息抜きの小説です。
"死んだら転生"と聞くと、異世界に行って無双だとかセカンドライフに花を咲かせたりなど、様々なことに夢を見たりすることがあるものだが、転生先が人間とは限らない…いやマジでキツネになるとは思わないじゃん、しかも雌の個体。
なんで人間じゃないんだ?とか、生肉でお腹壊しそうだから落ちてる木の実しか食べなかったから肉が食べたいと考えてるうちに、そもそもなんで前世の記憶があるんだ?と考えに、短く見積もって五年ほどして行き着いたところで尻尾の本数がなぜか増えていた。
キツネの寿命は飼育でもしない限り長くても三年から五年らしく、明らかに寿命より生きているが、ぶっちゃけ感覚としては二、三日にも満たない不思議な感覚であったりした。
待てよ…時間感覚がもしかして人間の時より遅くなっているのではないかと気がついた頃には、尻尾の数が四本に増えていた。ついでに追加で十年くらいは多分経っていた。
合計十五年もほとんど無意識に無駄に過ごしてしまっていたのかと考えてからの行動は早かった。居心地の良かった山を少し出て、人間に狩られる危険を犯してまで何かをしなければと焦燥感に駆られ、人の居そうな山の麓まで降りることにした。
するとなんともびっくり、町か何かあると思っていた麓にはただの集落だし、人が住んでいたところは教科書で見たことがあるだけだった竪穴式住居だった。
この時の絶望感は異常だったと思うね、「縄文時代なのかよ!」って動物の声で吠えまくったね。
それからはもう不貞寝してしまったよ。二十一世紀を知ってる身からすると文化レベルが最低レベルの更に下を更新する程だったなんて、誰が予想できるのかという話ですよ。でもだからだろうね、めちゃくちゃ燃えちゃったんだ…死ぬ気で生きてやろうって。
そしたらあれよあれよと尻尾が九本になるわ、ケモ尻尾生えたスタイルグンバツの美女になれたり、二十代前半くらいの見た目を維持したまま千歳を超えた辺りから、日照りのあった村に雨を降らせたり、川の流れを良くしたり、土壌を良くしたりと、立ち寄った村の問題を解決していくフリー○ンみたいなことをしていると、神社を建てて貰えて何か神様みたいに祀ってもらえた。
あの頃は最高潮の気分になっていたのもあって口調も変えてなんとなくロールプレイもやり始めて、結局直らぬまま更に一万年以上経過して、色々あって"
◆◆◆
年々、力の衰えが止まらない…。
「はて…ここは?」
我ながら道を真剣に見ずに考えながら歩いていたこともあったが、ビル街の街並みから辺りの景色が山道のような木々に囲まれた道に行き着いてしまった事は異常事態と言って差し支えないだろう。
いくら考え事をしていたとしても、街から歩いて山道に行き着くには数時間とかかる。これではまるで神隠しにでもあったかのようだ…。
___おっと、目の前に古民家のような佇まいであるが、看板にしっかりと古民家カフェと出ている喫茶店を見つけた。丁度いい、ここの店主にこの場所がどこであるか聞くとする。
「ごめんくださ___い…」
私の目の前には絶世の美女と言って差し支えない和服の女性が立っていた。
背中の中程まで長く艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、芸術作品と言って差し支えない目鼻の整った顔、そして特徴的で動物的な狐の尾。
人を見た目で判断する事はないが、目の前の女性は美人だった。あまりにも美人すぎた…まるで同じ人間とは思えないほどの人並外れた美人であった。
「おや、お客さんお一人様かえ?」
「___え、あぁ…一人です」
「それでは、こちらのカウンター席にお掛けくださいませ」
危うかった…いくら今がトゥルーフォームで気が緩んでいると言っても声をかけらなければ、あのままいつまでも見惚れていたところだった。
そうだ…忘れるところだった。ここがどこなのか聞かなければ…。
「ところで店主さん、ここは___」
「ご注文はいかがいたしますか?」
「え?…あー、コーヒーと軽食を何かオススメで」
「承知しました…では、ごゆるりと」
言葉を遮られて店主さんは奥に行ってしまった…。
店の外観は歴史の授業で習うような古民家であるが、辺りを見回すと店内は歴とした和風喫茶店だった。
カウンター席は三席、四人掛けのテーブル席が一つと、囲炉裏が特徴的な四人ほど入れる座敷席が一つ、店主の女性一人で切り盛りするのに丁度いい店内だった。
「お待たせしました。こちらブレンドコーヒーと、軽食のツナとタマゴのサンドイッチじゃ」
店内を物珍しく眺めていたところに、かなり早くコーヒーと軽食のサンドイッチをお盆に乗せて店の奥から店主さんが現れた。
「おぉ…これは美味そうだ」
しっかり自家焙煎されたであろう豆が、コーヒーミルで挽いていると伝わる豊かな香りで鼻腔をくすぐり、匂いを楽しんだ後コーヒーを口に含む。
酸味が少なく、比重的に苦味が強めのコーヒーだが、嫌な苦味じゃない。むしろこの苦味が、しっかりとコーヒーという飲み物の存在に一役買っているとさえ言わせるほどの説得力を持っている…純粋に美味いコーヒーだ。
そして、木製のトレーに乗せられたツナとタマゴの二つのサンドイッチ___昔の戦闘の後遺症で胃を全摘していて、固形物をしばらくとっていなかった気がするが、つい流れで頼んでしまった。
しかし、何故だが食欲が湧いてくる。本当に不思議なものだが、ちゃんと食べられる気がしてくる。
「…ッ!___」
「…泣くほど、お腹が空いておったようじゃのう。たーんと召し上がれ」
「………はい…」
これは…はは、自然と涙が出てくる…いつぶりのマトモな食事だろう。これまで流動食が主だったし、食べたいものも制限されていた…普通ならサンドイッチであってもごく少量しか食べられないが、自然と全部食べられると思えてしまう。
それに不思議なことに体の調子が良い…いや、明らかに
「店主さん…貴女は、一体何者ですか?…」
「妾かえ?ふふ、お店の店主に"なんぱ"とは、お兄さんも若いのう」
「いえ、そんなつもりじゃ…」
和服の袖で口元を隠してクスクスと笑う彼女は、とても絵になる。
「ふふ、冗談、ちょっとした"じょーく"じゃ。料理のことなら心を込めて作っただけじゃよ」
妖しく微笑む店主さんに弄ばれている気がするが、なんだが満更でもない気がして来た。
「まぁ、おぬしの体が悪そうじゃったからのう。ほんの少し元気に成るように
優しく微笑む彼女には色々見透かされているような気がするが、これが魔性の女と呼ばれるものなのだろう。流石に
「ふふ、ペロリとたべてしもうたのう」
店主の言葉を聞き手元に視線を落とすと、なんと…あまりの美味しさに二つのサンドイッチを完食してしまった…。ツナサンドもゆっくり味わいたかった気持ちもあるが、それほどまでに食べたという感覚すら忘れさせるほど体調が回復している。
最近では一日合計三時間ほどが限度だったマッスルフォームだが、今なら五時間は維持できる気がして来た…それほどの体調の変化、不思議だが有難い。
「ご馳走様です。とてつもなく美味かった」
「ふふ、お粗末さま」
お腹だけじゃなく、心まで満たされた気がしたが今はゆっくりしている暇はない。帰ったら緑谷少年の練習メニューをリストアップしなければ…。
口元を軽くナプキンで拭き立ち上がり出入り口のドアに手を掛け、店主に振り返る。
「また来ます…店主さんのお名前をお聞きしても?」
「妾かえ?妾は九尾の妖狐…ふふ、いよいよ"なんぱ"のようじゃのう」
ヨウコさんにまたしても揶揄われながら会釈をして外に出る…あっ、しまった!帰り道を聞きに来たのだった。ハハハ、私としたことがすっかり_。
「ッ!…」
振り返るとそこは大通りに面した街の一角の路地裏だった。
幻覚系の個性…にしては、不可解なことが多すぎた。胃はないが腹が膨れたと言う感覚はあるから、確実にサンドイッチを食べている。
まるで狐に摘まれたような錯覚を覚えるが、なんとなくまたヨウコさんに会えるような気がして、いつもより体調の良い体で足早に帰宅するのであった。
◆◆◆
「ふふ、あの人がオールマイト…。確かに"なんばーわんひーろー"の風格はあったのう」
妖狐はカチャカチャとオールマイト_八木俊典の食べ終わった食器を片付ける。
「妾の力で少し体調を戻したが、ほんの気休めじゃのう」
九尾の妖狐は名前の通り個性と関係のないガチの怪異で妖怪だ。精神性は人間のソレで
その力を悪用するでもなく、人間社会に奉仕して役立てるわけもない。そこにいるだけの無害。
「む、お客様かえ?」
カランカランと出入り口のベルが小気味いい音を鳴らし、妖狐はドアに顔を向ける。
「いらっしゃいませ、和風喫茶『まよいが』へ」
彼女は人知れずひっそりと喫茶店を続けるだけのありふれた怪異。
お疲れ様でした。
最近ヒロアカを見始めた衝動で書いたので、続かないかも知れません