4位だった。

 

 しかも、5位との差が驚くほど僅かだった。

 

 原因は明白だ。僕たちが守りを固めて確実に取りに行く間に、他のチームは多少の損失を許容しながら、リスクを取って積極的に動いていた。特にB組の騎馬がいくつか、無謀とも思える突撃で上位に食い込んできている。

 

「まずいな……。このままだと押し出される」

 

「碧海ちゃん、5位の騎馬がこっちに向かってきてるわ。順位を入れ替える気ね」

 

 蛙吹さんの警告。確かに、後方から1つの騎馬が真っ直ぐこちらに向かってきていた。守っているだけでは、じり貧だ。

 

 僕は覚悟を決めた。

 

「……今だ。形態転換。僕が上に入る」

 

 3人の目が、一斉にこちらを向いた。

 

「蛙吹さん、舌で僕を持ち上げて。障子くん、左腕で僕を支えてくれ。吹雪、僕が上に乗ったら鉢巻を渡して降りて」

 

「はい」

 

 蛙吹さんの舌が僕の腰に巻き付き、ぐいと持ち上げる。同時に障子くんの複製腕の1本が僕の脚を捕らえ、騎馬の上へと押し上げた。吹雪の隣に並ぶ。

 

「司令官、鉢巻を」

 

 吹雪が額の鉢巻を解き、僕の手に押し付けた。

 

 受け取り、巻き直す。

 

 その瞬間。

 

 吹雪が、騎馬から飛び降りた。

 

 ふわりと宙を舞った身体が、地面に着地する直前──セーラー服の下から、鋼鉄の鯱が解き放たれた。

 

 艤装、完全展開。

 

 二連装の主砲、煙突、機関部、魚雷発射管。海面を駆ける駆逐艦の魂が、騎馬戦のフィールドに姿を現した。

 

 着地した吹雪が、低く構える。彼女の視線が、ゆっくりと持ち上がる。

 

「司令官、ご指示を」

 

 僕の視座は、騎馬の上。

 

 提督の視座だ。

 

 フィールドの全てが、見える。

 

「2時の方向、5位の騎馬。先に止める」

 

「了解!」

 

 吹雪が地を蹴った。

 

 駆逐艦の俊足が、土を蹴散らして突進する。

 

 接近してきていた5位の騎馬は、自分たちに向かって駆けてくる吹雪を見て、明らかに動揺した。

 

「な、なんでこっち来──」

 

「失礼します!」

 

 吹雪の手刀が、突進の勢いを乗せて騎手の額を打った。鉢巻が宙を舞う。吹雪は跳躍して空中で鉢巻を掴み、地に着く前に方向転換。次の獲物へ向けて再加速する。

 

「あの娘何!? 1人で勝手に動いてんぞ!?」

 

「おいおいおいそりゃ無効のはずだろ!?」

 

 会場のあちこちから、戸惑いの声が上がる。

 

 フリーになった吹雪は、もはや騎馬戦という枠の中の存在ではなかった。フィールドを縦横無尽に駆け、防御の薄い騎馬の鉢巻を次々と掠め取っていく。砲撃、白兵、跳躍、索敵──艦娘の全機能が、束縛を解かれて咲き乱れる。

 

 奪った鉢巻は、すれ違いざまに僕のもとへ投げ渡される。僕がキャッチして首に巻く。1つ、2つ、3つ。

 

 ポイントが跳ね上がっていく。

 

 だが、その代償はすぐに来た。

 

 吹雪に鉢巻を奪われた騎馬が、怒りの形相で僕たちに突っ込んできた。狙いは僕の首だ。

 

「碧海! 正面!」

 

 障子くんが叫ぶ。吹雪はフィールドの反対側。砲撃の援護はない。

 

 騎手が手を伸ばしてくる。僕は上体を反らしながら、伸びてきた腕を手刀で叩き落とした。続けざまに掴みかかってきたもう片方の手を、手首を掴んで逸らす。

 

「障子くん、右へ!」

 

 障子くんが騎馬ごと横に動き、距離を取って振り切る。

 

 だが、吹雪がいた時のような余裕は、どこにもなかった。

 

「碧海ちゃん、左から騎馬が突っ込んでくるわ」

 

「障子くん、左に半歩。蛙吹さん、舌で足を絡めて転ばせて」

 

 僕は上から指揮を出しながら、騎馬の防御も同時にこなす。吹雪が攻め、僕たちが守る。攻守が完全に分離した、この騎馬戦におけるイレギュラーな戦い方。

 

「時間切れ!! そこまでよ!!」

 

 ミッドナイト先生の声が、フィールドに鳴り響いた。

 

 僕は、積み重なった鉢巻を押さえながら、大きく息を吐いた。

 

 スクリーンに、最終結果が表示されていく。

 

 1位──轟焦凍チーム。

 2位──爆豪勝己チーム。

 3位──碧海鎮チーム。

 4位──緑谷出久チーム。

 

 3位。通過だ。

 

「やった……!」

 

 蛙吹さんが安堵の息を漏らし、障子くんが「よくやった」と静かに頷いた。駆け戻ってきた吹雪が、息を弾ませながら「やりました、司令官!」と拳を掲げた。

 

「3人とも、ありがとう。完璧だった」

 

 僕は騎馬から降りた。身体中が汗だくだが、気分は悪くない。

 

 僕の指揮が、チームを勝たせた。吹雪だけじゃない。蛙吹さんの舌も、障子くんの腕も、僕の判断で動き、僕の声で噛み合った。

 

 これが、提督の戦い方だ。

 

「碧海ちゃん」

 

 蛙吹さんが、僕の隣に立った。

 

「さっきの最後の切り替え、すごかったわ。あの判断がなかったら、私たち敗退してた」

 

「蛙吹さんと障子くんがいてくれたからだよ。2人の力がなければ、あの形態転換は成立しなかった」

 

「……梅雨ちゃんと呼んで」

 

 3度目の訂正に、僕は思わず苦笑した。

 

「……ありがとう、蛙吹さん」

 

 頑なにそう返す僕に、蛙吹さんは少しだけ頬を膨らませてから、諦めたように小さく笑った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「さあ、騎馬戦を勝ち抜いた4チームから、最終種目に進む16名が決定よ!」

 

 ミッドナイト先生が、トーナメント表を発表する。

 

 そこに刻まれた僕の名前と、対戦相手たちの名前を見つめながら、僕は静かに拳を握った。

 

 次は、1対1の勝負だ。

 

 吹雪と2人で、この舞台を駆け上がる。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
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拙作の『蒼かった空と海』のリメイク版を書こうかと最近考えています……。
実は私、曇らせがそこそこ癖でして。艦娘曇らせ小説とかガッツリ書きたいな~とか前から思ってたんですよね。

どちらの作品に興味があってこの小説を読んでいますか?

  • ヒロアカ
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  • 両方知っている
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